UX成熟度とは?ユーザー中心組織を作るために段階別にすべきこと
こんにちは!株式会社ニジボックスの執行役員の丸山潤です。
今回は組織にUXがどの程度根付いて機能しているのかを表す「UX成熟度」についてお話しようと思います。6段階に分かれる成熟度が上がるほど理想的な組織に近づくと考えられていて、UXを実践していく上では欠かせない指針となるものだと考えています。
また、これまで成熟度の段階を上げる方法はあまり解説されてこなかったと思いますので、今回は成熟度を上げていくためには実際に何をしたらいいのか?について、ニールセングループのサイト情報を紐解きながら解説していきたいと思います。
「UX成熟度」に注目している理由
はじめに、僕が「UX成熟度」に注目している理由をお話します。
日本の中でもUXに取り組む企業や組織は増えてきましたが、一部のチームや部署のみで取り組んでいるという企業がまだ大半を占めていて、「せっかくUX調査を行ったのに上司や他部署を説得できず自分たちが調べてきた結果がうまく反映されなかった」というお話や、「何のためにそんなに予算を使うの?」と上司に言われてしまったという話をよく聞きます。
ではなぜこうなってしまうのでしょうか?結局のところ、組織や会社全体でUXへの理解を深めないと、UX施策に対して投資判断ができず、結果として取り組みもうまく行かなくなってしまうからです。そんな状況を目の当たりにしてきたことが、「UX成熟度」に注目をするようになった経緯になります。
「UX成熟度」とは何か?
「UX成熟度」とは、組織全体でどの程度UXに取り組んでいるのか、成熟度を測る評価基準のことを指します。UXに関する理解をどの程度深めることができているのか?実際にUXに関する取り組みを行うことができているか?というところを6段階で評価できるフレームワークとなっていて、評価基準をもとに組織がどの段階にあるのかを判断することができます。
ここからは、実際にUX成熟度の段階ごとにその評価基準と、次の段階にレベルアップしていくために何をすればいいのか?というところを段階別に解説していきたいと思います。
「UX成熟度1」の場合
◯評価基準・組織の状態
UXに対してまだ何も取り組んでいない状態を指します。
「ユーザー中心」という考え方にまだ気付いていない、もしくは必要ないと考えています。ミッションやビジョンなど、会社として取り組むべき優先事項にUXが含まれていない状態です。当然ですが、UXに関する予算もなく投資も行われていません。
古い開発主導の組織や、リソースが不足している小規模なスタートアップ、従来の対面式の事業などが当てはまります。
◯UX成熟度2へレベルアップするためにすべきこと
この段階ではUXに関する知見を持つメンバーがいないため、まずはUXへの知見や理解を組織に広めていくことが必要です。単純な知識だけでなく「開発の手戻りが少なくなる」「プロダクトを作る際に、余計な機能を作らずに済むようになる」「余計なコストを省くことができる」など、組織やクライアントへのメリットも整理し、合わせて広めていくとよいでしょう。
また、最初からUXプロセスの全てを実践するのは難易度が高いため「こういう取り組みであればできそう」というように、まずは実施可能なことからスタートするとよいと思います。例えば、ユーザビリティーテストであれば取り組みやすいのではないでしょうか。
そして、実際にUXに取り組む方法を学ぶためにUXデザインの学校へメンバーを参加させたり、知見のある人を顧問として招いたりという方法も、場合によっては必要でしょう。
この時に重要なのは、小さな規模で始めることです。教科書やネットの記事で知ったプロセスを最初から最後まで全部をやろうとすると大きな予算が必要になりますが、何も結果が出ていない状態では上長や決裁権のある人も、予算を出しにくいはずだからです。まずは小規模で実践し、結果を出しつつプロセスを踏んでいくべきでしょう。
「UX成熟度2」の場合
◯評価基準・組織の状態
UXに関する知識を習得し、ようやく組織内の一部のメンバーが取り組み始めた状態です。
組織全体ではUXに対する理解が深まっておらず、良い結果も出ていない状態です。少数のメンバーはUXを理解して価値を感じていますが、それを組織内の他のメンバーに広めることに苦労していることが多いでしょう。
また、UX戦略の策定に重要とされる、「ユーザーのニーズや行動」がビジョンの中核になく、施策の優先度も、利害関係者やクライアントの要望によって決定する状態です。したがって、継続的な投資も行われていません。
◯「UX成熟度3」へレベルアップするためにすべきこと
「UX成熟度2」の段階では、限られた予算とスケジュールの中で、効果が見込めるUXプロセスを厳選して適切に実施していくことが重要になってきます。
なぜならUXプロセスの実践による成果を示すことで、投資判断の決済者をはじめ経営層にUXの価値を理解してもらう必要があるからです。
取り組む際には、投資判断として何が重視されるのか?結果を出すために最大の効果が得られるUXプロセスは何か?数値指標として結果を示しやすいものか?これらの視点を持って最適なプロセスを実施してください。少しずつでも結果を出し続けることで、UXへの投資の必要性を検討してもらえるようになります。
「UX成熟度3」の場合
◯評価基準・組織の状態
UXが重要だと考える一部のチームが実際に取り組み始め、実装を行っているものの、施策に一貫性のない状態です。
UXの価値に対する理解度は組織によって差があり、UXを推進する担当者は知見の乏しいメンバーを説得し、理解を得る必要があります。組織としてのビジョンに「ユーザー中心」の考え方が反映されている場合もありますが、この段階ではそれは理想論となっており、現実的には組織全体に浸透していない状態です。継続的に取り組みが行われず、特定の時期にのみ予算の投資が行われています。
◯「UX成熟度4」へレベルアップするためにすべきこと
「UX成熟度3」の段階に引き続き、UXへ取り組むために適切なプロセスを選定し、組織の実施フローとして組み上げていきます。
しかし、この段階では既に組織内の複数のチームが各々の取り組みを行っている場合が多いため、それらのさまざまなプロセスをまとめ、標準化していくことが重要になってきます。チーム間で連携をとりながら、それぞれ改善する必要がある場合はアップデートし、組織として一貫性のあるプロセスに統一していきます。これらの取り組みによって組織全体のUXへの価値観も高まり、予算の投資も増えていくはずです。
具体例として挙げられる取り組みの例は、以下の通りです。
・UX担当者のスキルアップを目的とした専門能力開発プログラムを提供する。
・組織横断で課題解決に取り組むためのメンバーの教育やトレーニングを行う。
・組織全体でUXへの取り組みのプロセスを統一集約し、ルールを作成。サポート方法までを文書化して社内に共有する。
・UXについてのミーティングを定期的に開催し、UXチームとその他のチームの連携をしっかりと保つ。
・改善プロセスのサイクルを実現するために設計品質指標を標準化し、UXの取り組みに関するベンチマークを設定する。
「UX成熟度4」の場合
◯評価基準・組織の状態
UXへ取り組むことが重要であると組織内の一人ひとりのメンバーが信じていて、その価値を組織全体が認めている状態です。
複数のUXチームが組織内にあり、UXが組織の中核レベルの戦略に組み込まれている場合もあるでしょう。0→1で開発する段階から、プロダクトをリリースし、エンハンスや運用を行う段階まで全てのフローでUXの関する取り組みが行われている状態です。しかし、組織内で一貫性のあるUXのプロセスを持ち合わせてはいるものの、その効果が出ている場合もあれば、そうでない場合もあり、まだ効率良く結果を出せているとは言えません。
また、UXが会社のビジョンに組み込まれているものの、その考え方を全員が完全に理解してはおらず、組織全体で全ての取り組みにUXを導入しているわけではありません。UXチームのリソースも一部の特別な顧客の案件のみに投入されている状況です。
◯「UX成熟度5」へレベルアップするためにすべきこと
この段階では、既にほとんどのチームがUXの理解を深め、実際に組織として一貫性のあるプロセスを実践している状態です。
まだUX導入に苦戦しているチームが残っているのであれば連携するための最善の方法を考え、サポートしていく必要もあります。
具体的には以下に取り組むとよいでしょう。
・「ユーザー中心」の考え方が組み込まれている組織全体のビジョンを各チームに落とし込み、共通認識とする。
・ビジョンに添った役割をそれぞれのメンバーが理解した上で、UXプロセスを計画し実践していく。
・UXへの理解と実践を会社全体で偏りのないものとするため、組織横断で各UXチームの取り組みをモニタリングし管理する。
「UX成熟度5」の場合
◯評価基準・組織の状態
会社全体でUXに対してすべき取り組みをしっかりと行ってきた結果、その効果が実際に出ていて、UXが組織全体の戦略となっている状態です。
これは「ユーザー中心」の組織として成功している状態であり、組織内のほとんどのチームがUXを基本とした取り組みを常に行い、ユーザーを理解し、ニーズを満たすプロダクト作りに集中することで、効率的にパフォーマンスを発揮することができています。
◯「UX成熟度6」へレベルアップするためにすべきこと
成熟度6に到達する組織はほとんど例がなく、ある意味成熟度5が目指すべきゴールであるとも言えるでしょう。
レベルアップを目指すのであれば、UXチームのリーダーや担当者が取り組みを行うというよりも、会社のトップである経営層が積極的にUXの推進を主導し、会社の経営方針として取り組んでいく必要があります。
「UX成熟度6」の場合
◯評価基準・組織の状態
組織の全員が「ユーザー中心」の考え方を十分に理解し、日頃から実践していて、組織のDNAとしてUXが根付いている状態です。
経営者がUXに重点を置いてリーダーシップをとり、意思決定を行っています。そのため、組織の最高レベルの戦略から設計システム内の細かな要素に至るまで、UXが全ての施策や取り組みの原動力となっている状態です。
この段階を最終的な「UX成熟度」のゴールとしていますが、達成するのは大変難しく、長期間維持することは困難です。そのため、この段階に一度到達してもUX成熟度5の段階と行ったり来たりすることが多いでしょう。組織が大きければ大きいほどこの状態を維持していくことは難しいため、世界的な優良企業であってもUX成熟度6を長期的に維持できていないと考えられます。
◯「UX成熟度6」を維持するためにすべきこと
維持していくためには、経営者、リーダー、マネジャーが常にUXに対してどのように取り組んでいくか?というところを話し合い、会社内の文化としていかに定着させていくかが大切になってきます。
会社の将来の目標にUX関連の指標を組み込み、組織の目標として意識し続けていくことが必要になるでしょう。社内でUXに関する取り組みを奨励するなど、取り組みを続けることが重要です。メンバーの評価軸や個々の目標もUXに対してどれだけ取り組むことができたか?というところに焦点を当てるなどの取り組みも場合によっては必要になってくるかもしれません。
余談ですがUX経験者が立ち上げたスタートアップでは、最初から「UX成熟度6」の段階に到達している場合もあります。
個人的には、このように「ユーザー中心」の考え方を持った人が起業することが増えていくことで、結果的にユーザードリブンなサービスが世の中に増えていくのではと期待しています。「世界から見て日本はUXに関して遅れている」という見解もあると思いますが、UXを理解している人がどんどん起業していけば、必然的に日本はもっと変化していくでしょう。
終わりに
ここまで「UX成熟度」の段階別の状態と、次の段階に進むために何をすればよいのかについてお話してきました。UXプロセスを始める際には、まず自分たちの組織の状態が「UX成熟度」の段階でどこに位置しているのか、成熟度を上げるには何をすればよいのかを知ることができれば、以降の取り組みの推進がよりスムーズになると思います
僕の経験でお話をすると、2015年頃からUXの勉強会などに参加して知見のある人から話を聞き、少しずつUXについて理解をしてきました。一度や二度のワークショップに参加して理解することは難しく、UX全体のフローを理解するのにとても時間がかかったのが事実です。ニジボックスでは現在も常にUXのプロセスを改善し続けています。リポジトリを制作し、チームメンバーで定期的にUXについての話し合いをする場を設けて、組織全体の「UX成熟度」を上げ、維持していく努力を続けています。
しかし、このように社内の取り組みを続けていても、クライアントの「UX成熟度」がさまざまなのは、当たり前ですが受け止めるべき事実です。
クライアントに対して思うようにUXに関する取り組みを実施できず、思うように効果を発揮できない場合もあります。そういう時にこそ、「UX成熟度」を踏まえたUXの価値について理解を得ることが大事だと考えています。
ここまで読んでくださってありがとうございます。この記事がみなさんのUXに対する知見を深めるきっかけとなったら嬉しいです。