「獅子丸花魁ショー」(その後)に関する妄想、獅子丸花魁が朝陽屋を出る時。
獅子丸花魁が朝陽屋を出る時って身請けされる時じゃないという実感がつよつよで、花魁ショー見てる時からラストのおしろい天使の「へぶんへぶんでさあわらえ」の部分で狂気と悲しみと孤独がどしゃん!とぶつかって来た。なんなら、「なんでそんなにhappyしてんだ…」という混乱に見舞われながら泣いていた。
歪んだ解釈で大きくささった、そんな記憶を呼び起こしながら✍️私のフェチを山盛りに盛り込んでおきます。
【人物】
獅子丸:花魁ちゃん。可愛い。顔めちゃくちゃ可愛い。性格は穏やか。穏やかゆえあまり乗り気ではなかったが、主人に「お前しかいないんだよ、道中はってくれないか…」と言われ、花魁に。
政次:桁外れの金持ち。遊郭で遊び歩くことが趣味。
絵描き:うだつの上がらない男。獅子丸のマブ。獅子丸を身請けすることを思い描いているが、どうしようもお金を作る方法がない。
【組ショーの部分】
桜の咲く、よく晴れた日。桜の木の下の屋台を見に行こう、と誘われ母に手を引かれやってきたのは小川だった。
桜の花びらの舞うのを目で追って、水に浮かぶ花びらを美しいと思った。地面では踏みつけられた花びらが歪な満開を見せていた。
そんなよそ見をしているうちに、あたりは知らない景色になっていた。まだ灯の灯らない無数の提灯や真っ赤の格子状の構造のある、見たことのない建物になぜだか不気味な心地がした。帰りたい、と小さく直感した。
「おっかあ!やだやだ!!」と別れた後に抱き止めた主人の腕があったかくて、怖くてたまらなかった。
赤い格子は外から見るより無機質で大きい。
「わっちは今でもここにきた日のこと、よく覚えておりんす。廓の門は初めて見た時よりずーっと大きくて怖いもんになりんした。そろそろ、花魁の姐さんのもとについて色々教えてもらえと言われども、わっちにはそんなもんいりんせん。一目おっかあに会えるなら、それで、それで。ほんにそれ以外に欲しいものは何ひとつとしてござんせん。」
「ああ、一目会いてえなあ。おっかあ、わっち、花魁になりんした。
花魁になって綺麗にして道中はっても、一晩たりともここにきた日のことを忘れたことはありんせん。夜毎、心に浮かぶのはおっかあの顔ばかりでありんす。
おっかあ、わっち、すっかり国の言葉は忘れんした。でも、なぜ「女の子はいつでも笑っていなさい」の言葉だけは、おっかあの国の言葉で聞こえてくるんでありんしょ。
ほんに言えば、会いてえ見てえ、だけではありんせん、また撫でて髪を整えてもらいてえ、かんざしさしたときの温もり、まだぼんやりと頭と体が覚えてございんす。」
「白粉塗って紅さして、紅襦袢をきゅと合わせて、最後にかんざしを。ヒスイやサンゴのかんざしより真っ赤な玉かんざしがずしんと重いのを感じて夜が始まるのでありんす。
華やかな見かけのわっちら遊女のいる廓の中では、夢見心地な時間ばかりが流れるわけではござんせん。ぼんやりとした灯の中で長い長い夜が続いていきなんす。」
「わっちは江戸から遠く離れた片田舎の国の出でありんす。」
小さい家に父と母と兄の4人で暮らしていたこと、ある日父が働けなくなったこと、不作が続いて生活が苦しくなったこと、兄がいつも食事を分けてくれたこと、生まれてたった6年やそこらの話が今でもすらすらと出てくる。不思議な感覚です。
何度か会うと大抵の客は「身請け」をちらつかせてくるが、彼は違った。自分だけのものにしたい男の目と、誰かのものになったあとに裏切られることが怖く、つい上手い距離を保てなくなってしまう。その点、彼はずっと心地よい距離にいてくれる。自分がいたいようにいることができた。初めて客に心を開けたようだった。
彼にもし身請けを申し込まれたら受けようと思った。そう思った日を境にぷっつりと顔を出さなくなった。便りを出しても返事はなく、遠い噂で彼は別の遊郭に出入りしていると聞かされた。
【それから】
「廓での日々は悲しみに暮れる間も無く目まぐるしく過ぎていきんした。ある日突然顔を見せなくなった主さんのこと、しばらく思う日があったけども、それももう忘れた頃の話でありんす。」
「初めて会った日のこと、よく覚えていなんす。わっちが道中はっていたときのこと。主さんはお世辞にも綺麗と言える格好ではなく突っ立って、わっちのことじーーっと食い入るように見ていなんしたね。子どものように夢中になった顔が可愛いやらおかしいやらで、なんだか印象に残って。」
道中で出会い、一瞬目があった2人。一瞬の出来事が永遠の時間の流れを持っているように感じられて、数日忘れられなかった。数日経ったある日のこと、彼は座敷に現れる。
「…花魁がいる…」
「主さんおかしなことおっせえす、お前さんが呼んだんでありんしょ」
対面した時、あの日の道中を見るのと同じ顔をしていたのがおかしくってつい笑ってしまう。話を聞いてみれば、近くでわっちの顔が見たかったと言う。そんなことするためだけに、ずいぶん無理をしたように見受けられた。それだけ伝えるとあまり喋らなくなり、お酒を数口飲んだだけで眠っていた。つくづく自分勝手なおかしな人である。
彼はこちらが思う頻度では来てくれない。
数回会った頃、身の上話を聞いた。絵描きをしていると言う彼は生まれが近く、家族構成も似ていた。わっちと違うのは母が死んだことだけだ。そういえば田舎の母も最近忙しいと言うのを最後にめっきり便りがない。もしかして、わっちのおっかあも、と、思ったら泣いていた。その晩は酒に酔ってわっちより大泣きした彼を抱きしめていた。
彼の遊び方は普通の男とは違って「絵を描かせてくれ」と言ってわっちを寝かせたり、「この浮世絵に描かれている花魁の道中を見たけど大したことなかった、もっと昆虫みたいだった」と言うためだけに来たりした。
裏切るでも恨むでもない、変わり者の彼を愛おしく思うのにそう時間はかからなかった。
お互いの思いを確かめた頃には、彼の羽振りが不思議なほど良くなった。前々から廓に出入りする花屋から「あいつは金を借りている」と忠告されていた。でも、彼に会えればそれでいいので、わっちは目を瞑っていた。
いよいよ主人からも、ここ朝陽屋にも相当なつけがあると聞かされた。客の未収は花魁の未収。太い主さまの座敷をすっぽかしてマブにうつつを抜かすこともありこっぴどい折檻をくらった。
「ああ、絵描きのあんたが絵に描いたような身請けをしてくれりゃいいんだけど…」
真夜中の納屋の中でぼんやり彼のことを思った。
わっちが折檻をくらって、しょげていると言う噂を聞きつけてか、彼は見違えるような綺麗な身なりで見たこともない量のお小判さまを持って現れた。そりゃ気持ちは嬉しかった。
だけど、なぜだか不気味な心地がした。もう帰る場所なんてないのに帰りたい、と小さく直感した。
その日の彼は上機嫌でわっちを励ました。酒も浴びるように飲んだし、全く酔わなかった。好きな男がにこにこしていて幸せに思った。
「俺が初めてお前を見た時は!」と少年のような目で語った。たった数ヶ月前の話が生まれる前の話にもつい昨日の話にも聞こえた。
案の定、彼は手を出してはいけないお金に手をつけていたらしい。明け方になろうと言う時なのに外が騒がしい。制止を振り切った人間が何人か入ってきて、座敷は一瞬で地獄になった。わっちはすぐに奥に下げられたので、彼がどうなったのか分からなかった。
こんな日の朝陽屋にも夜明けが来る。
3日後、主人がわっちのもとに寄ってきて手ぬぐいを手渡した。直感した。
胸元から真っ赤な玉かんざしを抜く。彼が描いてくれたわっちの絵で遺髪を包んでそこに刺した。
翌朝、朝陽屋の裏口が人知れず夜明けに開いた。
〜〜🎶おしろい天使
さて。
わっち、おっかあという一人称と呼称には田舎臭さを存分に込めたというこだわりありです。「わちき」ではなく「わっち」で、「おっかちゃん」ではなく「おっかあ」だ、という感覚。
以上です!
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