「阿部定」の声で「惚れたが悪いか」を聞く
今回は純米🌾と一緒に阿部定の純愛🔪を見てみよう!後半で、阿部定の予審訊問調書と歌詞を照合していきます!(ぶっ飛ばしたい方は目次からどうぞ)
そして、最終的には🦁の舞踊を振り返ってみよう!なので、正しくは「阿部定」を知り「惚れたが悪いか/石川さゆり」を聞き「兜獅子丸」で大きく刺さる、です!よろしくお願いします🏃!!!(大声)
⚠️性的、グロな表現あります⚠️
【阿部定の人生】
⚪︎子ども時代⚪︎
1905年5月28日、畳屋「相模屋」に四女として生まれます。(4人兄弟の末っ子、長女は生まれてすぐ死亡のため。)畳屋は江戸から四代続く老舗で職人が常に5-6人いる繁盛店、もちろん家庭は裕福でした。父は昔気質の職人で、母は派手好きの甘やかし。兄弟の中でも器量の良かった定は小学2年生の頃から毎日違う着物で着飾り大人のように髪を結い習い事に通わせてもらっていました。
なので、子どもの定は…勉強嫌い・わがまま放題(欲しいもが手に入らないと納得のいかない!)・人使いが荒い・度胸がある・見た目から近所でも目立った存在、と言った具合。
友達の人形が気に入り離さなくなり母がその場に新しい人形を買って来させてよこしても手放そうとせず、最終的には友達に新しい人形をやり治めたり、自分が勉強できないからと勉強のできる同級生の恋人を横取りしたり。友だちの母が「あれを取れ、これを取れ」と言い使われ、定の母が注意するのを待ったが「定はおませだね」というだけで注意しなかったのには困ったという話もあります。
やりたい放題やっては父親に家の柱に縛られたりと折檻をくらっていましたが、定には響いておらず紐を切り家から抜け出して「いい気味ね」と笑ったと当時の友人談。
⚪︎15歳⚪︎
当時、相模屋は後継問題で荒れていました。子どもに見せまいとあまり家にいないよう仕向けられていた定。友人福田ナミ子の家にいる時間が長くなりました。
「そこに遊びにきた福田さんの兄さんの友達、桜井健という慶應の学生と知り合いました。私は割合ませていたので懇意になり、二人が二階でふざけているうち、その学生に関係されてしまいました。」
15歳の夏、処女を喪失し出血が2日止まらなかったので母に相談します。母と相手と話をつけようと動きますが、泣き寝入りの結果に。定はこれを「自分はもう処女ではないと思うと、(略)どうしたらよいのかと思い詰め、とても焼糞になってしまいました。」と振り返っています。
このころ定をからかってきた不良と一緒に出かけるような関係になります。定は家の金を持ち出しては不良に奢り小遣いをやり、それでちやほやされるのを楽しみ、浅草での夜遊びは毎晩になりました。
⚪︎16歳⚪︎
姉の縁談話がうまくいくまで、定に大人しくしていてほしいからと座敷に奉公に出されます。が、奔放な生活から座敷の生活に馴染めるわけもありません。浅草で遊んだのが忘れられず、お嬢さんの支度を無断で身につけ出かけます。警察での取り調べとなりました。(人生初の警察のお世話になった案件)
⚪︎17-18歳⚪︎
相模屋の相続問題で揉めていた兄夫婦が店の金を持って家を出てしまいます。先のことを考えて両親は店をたたんで家を売り、東京神田から埼玉坂戸に引っ越します。田舎暮らしで退屈した定は近所の男と懇意になり関係しました。田舎で目立った定に怒った父は「そんなに男好きなら娼妓に売る」と言い、宥める母や姉の言うことも聞かず、三日泣いて謝った定を許さず、本当に売り飛ばします。横浜市にいた遠縁の男、秋葉正義のところ。年齢が達していなかったので娼妓ではなく芸妓になりました。秋葉とは、関係を結び秋葉は定のヒモになります。(このあと4年くらい続く関係!)
実は父、男相手の仕事をさせれば嫌になって謝ってくるに違いないからその時は迎えに行くつもりだった、そうです。
⚪︎在籍と源氏名⚪︎
どうせ親に捨てられた身だからと、働くことより遊ぶことを考えて各地を転々とするようになりました。
列挙しまーす。長いです、覚悟!(私は在籍の店名や源氏名をどんな筆跡で看板や紙に書いていたのか想像してなんとも言えぬ興奮を覚えた。)
①横浜「春新美濃」みやこ(芸者):18歳。大した芸もなく対して役に立たない
②神奈川「川茂中」?(芸者):火災にて借金ができ新しい店へ
③富山「平安楼」春子(芸者):19歳。前借り千円以上。芸者仲間の三味線やキセルをぬすみ警察沙汰(秋葉に渡す金のため)
⚪︎東京芝区で半年ほど稲葉と同棲
④信州「三河屋」静香(芸者):21歳。秋葉と縁を切るために借金。性病になり娼妓に転向する決意をする。
⑤大阪飛田「御園楼」園丸(娼妓):22歳。稲葉と縁を切る。水揚げのチャンスがあるが、他の客と折り合いが悪く無しに。
⑥名古屋「徳栄楼」貞子(娼妓):23歳。二年ほど働く。
⑦大阪松島「都楼」東(娼妓):前借り二千円。店のランク、客層が悪くなりすぐ嫌になる。東京に逃げるが連れ戻され⑧へ移籍。
⑧丹波「大正楼」かおる→育代(娼妓):26歳。劣悪店。半年で足抜けするが失敗し名を変え働く。客の金百円を盗んで資金にし神戸まで逃げる。
⑨神戸(カフェ)吉井信子(給仕):金に困り2週間で転職。
⑩神戸(高等淫売の客引きをする男の家)?(高等淫売):ピンハネがひどく三ヶ月で辞める。
⑪大阪「-」?(淫売)
⑫大阪「-」?(妾):一年で三人の妾となる。旦那が来ぬ間に淫売当時の客と会う生活。暇に任せて賭博で警察に検挙される。
⑬大阪住吉:妾を止めアパート暮らし。
⑭実家:28歳。親孝行。
⑮大阪:男が3人探しにきたため実家に居られずアパート暮らし。
⑯実家:29歳。母の死のため二週間の帰省。
⑰東京三ノ輪→日本橋「ー」吉井昌子(高等淫売→37歳の中川朝次郎の妾):29歳。
⑱実家:父の看病、看取りのため。一ヶ月弱。
⑲東京「ー」吉井昌子(中川の妾):30歳。中川が病気になり定から一方的に別れる。
⑳横浜「山田」?(淫売)
㉑横浜?「ー」?(笠原喜之助の妾):笠原が嫌いだったので別れるため移居。
㉒名古屋「寿」田中加代(料理屋の女中):31歳。名古屋市議会議員の大宮五郎と出会う。定から誘い関係する、妾になる。大宮と外出したきり戻らない。
㉓名古屋「福住」田中加代(料理屋の女中):名古屋が飽きたため大宮に嘘をつき移居。(一瞬、秋葉のところに寄り道。笠原に結婚詐欺を訴えられ警察が来てしまい、移動。)
㉔東京「ー」本名・田中加代/源氏名・田中きみ(淫売):大宮を含む男関係でゴタつき淫売を辞める。
㉕名古屋「清駒館」黒川加代(旅館の女中):31歳。
㉖東京中野「吉田屋」田中加代(割烹の女中):大宮の紹介で働き始める。店主、石田吉蔵。
⚪︎大宮五郎⚪︎
定は、大宮に出会った瞬間「立派な人」と惚れて関係を迫りました。㉔後、大宮は「色々の話を聞いたが、お前は淫売しても人の亭主を取っても驚かない、初めから良い事をしている女でないと思っているが、なんとか救ってやりたいのだから、是非真面目になれ、俺は名前こそ話さないがお前の将来は必ず引き受けてやる」と夜通し話しています。これをきっかけに定は真面目になろうと決心し、禁煙までしたほどでした。そして、堅気の仕事につきます。
⚪︎石田吉蔵⚪︎
定は石田を初めて見た時「様子が良い優しそうな人」と思いました。ここから石田にちょっかいをかけられて定が石田を好きになってしまいます。石田ってモテ男の遊び人だったんですね。石田は出会って一ヶ月弱で仕事中に耳を噛んで尻を触ってきますから、相当なたらしです。定もまんざらでもなかったご様子。そして、出会って二ヶ月半、二人は不倫関係となりました。職場で関係する、と言う日々。
吉田屋に勤めてから、石田と不倫関係になりながら大宮のことを考え遠出の準備をしていたものの、女心に疎い大宮と会わない間に石田に夢中になってしまうのでした。
【阿部定事件】
有名ですが概要は「女中の阿部定が不倫関係にあった店主を殺害し局部を切り取った事件」です。昭和の日本でセンセーショナルに報じられた事件、世情が暗かったからこそ定の狂愛は人々の奇異の目に晒されました。新聞に載った写真もカメラが珍しい時代に「せっかくだから(?)笑って」と言われて撮られた笑顔だったと言う話もあります。
さ、上記「⚪︎石田吉蔵⚪︎」の続き、事件の話をしましょうか!だいたい三ヶ月半くらいのことを喋りますから、日付細かく入れて参ります!あと本人の証言も引用しますので、定の声を聞いてみましょう💪
1936年のこと。
2/1 吉田屋で奉公開始。店主石田と出会う。半月ほどで石田が気のあるそぶりを見せる。廊下で通せんぼとかしてくる。
2/27 暇をもらった理由を嫉妬を絡めて問われ、職場で耳噛まれる。翌日から前戯のみの関係に。
4月半ば 職場で関係する。仕事で離れに酒を持って行くと、石田が客として飲んでおり、その席で。
4/23-27 二人の関係が家人に知れたので外で相談することに。(定の中ではまだ大宮が本命で旅行の準備をしているところだった。)二人は渋谷の待合「みつわ」で会う。ここで二人が食事しながらした会話をのぞきみ。
石田とオトクは夫婦仲が悪かったんですね。石田は女遊びするし、オトクも不倫の過去がある。そのくせ、オトクは石田の悪口を日常的に言っていました。
定はオトクと一緒になって悪口を言うこともなく石田に気に入られていました。そして、この会話で本気で関係が深まったと言えようね、ひゃーっ。石田、「今日は結婚式だから、一杯飲もう」と言って下げていた禁酒の札を定に渡し「あとで2人で成田様に謝りに行けばいい」など申す、とんでもない人たらし。読んでるこちらまで好きになりそうではないですか????
4/27-29 待合「田川」にて。ひたすらに芸者、酒、枕。
4/30 金がつきそうなので定は大宮に会いに名古屋へ行く。(石田は待合で待つ。)大宮に適当な話を言い、金をもらう。
4/30-5/5 待合「まさき」にて。ひたすらの枕。
5/5 銀座で大宮に会い、金をもらう。食事をし、5/15に会う約束をする。
5/5-6 金が尽きそうなので一度別れるか、と話がまとまるが別れられず待合「関弥」へ。
5/7ー11 石田は吉田屋へ、定は秋葉(関係を切った後も細々定のヒモしてました。)のところへ。石田と別れてからの定はとにかく落ち着きませんでした。
定は雑誌を読んだり、ビールを飲んだり、裁縫をしたり、何をしても手につかず、夜も眠れず石田のことを考えていました。
5/10 定は浅草に出かける。明治座で見た芝居に出刃包丁を使う場面があり、自分も石田にふざけてやろうと思いつきました。
5/11-18 石田と再会しに行く(約束はまだ)道中で牛刀を買う。旅館の番号を石田に知らせ、連絡を待つ。石田は5/14まで待てと言うが無理を通して当日中に会う。再会し、二人で待合「まさき」へ。
「まさき」での二人の日々はひたすらに枕。夜もろくに寝ず、風呂にもあまり入らない。会わない間に募らせた嫉妬と会えた嬉しさで、定は石田をいじめたり可愛がったり、無茶苦茶にしました。
5/15 大宮と会い、金をもらう。石田は帰還した定に焼くようなふりをしてふざけてきます。
5/16 この夜、腰紐を用いた窒息プレイに至る。数日前からふざけていじめあっていた二人。定が首を絞めたあと、石田も定の首を絞めますが「かわいそう」と言いやめてしまいます。もともと、定が上になって行為することが多かったり、定は積極的だったことが伺えますから、定が石田の呼吸を握るのは自然な流れだったかも知れません!し、石田は性欲すごい上に受け身力も強くて「君がいいならいいよ」スタイルなので…むしろされる方が嬉しいタイプだったんだと思います🤔!(と、定の喋っていることを聞く分には思いました)
その晩、2時間ほど首を絞めながら行為するのですが最中に定が締めすぎてしまいます。定は石田が可愛すぎてつい、予定よりも締めてしまったのです。石田の痛みと顔の赤みが引かなかったので薬局へ行きます。ただのうっ血でしょうと言われ、気休め程度にカルモチン(睡眠導入作用のある薬)と目薬を買い帰還します。
薬局で3錠以上は飲ませたらいけないと言われたカルモチン、定は何回かに分けて30錠飲ませます。睡眠薬を飲んで石田は眠ってしまいます。
(以下、証言ほぼノーカットで)
5/18 午前二時のことでした。石田を殺した定は「すっかり安心して朗らか」な気持ちがしたそうです。
そして、石田の左腕に牛刀で「定」と彫り、石田の六尺褌(腹に巻きつけてお腹のところに肌につけて紙包みを入れた)、シャツ、ズボンを着た上に自分の支度をしました。トイレに遺留物を流し証拠隠滅をはかり、待合をあとにしました。
定は逮捕までの三日間、自死するか否かを悩みながら転々とします。大宮には自分のせいで迷惑がかかるのではないかと、謝罪に出かけました。
自死する決心がつかずに、支度を変えたりしながら彷徨う定でしたが、浅草の松竹座で「お夏清十郎」という映画を見ます。定が見たのはこの「お夏清十郎」!私も同じ映画を見たいんですけど…。話によると戦時中の火災でフィルムはないらしいです。悲しい。どうやらこの犬塚版はオリジナル要素強いっぽくて…えぇん。犬塚版、下記のような感じのあらすじ、らしいです。
映画を見た後で、大阪に逃げようと思うが自分の記事が出ていることを知り、東京で自死する決心をします。自死するつもりで入った「品川館」と言う旅館で遺書を書いてビールを飲んで寝ているところで警察が来ます。
「阿部定は、私です。」
【予審訊問調書と歌詞】
おまたせ!やっと歌詞の話するよ!まず、阿部定の予審訊問は第八回まであります。(予審は裁判の事前の取り調べみたいなもの。以下、引用する言葉の前に①〜⑧で示す。)びっくりするほど定の記憶力がいいことと、彼女の喋る言葉が入ってきやすかったことが印象的でした。地頭がいいんだなあ。
唐紅=血、彼岸花=死だとしたら、誰の死なの?誰を偲んでんの?って話になるよね。
石田死後説。石田、「過去」として身につけられてる。(もしや彼岸花が切り取ったものの暗喩だったりする…?唐紅色て…事件直後なの?)で、「情熱」と「諦め」を秘めとる。まあ、定がのちのち何年も石田の命日に花を送っていることから、定が何年後かに振り返っているという説もあるよね。
定の死説。15歳の夏の自分を思って毎年夏になると彼岸花を身につけていた、という話を勝手に妄想した。大量出血のあの事件で少女の定は死んだわけで、やけくそになったのですからね…ッ。あの時の男性に対するヘイトが彼女の人生を大きく呪ってる(?)感じがする。
それを知ってか知らぬか、石田がかけてくる言葉が以下ですよ。
風流だねって…石田…あんたぁ…!!石田の数々の色男な場面を見てから聞くと、なんと魅力的に聞こえることか。定が年上の石田を繰り返し「かわいい」と言って好いているところから見ても、(わたし特攻の効いた)相当な沼が見えますよね、危ない。年上の可愛い男、食べちゃいたい。
定の言う通り、当たり前に好きになっちゃう相手であります…。
「今宵限り」っていつ…?石田と出かけるとき?つまり、芝居「田中加代という女」の終幕…限り……?(「芝居」については後述)
定ちゃん、石田のことを「可愛すぎて好き!」って何回も言ってんだよな。可愛さ由来の愛おしさってまじで沼、本当に定と握手がしたいです。「いとしい」「くやしい」「せつない」の中で圧倒的共感が「いとしい」にあると思っていまして。初手で「いとしい」の共感に引き込むのずるいよね。
二人だけの永遠を手に入れたかったなら心中すれば良かったのに、どうして定はそれを選ばなかったのか、と言う議題、永遠。石田に断られるのが分かっているから、話を持ちかけなかった、と言いますが石田を殺した場で自死すれば心中は成り立ちましたよね…?
定の手放したくなかった命って誰の命でしょうか。結局、自分の命も諦めずに人の命を奪っているから、どちらもなのでしょうが…。
完全に自分のものにしてしまったことで、石田はいなくなってしまったわけで、自死しなかったことで石田の1番可愛い部分は警察に押収されてしまったわけで。定の望みって叶ったんでしょうかね?(と、冷静になれないのが石田との恋の怖さだとは思います、もちろん。)だから、私はこの事件の予審で語っている理由よりも、人生単位の動機があるのではって思っているわけだけど、それすら叶っていないような気がして虚しいよね。それでも言葉の上では完全に自分のものにしたと満足したようなことを言っているのが、また、何だか、強がりに感じる。欲しいものは何としてでも手に入れないと気が済まない子どもの頃から変わらない性格で、石田を殺した定ちゃんは根底は子どもの気持ちのままだよなって。子どもの時の「お定ちゃん」手に入れられるもの以外にほしいものがたくさんあったんだろうなあ。
定のことをいろいろ読んだ後だと、この2行に込められた定の執着えぐいなと思うのです、この曲の心臓。
あと、自分のことを内の女だって自負しているところが定すぎる。法律上、君が外の女なのだよ、っていう意地悪を言いたくなるよね。
定は石田が提案したように関係を続けることは「生温かい」と言っていますが、歌詞では「涼しい」なんだよね。現時点では涼しいし、未来を見てもどうせ生温かいだけだって言う、浮気の芯のない愛みたいなものを感じました。いい。
出会って三ヶ月半、流連して三週間。燃え上がる、という表現のままの関係だよな〜〜〜。ずっと行為しとるのも「幸せ」というより「燃えてる」状態、と言う感じする。
付け焼き刃にお金を作って二人で過ごしてるのよね。現状から逃げているだけだなーーー。
定の言葉を聞くと、悔しい、と言うより、焼けて頭にきた、と言う思いなのかなと思いました。例によって、頭にきた先に悔しいがあるのかなとは思うのですが…。
「芝居」ってなに、どの芝居なの…!定が明治座で見た牛刀を買うきっかけになった芝居なのか、お夏清十郎なのか。もしくは、田中加代という女、なのか。(これに関しては清水正氏の指摘を元に。)
既出の作品ベースで言うと、定が見たと言われる犬塚版のお夏清十郎はあまりに定にリンクしている。事実は小説よりも奇なり、よくできておる。お夏はこの作品で心中を「匂わせている」ラストシーンで幕引きしています。定も自死しようかな、と言う「匂わせ」をしながら行動していたのです。(よっぽど死んだでしょうが)お夏は死んだか分からないし、定に至っては死んでないしっ。
さて、私がえぐいなと思っているのはこっちの説でして。芝居「田中加代という女」が幕を引いたと捉える説。定は石田に「加代」と名乗って接していました、それは石田が死ぬ瞬間まで。そして、石田が「お加代…」と言って死んでから、「定吉2人キリ」、「定」と石田の体に残しているのです。つまり、石田が死んだ瞬間に加代の幕は降りて、定になったと言えますね?やば?????待って????定と吉(石田吉蔵)が隣り合って並ぶのはこの時の血文字をおいて他にないんですよ……ッ。ええんッ。
ひいては、あれほどに偽名や源氏名を変えて生活してた阿部定自体が芝居めいた存在だったよね?という話もありますね?!ウワッ!!イイ!!
定は戻るというような半端なことを許さなそうですよね。戻らない、戻ってたまるかをぎりぎり抑えた「戻れない」という感じがしました。
二人の道行を行き止まり、と。なるほど、二人の道行って「どこまでも行けるような気がする」行き止まりよな。人目を忍んでいる時点でどこにも行けないのではありますが。どこにでも行けるような気がするからと二人で歩き出したとて、そこから大して動くことも許されない、のが、二人の三週間のように思いました。
犯行後にしっかり後悔を述べてるんだよなあ。ウーン。殺して自分のものにして満足だの思うのは子どもの定で、死んでしまってもう会えないのは寂しいと思うのは大人の定?なの?そんなのって都合よくないすかね…。大衆に晒される予審でこの発言はどういうメンタルしてる??
でも、ここで言う、せつないって石田を手にかけるしか決着しない二人の関係性かなあ。石田と駆け落ちか心中したいくらい好き!→石田には家庭や地位があって両案とも断られるだろうな→でも妾の関係とか生ぬるくて無理→殺すしかないわ、の思考を経た上での「せつないよ」。めっちゃ自分勝手よな〜。
ここのサァ!「よいかいな」を2回繰り返しているところが、「本気でそうするつもりのなさ」を感じさせるよなあ。
「あの世にさらえば」→心中なんてするつもりはない上、自死もしなかった。
「すべてを棄てれば」→初手からヤケクソの捨て鉢人生、もう本当に捨てるものなんてなかったのでは…?何を今更、捨てるのに躊躇うことがあるのかなって思ってしまうけれど。
ってかこの時の定にとって石田がすべてだと捉えたら、これもまた捨てるつもりはないよね?
「さだめ」!
【🦁の舞踊振り返り】
私が出会ったのは、2021/04/20 夜、2021/06/04 昼、2022/06/24 夜、2022/12/18 夜の4回!意外と少ない🙃!
初期の初期で出会ってる…!記憶が流石に薄れている…笑
でもなんか、3月、好みの女でかわいかった舞踊三選(?)には数えた、と思う。
これは!覚えています!!赤の襦袢が印象深かった回!座ったところ、えぐい可愛さしてた…て好きだった……(1枚目)
定ちゃん、ブツを切った後に出てくる血を自分の着ていた襦袢で拭いたんですよね…。この時の舞踊のシンボルは「唐紅の血液」だったんだあ、いいね。
この回はね、赤い照明の中での微笑みと、絞られた照明の中での死に顔(?)が、ド好みでしたことを記憶しています。「わーん!この人の女形の死にそうな顔が好きすぎる!!!」となってこっちが死んだ回。
定ちゃん、他人に何をされても大して響いてなくて、余裕で笑ってるような女なのよなあ。この時もそれ的な微笑みしているね…、すげえ。
その上で、不幸な死に顔を見ると、本気で死ぬ気はなかったうらはらさ、と同時に、石田のことを死ぬほど好きだという気持ち、を感じます。
あと、定は犯行後に石田の褌と下着を「石田くさいから」と身につけています。それを…?噛んで……🫨?
脱線するんですが、この6月は死に顔コレクションしてきゃっきゃしていました。白状。
この回!やばかった!!なぜなら、「惚れたが悪いかのモデルは阿部定」という知識があったからです。いいこと教えてくれてまじ感謝🙌!まあとは言え、この時点では「いいところの娘が売られて人生堕ちた。好きな男を絞殺して陰部を切り、二人の名前を彫った。」くらいの知識しかありませんでした。
初見で髪飾りを見て「この阿部定は絞めずに突くような短気なところがあったかもしれない……?いや??待て?このかんざしで彫り物した…??え……?」という変な刺さり方をして喜んでいました。どちゃ沸きした。すごく酒が回った記憶があります笑
あと、もともとがお嬢様というプライドのある艶姿だね。華やかな着物がかわいい。
近くで見たときも定すぎる…と、やや恐怖した記憶。
【最後に】
阿部定という女が突き通したものは間違いなく深い愛なのだけど、殺すという(法的、倫理的に)間違えた方法をとってしまった。他人を愛したことのある誰しもが、もしかしたら自分も恋に惑わされてそうなってしまうのではないか、という恐怖を感じるからこそ、彼女に惹かれますよね。しかも、私ってほら、定が事件を起こした年にぼちぼち近い未来になるものですからァッッ。もし、狂おしいほど好きな相手に出会ってしまったら、やり得てしまうよなあという共感による余計な恐怖を感じて気持ちが良かったです。これってまさか…快楽かもしれない(?)
定の言葉を借りるなら「男に惚れた余り今度の私がやった程度の事を思う女は世間にあるに違いないのですが、ただしないだけのものだと思います。」です。はあ、好きなものに好きと言って、愛しているものに愛していると表現して、その素直さがかわいいなあ。まあ切り取ったらダメだけど!
お夏清十郎と失楽園も履修しないとね!では!!
【参考文献】
清水正(1999年)『阿部定を読む』現代書館
伊佐千尋(2005年)『阿部定事件 愛と性の果てに』新風舎
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