3歳の愛息を遺して逝った、永遠の魂友。装うことは生きること。大好きな岩間由香子の軌跡を綴る。あなたは死んでも、その影響力は死なない。
起業して22年、沢山の人との出逢いがあった。ファッションレスキュー全体でいえば数万人がスタイリングサービスをご利用くださったわけだけど、そのなかでも あなたは、最も忘れられない顧客になった。
あなたと出会え、病も含めたあなたの「素」に向きあうことで、パーソナルスタイリングの本質に迫っていくことの尊さを知った。あなたから学んだこと、その存在は、ファッションレスキューの存在意味そのもの。(ファッションレスキューは弊社名)その関係は顧客を超えて、心友、時に姉妹のようで、「魂友」であったと思う。
あなたの名前は 岩間由香子。
名古屋で老舗のアパレルを経営するお父様の元に生まれ、出会った頃は「いずれ継ぐことになる」若き次世代社長の立場、でした。
装いはギフト・という私の哲学に共感してくれて、装うたびに「これ、ギフトになってるかな?」と言っていたあなた。
愛する人を見送ったご主人はこう仰った。
「ゆかこは最期までファッションに気を使って、服装から元気をもらっていたと思います。なのでほんとうに、さいごまで綺麗にして、ゆかこらしく生きることができました。」
葬儀の日・思い出の写真ブースの中心に飾られていた写真。
ご主人もこの一枚が大好きだ、かっけーって言ってくれたの、と。
そして涙を流しながら、
「飾ってある服、棺に入れてあげようかと思ったんです。でも寂しくて。きっとあっちの世界でも、ゆかこは着たいと思うんですけど、僕がどうしてもとっておきたくて、、。ごめんなさい、今はそうしたかったんです。」
生前 私はあなたに限らず 何着て逝く?を 顧客に問うてきました。教え子たちにも、そういう授業があるくらいだから。そんな話をきっと、あなたはご主人にもしていたんでしょうね。
寂しいから遺す、その選択が間違っているはずがない。そして、そんな風に大切な人の記憶のなかに、いつもギフトを考えていたあなたのマインドと装いが思い出として残っているのだ。
「そんな、ごめんなさいだなんて。
ここに飾っていただいて、わたしはうれしいです。ゆかこちゃんも喜んでますね。ギフトを頂いてます。」
最期に送ったシースルーコート
出会い
老舗のアパレル会社の若き次世代社長のその風貌は、アイドルのように可愛らしかった。経営者というビジネスの匂いがしない。
チャーミングなお顔立ち、透き通った肌、はにかむ笑顔を見て、私は あなたにこんなことを言った。
「小泉今日子みたい」
職業柄、すでに表層的な似合うの分析はパーソナルカラーや骨格診断など思いつくものはすべて網羅しているという。
ある診断方法によって 似合う答えを出し、色やデザインを凝縮させたデザインを開発し、とある団体と組んで商品化をしようとも考えていた最中
その前に「ほんとうのこと」を聞きにきたと、あなたは言ったね。
なぜ、私のところに?
ほんとうのことを知りたい。
政近さんならどういうかな?と思って。噂では、はっきり違うものは違うとおっしゃると聞いてきました、といったあなた。
ほんとうのことを、しりたいのだと。
考えてること、やってきたことに疑問がないならそれでいいし、これが限界なはずはない、と感じ何かがうずうず、わくわくするなら、それが新しい答え。と私。
ビジネスのことはともかくとして、私はとにかく、本人が、ただかわいいひと、にしか見えないことが勿体無いし、だからこそ無限の可能性があると伝えた。
単なる似合うではなく、岩間由香子という人間の生き様。
かわいい外装と知的でクールな頭脳はマ逆。芯が強く熱いパッションを持つ
マインド、写真部にいたというアーティスティックな側面は、ほぼ表現されていなかったと思うから。
まずは一回、政近がどういう提案をするのか見てみたい、ということで、名古屋本社の会社が、東京に支店を進出するという、そのお披露目の日のスタイリングのオファーになった。
そして初のオファーにお応えしたスタイリングはこちら。
ファッションどうする?以上に内面についてとことん対話する。
プライベートでは、ご結婚されていて、そろそろ子供がいてもいいのかな、という感じだった。
私のことを、二人の子供を育ててきた「キャリアママ先輩」として色々と頼ってくれ、よく「お子さんがいて、一線で働く、活躍するって大変じゃないですか?」とか聞いていたよね。
その都度「子供はいいよ、なんとかなる。なんとかなるから」って何度も言てた気がする。
若く見えても、出産にはのんびりはしていられない年齢にもなり、何となく様々な本音を伝えてくれるたびに、「大丈夫だよ」と。
ゆかこちゃんの魅力が更に増すんじゃないかな、って。
告白
しばらくして、やっと子供を授かったんですよ、という嬉しいお知らせがあって、わたしは自分のことのように喜んだ。
しかし同時に発覚した病のことはショックを隠せなかった。
婦人系の癌が見つかり、治療と出産を同時に乗り越えていくという。
私自身が不治の病で(難病指定疾患)を抱えながら、ドクターの反対を押し切って出産に踏み切った人間だということを知っていたあなたは、
「どう乗り越えたのか?政近さんなら大丈夫って言ってくれると信じてはなします」と。ショッピングアテンドの予約を入れながらの、告白だった。
長男の出産で死にかけた自分・さらなる難病の悪化に「二人目はあきらめて」というドクターはじめ、夫を除く周囲全員の反対の声。その声聞く耳持たず、生命の力を信じたかった自分。妊娠中、何度も「もうだめだ」とドクターも諦めモードだったけれど、実父の突然の死と引き換えのように、奇跡的に生まれてきた。父の死のくだりは長くなるので、ここでは割愛する。
そんな姿を知っているあなたは、私の口から「大丈夫」を求めた。
2回目のアテンドは、コムデギャルソン。
その数日後、あなたは東京にやってきた。
病気云々じゃなく お役目を果たしたい、そういう意志の強い人だ。
私は「大丈夫」の気持ちを服にのせたいと思った。
これだけクライアントに服を提案してきたけど、過去二人しか着せたことがないコムデギャルソンを あなたに選んだ。
ギャルソンというブランドの歴史・川久保の精神、強さ、唯一無二の力を纏うときかなと。説得など何もいらず、二人の間には 暗黙の了解があったね。
川久保が好む燕尾服調のギャルソンジャケットには、ジェンダーフリーなメッセージもあると思う。断ち切った生地処理の粗雑さは、「あえて」のデザイン。完璧より常に疑問を投げかけてくるクリエーションにはパンチがある。川久保自体が発掘したという若手デザイナーのチュールワンピースをかさね、少し柔らかさをミックス。新入社員を迎える際のスタイリングに、こうしたクリエーションは、これからファッション業界を目指す若者に、大事なことを感じさせ、教えてくれるはずだ。
「本人の中身が新しければ、着ているものも新しく見える。ファッションとは、それを来ている人の中身も含めたものなのです。」
(川久保玲の言葉より)
そして過酷な治療が始まった。
そして、あなたはいつも気丈だった。
抗がん剤で辛いときも、いつも私を気遣い、自分は大丈夫、政近さん、大事にしてね、と。髪の毛が抜け、禿げなんだよ、でも悪くないと思う、とニヤッとして、笑わせてもくれた。
車椅子になっても、会社の総会でスピーチをするから服を選んで欲しいと、生命を振り絞って買い物に行ったよね。このとき初めて「名古屋でもいいかな」といった。百貨店を選んだのは、車椅子の貸し出しの利便さや、歩く通路の広さ。できる限り、負担のないようにしたかった。
ちゃんと立てない状態なのに、気持ちはスピーチをやり遂げるという一心。その姿から私は多くを学んだし、服を選ぶに一切の同情を絶った。
大丈夫、靴もヒールはいて、颯爽とね。と。
会社を引っ張っていく、社員に伝えたい、諦めない。というあなたの思いは痛いほどわかる。そしてどんなときも、どんな姿でも、ファッションにはパワーがあることを、装いはギフトなんだよ、と伝えたいそんな信念を表現する「場」に必要な服に、同情はいらない。
私は、あなたのトレードマークの鮮やかなオレンジのワンピースを選んだ。その気概と同時に、ファッションの明るさ、楽しさ、かろやかさも
纏ってほしいと、チョイスに思いをこめた。
社員の皆さんに向けられたスピーチから
一部抜粋。
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私の近況を簡単にお伝えしますと、今回買い物に出かけたわけですが、洋服の買い物は、およそ1年ぶりです。お店にかかっている服はキラキラ輝いていました。
皆さんご存知の通り、私は今治療をしていて、少しだけ弱る時があるのですが、こんな時こそ、服の力を借りるべきだと改めて思いました。
実は、薬の副作用がキツイときなどは全てが嫌になる時もあります。。また、病気になったことで、敗北感や、無力感を感じることもあります。だけど、病気になってみて初めてわかったこともたくさんあります。病気は必ずしも悪いものじゃない、ということもわかりました。
1年ぶりに新しく買ったこのワンピース。
このワンピースは私に新しい自分に出会わせてくれ、また新しい気持ちでチャレンジさせてくれる力をくれました。やっぱり服ってすごいし、私は服が好きだし、そんな服を扱う私たちの仕事は、やっぱり素晴らしい仕事なんだと思います。
私は仕事をすることで人の役に立ちたいし、この服の力で世の中の人を応援したいと改めて思っています。__________
(スピーチのプロフェッショナル・矢野香さんのご協力あって、内容を知ることができました。矢野さんとタッグを組んで、晴れ舞台をサポートできて、よかったなと思っているよ。
その後・プライベートでも、その思いを形にしていく。
絶対、政近さんに講演してもらいたいの。
これだけは絶対にやると決めてるから引き受けてね。
あなたが立ち上げた頂道塾名古屋支部での講演会・大事な仲間に、装いの大切さを伝えて欲しいと頼まれたこの全国大会は、名古屋「長全寺」にて行われ、のちに、この場所で葬儀も行われることになった。
あなたが上田紬を着た理由
上田紬のお着物姿が、ほんとうに素晴らしかった。頂道塾の本家は上田市にあり、上田からも多くの塾生が参加された、それゆえの上田紬。粋なギフトファッションだったというわけね。さすがな姿だったわ、、。
この日の感想を、あなたはこう伝えてくれましたね。
「病になる前、私は力づくで仕事で成果を出していました。 病になり、成果はわたしには縁がないものになりました。 昨日は余計な力をいれず、思いをただ純粋にすすめていったら、頂道塾塾生に政近先生の話を聞いていただけるという、素晴らしく意義のあることを実現できました。ものすごい成功体験をさせていただきました。この体験が今後のわたしの進む道の大きなヒントになりそうです」と。
力づくの成果ではなく、思いを形にした成功体験。いつどんなときも
「本当のこと」を伝えて欲しい、と、最初からただそれだけを私に望んでいたから、この日も「ファッションの、ほんとうのこと」を伝えさせて貰った。この日は「二人だったからこそのケミストリーが起きたね」と嬉しそうに耀く姿を見せてくれた。
治療は一喜一憂
元気だよー もう大丈夫なの だったり
今の治療はあわないから、世界に行ってくるねー とか
治療はこんなかんじで いいときも悪いときもあった。
たまーに確認したくなって、自分からメッセージを送るけど、そういうときは病気のことは、ほとんど触れないようにしていた自分がいた。
連絡するなら 会いたいと思う、アクションしたい、こっちも頑張ってるから東京こない? みたいなのがいいなと思っていた。
心配は全員がしてくれて、それも少し重いと感じていたあなただから。そういう優しさがある、あなただから。
PINKOでイベント。ぜひに!と連絡。
そんななか、ファッションイベントを開催をすることになり、前向きなお誘メッセージをした。きっと、一つ返事でいくよ!なんて答えるには、かなりしんどいの状態だったと思う。無理しないでね、なんて言わなかった。来て欲しい、とだけ伝えた。
イベントに駆けつけてきてくれた際の服は、PINKOのもので、事前ショッピングでチョイスしていたワンピースとライダース。そのときの様子はこんな感じ。入社式で使ったギャルソンのジャケットとドロワーのスカートで現れ、、PINKOにて華やかな気持ちになるラインナップを揃えた。
命に限りがあることを察した、ある日。
私にできることは、いったい 何か。
生きている「今」を記録しないと。
そうだ、今 記録しておかないと。
少し前からユーチューブを始めていた私、自分のことなんかより優先順位上げないと駄目じゃん、と突然連絡をしたのが2020年・夏のある日。
反応は、ちょっと自信がない、といった空気だったね、、
何だってチャレンジなあなたが、ハープの練習で東京には行くけど、そのあと、体力がどうなんだろう?という心配。ユーチューブに自分の姿を上げる、ということ自体も「その必要、あるかな?」という迷いがあったんだとおもう。
私は正直 有無を言わせなかった。
とにかくきて。なんとか来れないかな、とにかくきて。何をインタビューするかも考えてもないけど、会いたいし来て欲しい。
覚悟
辛そうだった。あまり元気はなかった。
でもカメラを向けたとたん「覚悟」が決まっていたよね。
覚悟を決めて、インタビューに答えてくれた、そのときの記録は
対談の日 サロンに現れた、あなたの姿。すべてをそぎ落としたような
静かでエレガントな、透明感があった。
これが本当のわたしやで!どや!おしゃれやろ。みたいな感じ味わいました。おソロもうれしい。
(2020 11月 あなたからのメッセージから)
たとえ頼まれても、本人に相応しくないと思うものは取り寄せない。それは私の信念。あなたはそれを知ったうえで、言ったよね。
私も、着たい。
それがあなたに選んだ、最期のスタイリングになるなんてね。
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動画編集にあたり送ってもらったいくつかの画像から。
ハープは自分自身。最後のパーツはハープだった。
(ユーチューブの あなたの言葉から)
意義なし!あなたの最期のメッセージ
2020年・12月17日の会話
私とあなたの、最期のやり取りを記して、私が心から愛した岩間由香子の
報告の幕を閉じようと思います。
私
似合う似合わない、とか表面的なものじゃなくて、もっと深いサービスやスクールやるから、見ててね。マインドと装いの学校。深いと同時に、
ファッションってもっと格好いいものだし夢があるものじゃない?
ゆかこ
もっと魂でいきましょう
私
そうなの 魂で!!!!!!
ゆかこ
時代がかわってますね
私と政近さん、まいちゃんもそこで(魂で)一致してますね
政近さん先頭つっぱしってる
いつも血だらけで
私
一致だね、、あははは ほんといつも血だらけだわ、、笑
ゆかこ
サポートしますよ、まいちゃんと私で
私
ありがとう!!サポートうれしい。
ゆかこ
あー みーんなで助け合って生きましょうね それって幸せ
助け合いたい人とはなおさらハッピー
御用命お待ちしております ハープ付きで行きます
私
わーーーーーーい!!
ゆかこ
3人でも何かできそう!^^ 魂で
私
ソウルドリブン!
ゆかこ
意義なし!
追記
パーソナルスタイリングの概念を世の中に打ち出し、この職業を創って22年。新たな革新をスタートさせた2021年。
あなたがいたから、あなたとの出逢いがあったからこそ、過去の恩恵に甘えず、同じことを繰り返さないで、進化させた、マインドフルファッションという概念を構築した。あなたが大好きだったギフトファッションを土台に
更なるマインドにシフトした、政近の哲学。
きっとあなたは、最期のやり取りのように、命を尽くして、尽力してくれたことでしょう。何でもやるよ、何でもいって、と。
スクール暦も18年になるが、また新たに立ち上げたスクールに、あなたの姿はなかったけど 講義をやってもらえるつもりで組んだ授業を私、やり遂げたよ。
そして 意義なし!と格好良く、潔く私の前から飛び立っていったね。
あなたを知る人なら、この一言がいかに、岩間由香子らしいかわかると思う。
同じファッション業界に身をおいて、これからの世の中がファッションを通じてもっと良くなるようにと、二人で信じた POWER OF FASHION
(装力)。
私もそっちの世界に行くまで、あなたと約束した大切なことを、ひとつづつ丁寧にやっていこうと思う。
実は、あなたとの対談を終えたあと、ユーチューブを更新することを パタリと止めてしまったんだ。
あなたは天国で「なんで?ちゃんとやってよ~~」って思ってるだろうなぁ
ごめん、見れてないんだ、、、一回も、見れてないんだよ。
人には見てね、といっておいて、亡くなったあの日から一度も開くことができないでいる。そう、今も。
いつか心が癒えたら見ようと思っていたし、あなたの報告もしなきゃなと思いながら、無理だった。
このnoteも、半年前に書き出して保存して保存して、いつまでもアップできない。共通の親友・まいちゃんに「書くね、報告するね」といってもう半年が過ぎた。
先日、ジェンダーフルな顧客さんがきて、長文のnoteを書きながら、重い腰が上がったの。
二人で語った会話を思い出した。
ファッションから、多様性・真のダイバーシティー、考えていきたいね
って言ったあなたを。
抗がん剤で髪の毛がなくなった姿を見て、5歳の女の子に気持ちが悪いと言われたんだけど、思うところがあったと語りあったこと。
(この話は深いので、前編ラストの部分、視聴してみてくださいね)
多様性にまつわる、ファッション教育が家庭でなされていないことも問題だよねって。だから、やることやっていくよ!と答えて学校をリニューアルした。その運営に奔走したこの1年。
やっとあなたとの軌跡を綴ることができた。
やっと、あなたが星になったことを受け止めている。
全部が遅くてごめん。
あなたと出会えてよかった。
今日はこれから、もう一度 あなたとの対談を見ようと思う。
格好いい大人を増やしてくださいね
と笑ったあなたの笑顔を、決して忘れない。
2022・1.17
亡き 魂友 岩間由香子に贈る。