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寂しい町

茨城県日立市
産まれてから、大人になるまで過ごした町。
ただ、それだけの寂しい町。


昔は栄えていたけれど、銀座の名を冠した商店街は、今はもうシャッター街と呼ばれて死んでいる。

松の湯って名前の銭湯があった。時代に沿わない、最高の銭湯だった。

震災で、インフラが破壊されて、1週間くらいお風呂に入れなかった。けれど、松の湯はやっていた。日立市のお風呂に入りたい人達が整理券を求めて何時間も並んだ。

久しぶりのお風呂、熱いお湯、初めての銭湯だった。
なんて気持ちいいんだ、ほんとに興奮した。

それから少しして、電気がついて、テレビ見て、津波が来てたのを初めて知った。


魔晄炉みたいな、セメント工場がある。生きてるのか、死んでるのか分からない、ガラクタの城みたいで子供の頃から怖かった。けれど、惹きつけられた。日立にそびえ立つ、城。

小さな山の上に、動物園と遊園地があって、いつか人が死にそうな古いジェットコースターが未だに走っている。
展望台から見えるミニマムな夜景が、ホッとする。

新しくなった駅舎は、妹島和世のデザインで、最高だ。しかし、周りに何もないから、観光に来た人達が路頭に迷ってウロウロしている光景をよく見る。

何もない、ただ産まれて、大人になるまで過ごしただけの町。
思い出の中の日立市は、いつも曇っていて、灰色だ。晴れていても、人影はない、寂しい町。

お世辞にも、綺麗とは言えない、寂しい町。
時代を作って、置き去りにされた、寂しい町。

でも、嫌いになれない、変な町。

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