〜アドバンス・ケア・プランニング はじめの一歩 第3話〜 患者や患者家族の意思を伝えることは、医療者の負担になる?
前回のnoteでは「ACPを実践すると、自分のことを知ることができる。そして、それを医療者に伝えることで、不本意な状況を避けることができる」と教えていただきました。
教えていただいたことを実践したいとは思うものの、母や自分の意思を医療者に伝えることをどうしてもためらってしまいます。
病院の方って忙しそうだし、いろいろ言ったら迷惑なんじゃないか......と思ってしまうんです。みなさんもそんなふうに思ったことはないでしょうか。
そこで今回は「患者の意思を伝えると医療者の方がどう思うのか」について、ますみ先生に伺いました。
患者さんが納得していることが、医療者の喜びになる
_____ますみ先生、患者や患者家族の意思を伝えることは、医療者の方にとっては迷惑になってしまうんじゃないかと思ってしまいます。
「インフルエンザが流行っているので、なるべく人混みを避けてください」といわれると「少し病状が落ち着いたら家族旅行にいきたいと思っている」と言い出せなかったことがあります。
他にも「このお薬を使ってみたい」とか、反対に「今飲んでいる薬をやめたい」など、相談したいことはあるのですが、医療者の方を困らせてしまうんじゃないかと思ってしまって、言い出せないんです。
なるほど。特に外来は忙しいイメージがありますよね。待合室には患者さんがたくさん待たれていて、数をこなす雰囲気も漂っていますよね。
外来が「はい、次のひと」と、どんどん回せるのは「この症状だったら、この薬を出せばなんとかなる」というコーゼーション、標準医療の枠で治療できる人が多いからなんです。
_____そう言われてみると、私の持っている病院のイメージといえば「小児科外来」かもしれません。次々に親子連れが受付にやってきて、診察室に入って、数分で診察室から出てきて、会計をして帰るような。
機嫌の悪い子どもと一緒に長時間待つのは大変なので、その方が助かるんですけれど。
標準医療で治療できる方の多い「小児科外来」と母のようなステージ4のがん治療の外来受診をひとくくりに考えてしまっていました。
そうですね。特に、小児科外来だと泣いてしまうお子さんもいますし、長時間外来に滞在させることで風邪が広まることもあるので、早く回すことも大事ですからね。
ここでお伝えしておきたいのは、医療者は「患者さん自身がよかったと思えることをしたい。患者さんが不本意だと感じる状況で終わらせなくない。」と思っているということです。患者さんが納得していることが、医療者にとって喜びになるんですね。
だから医療者は、患者さんの考えていることを教えてほしいと思っています。でも、患者さんは医療者から聞かれない限りは伝えてはいけないと思っている方が多いかもしれません。医療者の考えていることと、患者さんが考えていることがずれているという研究結果もあるくらいですし。
患者さんにいわれて、医療者が困ることもある
_____勇気を出して自分の意思を伝えたこともあるんですが、困った表情をされたこともあって……なかなかいえなくて……
なるほど、そんなことがあったんですね。確かに、患者さんの考えていることを知りたいとは思っていても、言われたら「困ったな」と思うことはあります。
_____それって、どんなことでしょうか。
患者さんが「よい」と思っていることと、医療者が医学的な視点でみたときに「よい」とされることが違うときは、困ったなと思うことがあるんです。
たとえば、小さなお子さんをお持ちのお母さんががんのステージ4であると診断され、子どもがいるから積極的に治療してほしいと訴えられた。しかし、医学的な視点でみると、積極的な治療にとても耐えられるような状態ではないというような場合です。
治療の効果よりも副作用の方が強い治療はできないんですね。患者さんが苦しむのがわかっているのに、効果もないし、お金もかかるような治療は、いくら患者さんが望んでもできないのです。
患者さんの「生きたい」というメッセージはとても役にたつ
ただ、こんな状況で患者さんの意思を伝えて、それで医療者が困るとしても、医療者としては患者さんの希望は伝えてほしいんです。なぜなら、患者さんの「私はまだ生きたい」というメッセージは、とても役に立つからです。
患者さんから「まだ生きたい」とメッセージがあれば、医療者は「なぜ生きたいのか?」を確認します。その過程で「せめて、子どもが小学校に入るまでは生きたい」という患者の想いが出てきたりするんですね。
そういう想いが出てきたら「積極的な治療はできないとしても、そこまではなんとか持たすことができないか」と次の手を考えることができます。
医療者を困らせるんじゃないかと思って、自分の意思を伝えないと次の手を考えることができないんです。その結果、お互い不本意な状況で終わってしまう。
先ほどお伝えしたように患者さんの希望に沿える範囲に限界はあるんですが、その中で患者さんに喜んでもらえることがしたいと思っています。だから、患者さんの意思を伝えることはとても大切なんです。
_____これまで、標準医療で治療ができる風邪やケガで病院に行くことが多いので、そのイメージで母の通院に付き添っていたことに気づきました。
私の母のように不確定な要素が多く、ACPを取り入れるフェーズの場合は、お互いに不本意な状況を避けるためにも、患者側の意思を伝えることが大切なんですね。
そのためにも、ACPを始めていきたいと思うのですが、どうやって始めたらよいのでしょうか。
わかりました。では、次回はACPのはじめ方、はじめるタイミングについて、お話しますね。