【歌詞小説(短編)】『僕が一番欲しかったもの』~槇原敬之~
検索しても
タップダンスを教えてくれるところは
このあたりではここしか見つからなかった。
しかし
職場からここまでの距離は、
終業即ベルダッシュしても間に合わない。
通うのはちょっと無理かな。
でもとりあえず見に行こう。
ガラス張りのスタジオをおそるおそる覗き込む。
いかにも、って感じのおにいさんが
長く伸ばした髪を一つに結び、真っ白のタップシューズを見おろして
鏡の前で小刻みにステップを踏んでいる。
怖そ・・・
「何やってんすか!全然ダメっすね!」
頭の上から怒鳴りつけられそうだ。
流れる曲は ”The Gift”。
19年前、槇原敬之がBlueのために書き下ろした楽曲。
翌年、マッキーがセルフカバーした。
初めての人が来ると、先生はいつもこの曲を流すのだそうだ。
”ぼくのあげたものでたくさんの人が幸せそうに笑っていて
それを見た時の気持ちがボクの探していたものだとわかった”
「タンタンタン、タンタンタン、タンタンタタタン、タンタンタン・・・」
先生に合わせてリズムを刻むワタシの顔が鏡に映る。
「お疲れさまでした!」
先生がワタシに声をかける。
「どうでしたか?」
「むちゃくちゃ楽しかった。」
先生は私の目を見て、にっこりほほえんだ。