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「おおっと、どうした? 何かあった?」 「なんでもないの」
翌朝、早朝に目が覚めると私は病院に帰る支度をしていた。悲しいことに「病院に帰る」なのだ。もう私の居場所は病院しかないのかもしれない。
暗い部屋の中で私は泣いた。そこは病院よりも温かいはずの家なのに、冷たくて、悲しくて、つらくて孤独だった。
「あら、おかえりなさい」
10月5日の朝、私は外泊届を書いていた。 「あら、ご家族は来ないの?」 「はい」
その時、ナースステーションにいたのは明日香さんだった。
何かを手に入れるためには、何かを捨てなければいけない。 私は病室のほんの数センチしか開かない窓を開けた。秋風がスーッと入ってきて、よっしーが「じゅんちゃん、寒いよ」と言った。もうすっかり季節は秋だった。
「じゅんちゃん、調子悪いようだけど、どうしたの? のーりさんと何かあったんじゃない?」
「じゅんこさーん」
その日のカウンセリングが終わって、病棟の看護師さんが私を迎えに来た。