ブラーヴォ!香港映画好きにも見てほしい活劇『ヴィンチェンツォ』
死ぬまでに一度シチリアに行きたい、じゅんぷうです。
Netflixの予告やキービジュアルから、てっきりノワールものかなというイメージで見始めた『ヴィンチェンツォ』。様子がおかしいなと気づいたときにはもう制作側の思う壺。パロディや小ネタ満載、ファミリーやリーガル要素(ブロマンスも…!)も入りつつのサスペンスとコメディの緩急にぶんぶん振り回されて20話完走しました。
イタリアマフィアの顧問弁護士ヴィンチェンツォ・カサノ(ソン・ジュンギ)が母国である韓国に帰国。その目的は、古い雑居ビル「クムガプラザ」の地下に埋蔵された1.5トンもの金塊を掘り起こすことだった。しかしクムガプラザは強硬な手段で地域の開発を進める巨大企業バベルグループの手に渡ってしまう。大手法律事務所と手を組み、すべての違法行為を隠ぺいして利権を手にしていくバベル。ヴィンチェンツォはバベルによって奪われ、傷つけられたものの代償を払わせようと自分の闘い方で「清算」していく。
ブラルノの高級スーツを着こなすヴィンチェンツォ。陶器のように美しい顔で表情ひとつ変えずに敵を粛清する彼が、韓国に到着するなりタクシー詐欺で身ぐるみ剥がされたり、安眠妨害する鳩に悩まされたりと散々な目に遭います。マフィアもひと筋縄ではいかない国、韓国。ひとくせあるクムガプラザの住人たち厚かましい韓国人とつき合っていきながら韓国でのお酒のマナーも覚え、マッコリの味もミックスコーヒーも気に入っていくヴィンチェンツォ。窓辺にくる鳩に「インザーギ」と名づけるあたり、『トラック野郎』で田中邦衛をボルサリーノと呼ぶぐらい好き。
ヴィンチェンツォの魅力が全体を引っ張っていっているのはもちろんなのですが、序盤で感じた「様子のおかしさ」というのが、なんだか香港映画みたい…それもチャウ・シンチー作品みたい(つまり好き)ということなんです。普通の仮面というよりむしろ弱者の仮面をかぶったクムガプラザの住人たちの超人的スキルの見せ方、プラザすべてひっくるめて『カンフーハッスル』の豚小屋砦。と思ったらやはり『カンフーハッスル』へのオマージュだったそうです。脚本家のパク・ジェボムが豚小屋砦からインスピレーションを受けたとのこと。よくぞやってくれました! 彼らはそれぞれスキルを持ってはいるものの、社会的弱者として卑屈に生きてきた。それが悪党ヴィンチェンツォに刺激を受けて、闘いを選ぶ。ヴィンチェンツォの必殺仕事人チームとなっていくのが最高に気持ちいいんです。
『愛の不時着』や『梨泰院クラス』、『パラサイト』を見ている人にはもれなく楽しめる助演陣やセリフのお遊びもあり。わたしは13話でユン・ギョンホが電話をかけるシーンで噴きました。バベルグループの会長を演じたクァク・ドンヨンは『サイコだけど大丈夫』に続いて、できそこない2世がこんなにハマる人いる? クライマックスが近づくにつれてぐんぐん期待値が上がっていきました。
ヴィンチェンツォに魅了されて、彼をヒョンと呼びたい・呼ばれたい野郎たちとヴィンチェンツォとの掛け合いが、イタリアーノなエッセンスとすごくよく合っていた気がします。
どっちがヒョンなんだろ?『愛の不時着』の保険屋さん、イム・チョルス