とんでもない狂気に心を覗き込まれる『悪の心を読む者たち』感想
2003年の『殺人の追憶』以来、実話ベースの韓国作品の引力から逃げられなくなっているじゅんぷうです、こんにちは。
まずこの『悪の心を読む者たち』、わたしはまたしてもNetflixのサムネ詐欺に引っかかってなかなか視聴に至りませんでした。タイトル的にシリアスな犯罪ジャンルでしょ?それでサムネに表示されているのは穏やかな笑顔のチン・ソンギュ一人。こんな善人モードでじつはサイコキラーとかしんどいからやめてー!だったんです。
そしていざ見始めたらすぐ、困惑の事態に陥りました。
(チン・ソンギュはサイコキラーじゃなかったのでよかったけど)
何がって、
え、ちょ、ちょっと待って?
キム・ナムギルってこんなにカッコよかったでしたっけ!?
パーマめっちゃ似合うし…!
つねに薄い影のヴェールをまとっているかのようなナムギルがわたしを捉えて逃がしてくれなくて、月曜~金曜のウィークデイで24話完走しました。Netflixは1話を2エピソードに分けていたので1話30分ほどでしたが。
2022年の作品で、韓国初のプロファイラーであるクォン・イルヨン教授とコ・ナム作家が実話をベースに執筆した同名小説が原作の本格サスペンス。90年代後半から2000年代の数年間を描いており、扱われる事件はいずれも韓国を震撼させた実際の連続殺人事件がモチーフ。事件当時プロファイラーとして犯人たちと対話をしたクォン教授の体験、その苦悩と葛藤を主演キム・ナムギルが体現しているのです。
韓国ドラマや映画において実話ベースの題材は、いつも見る側に痛みを伴わせて迫ってきます。この作品の中でも新聞記者が「タイトルは”ソウル版『殺人の追憶』”だ!」と叫ぶ場面があります。冒頭にも書いたように『殺人の追憶』は何かとわたしも引き合いに出している作品で、80年代に発生して長らく未解決だった華城連続殺人事件がモチーフ。ドラマ『シグナル』でも扱われ、韓国史上最悪と言われているその華城連続殺人事件のあとに、こんなにたくさんのおぞましい事件があったとは。
キム・ナムギル演じる元刑事でプロファイラーのソン・ハヨンと、ハヨンの素質を見抜いて犯罪行動分析チームを発足した元鑑識係長クク・ヨンス(演チン・ソンギュ)のふたりが「怪物は生まれるのか、それともつくられるのか」と悩むように、紙一重的な淵に誰もが立っているのだと思わされます。
ハヨンは感情表現が苦手で、周囲に誤解され疎まれる存在。けれど他者に共感する感受性がひときわ強く、「プロファイル」というワードも意義も知られていなかった当時にその重要性を本能的に理解していました。分析チームが異端視され冷遇されようが、ハヨンが犯人の行動と心理に没入すればするほど、わたしもドラマに没入してしまいました。
そうして微塵も反省のない身勝手なサイコキラーたちと面談するうち、ハヨンは自分の心を見失っていくんですね。ハヨンと機捜隊チーム長のユン・テグ(演キム・ソジン)との会話の中でニーチェの言葉が使われています。
ハヨンは多くの犯罪者と対面し、犯罪者になりきって実演したり事件現場に足を運ぶうちに深淵に覗き込まれてしまいます。多くの被害者と遺族を思うあまり、自分の心を犠牲にしてしまうんです。ナムギルの終始抑えた演技に引き込まれました。人の痛みを抱え込むハヨンに対して灯台的役割のヨンス、分析チームの若手分析官ウジュウジュの健全さは救いでした。
動機なき殺人を繰り返すサイコキラーも、そのたたずまいと演技力は凄まじかったです。全員すごかったけど、薄毛の人!社会性はなく無計画で実行して、走るの速い無邪気なサイコ、激ヤバで本当に怖かった。
センセーショナルに国民の不安や憎悪を煽るマスコミの中にあって、ウジュウジュの友人ユンジの記事は心強い良心だったし、ハヨンのオンマの愛が尊くて涙が出ました。”演技の名品”キム・ウォネもチームの理解者。気がつけば機捜隊からも信頼され笑顔も増えてきたハヨン。人同士の関わり合いにじんわりするドラマでした。こうした中で、怪物はいったいどこから怪物の道を進んでしまうのか…サスペンス好きな人におすすめですが、残酷・過激な描写もありますので、自分の心を覗き込まれないようご注意を。
とにかくナムギルかっこいいです。
◆キム・ナムギル
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◆キム・ウォネ
◆殺人の追憶