【対談】遠藤麻衣子(映画監督)×小林達夫(映画監督)【CONNECTING FILMMAKER】
TOKYO TELEPATH 2020 © A FOOL
『TOKYO TELEPATH 2020』絶賛公開中の遠藤麻衣子監督を迎え、小林達夫監督と「東京/記憶」を巡るスペシャル対談!
小林達夫(以下、小林))よろしくお願いします。
遠藤麻衣子(以下、遠藤))お願いします。
小林)まず、『TOKYO TELEPATH 2020』を観て感じたことからお伝えしたいです。映画観たすぐ後に家に帰って、burialの“Tunes 2011-2019” ってコンピレーションを聴きながら映画のパンフレットを読んでたんですけど、遠藤監督が2011年に海外から東京に戻ってきてから今までの流れが書かれているなかで、burialの約10年の音楽も相乗して、映画に流れている空気と、この10年間の空気がリンクしたように感じました。震災があって、東京オリンピックが決まって、いま2020年、という。さっき観た映画を思い出そうとすると、この10年って何だったんだろうって想いを誘発させられる感覚で。
「東京オリンピック」という言葉が本編中に繰り返されているじゃないですか。表面的には事実、映っている街はオリンピックに向かって行っているんだけど(撮影は2018年)、サウンドのテクスチャーの重なり、ノイズ感や物質感がその表面の前で混然としている。それがとても、この10年という感じがして。
そして、渋谷から浅草、東京スカイツリーという順番で、東京の外部からやって来た主人公が、観光地的なスポットを回っていく中で、徐々に東京の地下(アンダーグラウンド)へと意識が向かっていく展開に、ハッとさせられました。それは風景だけでなく、お祭りのシーンに象徴されるような彼女個人の記憶に潜っていくような構造もあり、面白かったです。
遠藤)ありがとうございます。自分にとって東京オリンピックっていうのは、こういう映画を撮ったけど、本当はどうでもいいんですよ。でもどうでもいいことで街が変われば人も変わるし、それがオモテで起こっている。オモテで起こっていることより、その水面下で起こっていることのほうが本当はすごい大切だけど、周囲はそっちに向かない。だから映画では、こういう捉え方をしているんです。震災があって、オリンピックがあって、このコロナがあって、全部セットであるっていう世の中の感じ。たしかにそういう大きなことのほうに大多数の意識は向くけど、その水面下では何が起こっているんだろう。で、どういう風に世の中が流れて、どういう方向に私たちは進んでいるんだろう、っていうことを考えていると思います。
TOKYO TELEPATH 2020
出演:夏子、琉花ほか|製作・監督・脚本・編集:遠藤麻衣子|エグゼクティブ・プロデューサー:山下覚|撮影監督:ショーン・プライス・ウィリアムズ(『グッド・タイム』)|照明:ジャック・フォスター(『イントゥ・ザ・ワイルド』)|音響デザイン:ニコラス・ベッカー(『メッセージ』『ゼロ・グラビティ』)|リレコーディング・ミキサー:浅梨なおこ(『東京喰種 トーキョーグール』)|音楽:服部峻
2020年|日本|49分|DCP|カラー|1:1.85|5.1ch
—— そもそも東京に住んでいた期間ってどのくらいなんですか?
遠藤)生まれたのはフィンランドなんですけど、1歳のときにもう戻ってきているので、普通に東京で育って。19歳のときにNYに行って、そこから11年で日本に帰ってきて、もうすぐで10年経ちますね。帰ってきて数日後に震災が起きたので。東京の観光地って、住んでいるところだからこそ、わざわざ行かないじゃないですか。オリンピックも東京で開かれるけど自分たちのものって感じがする訳でもないし。そもそもは東京を舞台に長編作品を撮る予定だったんですけど、それへの入り口としてこの作品を作りました。本当のプライベートな東京みたいなことは撮ってない感じ。表層ですよね。
—— 海外で10年生活して、戻ってきたときの東京の印象って変わってましたか?
遠藤)途中何回か日本に帰ったこともあったので、ずっと見ていなかった訳ではないですけど、震災がある直前までの東京って、すべてが冷凍庫みたいに固まっていた感じがします。で、震災があって、そこから人が移動したり、あったじゃないですか?
—— 人の動きが固まっていた、ということですか?
遠藤さん)すべてですよね。社会の構造とかももちろんですし、とにかく何も動いてない感じ。震災後は・・・、何かしらの流れは出来たのかなと思います。それが良いとか悪いとかは抜きにして、開通した感じというか。
—— そこから10年東京にいて、感じることはありますか?
遠藤)オリンピックだ、なんだかんだって言って、街の開発とかは明らかに進んでいますよね。でも豊かさはない感じ。感覚的にはやっぱり表層的な動きって言うのは凄い目立っていて、何となくその下のことはおざなりになっているような感じです。
—— それは、どういう種類の豊かさですかね?
遠藤)普通に経済的な、お金の豊かさもあるし、でも何か豊かじゃない感じっていうか。それは東京だけの話じゃなく、色んな都市でも全部一緒だと思うけど、元々あった豊かなものっていうのが消費の方に走っていくと、どうしても面立った物質的なものがどんどん物質的じゃなくなっていくっていうか、そういう意味での豊かさでしょうか。物質的なものから離れていく、ということかな。それでもまだVHSが東京にはちょっとあるだけ、残っているものもあると思いますが。
小林)普通にあったものが、気づいたらないって感覚は、自分もずっと続いていますね。別に懐古主義ではないんですが、そのスピードはまだ上がっていく気がします。店がなくなるのも当たり前だし、残っていても品揃えが全然少なくなっていて、ネットで探したほうが、がっかりしない、みたいな。で、行かなくなる店が増えて、街の歩き方が変わるというか。外に出てて、ちょっと時間あいても、昔ほど行きたい場所がないんですよね。
遠藤)私は歩いていると時々、ビルが全部グレーだし、外だけど牢獄にいるみたいな感覚になるときが時々あります。なりません? なんとなく。
小林)牢獄とは感じてないですが・・・。でも地元の京都に帰るとすごい楽で、もしかしたら普段疲れてるのかな、とは思いますね。東京の知り合いに京都で会うと、テンションが高いって言われるので。地元で調子乗ってる奴みたいで嫌ですが(笑)
以前ドラマの撮影で、1ヶ月間ずっと日光にいたことがあるんですが、時代劇だったのでずっとホテルと撮影所の往復で。歩いてコンビニに行けない場所にそんなに長くいたことが人生でなかったので、始まるまで憂鬱だったんですが、撮影にめっちゃ集中できて最高でしたね。地方で撮影すると、東京のスタッフがその土地で関係値つくって準備していく訳ですが、こんなに日本中を舞台に映画が撮られてるのに、作っている人間が集合場所の新宿・渋谷に出やすい沿線の場所に住んでる人が大多数ってなんか不思議だなって、たまに思いますよ。もちろん効率が良いことは理解しつつ、このリモートの流れのなかで業界内の住む場所の選択肢がもっと増えてもいいんじゃないかなと。
遠藤)ずっと考えていて・・・最初の「この10年、結局なんだったか?」って質問に何か返すとしたら、私の映画に全部それは表現してあるんですよね。何かは言わないけど、皆さんがそれを読み取ってくれるかくれないか、それでしかないと私は思ってる、っていう所を入れてる。具体的な問題点みたいなものを自分の中で提起しているから、そこをキャッチする人はキャッチするし、キャッチできない人はキャッチできない。で、キャッチできない人はコロナの問題と紐づけて、コロナだからどう、みたいな話に流れて行っちゃう気がする。
—— そういうリアクションもあるんですね。
遠藤)やっぱりみんなの中でコロナがすごい大きいから、何に対してもコロナを投射しちゃう。インタビューでも絶対コロナ禍でどう思いますか?って質問飛ぶじゃないですか。みんなそのことを喋ってるけど、でもそれだけじゃないじゃん、っていう。世の中としてはそれが一番大きなこととして見えてるし報道されてるけど、でもそれだけじゃないじゃんって。
TOKYO TELEPATH 2020 © A FOOL
—— 撮影はコロナ前ですよね?
遠藤)2年前です。けど、そこに関係づけようとしてくる人もいるから・・・まあでも、そういうもんなんでしょうね。
小林)そうやって時代に応じて作品の見え方が変わることは、ある種の宿命だったりする訳ですが、そのバイアスが強すぎるとこぼれ落ちる物は出てきますよね。自分も2016年に、6人の監督が東京の1つの街をそれぞれ舞台に、短編を撮るオムニバス企画に参加して、『After Hours』という映画を撮ったんですが、レコード屋がなくなっている渋谷の街を、昔ここにレコード屋があったね、とクラブ帰りのDJとその日に知り合った子が巡っていく内容で。いま観るとオリンピックで渋谷が再開発したからレコード屋がなくなっている風にも見える話なんですが、オリンピック関係なくとっくに店の数は減ってましたからね。それでも看板だけ残っていた店の建物が、開発で取り壊されたり、そういう影響はあったみたいですが。
After Hours (2016) © HappyTent
遠藤)結局そういうのがなくなって、何が変わったかってことなんですよね。結局そこに持ってる人々の思い出とか何かがないと、なくなったこともそんなに重要じゃないから、結局人が関わって、そこに持ってる愛情だったりなんだりってことに全部かかってるというか。都市開発もそうだけど、結局心の問題な気がするというか。だからみんなこだわる訳じゃないですか。別に古いものはどうでもいい、っていう風にならないから。じゃあそこに執着がない人はどんどん開発も進められるし、という。
—— 遠藤さんは、執着がありますよね?
遠藤)やっぱり執着がある風景とか、そういうところにはなくなってほしくないですね。もちろんなくなるのはしょうがないと思うけど、そういうのはなくなってしまうところを映画でも撮れたり写真でも撮れたりするけど、結局究極は記憶に残ることだから。けどある意味記憶にだけに残ることは美しいことなのかもしれないとは思います。すべてのものは消えるから。
・TOKYO TELEPATH 2020
10/30(金)までシアター・イメージフォーラムにてレイトショー上映中
全国順次公開
公式HP https://www.kuichi-tech2020.com/
遠藤 麻衣子(映画監督)
1981年、ヘルシンキ生まれ。東京で育つ。2000年に東京からニューヨークへ渡り、バイオリニストとして、オーケストラやバンドでの演奏活動、映画のサウンドトラックへの音楽提供など音楽中心の活動を展開した。2011年日米合作長編映画『KUICHISAN』で監督デビューを果たす。同作は、2012年イフラヴァ国際ドキュメンタリー映画祭にてグランプリを受賞。2011年から東京を拠点に活動し、日仏合作で長編二作目となる『TECHNOLOGY』(16) を完成させた。現在、2020年夏に撮影予定の長編三作目を準備中。
小林 達夫(映画監督)
1985年京都府生まれ。2007年『少年と町』が第10回京都国際学生映画祭にてグランプリを受賞。その後、『カントリーガール』(10)、『カサブランカの探偵』(13)と、京都を舞台とした作品を監督。そして2015年、自身初の劇場用公開作品となる長編時代劇『合葬』が公開され、第39回モントリオール世界映画祭ワールド・コンペティション部門に正式出品される。2016年、映画分野として初の京都市芸術新人賞を受賞。近作にドラマ『ブシメシ!2』(18)、『昭和元禄落語心中』(18) がある。
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