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【#009】写真集『いのちの樹 ~The Tree of Life~』

私の1st写真集『もうひとつのスーダン』、最新の写真集『ONE SKY』のエピソードを紹介してきたので、『いのちの樹 ~The Tree of Life~』についても紹介します。
2015年に刊行した写真集『いのちの樹 The Tree of Life IKTT 森本喜久男 カンボジア伝統織物の世界』(通称:いのちの樹) は、内戦によって消滅しかけていたカンボジア伝統の絹絣を復活させた森本喜久男さんを中心に、美しいシルクの輝きと、それを生み出す森の環境と村人の暮らしを捉えた写真集です。

写真集冒頭の文章をご紹介します。

私がIKTT(クメール伝統織物研究所)の森本喜久男氏を知ったのは、2006年12月、NHKラジオ深夜便から流れてきた彼の声からだった。
「カンボジア内戦で故郷を失った人々、傷ついた人々。ホームレスだった母と子がIKTTで布を紡ぐ、織る。やがて子どもは髪を洗うようになります。櫛を通すようになります。洗濯した服を着るようになります。紅をさすようになります。恋をします。子供が生まれ家族ができます。そんな光景がIKTT伝統の森にはあります」
穏やかな声の中に確かな意志を感じた。

2008年5月にカンボジア・シェムリアップの北約30キロにあるIKTT伝統の森を訪ねた。この写真集は、それから幾度の訪問を重ね今や私の人生の師であり良き兄貴とも呼ぶべき森本喜久男氏が自然の根底から物を見つめ直し実現させた究極の美しい布を創生する環境、暮らし、人々の手の記憶を描いたものである。カンボジア伝統織物の復興と森の再生を通して、カンボジアの人々の傷ついた心を再生するという壮大な美しい物語を感じてもらいたい。

2015.10    内藤順司

森本喜久男氏は、残念ながら2017年7月に他界されました。ほんとうに残念で残念で今でも無性に彼に会いたくなります。
彼との会話には、なにげない日常のやりとりのなかで、人生や生を導く、まるで指針のような言霊が溢れていました。
なにかを強く主張するのではなく、穏やかな言葉と語り口の身心の真ん中に強い強い意志を感じたのです。まるで数百年数千年を生き、世界各地の美しい布の中に立ち現れる生命樹のように。

彼の遺志はカンボジアIKTT伝統の森の人びとに確実に引き継がれ、現在も美しい布たちが生まれ続けています。そして森本さんと彼の言葉は美しい布とそれを生み出す村の風景とともにこの写真集のなかに生き続けています。これから少しずつIKTT伝統の森の物語も綴っていきます。

どうぞ写真集を手に取って感じてください。
彼が心惹かれた絹絣の美しさと再生の物語を感じてください。


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