素人のための法学入門 #11
はい11回目です。今回もよろしくお願いします。読んでる?読んでます??
ルールは変化する
先生 「というわけで、ルールが現実の社会の間でズレていると判断された場合、改正されることがあります。」
学生A 「例えば、18歳から成人だとか、選挙権が認められたとか、ついこないだあったみたいですね。」
先生 「そうですね。今の社会に法律を適合させるように改正がなされたわけです。」
学生B 「つまりそれは、今の社会と法律が合わないから、法律を変えようという自然権が行使されたといってもいいですよね。ロシアじゃないですけど、結局法律は自然権によって変更させられてしまうのではないでしょうか。どんな国でも。」
先生 「はい。本当は社会と法律が合わないというより、選挙で投票する人間が少なすぎるっていう理由なんですけどね。普通そういう理由で決まるのっておかしいんですが、これも自然権の行使ですね。
複数の人間に自然権があり、その行使が相手の自然権を脅かすことがあるからこそ法律はできあがる。そして、技術革新などによって、自然権への制約がとっぱらわれるからこそ、出来ることも増えていく。出来ることが増えるということは、それを自由に使おうとする人も増える。自由に使おうとすると、またほかの自然権と衝突してしまう。それに合わせて法律も変化していくのです。例えばドローンが開発されると、誰だってドローンを好きな所に好きなように飛ばして遊ぶ権利の制約が自然の制約から解放されたことになるわけです。しかし、余りにも好き勝手に飛ばされると困るので、これにも規制がかかるでしょう。つまり、これによってルールが作られるわけです。
殺人罪の刑期が伸びたのは、より抑止効果を高めるためです。ただ、法律は一回出来上がってしまうと、そう簡単に変更されることはありません。民法なども120年近くは改正がされていませんでした。」
学生A 「ひゃ・・・120年も?」
先生 「はい。どうしてこんなに長く変更されなかったのか。自然権の態様によって法律が変化するといっても、そうコロコロ変えられたのでは国民の法律に対する信頼も揺らいでしまう。ついて行くのも大変です。また、法律を変更するのではなくて、特別法といった別の法律を作り、都合のつかないところはそちらで対処するということも行われますから。これも事実上の変更だと言えますけどね。」
学生B「ロシアだけじゃなく、そのほかの法治国家でも結局法律は自然権の行使次第で変わってしまうという。じゃあ法律って本当に意味あるんでしょうか。だって、結局自然権次第によって法律は変わってしまうんですよね?」
先生 「確かに変わります。変わりますが、ほとんどのところは変わりません。変わるといってもその中の具体的な変化を見るべきです。例えば、窃盗罪(刑法第235条)自体が削除されるなんていうことには決してならないと思います。ただ、自然権が法律の生みの親であることは、避けられない宿命なのです。」
先生 「自然の制約が開放されるその時点では、まだ法律が整えられていないことが普通です。そうしたとき、その技術を好きに使うことができるため、それを抑えるべく法律が新しく作られたり、変えられたりすることがよくあるのです。何時の時代でも法律の共通の役割は、自然権と自然権の調整をするために、適度に抑え込むことです。ここが重要ですよ。法律は確かに自然権の状況によって変更される。しかし、それに応じて特定の自然権が、他の自然権を侵害しすぎないように調整されるのです。ですから、既にいい具合に調整がなされている、と判断されたところは、基本的に変わることがありません。」
学生B 「そうですよね。せっかく法律で秩序が保たれていたのに、その部分を変更してしまったら元も子もありませんからね。」
先生 「その通りです。」
学生A「ちょっと難しすぎます。法律が結局自然権によって変化してしまうのであれば、自然権を好きに使っておけば、法律の方も変えられていくんじゃないんでしょうか?何かわかりやすい具体例を示していただけるとありがたいのですが・・・。」
先生 「そうですね・・・。例えば、現在では、飲酒運転は厳罰化されています。昔はお酒を飲んで運転してもよかったんですよ。道路交通法の罰則として加えられたのは、1960年だそうです。つまり、それまでは酒を飲んで運転して、何も起きなければお咎めなしでした。その後は厳罰の流れでどんどん厳しくなりましたが、道路交通法は実際にはあまり機能していない法律だと言われています。最近ですら、酒を飲んで運転している人が多いですからね。」
学生B 「うそ~。それって超危ないでしょ。」
先生 「ええ。しかし、飲酒事故で悲惨な結果が相次いで起き、危険運転致死傷罪という法律が刑法に盛り込まれるくらいの事態になりました。警察の抜き打ちの酒気帯びチェックも行われるようになりました。お酒を飲んだ後、酔っぱらって車を運転するというのは、紛れもなくその人の自然権の行使です。しかし、そうされると、事故率が飛躍的に上昇します。それだと他者の生命に重大な危険があるので、このような運転については特別に刑を重くしたわけです。これも自然権の行使が法律を作ってしまった例ですね。じゃあそれで飲酒運転はなくなるのかと思ったら、その後も飲酒運転で逮捕される例はよく起きています。だからまた厳罰化されていくかもしれませんし、犯罪と認定する要件も緩和されていくかもしれません。
新しい法律が追加されたり、重くなったり、軽くなったり、あるいは、もう絶対に必要ないな、と思われる法律は削除されたりします。法律が変化するとはそういうことです。」
学生A 「なるほど・・・変化ってそういうことなんですね。私は、自然人が気に入らないなと思った法律を、気に入るように変えてしまうのだろうという意味で質問をしてみたのですが・・・。今までロシアとか中国とかの話を聞くと、そんな感じでしたから。」
先生 「ええ。車でお気に入りの飲み屋に行き、いい気分で車に乗って帰るということを楽しみたい酩酊者からすると、酒を飲んで運転しただけで罰されるこの法律は邪魔のように思うでしょうね。ところが、それで被害を受ける方からするとたまったものではありません。将来車の運転が自動化され、人間が運転しなくても事故が起きる可能性が全くなくなった場合、車の中で移動中に酒盛りさえ行われるようになるかもしれません。そういう車ばかりになると、この法律も消えてしまうかもしれませんね。」
学生B 「なるほど・・・。そうですね。」
先生 「もう事故の発生がありえないのに、それにもかかわらず法律がそのままになっているとします。こうしたずれというのは、しばしば起きるのです。すると、警察官は酒気帯びをしていることで、その車に乗っている人を逮捕するかもしれません。すると、それはおかしいといって、法律が変だという流れがうまれるでしょう。なぜなら、酒を飲んで車に乗っていたとしても事故が起きることがないので、危険運転とは言えないからです。自動運転なので運転さえしていないですからね。そういう意味で、自然権の行使が法律を変えることになります。自動運転ができ、事故が発生しない車を作る権利の行使により、危険運転という状況が一切生じなくなるのです。そうして社会が変わり、それに合わせて法律も変わるという流れです。あくまでも仮想の話なので、こんなにシナリオ通りにいくとは思えませんが。」
学生A「なるほど・・・。自然権の行使と、法律の変容の関係がよくわかりました。」
先生 「法律は社会の変化に応じて変わると普通は説明されます。自然権の制約には自然の制約と法律の制約があることはお話しましたね。技術革新で自然の制約が取り払われる。すると社会が変化する。あるいは人々の意識が変わってくる。そうして行使される自然権の行使の内容も変化してくる。そうしたとき、自然権を再び調整する必要が出てくる。だから法律もそれに合わせて変更される。社会の変化が法律を変えるというのは、つまりはそういう流れなのです。」
学生A 「よくわかりました。」
この章のまとめ
① ルールは変更されることがある。
② 既に調整がうまくいっていると判断されたところは、基本的に変更されることはない。
ルールが変更されるきっかけには、自然の制約がはずれることと、人々の意識が変化することなどに起因する。