本当は恐ろしい日本の昔話⑤ 「舌切すずめ」if譚
このお話は、本当は恐ろしい日本の昔話⑤のアナザーストーリーとなっております。
前回のお話では、おじいさんをどうにかしたくなるようなお話でしたから、このお話でおじいさんを・・・
ちょっと有料にしてみようかな~とか思って、私も大つづらを取りたくなったですけどね。
さて、この物語は、おじいさんとおばあさんが、男からお金を受け取る場面からの分岐です。
気分が悪くなっても読みたいと思われる方だけ、先にお進みください。
そして、今回は、前回の話にもう少し解説を付け加えておいた方がよかったかな、と思い、その反省点も踏まえて書いています。これを読めば、「したきりすずめ」が私たちに伝えたかった真意がわかるのではないでしょうか。
おばあさん、お金を見て目の色を変えるところから・・・。
「実はな・・・。あの方から、すずめと同じような子を相手にしてほしいと頼まれたことがあるのじゃ。断ったのだが、礼は弾むと言われてな・・・。参ったものじゃ・・・。ははは。」
おばあさんは、しばらくじっと考えていました。そして、おじいさんがびっくりするようなことを言ったのです。
「もし、すずめのような子を相手にしたら、あれだけのお金がもらえるだか?」
「ん?ああ、そう聞いとるよ。」
「そうだか・・・。」
おばあさんは、少し考えこんでいたようでした。
ある時、おばあさんは珍しく、遠くに物見に出かけると言ってきました。
おじいさんは不思議に思いましたが、お金も十分にある今だし、
「楽しんでおいで」
と言って、おばあさんを送り出しました。
おばあさんの目的は、あの遊郭でした。そして、あの男に出会い、話をしました。
「どうじゃろう。私が女子の手ほどきをしてみようと思うのじゃが・・・。同じ女じゃから、女のことはよくわかる。それにほれ、あのおじいさんの妻じゃしの。」
おばあさんは、これ以上おじいさんに子をあてがわせたくないという思いもあり、自分が女の子の世話役を買い、お金を稼ぎたいと思ったのでした。
男は、すずめからおばあさんのことを聞いていました。また、他の子たちが、おばあさんにうっかりとおじいさんとの関係を話してしまったら大変だ・・・とも思い、この話を断ることにしました。すずめはおしゃべりで、口が軽いのがたまに傷なのです。
「おばあさん。おじいさんに断られてしまったので、その申し出はとても嬉しく思っております。しかし、こちらもよくよく考えれば、無理なお願いであったなと・・・。家はすずめのおかげで大変助かっております。そのお礼を以前は差し上げたつもりでしたが・・・。お金が足りないと言われるのならば、もう少しお支払いしましょう。」
そして、おばあさんに小判を10枚ほど渡しました。
おばあさんは、それを見て、しつこく男に食い下がりました。
「どうか・・・考え直してもらえんじゃろうか・・・。」
男がどうしても受けられないというので、おばあさんはしぶしぶあきらめることにしました。
おばあさんはそのまま家に戻り、おじいさんとしばらくは今まで通りの生活をしていました。おじいさんはあの男が連れてくる子を相手にして、お金を稼いでいましたが、2度も3度もこれほどの大金を持って帰ってくるのは不自然です。きっと、すずめの宿とまだ関係を持っているということが、すぐにばれてしまうでしょう。
お金はたまっていくのに、好きに使うこともできません。よくよく考えれば、お金を何に使うのか、おじいさん自身は何も考えていませんでした。ただ、日々の暮らしに使うことができればよかったのです。
「こっそり使ってしまおうか・・・。でも、無駄にするのも良くない気がするのぅ。悪銭身につかずというではないか。せっかくだからいいことに使おう。」
おじいさんは、いざ生活に困った時のための貯金にすることにしました。
ある時、男から呼び出されました。
「おじいさん。今まで大変ありがとうございました。うちはおかげで盛況でございます。これからは家だけで何とかやって行きたいと思います。」
「そうですか・・・。わかりました。」
おじいさんは、少し残念にも思いました。しかし、使わないままに膨れていく貯金への懸念や、おばあさんに対する罪の意識も膨んでいましたから、少しほっとしたところもあったのでした。
それから、3年ほど過ぎました。
おばあさんは亡くなりました。
おじいさんは悲しみながらも、途方に暮れていました。
おばあさんはおばあさんで働き者でしたから、一人で生きていくのも、2倍の力が必要です。
「さて・・・困ったのぅ。」
おじいさんは、どうしようかと考えを巡らせましたが、ふいに、あのすずめの宿のことを思い出しました。
「そうじゃ・・・。わしもせっかくだから、あの商売をしてみてはどうか・・・。どうせわしがやらなくても誰かがしているのじゃ。それがわしであっても悪くないはずじゃ。」
幸い、質素な暮らしを変えておりませんでしたら、お金はそれなりに残っていました。
「よし・・・。わしの余命も後いくばくか・・・。それならば、最後の時間は思いっきり楽しんでみたいのぅ。」
おじいさんはそう思い、有り金を使って、すずめの宿と同じような宿を作り、お金に困った家族を見つけ、同時に綺麗な子を買い取るようになりました。
さてさて、おじいさんの宿は盛況になり、大変人気の店になりました。
しかし、それも束の間の出来事でした。
おじいさんは、新しい子を探している最中に、何者かに襲われ、そのまま命を落としてしまいました。
その後、宿がどうなったかは、皆さんのご想像にお任せいたします。
したきりすずめ 補足の解説
お読みいただきまして、ありがとうございました。
今回は、おじいさんをディスることにのみフォーカスを当てましたが、
決して本来のストーリーを外したわけではありません。
したきりすずめを見て、みなさんはこのように考えたことはありませんか?
欲張りなおばあさんが、大きなつづらを選んだ。大きなつづらには、魑魅魍魎や妖怪などの恐ろしいものが入っていた。
ああ、あの欲張りなおばあさんだから、きっとこのような目にあってしまったんだ。そして、すずめの舌をちょん切ったから、その恨みを晴らされたんだろうな。と、こんな感じです。
しかし、ちょっと立ち止まって考え直してみると、おかしいことに気が付きます。
まず1点。おじいさんがすずめの宿に行った時も、「小さなつづら」と「大きなつづら」をお土産として選択させたということです。もし仮に、おじいさんが「大きなつづら」を選んでいたら、「小さなつづら」よりも、もっといいものが入っていたのでしょうか?それとも、おばあさんが選んだ時のように、魑魅魍魎が入っていたのでしょうか。
そして逆に、おばあさんがすずめの宿に行った時も、「小さなつづら」と「大きなつづら」をお土産として選択させました。もし仮に、おばあさんが「小さなつづら」を選んでいたら、「小さなつづら」には、「大きなつづら」ほどではないにしても、魑魅魍魎が入っていたのでしょうか。
もしすずめがおじいさんにお返しをしたい。一方、おばあさんには仕返しをしたい。このような思いを持っていたのだとすれば、おじいさんは、どちらのつづらを選んでも、いいものを手に入れていたはずです。そして、おばあさんがどちらのつづらを選んでいたとしても、恐ろしい目に合っていたはずです。
そうであるとすれば、すずめは、わざわざつづらを選択させる必要などはなかったはずです。おじいさんには、それなりのお礼を最初から渡しておき、おばあさんには、確実に魑魅魍魎の入ったつづらを渡しておけばよかったはずです。
そうであるとすれば、すずめのお土産には、すずめの、二人に対する気持ちの違いが反映されていたと言えるでしょう。
しかし、おじいさんがもし大きなつづらを選んだ時には、その中に魑魅魍魎が入っていたのだとすれば、そして、おばあさんがもし小さなつづらを選んだ時には、普通に金銀財宝が入っていたのだとすれば、どうでしょうか。
もしそうであるのだとすれば、このお土産の内容は、すずめの気持ちは全くの無関係であった・・・ということがわかります。
おじいさんがあの時、大きなつづらを選んでいたら、おばあさんが受けたのと同様の、魑魅魍魎が出てくるはずだし、おばあさんが、小さなつづらを選んでいたら、相変わらず、金銀財宝を貰っていたはずです。
あえて選択させる必要なんて、どこにもなかったのですから。
今回は、おじいさんが、大きなつづらを選んだストーリーです。誰がおじいさんを手にかけたのかは、もうお分かりですね。おじいさんの宿が繁盛すると困る人達です。
前回のお話で言いましたが、大きなつづらは、経済の源泉たる、お金を産むための人間の欲望の有象無象、小さなつづらは、それらの成果物、という解釈が私の解釈でした。
解釈②
やっぱりすずめの恨みを晴らすストーリーだった説
こちらの方がしっくりくる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私がなぜこう考えなかったのか、も合わせて解説したいと思います。
例えば、最初おじいさんが来た時に、一計を案じました。
どちらもいいものを入れて置いたのです。でも、おじいさんは小さなつづらを選びました。
すずめはこの結果を意外に思ったかもしれませんし、そうではないかもしれません。しかし、ここには一つの狙いがありました。それは、おじいさんが、大きなつづらと、小さなつづらのことを、おばあさんに話すだろう、ということ読んでいたのです。
すると、きっと欲張りなおばあさんだから、大きなつづらをもらいにやってくるだろう・・・。そういう計算です。
そうであれば、今度は大きなつづらに妖怪を入れて置き、あなたの欲望が招いた結果だと、教訓めいた教えを暗に伝えるようにすれば、おばあさんのためにもなるやもしれません。
これは、一考に値するものかもしれませんが、論理的な欠点があります。それは、おじいさんが確実に小さなつづらを選ぶとは限らないということです。運要素なんですよね。
もしすずめのIQが滅茶苦茶高ければ、おじいさんがやってきたときには、とてつもなく大きなつづらを用意し、とてもじゃないが持って帰れない・・・という返事を確実にさせます。
そして、次におばあさんがやってきたときには、おばあさんでも持って帰れるほどの大きなつづらにします。小さなつづらと比較させれば、大きなつづらがどちらを指しているのか、よくわかるはずだからです。
つまり、コミュニケーションの伝達ずれを狙った、テクニシャンなやり口です。
そうすれば、ひどい目に遭ったおばあさんも、自分の欲が招いた結果なのだと思うのではないでしょうか。
しかし、最後の最後で、やっぱり問題が発生します。それは、魑魅魍魎が本当に入っているなんて、やっぱり物語じゃん・・・ってことです。入っているわけないじゃん。ってことです。
もう一つあります。すずめは、お土産なんてあげられるほどの地位にあったのかどうかが不明である、ということです。
さらにもう一つ言えば、おばあさんが、小さなつづらで満足してしまい、そのままやってこなかった、という可能性もあるのです。また、おばあさんは、すずめの舌を切った手前ですから、自分が行っても、すずめは歓迎しないだろうという予測は、簡単にたったはずです。だとすれば、自分が直接行くよりは、おじいさんを、再度差し向けた方が、より現実的だったといえるでしょう。
さらにさらにもう一つ言えば、例えおじいさんが大きなつづらを選んだとしても、やっぱりおばあさんも欲しくなって、自分にももらえないか・・・とやってくる可能性があるということです。こうなれば、選択させた意味が、全くと言っていいほどなくなります。
このように、すずめの恨みを晴らす説は、感覚的にはわかりやすいのですが、物語を考えると、いろいろな運要素がふんだんにあるので、やっぱり、確実に起きたことではないと言えます。それに、結局は、この魑魅魍魎が何を表していたのか・・・ということを考えなければなりません。
小さな欲望で満足しておくか、それよりも、大きな欲望を狙うか。なぜ、大きな欲望を狙ってしまうと、ひどい目に合うのか。そして、それはすずめにも、コントロールの出来ないものなのです。(これがコントロール出来てたら、すごいですね。)
すずめの気持ちは、二つのつづらのお土産とは、無関係だということ
二人の選択は、本当に偶然の産物であったこと。(欲望の大小によって変化するということ)
おばあさんがすずめの宿を訪れるかどうかも、偶然であったこと。
おじいさんにも、大きなつづらを選択することができた、という点、おばあさんでも、小さなつづらを選択する可能性があった、という点。おばあさんは、すずめの宿を訪れないまま、おじいさんにお金を取ってこさせなかったのはなぜか・・・という点。すずめはお土産を持たせるほどの地位にあったのかどうかが不明瞭な点。(この点、浦島太郎の乙姫様とは立場が違うでしょう。)
小さなつづらは、男によって渡された小判。大きなつづらは、男の経営自体に関わろうとすることです。前の記事にも書きましたが、二つのつづらは、どちらも存在していなければ、成り立たないのです。選ばせたのではなく、そもそもが、二つ併存しなければならないものなのです。
そして、欲が深ければ、当然、大きなつづらを狙いに行きます。だから、欲望の大小によって、話の流れは変化する・・・。この物語のキーポイントは、運要素ではなく、欲望が大きいか、小さいかで、その後の展開が全く違うと言うことです。だから、おばあさんも、小さいつづらで満足していれば、そのままの生活に、臨時収入が入った形で、暮らすことができていたはずなのでした。
だから、実際の物語でも、おばあさんが、小さなつづらを選んでいれば、本当に、おじいさんが手に入れたものと同じ、金銀財宝を手に入れることができたはずです。すずめの意思は、もう関係がないのです。おじいさんと、おばあさんの欲望が、自分の得るものを決定しているのです。
もう一つの視点としては、選択肢を与えることで、すずめの真意をぼかす作戦もあったかもしれません。例えば、別の方を選択していたら、悪い目には合わなかった、とおばあさんに考えさせることで、すずめには悪意がなく、運要素だった、ということを、おばあさんに考えさせることもできなくはありません。
しかし、魑魅魍魎や妖怪が入っているつづらを、選択範囲に置くということ自体が、そもそも論として、お客さんに対しての礼を失しているわけだし、普通は考えられないことです。
こうしたところに気が付くことができれば、舌切すずめの真意に迫ることができるのではないか・・・。そう思いました。
全ての点にしっくりと来るな~と思ったのは、私の解釈でした。もし、矛盾点があるというのであれば、気兼ねなくコメントを頂ければ幸いです。なんとかこじつけたいと思いますので(笑)
そして、これはあくまでも私の創作ですので、みなさんは、皆さんなりの解釈があると思います。これが絶対ということはないと思いますので、あまり本気にされないでくださいね!
読んでいただいて誠にありがとうございました。
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