よくわかる 法律入門 #1 権利とは何か

素人のための法律入門では、自然権思想を中心として、法律とはどのようなものなのか・・・。社会で起きている事象を根拠として考えてきました。

そして、次はもう一段階ギアを上げていきたいと思います。以前の話よりは、ま~、法律っぽくなっていると思いますが、以前の24科目はとてつもなく重要なことなので、ここを読む前に、24科目をクリアしてきてからお願いします。(ただ、この中には重いショッキングな話もあります。まぁ、信じなければOKw)

1 権利とは何か
 
先生 「では、法律を学ぶにあたって、まずは、権利とは何かを学びましょう。」
 
学生A 「わくわくします。」
 
先生「権利が何か、を理解することは大切です。どんな法律にも出てくる言葉と言っていいですからね。」
 
先生「さて、漢字の意味を読み解く、同じアプローチで行きましょうか。権利の「権」という漢字ですが、これは何を意味しているかおわかりですか?」
 
学生B「さっぱりわかりません。」
学生A「私も。」
 
先生「では、『利』は?」
 
学生B 「それはわかります。お金とか、何か自分に得するものっていうイメージですね。利益のこととか。」
 
先生「そうですね。『権利がある』というと、『自分は相手に何かを請求できる』という文脈で使われます。つまり、自分にとって何らかの利益が手に入る地位にいるんだということですね。ですが、『私には権利がある』と主張する人に、『その権利ってどこにあるんですか?』と聞いた時、それを実際に示すことってできると思いますか?」
学生A「そういえば、できませんね・・・。」
 
先生「はい。つまり、『権』とは、『目に見えないもの』を意味しているんですよ。例えば、権力は『目に見えない力』を意味していますし、権勢というのも、『目に見えない勢い』を意味しています。家庭の権力者は母親、という方は多いかもしれませんが、実際、お母さんがそういうものを、目に見える形で持っているわけではないでしょう?」
 
学生B「うん・・・まぁ、そうですね。家の父親も母さんには頭があがらないというか。それで、『家の権力者は』って言っていることがありますね。」
 
先生「はい。逆に、これが実際に目に見えるようになったものを、『権化』と言ったりしますね。つまり、目に見えないものが化けて出てくるという意味です。神様も目に見えませんから、実際に目に見えるようになった神様ということで、『権現様』と言う言葉を使います。」
 
学生A「なるほど…確かに…」
 
先生「つまり、権利とは、その人の下に存在している、『目に見えない利益』を言っているのです。」
 
学生B「それだけですか?相手に何かを請求するとかっていうのは無いんですか?」

先生「はい。権利というのはそれだけです。自然権は、何でもしていい権利でした。でも、その内容を満たすためには、もうワンステップ必要なのです。つまり、自然権の内容を実現する自然権を行使する必要があるのですね。」
 
学生A「なるほど・・・。」
 
学生B「面白い。ということは、自然権の内容を満たすための自然権を行使し、更にその自然権の内容を満たすための自然権を行使する、更にその自然権の・・・って永久に続けることができますね。」
 
 
先生「そうですね。数学的ですね。自然権はなんでもやっていい権利。すると、細かく分解すると、微分されていくのでしょう。ここは自然権の内容を満たすための自然権の行使、という表現で、2段階に分けることにします。この時、満たしたい自然権の内容のことを実体といい、満たすために行使する自然権のことを手続と言います。」
 
学生A「実体と手続・・・。つまり目的と手段・・・。」
 
先生「その通り!目的を達成するために、手段を択ばない人がいます。自然権はなんでもやっていい権利ですから。」
 
学生B「ということは、そこに法律ができるということですね。」
 
先生「正解です。ですから、法律があって初めて、権利というのは実現できるようになっているのです。権利を実現するためのプロセスを整えた法律手続法といいます。」
 
学生A「手続法・・・。民事訴訟法とか、刑事訴訟法とかですね。」
 
先生「はい。その通りです。ですから、権利がある、というだけでは、どうやってそれを実現するのかまでは示されていないということ。だから、権利さえあればどんな手段をとってもそれを実現していいと言うことです。でも、それだとやっぱり困る人達がいる。そのために、手続きにも法律によって制限を作っているのですよ。」
 
学生B「じゃあ、その手続を踏めば、権利の内容を実現できるんですね。でもそれってめんどくさいなぁ。その手続っていうのは、どこでするんですか?」
 
先生「ご安心を。手続法が出てくるのは、裁判をするときくらいです。普段は民事手続や刑事手続を取ることはめったにありません。」
 
学生B「えっ?じゃあ、自分達はどうやって実体を日ごろから充足しているんですか?例えば、買い物をする時も、商品をレジへ持って行って、お金を支払うというのが手続でしょ?そういうのはルールとして定められていないんですか?。」
 
先生「いい質問ですね。結論から言えば、
それはありません。手続があるとすれば、民法では、『意思表示を行う』ということだけです。レジへ持って行った瞬間『これを買います。』という意思。相手は、『これを売ります』という意思。この2つが意思表示として行われ、売買契約が成立し、物の授受が行われ、金銭の支払いが行われます。その時点で、契約はすぐに終了することになります。これが、その商品を自分のものにしたいという自然権を行使した人間が、その自然権の内容を満たすために取る手続と言えますね。これは、民法の中だけで定められています。つまり、このために他の手続法が用意されているわけではありません。」
 
学生B「じゃあ、権利と手続って一緒じゃないですか。それだと、実体と手続にわける意味があまりなくないですか?」
 
先生「そう感じますかね。でも、権利だけだと、商品をじーっと眺めて、ほしいな~って言っているだけなんですよ。イメージとしてはそんな感じです。法律の世界では、このように、権利があるだけで、全くそれが実現されないと言う現象を、『絵に描いた餅』と言う諺を使って表現することがよくあります。このように、権利それ自体は、絵空事なんですよ。道理で目に見えないわけでしょ。だけど、この絵空事で人の法律関係を考えていくのです。ここが、初学者の方にとっては、わかりにくいところかもしれませんね。目に見えないので、イメージが大切なんですよ。」
 
学生B「なるほど・・・。でも、民事手続は裁判所で行われる手続なんですよね?普段は自分達が手続法で縛られるってことはないんですか?」
 
先生「普段は手続法が顔を出してくることはありません。ただ買い物をするだけでいちいち裁判所を通した手続法、あるいはその他の法律やルールに従って行っていると、経済取引がとてつもなく停滞するからです。そして、裁判所の事務が大きく膨れ上がり、パンクします。手続案件が山のように増えます。だから、経済取引の中では手続法にのっとって行動するということはありません。」
 
学生B「いまいちイメージがわかない・・・。レジに商品を持って行くっていうのも、どこかの法律に書いてあるんじゃないんですか?たとえば、商品を買うときは、物をレジに持って行きましょうとか。」
 
先生「そういうのは無いんです。」
 
学生B「え??え??こういうのがルールになっていない?」
 
先生「商品の購入は、例えば八百屋さんが店の前に立っていて、お客さんが陳列された商品を見て、その中から買いたいものを選ぶ、という形でした。今よりもずっと、人と人が行う売買契約っぽかったんです。ほんの気持ち程度ですけどね。で、まだ契約についてはお話していませんが、契約というのはね、基本的に、両当事者、つまり、買い手と売り手の合意によって成立する、とされているんです。だから、手続きといったらそれだけなのです。
 そこで、ちょっと販売形態が変化してきて、広い店の中から、お客さんが買いたいものを選んできて、最後にまとめて買うっていうスタイルになったんです。セルフサービスですね。有名なドラマで、『おしん』ってありますね。それを見ると、『おしん』が自分のお店をセルフサービススタイル、今のような販売形態にしていく様子がよくわかります。
 で、今は無人レジがありますよね。技術の発達で。売り手は、自分の店を構えた時から、すでに売る意思を普通に示しているのだとみなされます。後は、買いたい人が買いたいものをもってきてねという形にして、大きな口を開けて待っている感じですね。」
 
学生B「なるほど・・・。随分楽な状態になったんですね。でも、まだ腑に落ちない気がするんだよな~。例えば、この前Twitterで、お金を払おうとする人が、お金を払うふりをしてお札を空中で何度も遊ばせるパフォーマンスをやっていたんですが、お金を、こういう支払い方をしてもいいんですか。いえ、僕はしませんけど、法律的にはどうなのかなと。」
 
先生「ははは。法律では、どのような行動によって支払うかまでは規定されていません。その代わり、その間に相手に対して何らかの損害を加えたら、そりゃ駄目ですよ。結果として支払ってくれるならば、いいのです。そういう時に重要なのが、やっぱり常識とかマナーですね。Bさんが腑に落ちないのは、こうした常識までもが手続法のように、明文で規定されているはずなんじゃないか・・・ということでしょうか。」
 
学生B「そうです!そうです!だって、お金払うにしても、バズるのを狙った人たちが、好き勝手な支払い方しても困りますし。」
 
先生「そうですね・・・。さすがにそこまでは明文化されていません。ただ、前著で、ルールを守ろうとする人は、結局人の目を意識しているということをお話しました。ですから、そこまで考えられると、人の目を意識することによる、見えないルールに従ってもらうしかない、ということになります。皆周りに合わせて、それと気づかずに、いつの間にか商品をカゴに入れて、レジに持って行くようになっていますね。その流れに、もはや何の疑問もさしはさんでいないかのようです。
 面白いことを考え付く人が、変な買い方や売り方を考え出す、というくらいですね。たまにやりすぎて、逮捕されている人もいますね。寿司のお店で自分の唾液を付着させるとか、バイトの人がコンビニのアイスボックスに入るとかね。」
 
学生B「バカ発見器と言われていますね。ツイッター。」
 
先生「ははは。普段の買い物では、皆が周りに合わせるということで、ある程度は見えないルールに縛られている。法律的に重要なことは、物の売買が行われる一点です。売り手の、売る意思と、買い手の、買う意思が合致すればよいと。
 もしこれから大幅にずれこむような特別な行動をとってしまうと、お店の人に怒られるでしょうね。笑ってすましてくれる人もいるかもしれませんが・・・。
 通常の取引では、手続は両当事者の意思の合致で済むことがほとんどなのですよ。商品の購入のように、即時的に発生して、消滅するタイプの取引ならばね。
 確かに、Bさんのおっしゃる通り、合意を達成する前にいろいろな動きをすることも可能と言えば可能ですが、法律とは何の関係もありません。」
 
学生A「「即時的に発生して、消滅するタイプの取引ならばね。]ってことは、即時的じゃないタイプがあるということですね。」
 
先生「そうです。契約書を作る場合は、たいてい物の引き渡し(あるいはサービスの提供)と、お金の支払いが、別々の時(異時)に行われる場合ですね。もちろん、同時に行うときも契約書は大切です。証拠として残すためです。普通は問題になることはないけど、レシートってもらうでしょ?あれも、一種の証拠なんですよ。こういうときでも、民事手続や刑事手続のような大げさな手続は必要ないのです。」
 
学生A「実体と手続を自分達で行うんですね。」
 
先生「はい。私たち私人は、手続きもお互いがお互いの方法で決めることができるわけです。だから、何の仕事をしていない二人の間でも、お金の貸し借りがあるときは、お互いが私的に契約書を作り、サインと印鑑を押し、それに印鑑証明書等の公的文書をつけて、お互いがそれを持つようにします。手続はとても面倒で、時間がかかりますからね。手続法については、今は置いておきます。まぁ、いっぺんに詰め込んでも訳が分からなくなるので、ここでは、権利とは何か…ということを理解しておいていただけたら十分ですよ。次は義務についてのお話です。」
 
学生A「あ、すいません。その証書を作るとかって、皆自分で調べてしているんですか?その証書に何を書くとかも、自分で考えるんですか?」
 
先生「そこがね・・・。行政書士、司法書士、弁護士、公証人と言った、士業の人たちの出番なんですよ。」
 
学生B「ああ・・・なるほど!」
 
先生「素人が作ると、法律としての効果のない文書をつくることがありますからね。よくあるんです。もちろん、自分で本を読んで、調べて書く、ということもあるでしょう。」
 
学生A「弁護士さんたちはそれでお金を稼いでいるんですね・・・。」
 
先生「それだけじゃないですけど、それも仕事のうちですね。」
 
学生B「よくわかりました。」
 
先生「Bさんがおっしゃったように、合意を取り付けるまでの間に何をやってもいいのです。法律が相手にするのは、両当事者の合意があるかどうかです。この意思表示を行うことで、二人は法に拘束された行為を行うことになります。この、意思表示に基づいて、法的効果を発生させる行為を法律行為と言います。Bさんのおっしゃった奇妙な支払い方などの行為は、法律は関係ないので、事実行為と言います。これは、民法で習いますよ。」
 
学生B「わかりました。」
 
学生A「あっ!すいません。」
 
先生「まだ何か?」
 
学生A「法律行為と事実行為を分ける意味ってあるんですか?」
 
先生「はい。それが一番重要ですね。法律行為であれば、法律効果を発揮するのです。法律はね、この法律効果を相手にして考えるのです。」
 
学生A「法律効果・・・。」
 
先生「まだ難しいでしょうね。事実が下敷きとしてあって、そして、法律がそれに基づいて存在している。それが法律の立ち位置なのです。自然権は法律の産みの親。自然権の行使は事実そのものです。従って、事実も法律の産みの親なのです。だけど、法律の世界では、法律だけを相手にして考えます。」
 
 
学生B「よくわからない・・・。」
 
先生「わかりにくいでしょうけど、民法等を学んだ時、この考え方が重要になります。全ての法律に権利というのは関わってきますから、特別に民法の話にも踏み込んでいますが、とりあえず権利とは何か・・・。これをここでは理解しておいてください。」
 
学生A「・・・。わかりました。」

この章のまとめ
 
権利とは、目に見えない利益を言う。
 
権利がある、というだけでは、まだ相手に何かを請求することや、その権利の内容を充足する方法(手続)は具体的に想定されていない。
 
自然権が基本なので、権利を実現するためには、どんな手法をとってもいいのが原則である。しかし、それだと手段を択ばない実現方法を認めてしまうことになる。それは相手の気持ちにとって不愉快でないものならば何でもいいかもしれない、そういう意味で、社会の常識やマナーが重要となる。手続さえも合意によって成り立っている。
 しかし、時には二人の合意内容に従わない人が現れる。そうしたとき、両者は揉める。お互いのどちらかが裁判所に訴える。手続法が顔をのぞかせてくるのは、その時である。だから、裁判所で手続を取るための、民事訴訟法が存在する。
 
 私人間に手続が任されているというのは、面倒がない反面、危険でもある。例えば、お金の貸し借りで、借用書を作らずに貸す、というケースがある。この場合、返せと言っても、借りた覚えは無いと言われるのが大体のオチ。
 
 言葉で言いくるめられ、自分から のこのこ と、連帯保証人としてサインをしに行ってしまった、ということもある。
 
 商品の売買程度であれば、人は即時に取引ができるのでトラブルになりにくいが、異時取引はどんな場合でもトラブルになりやすいことに注意が必要だ。今の経済は、異時取引が普通であるけれど。
 
 たいていの人は、手続自体に関する知識が大幅に欠けている。これは常識として持っておく必要があるのではないかと思う・・・。

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