稼げる地域デザイナーの鍵「狭義のデザイン」と「広義のデザイン 」について学ぶーゲスト:奈良県東吉野で活動する地域デザイナー、オフィスキャンプ坂本大祐さん
「狭義のデザイン」と「広義のデザイン」とは
坂本大祐 氏
奈良県東吉野村に2006年移住。2015年 国、県、村との事業、シェアとコワーキングの施設「オフィスキャンプ東吉野」を企画・デザインを行い、運営も受託。開業後、同施設で出会った仲間と山村のデザインファーム「合同会社オフィスキャンプ」を設立。2018年、ローカルエリアのコワーキング運営者と共に「一般社団法人ローカルコワークアソシエーション」を設立、全国のコワーキング施設の開業をサポートしている。著書:新山直広との共著「おもしろい地域には、おもしろいデザイナーがいる」(学芸出版)
合同会社オフィスキャンプ:https://officecamp-nara.com/
オフィスキャンプ東吉野:http://officecamp.jp/
(以下、略称)
齋藤:坂本さんと出会ったのは7年前。その当時から「坂本さんというすごい人がいる」と言う話は聞いていたのですが、それからどんどん坂本さんが表舞台に出てくるようになったんですよね。
きれいなロゴをデザインする上で大事なことは、そこにある物語までデザインすること。今となっては当たり前のことですが、それを7年前からやられていたのはすごく印象的でした。
僕もデザインの仕事をやっていたのでわかるのですが、稼げるデザイナーがいる一方で稼げないデザイナーがすごく多いですよね。圧倒的なデザイン力と情報のデザイン力の差はあると思うのですが、坂本さんは稼げるデザイナーで、かつ時間と場所にとらわれないじゃないですか。場所なんてビハインドで、人口1,700人の村にも指名で発注が来る。
個性的で素晴らしいデザインであること以外に、稼げるクリエイターと稼げないクリエイターの違いって何だと思いますか?
坂本:日本のデザイナーは恐らくこれから、狭義のデザインと広義のデザインにわかれると思います。狭義のデザインとは、見た目の部分を格好良くしたりきれいにしたりする仕事。日本でも最近は、この部分をデザイナーが担うことが認知されてきています。
もう一つの広義のデザインとは、それに至るまでの設計や計画、それが売れるための土壌が整っているかどうかということ。これからの鍵は、この部分にまで考えが及んでいるかどうかだと思っています。
地域デザイナーに求められること
坂本:地方についていうと、オーダーを出す側がデザインのことについてあまり理解していないことがある。デザイナーは魔法使いのように思われている節があって(笑)なので、「この商品を売れるようにしてほしい」といったデザインの仕事が舞い込むんです。
一方の都市では、分解されたデザインの仕事になっている。グラフィックデザインはグラフィックデザイナー、WebデザインはWebデザイナー、ライティングはライター、写真は写真家と、こういう風になっているのが都市のクリエイティブの在り様です。
地方はそれを全部丸っとひっくるめてデザイナーにというオーダーが来るのですが、それを打ち返していくと徐々に上流の工程が気になってくる。売ってくれと言うが、そもそも売れる商品なのか?という疑問が生まれてくるんですね。
そこまで上流に遡上していって、「この商品はなぜできたのですか?」「売りたいって言っているけれども、月にどのくらいつくれるんですか?」といった話をしていくうちに、結果的に広義のデザインに足を踏み込むことになるんです。
その両方を操って最終的な美的の部分までコントロールできるのが、これからのデザイナー像じゃないかな。すると、ニアリーイコール稼げるというのは、ほぼ合っているだろうなと思います。
大事なことは「オーダーを辿る努力」
齋藤:売れているデザイナーはビジネスコンサルティングとデザインがセットで、その人についていくと費用対効果が高いからその金額を出す。そこまで考えないデザイナーが多かったり、口だけでできない人が多かったりするので、どんどんその差が開いてくるんですよね。
坂本:デザイナーに頼んでも結局うまくいかないね、みたいなことになっちゃうと思うんですよ。でも、そのデザイナーが100%悪い訳じゃなくて、本当は売れる仕組みをお店側が考えてしかるべきだと思うし。
僕たちは「上流工程まで伴走できるよ」というスタンスを持っているし、やっていることはリフレクションなんですけど、やっていることは壁打ちなんですよ。「それで合っていますか?」ということを聞くと、お店も「確かに、月10個しかつくれないな」と。それに対して「じゃあチラシこんなに必要ですか?」「SNSだけで良いのでは?」とか、そういう話になっていくわけですよ。
僕たちがやっているのは「オーダーを辿る」ということ。そのオーダーが合っているのかどうかという前提から入るんです。それが良い結果に繋がりやすい。
齋藤:確かに。幕の内弁当ばっかり注文して、美味しいんですか?みたいな感じですよね(笑)
デザインコンサルティングやビジネスコンサルティングだと難しくなると思うけど、デザインって「らしさ」の表現になると思いますね。そして、その「らしさ」は、どんどんヒアリングして対話をしていけば必ず見えてくるんですよね。
覚悟=フィロソフィー
坂本:「この地域でやっていく!」と決めたら変なことはできないですよね。退路が絶たれている状態でやるデザインと、毎月10や20ある案件のデザインって全然乗っかってくる体重が違ってきますよね。
僕はパッケージ一つをつくるにしても工場に行ってどういう風につくられているのか見るし、失敗したくないから自ずとそうなるんですよね。でも、地域に根差すってそういう覚悟が必要なんだと思うんです。その覚悟があれば向き合う行動をすると思うし、向き合った結果、自分にできない事業領域まで自分の仕事だと思えるようになってくるし。そこが起点な気がしますよね。
齋藤:「覚悟」ってデザイナーにとってはフィロソフィーとも言い換えられると思っていて、デザインにどれだけのフィロソフィーがあるかがものすごく重要。音楽も映像も同じで、自分の仕事の先にいる人がどういう風に共感していくかが重要かなと思いますね。
予算はバルクで見てやりたい仕事をやる
齋藤:言える範囲で良いのですが、ギャランティーの設定はどうしていますか?行政の仕事は予算が決まっているから「これ無理やろ」「でもやりたいな」みたいなことや、「これフィー良いからやりたいな」みたいなこととか。
坂本:ありますね(笑)ぶっちゃけると、予算をバルクで見ていますね。一個一個で見ると収支が合っていないものもあるけれども、逆にめちゃくちゃ合っているものもある。それをぼんやりと行ったり来たりしていますね。
なので、予算が少なくてもやりたい仕事はやっています。予算が少なくて一番困ることは「人に頼めない」ことなので、予算が少ない仕事に関しては手を動かすところまで自分でやっています。逆に、予算があるほどいろんな人とやれるので、そういう場合はなるべく自分がやらないでやってもらう様にしていますね。
今後必要なことは1:1ではなく1:N
齋藤:坂本さんはこれからどんな風に活動していきたいですか?
坂本:2018年くらいから思っていたことは、明確に「学び」の方にシフトを切りたいなということ。1:1ではなく、1:Nにどうやって持っていくかを延々と考えていて、最近ようやくローンチできるプロジェクトが生まれてきています。
最後にやるべきなのは「学び」の部分だと思っていますね。学び合う場所づくりを県外にも多数仕掛けて、そこをライフワーク的にやっていきたいなと思っています
齋藤:みんなが学んで巣立って、また帰ってきてもいいみたいなモデルを使っていけば、いろんな地域でイノベーションが起きやすいということは一つの真実としてありますし、そこにデザインが加われば、より広く多くその街の「らしさ」が伝わっていくのではないかと思いました。
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