小型成長株の落とし穴について

市場全体に対する感応度のβについては、その算出方法により結果が異なり脆弱な数字になりやすいし、コロナのようにその算出期間に異常値が普通にカウントされてしまってる場合のノイズ処理、更には同期においてもより直近の動きを色濃く反映さえるかどうかの調整など、なかなか実体が掴みにくい。

通常はBloombgergのデータなどを使うか、ファンド内のリスクチームが独自に算出したものを使ったりして管理している。

さて、それはさておき、βは加重平均できるという特性を利用して、LS戦略では、ロング、ショートそれぞれのβ-adjustedサイズを管理している。

仮に、グロスで300億円を運用しているとして、現在の保有をロング100億円、ショート100億円で、ネットロング0だとする。通常βは0.9から1.1程度にしているケースが多いので、今回のロングのβを1.05、ショートのβを1.0としよう。
この場合、β調整後のマーケットリスクはロングで100*1.05=105億円、ショートで100*1.0=100億円で、β換算すると差し引きで5億円のネットロング状態であるという認識が必要だ。

グローバルベースのHFでは、マーケットニュートラル戦略だけではなくLS戦略でさえも、βで稼ぐことを🆖としているので、このβ換算での5億円のネットロング状態が行き過ぎると、結構しつこくリスク管理チームからチャチャが入る。

ホライゾンを始め日本のヘッジファンドであると、そこまで極端にうるさい印象もない。

さて、ここから、今日の本題だ。そんな中で、市場全体の成長性が低い日本で、PMがちょこっとでも手を伸ばしたいと思ってしまうのが小型成長株だ。通常、そもそも、ハイβが多い。例えば、ロング100億円、ショート100億円のポートフォリオの中で、そのロング部分に30%の小型成長株を入れたとする(成長株のポートフォリオβを1.4、そのほかのβを1.05とする)。このロング部分のβ換算マーケットリスクは30億円*1.4+70億円*1.05=42億円+74億円=116億円となる。
ショートヘッジ側であるが、通常であれば小型のサイズバイアスを消しに行きたいので、ロングと同等程度の30%前後を小型成長株中心でショートしたいが、小型の中には借り株が困難なものがあったりで、しょうがなくマザーズ指数のリターンスワップ也らなんやらでヘッジするケースが多いが、ここでは極端に、面倒なのでTopix先物でヘッジしたと仮定しよう。
この場合、ショートサイドのマーケットリスクはTopix先物及び通常部分のショートポートフォリともにβは1.0とすると、β換算でのショートのマーケットリスクは100億円となる。
この場合、金額では100億円のロングに対して、100億円のショートを組み合わせて市場リスクの受けをネットゼロにしていることにはなってるが、β換算でのマーケットリスクは実は116億円-100億円=+16億円のネットロングになっている。

問題は、市場が急落して、こういった小型成長株が暴落する局面だ。肌感覚的に表現すると、上記の成長株部分のポートフォリオβである1.4が全く機能しなくなり、2.0
とか3.0とかまで跳ね上がってしまうのだ。仮に、3.0まで跳ね上がると、どうなるか?

ロングのβ換算後のマーケットリスクは30億円*3.0+70億円*1.05=90億円+74億円=164億円となる。ショートの数字に関しては上記と同じだとすると100億円。なんと、β換算後で64億円のネットロングになってしまっているという事態が発生する。

これ、市場全体が5%とが下がっていると、もうアウトだ。

なんで、こんなことが起きるのか。複合的な理由があるのであるが、最も単純なケースを提示すると、1)不確実性は取り除くというリスク管理ルール、2)分散化されたポートフォリオにあると思われる。

国内で最も成功している暁翔キャピタルや僕がいたPEから派生したファンドであったPAGなどは果敢に立ち向かうことも多いが、グローバルベースのHFは不確実性は取り除くなので、先ずはこういった状況では間違いなくポジション解消だ。もう、これは自分を守る為に必要な性癖みたいなもんなので励行する人が多い。

また、ポートフォリオが分散されており、1銘柄当たりのウエイトが小さい。なので、仮に10%下がってうるのは痛いは痛いが、それが全体のPLに及ぼす影響は大きくないので、銘柄ベースで捉えれば躊躇するような損切りではない。
ただし、これ、例えば仮に0.5%持ってるとしても、50百万円。それなりに、売りが売りを呼ぶ展開中で苦しんでいる個人投資家には十分なインパクトがある。この50百万円が、即日でexit目指して売ってくるので、なかなかこれに対して買い向かっても厳しい。
加えていうと、ファンドを超えて、保有銘柄が似通っているケースが多く、実は同じことを考えているファンドが複数いることが根深い問題にしている。

結果として、小型成長株の急落局面ってのはβが異常な水準になることに注意しなければならないし、売れてない人のしこりが残りやすいので注意。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?