コロナ危機下での株式投資を考える
コロナウイルスが武漢を中心に猛威を奮っていた時に、米国ではこの現象を対岸の火事と思ってたのか、金融市場ではさほど材料視されなかった。日本株はこの問題を捉えて売り込まれても、その晩の米国市場は堅調で、翌朝は日本株も高く始まるといった弱気派には厳しいマーケットが続いた。そのような中で、運用者の懸念に反して、元来不感症のアナリストたちは、1−3月期の業績も来期の業績についても、これまでの業績を延長する形で予測すれば十分との見方が大きかった。
ところが、このウイルスが欧米に飛び火しだすと、先ずは、これまで比較的楽観的に構えていた欧米投資家はパニックのようにリスクを落とし始めた。このような中でも、アナリストは相変わらず自身の推奨についてだけは大丈夫という声を発していた、代表例がソフトンバンクである。担当アナリストから否定的な声は全く聞かれなかったが、株価は連日のように下げ続けた。その後も、欧米の株価がさがりつづけたこともあり、ストラテジストやアナリストもやっと重い腰を上げ警鐘を鳴らし始めたのだ。遅きに逸した警鐘である。
ところで、市場ではあまりにショッキングな株式市場の下落を受けて、2008年のリーマンショックと良く対比される。ただし、毎回、言わせてもらいたいのだが、証券会社は当時との対比を上昇幅もしくは下落幅のみで語ることが多い。リーマンショック時は2007年10月に米国のS&P500が1576の高値を付けてから安値の667まで57%下落した。今回は、直近高値となった2月21日の3393から安値となった2191まで35%の下落である。これを用いて、まだまだ、今後出てくる悪材料を考えると株式市場の下げ余地は大きく売りスタンスとは言わないまでも、今買うのは“降ってくるフォークを素手で取るようなものだ”と。もちろん、今後想定される米国経済指標がロックダウンの影響を受けて非常に悪化することが容易にされたことから、証券会社のストラテジスト、アナリストの総悲観も理解はできる。ただ、もう十分売り込まれているのでは?という疑問を持った。彼らの考えは、過去と比較した上昇若しくは下落の度合いのみに影響を受ける傾向があるからだ。しかしながら、実際、運用するにあたっては、この“度合い”と同時に“期間(若しくは時間軸)”というのが考えなければいけない大切な要素となるのだ。前回のリーマンショック時に高値から安値まで要した期間は1年8ヶ月(57%下落)。今回は、まだたったの1ヶ月強であった(35%下落)。度合いと期間を勘案すると、明らからに株式市場が下げるペースが早過ぎた。
世界各国が積極的な財政政策に踏み込み、各国中央銀行も積極的な金融緩和策で対応したものの、あまりの下落スピードの早さに、それを評価して買い向かうべきと声を大にして言い続けた証券会社はほとんどいなかった。彼らは底値近辺で弱気になったので、今更変えられないという不都合な真実もある。市場のリスク指標とされるVIX指数(米国株の変動率指数)や米ドルインデックスなどが既に反転の兆候を示していたにも関わらずである。
という私も、買うべきだとは主張していたものの、正直言って、マクロ指標で飛んでもなく悪い数字が出たら、2番底をつけにいくのかもしれないと不安を常に持っていたのも事実だ。そして、それが現実化したのが、3月26日、及び4月2日発表の失業保険の新規申請件数だった。それぞれ、376万人、665万人と2週で1000万人が新たに職を求めたのだ。
流石に比較的強気だった私も、足元の予想外の数字の悪さに足元をすくわれた気もしたが、結果は、どちらの日も米国株は上昇して返ってきた。結局、強気派の私でさえも、時間軸効果を信じきれなかったのだ。どういうことかと言うと、マクロが悪くなるのは容易に推測できた。しかも、凄く悪くなることが。そして、それを織り込み株価も大きく下げた。ただ、この下げのスピードが過去に類を見ないほど早過ぎて、逆に短期的には株価がリバウンドする余地が十分にあったということだ。短期的には売りたい人は一巡してしまったとも換言でいる。とはいえ、これに一安心して、私はその後も強気のスタンスを続けたが、ストラテジストやアナリストは株価が戻れば戻るほど弱気のスタンスを継続せざるを得ない苦しい状況となった。結果、その後も株価は順長に回復を続けた。
4月10日現在、S&P500は安値から27%上昇、日経平均は19%の上昇と想定通りの戻りとなった。
問題は、ここからだ。正直、半年先は全く読めない。であれば、今回は、今から2−3ヶ月後にどうなるか考えよう。先程来、話してきた通り、マクロや株価はMagnitude(度合い)と時間軸(どの程度継続するのか)が重要だ。マクロ指標は悪くなることに反対する者はいないと思われるし、その度合いも米国の失業保険申請件数などでとんでもない悪化状況を見たことで、今後同様な数字が発表されたとしても、それを材料に1日で株価指数で5%を超えて売り込むようなパニック売りを誘因することは今後2−3ヶ月のスパンではない可能性が高い。個人的に少し懸念があるのが企業の業績動向だ。折しも、日本では大半の企業が本決算を迎え、新しい期の業績予想を出す予定ではあるが、コロナ問題に収束がつかない中で、次の12カ月の予想を発表することは到底不可能のように思われる。考えられるのは、業績予想自体を出さない、若しくは第一四半期(1Q)のみを発表する。これにより、証券会社のアナリストの業績予想は機能不全になる。何故ならば、大半のアナリストは企業からの情報供与がないとまともな予想値を立てることが出来ないからだ。残念ながら、それについては私もその限りではない。ただ、ここから考えられることとして、業績のコンセンサス予測は全く持って当てにならない状況が続くということだ。その場合、1Q決算が始まる7月後半までは業績に対する懸念は高まっても、何も起きない可能性の方が高いかもしれない。
それでは、この2−3カ月で現れる新たなリスクは何であろうか?考えられる1番大きなものはイタリア、スペインの財政危機であろう。リーマンショック後のギリシャ危機はメディアを賑わせたこともあり、記憶にある方も多いと思う。そのギリシャ危機は4年に及んだ。長期戦であったのだ。今回の、イタリア、スペインの問題は恐らく同程度の期間に及んでユーロの在り方、取り組み方の再考を経てユーロ危機への懸念拡大に繋がる可能性もある。そうなると、現在はまさにその入り口。投資家は懸念売りを始める段階にある。その場合、世界の株式市場に相応の影響を与える可能性がある。これが実はコロナ問題以上に大きいかもしれない。結果として、マクロも企業業績もあまり深追いして売り込むのは避けた方が良いとは述べたが、買い手として参加することがあってもユーロの問題が顕在化する局面では一旦リスクを落とすという機動性が必要だと考える。
それでは具体的にはどのうような投資視点が必要なのであろうか?安値からそれなりに戻っってきた現状、及びファンダメンタルズから判断すると、売りも買いも難しいというのが現状だ。このような場合は、ストラテジストやアナリストの言うことには一切耳を傾けず、相対的な需給の良い分野に資金を傾けるべきだと思う。
例えば、日銀の買いが期待でき、市場の認識が間違ってて売り込まれている銘柄群。1つに、一部の商業REITが挙げられる。コロナ問題で個人消費が良いわけないのでショッピングモールなどの商業系のREITが売り込まれる理由は十分分かるのであるが、銘柄ごとに調べると実はテナントの売上に応じて賃料が決まる歩合性の割合が全体賃料に対して5%もないような銘柄もある。長期間、固定賃料で賄われる構造である。このような銘柄はこれまで商業REITというだけで売り込まれてきたが、上記のように実態はイメージと異なること、更にプラスアルファで日銀からのインパクトのある買いが期待できるので要注目だ。
もう1つ挙げると、アクティビスト関連銘柄ということになる。昨年もZホールディングスがZOZOを子会社にしたり、LINEを傘下に入れたりと、TOB関連が市場を賑わせた。特に、親子上場問題の解消をも狙う親会社の子会社TOBも目立った。TOBというのは、ある一定の資金である銘柄を買いたいという前提があり、今回のような外部環境でTOBを狙っていた銘柄の株価が下がるようであれば、それこそ絶交の買い機会となる。
ここも、もう1つ面白い需給的推測が成立する。それは、元ゴールドマン・サックス証券のパートナーでマネックス証券の創業者である松本大さんが、今回マネックス証券を退社し、カタリスト投資顧問を設立したことだ。カタリスト投資顧問ではアクティビストファンドを運用するものと思うが、日本でインパクトのある松本さんが個人から幅広くお金を集めてアクティビストファンドにコミットするなら、国内個人投資家の資金の流れも大きく変わる可能性があるという点だ。カタリスト投資顧問の成功は、日本の株式市場活性化、効率化の為には絶対に必要だし、それを応援したい気持ちもあるが、彼らの存在が上述したTOB関連にとっては非常に大きいサポーターとなるのも事実である。
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