ブービートラップ 1.鉄槌
解説
第26回小説すばる新人賞に応募した作品です。
一次選考にすら漏れましたが、選考に漏れた作品がどれだけ世間に通用するか? そんな想いでnoteに投稿することにしました。
再度内容を見直し(推敲)ています。誤字脱字それに言い回しを変えて、順次公開いたします。
目次
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1.鉄槌(このページ)
2.ハッカー 次の章
3.マスコミ
4.サイバー犯罪対策課
5.藤田美奈子/6.中野洋介/7.野村鈴香
8.ジレンマ/9.報道
10.沈黙
11.予期せぬ出来事
12.自殺か殺人か?
13.死せる孔明/14.巨悪
15.贖罪/16.様々な想い
エピローグ
1.鉄槌
美奈子は、彩乃の最後のブログを読み終わったあとにブログの画面に向かって「ごめんね」と、呟いた。
昨日12月6日の金曜日に、予定より早く薬害の法案が結審したのだ。薬害法案は、薬との因果関係が立証されないということであっさりと廃案になった。首相は苦渋に満ちた顔をしたが、美奈子には単なるパフォーマンスではないのかとの疑問が残った。あの時彩乃に深々と頭を下げた首相と、昨日の首相が同一人物とは思えなかった。
その時、ブログに新しいウインドウが現れた。
ウインドウの色は黒で右上に悪魔の絵が描かれており、横書きで、『愚かな、為政者の仮面を被った詐欺師への鉄槌』と、タイトルが書かれていた。その下に文章が書かれていた。
『今回の薬害に関して、副作用が指摘されてからも製薬会社の利益を優先し政府は何ら対策を立てるつもりもなく、責任を回避することしか頭になく薬害と被害の事実関係を認めようとしない。
そんな政府、とりわけ厚生労働大臣として薬品を認可した現首相、前田明彦は結果、藤田彩乃との約束を法案の廃案で反故にした。よって、鉄槌を加えることとした。
ただし、個人的な感情ではなく、広く読者諸氏のアンケート結果により鉄槌を加えるかどうか最終決定を行うこととした。これから一時間の間アンケートを受け付ける』
文章の下に、『今回の政府の決定に対して、政府の対応は是か非か、皆さんのご意見をお聞かせください』と書かれており、是(薬害法案否決は正しい)と非(薬害法案否決はおかしい)の右にラジオボタンがあった。
その下にコメントを書く欄と、アンケート結果の件数が円グラフで表示されるようになっていた。一番下にカウントダウンの時間が表示されていた。カウントダウンは、すぐに59分台になり刻々とゼロに近づいていった。
ウインドウの悪魔の絵に少し驚いた美奈子だったが、文章を読んだ後になんのためらいもなくウインドウの非の横のラジオボタンをクリックして登録を押した。
このウインドウは、きっと彩乃と関係ある人物が作ったのだろうと美奈子は確信した。鉄槌がどんな内容かは分からないが、彩乃の無念を晴らしてくれるような気がした。それが、犯罪だとしても…。
野村鈴香は、いつものように『彩乃のおはなし』(彩乃のブログのタイトル)を勉強机の前に座りノートパソコンで見ていた。
毎週土曜日に彩乃から託された文章をアップしていたのは、鈴香だった。それ以外にも、時々『彩乃の親友』の名前でブログにアップしていた。時折彩乃の母美奈子と出会ったときに挨拶はしているが、自分から彩乃のブログを更新していることは言わなかった。彩乃から頼まれていたからではなく、美奈子の気持ちを傷つけるような気がしたからだ。
今日のアクセスは、二千件以上か…。鈴香は、彩乃が亡くなってからもアクセス件数が多くなっていることに複雑な想いだ。きっかけは、彩乃が薬害の被害者だという悲劇のヒロインになってからだった。彩乃のブログは、脚光を浴びアクセス件数が一気に増加した。その後、売名行為だとか薬害と関係ない単なる病気だという週刊誌の記事が掲載されてからは、逆にアクセス件数が増加し彩乃を励ます書き込みが増えていった。
一部の書き込みには、政府が薬害を隠蔽するためにでっち上げた記事だと決め付けていた。鈴香は、真実がどうあれ彩乃が死に近づいている現実を見ているしかなかった。
「あんたも、スマホにすれば? いちいちパソコン見るのって、ウザくない?」
後ろの小さなテーブルで、友人の長谷部みゆきはゲームの手を休め半ば呆れた顔を鈴香に向けた。みゆきは、受験勉強をするという口実で鈴香の部屋にいた。が、勉強はそっちのけで、ゲームをして遊んでいた。「家にいたら、勉強しろとうるさいし~。鈴香なら、勉強もできるし~。喜んでくれるから」と言うのがみゆきの口癖だった。
鈴香は、みゆきの言葉に耳を貸すつもりはなくパソコンに見入っていた。
「何これ…」
鈴香は、ブログの画面に少し小さめな新しいウインドウが現れたことに戸惑った。そんなことは聞いていない。単なる高校生のブログであるはずだ。
まさか…? 昨日の…。ブログを更新した後に現れたウインドウと、関係があるというのだろうか?
『彩乃のおはなし』という、高校生らしからぬ(イマドキな高校生とかけ離れた)タイトルにしても、彩乃が小学生の時からブログを始めてそのままタイトルを変えていなかったためだ。こんな画面がブログに隠されていたなど聞いていないし、この文章はどう見ても高校生ではなく立派な大人の文章のような気がした。
そのウインドウは、藤田美奈子が見たウインドウと同じウインドウだった。
鈴香が戸惑っているあいだにも、アンケートの件数は10件20件と次第に増えていった。
「どうした…?」
気になったみゆきは、鈴香の後ろからパソコンを覗き込むようにして、「愚かな、為政者の仮面を被った詐欺師への鉄槌」と、新しい画面を声を出して読んだ。
「これって、彩乃のブログ? てっついって? やけにオヤジっぽくない? 右翼っぽくない?」
みゆきは、何があっても動じないタイプの人間だ。言い方を変えれば鈍感ともとれるが、珍しく戸惑った顔をした。
「さあ…?」
鈴香は、首をかしげた。
「まさか? ハッカー?」
「彩乃のブログに?」
鈴香は戸惑った。一介の少女のブログを、ハッキングするとは考えられない。
「そうかも。彩乃のブログをハッカーしたって…」
みゆきは、納得したが、「それじゃあ、ウイルス? じゃねえの?」と、心細そうに呟いた。
鈴香は、昨夜彩乃の最後のブログを更新した後に現れたウインドウのことが気になった。
それは、彩乃から生前頼まれていたことであった。
7月の半ばまもなく夏休みという時の学校帰りに見舞いに訪れた鈴香に、彩乃は自分が亡くなったあとも毎週土曜日にブログを更新して欲しいと頼んだ。
すべて手書きで『野村鈴香様 ブログの更新』と書かれており、その下に日付が書かれた封筒に入っていた。鈴香は、丁寧に手書きで書かれてある封筒の束を受け取って、「手書き!?」と驚いた。彩乃なら、パソコンでブログを書いてCDかDVDにコピーすれば終わりのはず。彩乃の病室は個室だし、彩乃のパソコンも置かれていた。彩乃は、病院に許可を取り病室からブログをアップしていた。
わざわざ、手書きをする必要はないはずだ。言い方を変えれば、病院も彩乃の最後のわがままを聞き入れざるを得ないほど、彩乃に時間は残されていないということになる。
彩乃の母美奈子は、スーパーのパートタイムで生計を立てていた。夫が生きていた時に、生計を助けるためにパートタイムを始めたのが夫の死後も続いていた。彩乃が発病し入院当初は、一般病棟に入院していたが病状が重くなるにつれて個室を余儀なくされた。入院費用は生命保険と健康保険の限度額で何とか賄えたが、差額ベッド代は彩乃の生命保険ではまだ足らなかった。本来なら、彩乃の将来のためと考えて残しておいた病死した夫の生命保険を充てて何とか凌ぐことができた。
夫か亡くなった後に、生命保険金でマンションを買うこともできたが彩乃の将来のために残しておくことにした。
美奈子のパートで何とか生活ができる、古く家賃の安い今のアパートを探し出した。彩乃の将来のために残しておいた金が、皮肉にも別の形で彩乃の残された命を支えることになった。
美奈子は、彩乃に一日でも長く生きていてもらいたかった。それは、差額ベッド代がかさんで蓄えが底をつくことを意味していた。が、美奈子は金のことはおくびにも出さなかった。そんなことは、美奈子にとって些細なことであった。彩乃が少しでも長く生きられるなら、美奈子にとっても幸せなことであったからだ。それでも、日々衰えていく彩乃の姿を見るのは忍びなかった。いや、生きていてくれるだけでいい。と、複雑な想いで、死に近づいている彩乃を見守るしかなかった。
「暇だし。お願いするんだから、手書きの方がいいと思った」
彩乃は、そう言って笑った。
鈴香は、封筒を眺めながら最後の日付を見て愕然とした。12月14日の土曜日だった。
その日付は、薬害法案が審議されて成立するか廃案になるか分かるはずの日付だった。
最初の日付は、8月3日の土曜日からだった。
「私が生きていても、ブログを更新できなくなった時から始めてくれる?」
彩乃の言葉に、鈴香は絶句した。そこまで考えているのか? 封筒から彩乃に視線を移すと、彩乃の真剣な顔が見えた。鈴香は、「分かった」と、答えるのがやっとだった。
「薬害法案がどうなったか分かったら、この封筒に入っている内容で土曜じゃなくてもブログを更新して」
彩乃は、ベッドの脇にある引き出しから三枚の封筒を取り出して少し眺めた後に大事そうに鈴香に渡した。鈴香は、三通の封筒を彩乃から受け取った。
封筒には、
『野村鈴香様 薬害法案が成立したときのブログの更新』
『野村鈴香様 薬害法案が廃案になったときのブログの更新』
『野村鈴香様 薬害法案が廃案ではなくても成立しなかったときのブログの更新』
と、薬害法案がどう結審しても対処できるように、三通の封筒が用意されていた。鈴香は、そこまで考えているのか…。と、複雑な気持ちになった。
「できれば、関係ないブログの中を見ないでね」
彩乃は、恥ずかしそうな顔になった。
鈴香は、封筒にわざわざ入れた彩乃の気持が分かったような気がした。必要のないものまで見られるのが辛いのかも知れない。微妙な彩乃の気持ちを垣間見たような気になり、「分かった」と、答えた。
「あと、法案が早く成立や廃案になった時もブログの更新は止めて。法案が遅くなったら、法案が決まるまで待ってからアップしてくれる?」
「彩乃の言うとおりにする。安心して」
鈴香は、努めて明るい声を出した。
「ありがとう」
彩乃は、ベッドの上で座ったまま頭を下げた。「それから、法案が成立しない時に、おかしなウインドウが現れるかもしれないけど、気にしないで指示に従ってくれる?」と、付け足した。
鈴香は、その時には気にも留めなかったが最後の言葉通りにしたことによってこのウインドウが現れたのかも知れないと複雑な顔になった。
鈴香は、彩乃の言った通りにブログを更新してきた。
彩乃は、8月の中旬ごろになるとブログを更新できないほど衰弱してきた。鈴香は、彩乃に了解をとってから約束通り8月17日の日付の封筒を開けてブログを更新し始めた。
『8月17日。もう、ブログも更新できないほど体が言うことを聞かなくなりました。私の親友に、後事を託すことにしました。これから、薬害法案がどうなるか決まるまでブログを続けたいと思います。
先月、総理がお見舞いに来てくれました。その時総理は、薬害法案を成立させるために全力を尽くすと言ってくれました。どこまで信じていいのか分かりません。しかし、私には、もう時間が残されていません。生意気なことを言うと、薬害法案が成立するかどうかでこの国の政治家の正体が分かるような気がします。それでも、政治家に頼らざるを得ない私の力不足を痛感します』
鈴香は、彩乃の文章を入力しながら涙があふれるのを抑えることができなかった。彩乃が、こんなことを書くなんて…。どこにでもいる、当たり前の高校生だったはずなのに…。
鈴香は、彩乃にここまで書かせなければならない政治家に怒りを覚えた。発病前と発病して死期を悟った後とでは、人が変わったようだ。今まで政治は遠いところだと思っていた彩乃が、否応なしに政治に関わりを持たなければならなかった。そんな彩乃の苦しみを感じると、複雑な気持ちになった。
それから数か月、薬害法案は呆気なく否決されてしまった。彩乃の前では言わなかったが、鈴香にもこの国の為政者が本物か偽物ぐらいのことは判断できた。
鈴香は、約束通り彩乃から託された、『野村鈴香様 薬害法案が廃案になったときのブログの更新』の封筒を開けた。他の封筒も気になったが、約束を守ることにした。
彩乃の最後のブログの内容
薬害法案は、否決されました。残念でなりません。私は、もうとっくに死んでいますが、まだ多くの方々が私と同じ苦しみを味わっていることを思うと悲しくなってきます。
新しい薬やワクチンで、誰かが犠牲になっても誰も見向きもしません。しかし、同じ病気が多くなって、薬やワクチンと関係がありそうになるとマスコミが騒ぎ出します。世の中も注目し、政府も渋々? 調査することになります。
しかしハードルが高く、『因果関係』という訳の分からない理由でほとんどが『薬害』ではないと判断されます。
仮に薬害が認められても、すべての被害者が救済されるわけではありません。薬害の基準というハードルで選別されます。
○○以上。○○年以前、以降。などと、政府が勝手に決めたハードルで、被害者は翻弄されることになります。それに、財源という人の命より重い? ハードルも存在するようです。
ほんとうにそれでいいのでしょうか?
今回は、法案自体が廃案になりました。
と、いうことは? 私の病気は薬害ではなく単なる不幸な病気となってしまいます。
病気を防ぐためのワクチンを摂取した後で病気になったのです。
それって、おかしいと思いませんか?
年齢や接種時期でワクチンの効力が効かなかったと言われれば仕方ありませんが、私以外にも苦しんでいる人が多くいる以上、政府は何か対策を考えてもよいのではないでしょうか?
『日本は、民主主義の国ではない。民主主義の形態をとった、官僚の独裁国家だ』と、ある人が言っていたことを思い出します。国が何もしないなら、私にできることを行いたいと思います。が、私に何ができるのだろうか? と、考えてしまいます。
今では、死んだ私に代わっておかあさん、私に何ができるか考えて。と、願うことしかできません。
それから、何の罪もない私たちを苦しめた人たちを、少し困らせてあげたいとも思います。本当にそんなことできるのか、分かりません。
薬害法案を見届けたところで、私のブログを終わりにしたいと思います。今までこのブログをご覧くださった皆さん。ありがとうございました。様々な激励や思いやりに満ちた書き込みに、どれだけ勇気づけられたことか。最後に、改めて感謝いたします。ありがとうございました。
鈴香は、彩乃に言われた通り、ブログをアップ(更新)した。ブログを入力している間も、涙が溢れ涙を止めることができなかった。私は、まだ子供? 彩乃に比べて、自分の幼さに気が付いた。いや、彩乃には時間が残されていなかったのだ。彩乃の、精一杯の背伸びだったのかも知れない。そう思うと、彩乃の健気さがいじらしくなった。
それから、自分のコメントを入力しようとした。が、その時新たに、ブログの前面に少し小さめの新しいウインドウ(画面)が現れた。
ウインドウは、何の飾りもない白の背景のシンプルな画面に黒色の文字で、『野村鈴香さま、今までご協力ありがとうございました』と、書かれており、その下に文章があった。
『日本という国は、国民のために存在するのではなく、独裁国家のように一部の政治家や特定の者たちのためだけに存在することを改めて思い知らされました』という文章が書かれてあった、鈴香は、その後の文章にドキっとした。
『これで、政治家の皮を被った詐欺師たちに、罪を償ってもらう方法を実行いたします。明日の、午後7時に彩乃のおはなしをご覧になってください』
鈴香は、ブログを更新したことでこのウインドウが現れたような気になった。どういうことなのだろうか? 何故…?
ブログを更新しなくても、テレビやインターネットを見ればすぐに分かることじゃない? という疑問が湧いてきた。鈴香は、念のため画面のハードコピーを取ることにした。何かあった時に自分を守るため? いや、ハードコピーを取らなければ、後で後悔するような気がしたからだ。自分のためだけではなく、彩乃のためになるかも知れない。
それから、新しいウインドウを閉じて自分のコメントをアップした。
鈴香のコメント
『彩乃のおはなし』が、最後を迎えました。残念でたまりません。彩乃は、小学校六年の時にこのブログを立ち上げました。
彩乃が中学生になり高校生になっても、名前を変えることなく少女じみた名前のまま続けてきました。私には、それが返って新鮮だと思いました。
ブログ立ち上げ以来ファンの一人であった私は、彩乃の最後にも立ち会うことになりました。なぜ彩乃が死ななければならなかったのか? まだ、これからという時に…。
薬害法案が廃案になったのには、愕然としました。『因果関係』って、いったい何なんでしょうか? 現実に多くの人が苦しんでいます。
病気を予防するはずのワクチンで、病気にかかってしまった。『因果関係』という一言で廃案にしていいものでしょうか?
私は、まだ未成年ですが、大人たちの無責任さに怒っています。
私が彩乃から預かった文章はまだ少し残っていますが、薬害法案が否決された時点で彩乃が事前に書いたブログの内容は意味をなさなくなりました。
彩乃から、薬害法案が成立しても廃案になったとしもて終わりにしてと依頼されていました。彩乃の想いを尊重したいと思います。彩乃が生きていたら、廃案をどう思ったかこのブログを見ていたら彩乃が嘆いている姿が見えるようです。
なんと理不尽な大人の身勝手な考え方で、人の命が粗末にされるのが残念です。それって、おかしくない? 『因果関係』より、人の命の方が大切なはずです。それを思うと、やりきれない気持ちでいっぱいです。最後に私にできることを考えたいと思います。今まで、『彩乃のおはなし』をご覧になってありがとうございます。
鈴香は、そこでコメントを終わりにした。書きたいことは、他にも山ほどあった。が、これ以上書いても、彩乃の想いには遠く及ばない気がしたからだ。
それが事実になったのだろうか? これから、何かが始まろうとしているのだろうか?
鈴香は、もう一度ハードコピーを取ることにした。
「面白そうじゃん」
みゆきはそう言うと、自分のスマホで『彩乃のおはなし』を開くと早速、「非っで、ダメということだよね」と鈴香に尋ね鈴香が頷くと、「じゃあ非だ」と言いながら、非のラジオボタンをクリックして登録した。
「何かおかしいと思わない?」
「おかしい、じゃなくて、面白いじゃん。何か、ワクワクしてきた」
みゆきは、単に面白がっていた。
鈴香には、何かとてつもないことが始まる予感がした。それが何かは、見当もつかない。
アンケート画面は、カウントダウンが5分を切った時にいきなり大きくなり刻々とゼロに近づいていった。カウントダウンがゼロなった時に、画面が変わった。新しい画面には、『ご協力ありがとうございました。アンケートの結果も踏まえ、鉄槌を加えることに決定しました』と書かれており、その下にアンケート結果が表示されていた。是(薬害法案否決は正しい)と思った人15人に対し、非(薬害法案否決はおかしい)いと思った人は、9,853人に達した。
それは、一日のブログアクセス件数を遥かに上回っていた。恐らくアンケート画面を見た人が友人やメル友に、『彩乃のおはなし』を見てみろよ。とでもメールで知らせた結果だと、鈴香は思った。これから、何かが始まるのだろうか? それとも単なる憂さ晴らしかいたずらか? 鈴香は、圧倒的な非のアンケートに空恐ろしいものを感じた。鈴香は、ハードコピーをとることにした。
みゆきは、「これって、すごいアクセス件数じゃねえの!?」と、アンケート結果の内容よりもアクセス件数の多さに驚いていた。
美奈子も、同じ画面を見ながら複雑な想いになった。これで、彩乃の無念を晴らすことができるかもしれない。という想いと、とんでもない事件に発展したら…。という危惧が、綯交ぜになった。
新しい画面は、一分ほど経ったあとに、何の前触れもなく消えた。
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