ブービートラップ 11.予期せぬ出来事
解説
第26回小説すばる新人賞に応募した作品です。
一次選考にすら漏れましたが、選考に漏れた作品がどれだけ世間に通用するか? そんな想いでnoteに投稿することにしました。
再度内容を見直し(推敲)ています。誤字脱字それに言い回しを変えて、順次公開いたします。
目次
プロローグ に戻る
1.鉄槌
2.ハッカー
3.マスコミ
4.サイバー犯罪対策課
5.藤田美奈子/6.中野洋介/7.野村鈴香
8.ジレンマ/9.報道
10.沈黙 に戻る
11.予期せぬ出来事(このページ)
12.自殺か殺人か? 次の章
13.死せる孔明/14.巨悪
15.贖罪/16.様々な想い
エピローグ
11.予期せぬ出来事
「これが事実なら、ハッカー事件も解決だが…」
警視庁捜査一課係長の松木警部は、パソコンの画面に書かれてあった遺書を見ながらあまりにも呆気ない事件の解決に違和感を感じた。まだ自殺と決まったわけではない。もし他殺なら、犯人か犯人を特定されたくない誰かが犯人の可能性がある。
死亡したのは、川田健太。三十四歳。独身。職業は、システムエンジニア。マンションの自室がある四階からの転落死だ。遺書は、パソコンにテキストデータで書かれており画面に表示されていた。
遺書には、首相の事務所と厚生労働省それに製薬会社をハッカーしたことが記されていた。あまりの反響に、罪の重大さに気づかされたのが自殺の原因だった。部下の聞き込みによると、そんな軟な神経の持ち主ではないとのことだった。死に際して、身の回りを片付けるつもりがなかったのか? 川田の部屋は、結構散らかっていた。それに飲みかけのコーラが、パソコンの横に置いてあった。だからと言って、自殺をしないとは決めつけられない。遺書があるところから事故の可能性は少なく、自殺・他殺両面で捜査を開始するつもりでいた。
川田のパソコンは警察に押収され、警視庁生活安全部サイバー犯罪対策課に運ばれた。
サイバー犯罪調査研究、アクセス管理者指導及び支援サイバー犯罪対策に係る、電子計算機管理運用を担当する技術調査係が調査に取り掛かった。猪狩と宮下は、納得がいかず新しい手掛かりを求めて捜査を続けていた。
松木は、二人のしたいことを容認する気でいた。川田の、転落事態が自殺と決めつけられていなかったからだ。下手に動かれては、こっちの捜査の邪魔になる。という考えもあったが、こちらが殺人事件一本で捜査できない以上、猪狩の手腕に期待するしかなかった。殺人事件と断定されれば、猪狩たちの捜査も無駄にはならないはずだ。という想いがあった。
萩原は、次の号へ向けて藤田美奈子への取材を記事にまとめているところだった。
林編集長は小泉のワイドショーにショックを受けていたが、他の週刊誌や新聞に先駆けて萩原が藤田美奈子への取材が成功したことにご満悦だった。
藤田美奈子の言葉を信じるなら、今回の薬害法案が成立していれば今回のハッキングは怒らなかった可能性がある。萩原は、ハッキングの記事だけに留まらず彩乃の薬害についても言及することにした。
日本の薬害に対する、お粗末な対応を世間に問うことにした。編集長がすんなりと記事にしてくれるとは思わなかったが、それでも週刊誌としてはまともな方だと思っている萩原は、何とかなると、いや、是が非でも記事を掲載するべきだと考えて、原稿をまとめにかかった。
次の日猪狩と宮下が、自室に戻ると松木が待ち構えていた。
「川田のパソコンから、ウイルスが発見されたそうだな」
松木は、挨拶をする余裕がないのか、些細なことだと思っているのか勢いづいて話しかけてきた。
「出先で報告を受けました」
猪狩は、無表情で答えた。
「犯人は、川田で決まりだな。報道の過熱ぶりに、逃げられないと思ったのだろう」
松木は、冷静に対応した猪狩の態度に不服なのか結論を急いだ。
「しかし、引っかかることがあります」
慎重な態度の猪狩に松木は、「その、ブービートラップという名前が使われていなかったからか?」と、猪狩の先手を取って尋ねた。
「はい。私なら、最初に『ブービートラップは、私です』と書き始めます。『ブービートラップ』は、警察にしか知られていない名前ですから。その名前を知らないなら、犯人ではありえないということになります。それに、犯人しか知りえない具体的なことを川田は一切書いていません。あの程度の遺書なら、新聞やテレビを見れば誰でも書けることです」
猪狩の遠回しな答えに、松木は少しいらだちを感じた。同じ警部の肩書を持つが、自分より若いこの男はインテリだからなのか? 頭の出来が違うとでも言いたいのか? と、勘ぐりたくなったが、「じゃあ、発見されたウイルスは、どう説明するつもりだ?」と、詰問口調になった。意地悪な質問をしているような気もしたが、猪狩がどう答えるか知りたくなった。
「殺人なら、犯人がウイルスや遺書をパソコンに入れたんでしょう」
「結構長文だぞ。転落してから通報があって、救急車は五分ほどで駆け付けたそうだ。それに警官だって、救急車と同じころにマンションの川田の部屋に入っている」
松木は、殺害を犯してからそんな短い時間で工作はできないだろうと思っていた。
「あらかじめ、遺書は作っていたんでしょう。川田を突き落してから、遺書とウイルスの入ったCDをパソコンに入れて、新しいテキストファイルを開く。遺書と名前を付けて、あらかじめ用意した遺書の入ったテキストファイルを開いて、内容をコピーするんです。コピーした遺書のテキストファイルを上書きすれば、あたかも被害者が遺書を書いたように工作できます。当然、データに残っている作成日時と更新日時は死亡時間と前後します。が、それは誤差の範囲と言っていいでしょう。川田が転落した正確な時間が分かるはずはありませんし、コンピュータと言っても時間には誤差があります。それから、昔造った適当なファイルを開いて同じ要領でウイルスをコピーしてからCDを抜けば作業は終了です。パソコンに精通していなくても、数分で終わる作業です
もし顔見知りだったら、パソコンを借りて川田が生きている間に今言った処理を隠れてすることも可能です」
猪狩は、理路整然と答えた。
「じゃあ君は、川田が真犯人に殺害されたと? 真犯人は、川田と顔見知りかも知れないと思っているのか?」
松木は、知らず知らずに猪狩の考えを支持している自分に気が付き驚いた。猪狩の考えは筋が通っている。それに、説得力があると脱帽した。
「真犯人とは限りません。これ以上警察に、捜査されたくない人物。真犯人を特定されたくない人物も当てはまると考えます」
猪狩の説明に、松木は腕を組んで、「まさか? 首相の事務所…」と、少し上ずった声になった。松木の考えが事実だったとしたら、薬害のスキャンダルの比ではない。日本政界の根幹を、揺るがす大事件に発展する。松木は、咳払いをしてから、「そんなことはないよな」と、猪狩に尋ねていた。
「違えばいいのですが、殺害と判断されれば捜査対象の一つにはなるでしょう」
猪狩は、正直に答えた。
「しかし、慎重に捜査しないととんでもないことになる」
松木は、その時の光景を思い浮かべたのか顔が蒼くなった。
「もうひとつ、引っかかることがあります」
猪狩の言葉は、蒼くなった松木に追い打ちをかけた。
「まだあるのか?」
松木は口をあんぐりとあけた。こいつは、何を知っているのだ?
「はい。川田は最近金遣いが荒くなったようですし、ハッキング事件の直後五百万円が何者かによって川田の銀行口座に入金されています」
猪狩は、そこで言葉を切って松木の顔を見た。
松木は、猪狩がそこまでよく捜査したと舌を巻いた。これなら、自分の部下よりよっぽど役に立つ。松木は、猪狩の手掛かりから、「大金を手にして、金遣いが荒くなった男が自殺? ちょっと考えにくいな。そんな男なら、捕まっても屁とも思わないだろう。そうなると、川田は誰かに雇われて今回の事件を起こした。が、仲間割れか、法外な報酬を吹っ掛けたので真犯人に殺された?」と、そこまで考えながら言って、途方に暮れた顔になって猪狩に助けを求めるような視線を向けた。
「まだ分かりません。今まで言った事実を総合すれば、犯罪の発覚を恐れて自殺したとは考えにくいと思っているだけです。川田が殺害されたのなら、今回のハッキング事件と何らかの関係があることは確かです」
「そうだな。君が言っている通りではないにしても川田の死には、何か隠されているような気がしてきた。ハッキング事件と、今回の川田の死とは何か関連性があるかもしれない」
松木は、今までもやもやしていたものが晴れた気になった。「これから、合同捜査といこう。もちろん、帳場(捜査本部)が立つとは限らないが、できる範囲でお互いの情報を交換しないか?」と、猪狩に提案した。
「はい」
猪狩は、あっさり同意した。
「そうと決まったら我々は、川田の身辺をもう一度洗う。君たちは、ハッキング事件の解決に専念してくれないか?」
松木は、猪狩の越権行為に近い捜査を危惧した。自分の縄張りを荒らされたという想いからではなく、餅屋は餅屋。お互いの得意な捜査によって、事件の早期解決が図れると考えたからだ。
「了解しました。何か掴んだら、すぐにお知らせします」
「こちらも、すべての情報を持ってくる」
松木は、言ってから、「じゃあ、明日同じ時間にここで会おう」と言い残して帰って行った。
「縄張りを荒らされたので、ねじ込んできたんでしょうか?」
宮下は、松木の後姿を見ながら小声で言った。
「そうではないだろう。松木さんの言ったように、互いに得意な分野を捜査した方が事件の解決が早くなるだろう。ちょっと、やりすぎたようだ」
猪狩は、自分が余計なことを捜査したことを悟った。
「じゃあ班長は、二つの事件に関係があると考えているのですか?」
「まだ分からない。が、ハッキングの犯人が、川田ではないなら関係があると考えるのが自然だろう」
「そうですね」
宮下は、同意した。「川田が殺害されたのなら、関係性も考えられますが、単にハッキング事件が起こったので便乗しただけかも知れません」と、まだ不安があった。
「ハッキングの犯人が逮捕されれば、川田の自殺は殺人事件と断定されるだろう。そんなリスクを、冒すとは思えない。他の理由で、遺書を書くはずだ」
「どちらにしても(ハッキング事件の)犯人は、逮捕されないと思っているのでしょうか? 不思議な気がします」
宮下は、何か得体のしれないものを感じていた。
「そうだな、調べれば調べるほど分からなくなってくる」
猪狩は、珍しく弱音を吐いた。「ところで、明日までに我々の掴んだ資料を整理しておくように」と、宮下に命じた。
「ちゃんと、情報をくれるのでしょうか?」
宮下は、松木の言葉を額面通りに受け止めていなかった。
「さあな。今は信じるしかないだろう。縄張り争いをしている時ではない。事件を早く解決することが先決だ」
宮下の杞憂は、次の日に払拭された。松木は、部下に資料の山を持たせてやって来た。
「申し訳ない。資料を整理したかったんだが、時間がなくってこんなに多くなった」
松木は、言ってから苦笑いした。猪狩も、宮下に整理させた資料を松木に渡した。
「ところで、ひとつ面白いことが分かった」
松木は、もったいぶった言い方をして、一枚の鑑識資料を猪狩に手渡した。
「川田のパソコンの、キーボードの指紋採取の資料だ。どこか、変だとは思わないか?」
「エンターキーだけ、指紋が付いていませんね」
「そうだ。エンターキーにだけ指紋が付いていないのは、おかしいとは思わないか?」
松木は、そこで猪狩の興味をそそるようにわざと時間をおいてから、「鑑識の見解によると、コーラを注ぐときにこぼしたので拭いたそうだ。パソコンの近くには飲みかけのコーラの入ったコップがあった。マウスにもコーラがこぼれた跡があり、こっちも指紋がなかった。これをどう思う?」と、意味深な顔になった。
「人生の最後に、コーラを飲もうとして誤ってコーラをこぼしてしまった。慌ててこぼれたところを拭き取ってから、飛び降りたことになりますが…」
猪狩は、答えたがどこか納得いかない顔になった。
「そうだが、キーボードにべたべたと指紋を残して平気な男が、そんなことをするだろうか?」
「私も、おかしいと思います。そんな些細なことに神経を使うような男ではないようですし、そもそも自殺というのは納得できませんね。犯人が、証拠隠滅のために行った行為だとすると納得がいきます」
宮下は、松木の言葉に同意した。
「そうだ。こんな所で話をするより、現場で話をした方が話が早い」
松木の提案で猪狩たちは、川田のマンションに向かった。
川田の部屋は、まだ規制線が貼られたままだった。自殺か他殺かまだ判断が、つかないことと契約が残っているためだった。松木が、先頭に立って川田の部屋に入っていった。
パソコンは、証拠として押収されていたが他は川田が死ぬ前とほとんど変わっていないとのことだった。
「雑然としていますね」
宮下は、川田の1DKのマンションの部屋を見回しながら言った。が、自分の部屋も似たようなものだと思った。三十過ぎで独身の男の部屋は、こんなものなのだろう。パソコンが置かれていた部屋に置かれているベッドは、布団が皺くちゃになっておりパソコンが置いてあった机にはうっすらと埃がたまっていた。パソコンが置かれていた跡が、くっきりと残っていた。フローリングの床には、読み終わった雑誌が雑然と置かれていた。コンビニのレジ袋が、ダイニングのテーブルにくしゃくしゃのまま置かれていた。
「お前の部屋も、同じように雑然としているんだろう」
松木は、言ってから笑った。
「三十過ぎで独身の男は、こんなもんでしょう」
宮下は、自分の思いを口に出した。
「宮下。お前が自殺するときに部屋は片付けるか?」
松木は、面白がってか参考になるとでも思っているのか質問した。
「自分ですか?」
宮下は、松木の言葉に呆気にとられながら松木が頷くのを見て、「そうですね…。発作的に自殺するんならそんなこと考えませんが、覚悟の自殺なら少しは片付けるかもしれませんね」と、考えながら答えた。
「そうだろ」
松木は、わが意を得たりと言った顔になってから、「遺書を書いたということは、覚悟の自殺になる。この部屋は、どうみても片づけた形跡もない」と、自分の私見を口にした。
猪狩は、松木の言葉に少し戸惑った。この人物は、川田の死を殺人だと決めつけているのか? それとも殺人事件として捜査したいのだろうか? 犯行声明を送りつけてきたブービートラップなる人物が川田なら、沈黙を守っていることも納得できる。覚悟の自殺という線もあり得る。なぜなら死んだ人間が、報道は間違っていると反論することはできないからだ。愉快犯なら、反論することもできないだろう。ほんの遊びのつもりが、とんでもないことに発展した。川田のような男でも死を選ぶかもしれない。
死んだ人間? 猪狩には、何か引っかかるものがあった。死んだ人間が、ハッキングをすることはできるのでは? ウイルスを介して、日付を指定すれば…。そこまで考えて、現実離れしている自分の考えに呆れた。松木と宮下より、もっと荒唐無稽な考えに思えた。
覚悟の自殺で、自分の部屋から飛び降りるということも少し違和感がある。自分なら、別の方法で死を選ぶだろう。が、それは本人にしか分からないことだ。自殺? 他殺? いったいどっちなのだ?
「おまえなら、自分の部屋から飛び降りるか?」
宮下は、松木の質問にもう一度戸惑うことになった。「自分の部屋は、二階ですから死ぬのは難しいです。骨折するか無理やり頭から落ちたとしても無様な恰好になります」と答えてから、松木の厳しい視線を感じた。
「四階に住んでいたとしても、確実に死ぬとは限りません。飛び降りるなら、もっと高いところから…。そうですね、せっかくマンションの屋上があるんですから、そこから飛び降ります。しかし自分には、そんな勇気はありません。睡眠薬なら楽に死ねそうですし。首を吊るという手もあります」
宮下は、松木の厳しい視線の意味に気が付き言い直した。
「やはりそうか…」
松木は、言ってから腕を組んだ。
「残念ながら、推測の域を出ませんね」
猪狩は、二人が自分たちの感覚で話していることに危惧を覚えた。「本当に覚悟の自殺なら、死ぬ方法を選ばないのではないですか? 遺書を書いてから、死に捕りつかれて発作的にベランダから飛び降りたとも考えられます」と、推測の危険性を指摘した。
「そうなんだ。自殺なら、死んだ本人にしかわからないことだ」
松木は、ため息をついた。が、「他殺なら、殺した人間があることになる。鑑識が指紋を採取した時に、一つだけ人物が特定できない指紋があったそうだ」と、その指紋を持った人物が、川田を殺した犯人ではないかと思っているようだった。
「え!?」
宮下は、素っ頓狂な声をあげた。
「おいおい。ちゃんと捜査資料は渡したはずだ…」
松木は、そこまで言って、「捜査資料を渡したのは、さっきだったな」と、二人が捜査資料を見る機会がないことを思い出してバツの悪い顔になった。
「その指紋は、どこにあったのですか?」
猪狩は、今までの経緯には触れずに尋ねた。
「パソコンの、CDのドアにあったそうだ」
「そうですか。パソコンの種類にもよりますが、見落としやすい所ではあります」
猪狩は、重要な手がかりに違いないと確信して、「最後に、CDを取り出した時に気がつかないうちに付いたのでしょう。それから、被害者が触っていないとなると、犯人の可能性は高いかもしれません」と、付け加えた。
「前歴はあったんですか?」
宮下は勢いづいて尋ねた。
「前歴があれば、今頃のこのことこんなところには来ていない」
松木は、雑然とした部屋を見回してから首をすくめてみせた。
それから数日経っても、捜査は進展を見せなかった。相変わらず犯人は沈黙を続けており、十二月も半ばとなった。マスコミは、川田が犯人だとは決めつけておらず報道は過熱の一途をたどっていった。あと一週間ほどで、クリスマスそれから一週間で年が明ける。
「犯人が川田なら、犯人が沈黙を続けるのもうなづけますが…」
宮下は、ワンセグでテレビのワイドショーを見ながら複雑な顔をした。少しでも時間があれば、ニュースを見てマスコミがどう報道しているか確かめることも宮下の日課のようになっていた。
「犯人が川田でないとしたら、何か事情があって沈黙するしかないのかも知れない。我々は、地道に捜査するしかないのだ」
猪狩は、弱気になった宮下に活を入れた。
「あれから、新しい報道はされていないようですが」
宮下は、ワンセグのチャンネルを変えながら言ったが、「おや?」と、新しいチャンネルの画面を覗き込んだ。
「どうした?」
宮下は、ワンセグの画面を見て、「これはまずいですよ」と言って、画面を猪狩に見せた。
画面には、野村鈴香の住んでいるマンションが映し出されていた。周りはぼかしているが、近所に住む人間ならどこのマンションか特定できる映像だ。
「まずいな。もし犯人が川田でないとしたら、彼女の身に危害が及ぶ可能性がある」
猪狩は、最悪のことを考えた。ワイドショーのコメンテーターは、『藤田彩乃さんの親友で、今までブログの更新を続けていた高校生です。先ほど取材したところ、犯人や犯人につながることは何も知らない。彩乃さんに頼まれて、今までブログを更新していただけ。と、コメントしています』と、報道していた。
猪狩は、鈴香までマスコミの餌食になったと複雑な顔をした。藤田美奈子は、明らかにマスコミの被害者になっている。本人はどう思っているか分からないが、このまま過激な報道が続くなら新しい問題が出てくるかもしれない。事件の早期解決だけが、マスコミの過激な報道に終止符を打つのだと思い知らされた。
「明日に、野村さん(野村鈴香)の様子を見に行ってみよう」
「主任も気になりますか?」
「何もなければいいが…。何かあってからでは遅い」
猪狩は、言ってからため息をついた。
次の 12.自殺か殺人か? を見る
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?