チバユウスケ「君にロックン・ロールを」
「髪は伸びすぎた 切らなくちゃ 切らなくちゃ」
今の時代には沿わず、そして年甲斐も無く、昨年の春から願掛けで髪を伸ばしていた。ここ10年以上、いや20年以上は基本的に短髪の男が。願掛けは人に言ったら叶わないそうだから、自分からはもちろん、たまに人に伸びた髪の事を聞かれてもやんわりと胡麻化していたのだけれど、その願いも叶わずに終わり、そしてすっかりもう髪を切るタイミングも逃してしまった。当時は願掛けや祈るぐらいしか出来る事もなかったし、それと同時に次に観るライブは彼の、バンドの、「復活ライブ」だと心に決めて(クアトロのチケットも当たっていたから尚更)、頻繁には行っていなかったものの他のライブに行くのを止めることにした。そして手ぶら(?)では行けないからと、手土産にジョー・ストラマーのスリムな赤いTシャツを古着で手に入れて、来たるべきその日の快気祝いにしようとした。いつかどこかで着てくれたならきっと似合うと思っていた。でももう望んでた色んな事は現実に起こりえないし、ライブも相変わらず観ていないし、観る気もほとんどしないし、まだ知らない音楽さえ聴こうとも思わないし、どうしようもない。
「何を感じたか 覚えてるから わかってるから 何も言うな」
2022年12月2日、大阪フェスティバルホールにいた。いつも一緒に行く盟友が行けないと分かっていたから元々は行かないつもりだった。ふと先行予約で通ったら一人でも行こうと思いつき、試しに申し込んでみたら運良く通った。行けるような気はしてた。だって、愛すべきこのバンドのライブのくじ運がかなり良かったから。あの時の俺、申し込んでくれてありがとう。行っていなかったら今の何億倍も凹んでいたはず。ライブの当日は相変わらずコロナ禍の影響でマスク着用で大声を出したりは出来なかったけど一人なのでちょうど良かった。ホールど真ん中の良い位置で、傾斜のおかげで観やすく、たまたま一番端っこの席だったので肘掛けに座ってマスクの中で小声で歌ったりしながらおとなしく観ていた。でも本編が終わってからアンコールでチバの「レデステディゴォゥ」という歌い出しが聴こえた瞬間に自分の中で何かが弾けた。そして「真っ赤なソファで跳ね回って踊った」と歌い終わってすぐの、そのタイミングに合わせて、思わず拳を突き上げながら、マスクの中で「Yeahhhh!」と大声で一緒に叫んでしまった。今でもあの瞬間を思い出す事とチバがくれたたくさんのロックン・ロールとで、これからはそれだけで生きていけんのは、ちっとも不思議じゃないのかな。この世にチバユウスケがいないのは不思議で一年経ってもまだ理解出来ないけども。