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FAREWELL, MY L.u.v feat. 山添みなみ / usabeni @下北沢WAVER(20241104)

 ポップのなかに艶と彩を見た、魅力溢れるアクト。

 文化の日の振替休日となる11月4日、下北沢駅から徒歩3分の近さにあるライヴハウス「下北沢WAVER」にて行なわれる、mzsrz(ミズシラズ)主催によるライヴ・イヴェント〈水底現在地 vol.10 supported by 京都I博〉にusabeniと“フェアラブ”ことFAREWELL, MY L.u.v feat. 山添みなみが出演するという情報を入手。名古屋を拠点とするフェアラブは頻繁には東京へ来ないゆえ、usabeniの出演も合わせて食指が動いたが、当日は既にビルボードライブ東京でのエスペランサ・スポルディングの来日公演の予定が入っており、当初は諦めていた。
 だが、その後発表されたタイムスケジュールを見ると、usabeniの次に登場するフェアラブの予定終演時刻18時30分に会場を出て、4分後に下北沢駅から小田急線に乗ると、エスペランサ・スポルディングの開演時刻19時にギリギリ間に合うことが判明。当日に電車遅延などがないことを祈りつつ、チケットを確保し、下北沢へ向かった。

 それゆえ、フェアラブ以降の出演者、eik、せのしすたぁ、mzsrzの3組については観賞に至らず、残念ながら未見のまま終わった。
 ちなみに、主催のmzsrzは、ボカロPとして知られるDECO*27が審査員を務めたエイベックスとテレビ東京による次世代オーディション「ヨルヤン」にて勝ち抜いたヴォーカリスト5名によるプロジェクトとして2021年に始動。2024年1月より大原きらりによるソロ・プロジェクトへ移行している。2022年11月からスタートした主催ライヴ〈水底現在地〉は、今回で10回目を数えることになった。ライヴタイトルの〈水底現在地〉は、プロジェクト名のmzsrz(ミズシラズ)を“水”にかけたものだろうか。

〈水底現在地 vol.10 supported by 京都I博〉
mzsrz(大原きらり)

 オープニングアクトは、“十五少女 feat. mzsrz”。「十五少女」は、15人の仮想少女からなる“ジュヴナイル・コミューン”というコンセプトのもと、音楽、物語、VR/メタバースなどで展開するメディアミックスプロジェクト。15人のキャラクターにまつわる小説や音声ドラマ、楽曲などに声優や多彩なクリエイターが参加し、世界観を形成。その楽曲のメインの歌唱を、mzsrzのメンバー(当初5名)が担当していた。初見にはなかなかすんなりとプロジェクトの概要を呑み込めないところもあるが、簡単に言えば、"十五少女”の世界観を示した楽曲を、現在はソロプロジェクトとなったmzsrzの大原きらりが、“feat. mzsrz”として歌唱したということか。

 披露した「ハンドメイド流星雨」は、特撮ドラマ『烈車戦隊トッキュウジャー』など俳優として活動するほか、宇野悠人との音楽ユニット“シキドロップ”などの音楽活動を展開する作曲家/鍵盤奏者の平牧仁が制作。推進力があり、キラキラとしたアッパー・ダンサーといった作風だ。mzsrzとしての歌唱と十五少女としてのそれとが異なるスタイルなのかどうかは分からないのだが、miwaあたりを想わせる淀みなく快活な声色は、颯爽としてピュア。可憐さと同時に芯の強さも窺える明澄なヴォーカルワークは、すんなりと耳に飛び込んでくる良さを感じた。

usabeni

 続いて、usabeniが登場。9月のマグノリアの雫。とミアナシメントの共同主催イヴェント〈kira kira -きらきら-〉(記事→「〈kira kira -きらきら-〉@新高円寺LOFT X(20240920)」)に出演して以来の観賞となる。

 オーヴァーチュア的な導入を用いて、usabeniワールドへと空気を一変させながら、「ぷれい」から加納エミリのヴォーカルをフィーチャーした「passion」を経て「trip」とシームレスに畳み掛ける。デザイナーとしての顔も持つusabeniゆえ、ヴィヴィッドでポップな色彩感覚を持った衣装はもちろんのこと、コズミックでコケティッシュに振る舞うパフォーマンスが魅力的だ。クルクルと動く目や表情も豊かで、表現者としての独創性を持っている。それが歌い踊るなかの端々に感じられるのも、usabeniならではの特性か。アイドルとしてのキュートでフレッシュな一面とともに、ふとした仕草や表情から垣間見える小悪魔的なヴァイブスが、アイドルとアーティストを縦横無尽に駆け巡る柔軟性にも繋がっているのだろう。

 中盤以降も、エスニックな要素も採り入れたオルタナティヴなエレクトロポップ「air」や、仄かな気怠さを伴うトラックの上でフロウを走らせる「atmosphere」とEP『AIR』の収録曲をはじめ、ニュースタイルを確立しつつある近年の旬の楽曲を軸に展開。2ndミニ・アルバム『textures!』収録の「lonely pop」に続いては、前述の〈kira kira -きらきら-〉にも出演したあっすんとのコラボレーションによる「Idol Of Surf」を披露。タイに行くことも少なくないusabeniが、タイでシティポップが流行っていると聞きつけ、それに乗じた形で創ったというこの楽曲は、オートチューンやトロピカルなギターがアクセントとして機能したリラクシンなサマー・チューン。ほんのりと切なさや甘酸っぱさを帯びたサウンドメイクは、シティポップ/リゾート・チューンのそれだ。あっすんのラップ・パートは「たぶん噛んでしまいます」と歌唱前にエクスキューズしたものの、詰まることなくフロウし、「歌えた-ッ」と喜びを存分に表わして、フロアが微笑みに包まれた。

 ラストは、つるうちはなが手掛けた活動10周年記念ソング「Patchwork」でフィニッシュ。チルなムードも漂う「Idol Of Surf」から、軽快に跳ねるリズムの「Patchwork」へのチェンジオブペースもスムーズに。フォトジェニックなヴィジュアルとともに、顔や楽曲、歌唱、ヴァイブスまでもが色彩豊かに変化していくさまは、痛快ですらあった。usabeniの独創性のさらなる深化に期待したいところだ。

FAREWELL, MY L.u.v feat. 山添みなみ

 FAREWELL, MY L.u.v feat. 山添みなみは、8月のカノサレとのバンドセット・イヴェント〈THE BAND〉(記事→「カノサレ&FAREWELL, MY L.u.v @青山月見ル君想フ〈The Band〉」)以来の観賞だが、“feat. 山添みなみ”としてのライヴは〈THE BAND〉が初めてゆえ、音源をバックにしたステージは今回が初となる。秋になって着たかったというホワイト系のウィンドジャケットを纏っての登場だったが、11月とはいえそれほど寒くはなく、パフォーマンス中は暑かったようだ。

 いつものように「プリティKiSS」の音源を出囃子にしてステージインした後、曲調は“オールドスクール”ではない「Old School」からスタート。「Catch a feel, Stop the beat」のフックが耳を惹くこの曲は、山添みなみ自身が作詞を手掛けているからか、フロウも非常にスムーズ。フェアラブの名曲マスターの渡辺泰司がソウルポップ~バブルガムポップの彩りを添えたメロディは、懐かしくも古臭くない絶妙のラインで胸を躍らせる。
 「stargazing」では、ラップ・スタイルの展開はあるものの、フックではシンガー・ソングライターとしての歌い口が活かされたような、麗らかで伸びやかなヴォーカルワークも。軽やかなに跳ねるヴァースとスペーシーなサビというムードが移ろう楽曲のなかで、シンガー然とした彩りに富んだヴォーカルは、“feat. 山添みなみ”ならではのアクトといえようか。

 続いて「obsession」「STELLA」「gloomy girl」と3曲を一気に披露。「stargazing」同様にシンガー然とした部分は見せるものの、バンドによるそのステージならではのアレンジで歌った〈THE BAND〉の時と比べると、ビートが立った原曲に寄り添ったヴォーカルワークにアジャストしている感じも。ほんの僅かなことだが、ヒップホップのビートの上で歌を躍らせるような歌唱とでも言おうか。だからといって、全体で一辺倒に言葉を詰め込むということはなく、音数に隙間が生まれるところでは感情の押し引きを添えるなど、ビートやメロディによって歌唱に変化をもたらしているようにも思えた。まだ、明確な陰影となって表われているとまでは言わないが、アレンジよって少しずつ奥行きの深さを生み出そうとしているヴォーカルの発露が、“feat. 山添みなみ”としての強みなのかもしれない。

 フェアラブの名曲群の最高峰の一つ「gloomy girl」を終えた後は、アフタービートとともに大らかなムードが漂う「Good Day」で幕。ズチャズチャという軽快なリズムとピースフルなメロディラインで紡がれたミディアム・テンポの楽曲は、山添みなみの歌唱に最もフィットしている楽曲のうちの一つだろう。場数も踏んできていることもあるが、曲調同様に余計な力みのないリラクシンな歌唱が印象に残った、そんなパフォーマンスのようにも思えた。

 にこやかな微笑みで「バイバーイ」と手を振ってステージを後にする姿は、ステージをエンジョイできたという充足感も窺えた。本来ならば、その余韻にも浸りたいところだったが、山添みなみのステージアウトを目で追いながらフロアを後に。エスペランサ・スポルディングの開演に間に合わせるべく、下北沢駅へと足早に駆け出したのだった。

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<SET LIST>
《OPENING ACT:十五少女 feat. mzsrz》
01 ハンドメイド流星雨

《usabeni Section》
00 INTRODUCTION
01 ぷれい
02 passion (Remix) feat. 加納エミリ
03 trip
04 air
05 atmosphere
06 lonely pop
07 Idol Of Surf(original by usabeni & あっすん)
08 Patchwork

《FAREWELL, MY L.u.v feat. 山添みなみ Section》
00 INTRODUCTION~プリティKiSS(BGM)
01 Old School
02 stargazing
03 obsession
04 STELLA
05 gloomy girl
06 Good Day
07 OUTRO~Baby Love(BGM)

《eik Section》
《mzsrz Section》
《せのしすたぁ Section》

<MEMBERS>
十五少女 feat. mzsrz(大原きらり)
usabeni
FAREWELL, MY L.u.v feat. 山添みなみ
eik
せのしすたぁ
mzsrz

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【FAREWELL MY L.u.vに関する記事】
2018/12/31 MY FAVORITES ALBUM AWARD 2018(「ブライテストホープ賞」の項)
2020/07/11 FAREWELL, MY L.u.v『DONT TOUCH MY RADIO』
2020/12/09 FAREWELL, MY L.u.v『GOLD』
2021/01/13 MY IMPRESSIVE SONGS in 2020
2021/12/04 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN
2022/04/17 FAREWELL, MY L.u.v / HALLCA @LOFT HEAVEN
2022/05/03 FAREWELL, MY L.u.v @恵比寿CreAto
2022/07/17 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN
2022/09/19 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN
2023/01/04 さらば、愛しきフェアラブ
2024/08/15 カノサレ&FAREWELL, MY L.u.v @青山月見ル君想フ〈The Band〉
2024/11/04 FAREWELL, MY L.u.v feat. 山添みなみ / usabeni @下北沢WAVER(本記事)

【usabeniに関する記事】
2022/09/19 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN
2022/12/18 宇佐蔵べに @新宿Marble
2024/09/20 〈kira kira -きらきら-〉@新高円寺LOFT X(20240920)
2024/11/04 FAREWELL, MY L.u.v feat. 山添みなみ / usabeni @下北沢WAVER(本記事)

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