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さらば、愛しきフェアラブ

 2023年は正月早々原因不明の悪寒と頭痛に見舞われ、床に伏していた。気が付けば、箱根駅伝やライスボールは終わり、高校サッカーや高校ラグビーは4強が決まっていた。久しぶりに見たTVやSNSで世間が動き出し始めたことを知るという浦島太郎状態になっているなかで、一つのニュースが目に飛び込んできた。「FAREWELL, MY L.u.v よりお知らせ」--Twitterアカウントにそう記されたツイートには「これ以上の活動の継続が困難との合意の上、現FAREWELL, MY L.u.vを解散すると言う結論に至りました」とあった。2021年12月に新体制としてスタートを切った"リブート”プロジェクトは、僅か1年をもって終わりを告げることになってしまった。

 思い返すと、正月に体調不良になったことは2017年にもあった。新年となってまもなく、突如として身体に激痛が走って3時間ほどのたうち回り、あと30分この状態が続いたらさすがに正月でも救急車を呼ぶかと思いかけたまま意識が遠のいたことがあったのだが、その2週間後くらいにEspeciaの解散を耳にすることになった。正月に体調不良となるのは、フェイヴァリットなグループが解散するという予兆なのか。フェアラブの場合は解散ライヴに類する公演もないとのことで、狐につままれるようなエンディングを受け入れざるを得なくなってしまったのだ。

FAREWELL, MY L.u.v 公式Twitterより

 “フェアラブ”の愛称で知られるガールズ・ダンス&ヴォーカル・ユニット、FAREWELL, MY L.u.v(フェアウェル・マイ・ラヴ)は、2015年より愛知・名古屋を拠点に東海地区でアイドルイヴェントを開催している「iDOL BUNCH」が創設。始動以来、サポートメンバーを含めてかなりのメンバーチェンジを重ねており、安定したグループ活動ではなかったようだ。個人的にはいくつかの楽曲は知っていたが、実際にライヴを観たのは、金津美月とゆいかの姉妹による新体制としてスタートした“リブート”期からなので、7年強の活動のうち、最後の1年しか主に観ていないことになる。そんな“新参者”がグループを総括するのは憚られることこの上ないので、ここではリブート期を軸に記しておきたい。

 いつもは特にアイドルを追っている訳でもないが、一般的な認知としてアイドルにカテゴライズされているフェアラブに惹かれたのは、やはり楽曲性の良さがあったから(これはEspeciaの時もそう)。「gloomy girl」「UP DOWN」という楽曲を耳にして、面白そうと思ったのがおそらく2018年頃だったのだろう。その年末の拙ブログ(→「MY FAVORITES ALBUM AWARD 2018」)にフェアラブが初出となったのも、そういった経緯があったからだ。

FAREWELL, MY L.u.v

 フェアラブの良さは、拙ブログでの『DONT TOUCH MY RADIO』のアルバム評(→「FAREWELL, MY L.u.v『DONT TOUCH MY RADIO』」)などでも記しているが、「中高生の日常を等身大の言葉で描いて共感を呼ぶ詞世界とモータウン、ディスコ・ソウル、R&Bからハウス/ダンスなどの多彩なジャンルを、良質なソウル・ポップ・ミュージックとしての側面を具現化しながら、決してレトロやヴィンテージにとどまらない、新旧を往来するような温故知新的なサウンドに落とし込めているところ」だ。単に懐かしい楽曲を(その時代を知らない)若いティーンやキッズが歌う“ギャップの面白さ”という、今となっては使い古された手法のみで提示したのではなくて、ティーンのリアルな日常風景をバブルガム・ポップやそこから派生してR&B/ソウルへのアプローチを見せたバブルガム・ソウルのスタンスへと落とし込んで、R&Bやブラック・コンテンポラリーにも通じるソウル・ポップとして、かたやアイドル・ポップとして、両立させられる資質を含んでいた点にあった。

 それと同時に、同アルバム評記事で言及したのは「課題とするならば、この普遍的な良質ソウル・ポップをさらに高める条件の大きな一つとしては、歌唱力や表現力の向上は問われるところだろう」ということ。当時の音源はリブート以前のメンバーだったのだが、それはいわゆるアイドル・シーンにおいては、一つの大きな関門にもなっている。

 よく“楽曲派”という呼び名が使われるようになって久しいが、個人的にはその言葉はあまり好きではない。というのも、本来のアイドルらしからぬ楽曲性(ここではおそらく洋楽マナーの楽曲という意味だろう)を持つグループだとか、ヴィジュアルよりも中身(=楽曲)重視だという定義らしいのだが、要するにアイドルよりアーティストっぽい曲だから、ヴィジュアルを含むアイドルのキャラクターではなくて曲にフォーカスしているタイプだから(他のアイドルとは違う)などというのは、そもそもアイドルを自ら劣勢としてみなしていることからくる免罪符でしかない。歌はイマイチだけれど曲はいいから、というのもこの部類に入る。たしかに歌が上手いに越したことはないが、歌唱力がずば抜けているからといって、アーティストとして満場一致の評価が得られるとも限らない。グループであれば、楽曲や歌唱力、パフォーマンス、キャラクターなどの全てを含めて個性となるはずだから、その一つを取り出して、引けを取らない(ないしは他のアイドルとは違う)と言ったところで、何の意味もなさない。

 話が逸れたが、フェアラブにおいても、歌唱力という課題が付きまとっていたのは確かだ。リブート初披露となった2021年12月4日の公演(→「FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN」)でも“発展途上”と表現しているように、楽曲の良さを活かしきれない場面も散見された。しかしながら、定期公演〈DONT TOUCH MY RADIO〉は第4弾までで終わることになってしまったが、1年も満たない間に、特に妹・ゆいかは劇的な成長を見せ、リアルシスターズらしいコンビネーションでユニットとしての下地が整いつつあるかという印象を持っていたところだった。余計な勘繰りとなるのかもしれないが、リブート後のオリジナル曲が「STELLA」「Stargazing」の2曲のみで、プロダクツとしてのフィジカルがフェアラブ本隊ではなく、姉・金津美月とフェアラブのオリジナルメンバーの山添みなみとの派生ラヴァーズレゲエ・アイドルユニット“FAREWELL, MY D.u.b”による『Girls Lovers Reggae Vol.1』のみというのが、リブートとして勢いをつけるにしてはどうなのだろうと感じていたのだが、こちらが思っている以上にユニットを進めるためのやり繰りが厳しかったのかもしれない。

 ファン層の拡大というのは、どのグループでも最重要課題で、自分が初めてフェアラブのライヴ会場へ足を運んだ際に感じたのは、開演前のBGMにアイズレー・ブラザーズ「ビトゥイーン・ザ・シーツ」やウォーレン・G「アイ・ウォント・イット・オール」など黒い楽曲が流れるもあまり反応がなく、劇中に起こるクラップなどの反応もアイドル然としたもので、考えていた以上に楽曲よりもキャラクター重視の観客層だったということか。姉・金津美月が元ハロプロ研修生だったこともあり、その流れも大きいのだろう。リブートとなってからは定期公演はじめ、東京での活動を軸としていたが、たとえば、アイドルシーンにおいて存在感を発揮させるとしても、それほど頻繁に舞台を踏むことが出来ず、目玉となるオリジナルの楽曲が少ないということであれば、さまざまなアイドルが群雄割拠するなかで深い印象を刻んでいくことは難しいし、ソウル・ポップ・グループとして訴求を図ろうとも、名刺となるようなアルバムなりEPなりといったプロダクツがないと、普段アイドルシーンに目を向けていない人たちへ興味を与えるのも厳しい。定期公演〈DONT TOUCH MY RADIO〉が行なわれた渋谷「LOFT HEAVEN」に閑古鳥が鳴くようなことはなかったが、さらなる大きなフロアへとステップアップするほどの拡張性も持てなかったというのが現実的なところか。

 そのような状況において、姉・美月はハロプロへの想いも強く、妹・ゆいかは高校入学後のコロナ禍の影響によるスケジュール変更に悩まされていたようで、ともに“金津美月with!”といった活動もしていることから、フェアラブの活動自体が本意ではなかったのかもしれない。ヒットを重ねて、瞬時にブレイクとなれば、その心境も違うものになったのかもしれないが、ティーン~20代の思春期とも重なる時期に、やりたいことが出来ないというのは苦痛だろうし、加えて、コロナ禍による制限でコール&レスポンスなどの沸く場面もないステージを続けていくのは、心理的にも難しかったはずだ。

 運営からの報告にあった「現FAREWELL, MY L.u.vを解散」の“現”が意味することに一縷の望みをかけたいファンもいるだろうが、兎にも角にも、フェアラブ“リブート”はその航海に終止符を打つことになった。これまでのアメ車(「gloomy girl」『DONT TOUCH MY RADIO』)や名古屋(『GOLD』)からフライングソーサーへとキーヴィジュアルを移行し、リブート・オリジナルが「STELLA」(=星)「Stargazing」(=星を眺める)の2曲と、遥か空の彼方、宇宙への航海へ舵を切ったかに思えたフェアラブの新たな旅は、フライングソーサーよろしく奔放な宇宙遊泳とともにあっという間にその姿を眼前から消してしまった。ユニットとして成長の一途を辿っていたと思われていただけに、名残惜しいばかりではあるが、「曲に負けないように」と語っていた想いに恥じぬように努めたステージと、その一方でリアルシスターズならではのトボけたトークという、フェアラブ・リブートでしか成立しない独創性を醸し出した1年を、全てのステージではないにしろ、体感出来たことは良かった。今後どのようなステージへ歩みを進めるかは分からないが、このリブートの経験を活かして、華を咲かせてもらいたい。

 FAREWELL, MY L.u.vの“FAREWELL”(別れ)の語源は、fare(旅:古英語の“faran=旅する”から)+ well(良い)で、良き旅を!という意味。文字通りの別れとなってしまったが、たとえグループは続かなくとも、眼前にしたステージでの愛らしく、時にクールに歌い踊ったパフォーマンスの記憶を胸の片隅に宿らせておくことは可能だ。そして、何より素晴らしい楽曲群に触れることで、その感情や記憶を再燃させることも出来る。人生は人の数だけ道があり、それぞれに相応しい旅程があるはずだ。人生と言う名の旅は、出会いと別れの繰り返し。今はメンバーの良き旅を祈りながら、新しい(音楽との)出会いを胸に秘める時なのかもしれない。

【FAREWELL MY L.u.vに関する記事】
2018/12/31 MY FAVORITES ALBUM AWARD 2018(「ブライテストホープ賞」の項)
2020/07/11 FAREWELL, MY L.u.v『DONT TOUCH MY RADIO』
2020/12/09 FAREWELL, MY L.u.v『GOLD』
2021/01/13 MY IMPRESSIVE SONGS in 2020
2021/12/04 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN
2022/04/17 FAREWELL, MY L.u.v / HALLCA @LOFT HEAVEN
2022/05/03 FAREWELL, MY L.u.v @恵比寿CreAto
2022/07/17 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN
2022/09/19 FAREWELL, MY L.u.v @LOFT HEAVEN

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