見出し画像

Lalah Hathaway @Billboard Live TOKYO(20241121)

 辣腕バンドと生み出す、貫禄と極上のブラックネス。

 軽やかでリズミカルなアレンジを施した父ダニーの名曲「ラヴ・ラヴ・ラヴ」を歌った後、「『ベンタブラック』が2部門でグラミーにノミネートされてるの!」と茶目っ気たっぷりに話す姿が印象的だった。既に5度のグラミー賞を獲得していても、やはりアルバムをリリースする毎に評価されることは嬉しいことなのだろう。そして、それだけの自信作を作り上げたという自負も当然あるはずだ。最新作『ベンタブラック』を引っ提げての約1年8ヵ月ぶりの来日公演は、自信と充実に満ちた珠玉のソウルショーとなった。

 レイラ・ハサウェイの来日公演といえば、ブルーノート公演が定番だが、今回はビルボードライブでのステージ。個人的にはレイラ・ハサウェイの単独公演をビルボードライブで観た記憶がなく、単独公演があったのかは定かではないが、2013年のロバート・グラスパー・エクスペリメントの来日の際にゲスト・ヴォーカルとして呼ばれた公演(記事→「Robert Glasper Experiment@Billboard Live TOKYO」)は観賞していた。その時以来のビルボードライブでのレイラ・ハサウェイとなる。

〈Lalah Hathaway at Billboard Live Tokyo & Osaka〉

 ヴェテランともなると、ある程度曲構成も固まってきたりするものだが、今回驚いたのは、レイラ・ハサウェイのツアーではお馴染みのベース、エリック・スミスの兄で、かつてはトニー・トニー・トニーのセッション・ミュージシャンとして、近年はメイズ(・フィーチャリング・フランキー・ビヴァリー)のギタリストとして活躍したギターのジョン・“ジュブ”・スミスを大胆にフィーチャーしたこと。冒頭から3曲は、レイラ・ハサウェイ不在のジョン・スミスのソロ・オン・ステージ。知識なく曲名は分からなかったが、南部っぽいソウル・マナーのギターと歌唱であっという間に自身の世界観へ没入させる包容力のあるステージングはさすがの一言。長尺のリフを畳み掛けて、ギターを唸らせると、通例なら歓声が沸くものだが、それを忘れるほどに、オーディエンスは超一流の手さばきを見逃さんばかりと、吸い込まれるようにその手腕を凝視。フロアに轟くギターの嘶きに感嘆し、演奏を終えるやいなや喝采が沸き起こった。

 アルバム『ベンタブラック』の冒頭曲でSE的な「ブラック」が流れるなか、満を持してレイラ・ハサウェイが登場。ステージ中央には絨毯(カーペット)が敷いてあったので、裸足かと思いきや、今回はスニーカーのまま。そして、もう一つ驚いたのが、前回も感じたのだが、さらにスリムにキュートに磨きがかかっていたこと。2016年や2018年あたりから比べるとその差は顕著だ。ただ、スリムになったからといってヴォーカル圧が弱くなるとかいうことは全くなく、ハイトーンからローまでを縦横無尽に上下降する。チチチチと鳥がさえずるような可憐なスキャットから下から共振させる低音ヴォイスまで、褐色を纏いながら、緩やかな川の流れのごとくたおやかに連なるヴォーカルワークを駆使して、貫禄たっぷりに「ハイヤー」「ノー・ライ」と『ベンタブラック』収録曲を披露していく。

 中盤に入ると、レイラ・ハサウェイのステージではお馴染みの楽曲や久しぶりに演奏する楽曲などを組み合わせながら、圧倒的なヴォーカルワークとバンド・アンサンブルでR&Bを軸としたブラック・ミュージックの世界観を描出。エリック・スミスのベースソロから「サマータイム」や父ダニーの「ラヴ・ラヴ・ラヴ」、アニタ・ベイカーの「エンジェル」のカヴァーは前回も披露しているが、細やかなアレンジメントは異なっていて、聴いていても既出感はなし。ベースソロでもシック「グッド・タイムス」やスライ&ザ・ファミリー・ストーン「サンキュー」のベースラインを織り交ぜて高揚をもたらし、「サマータイム」では煌びやかなキーボードソロも含め、長いインストを経て、レイラ・ハサウェイのヴォーカルへ戻ってくるという、アレンジメントの妙を発揮した仕様で、興奮を誘発していく。

 おそらく、ジョン・スミスのステージを配した関係もあって、「セパレート・ウェイズ」「ザット・ワズ・ゼン」あたりはフル尺ではなかったと思うが、それでも演奏毎に漆黒のグルーヴがフロアを覆うゆえ、軽快にさえ感じてしまう。しっとりとたゆたう「ホエン・ユア・ライフ・ワズ・ロウ」では、その美しいメロディと趣深いヴォーカルにうっとりとするばかりだ。

 「90年代に戻るわよ」と告げて、デビュー・アルバム『レイラ・ハサウェイ』収録の「ベイビー・ドント・クライ」で快活なグルーヴに磨きをかけると、前述の「ラヴ・ラヴ・ラヴ」や「エンジェル」のカヴァーへ。父ダニーの「ラヴ・ラヴ・ラヴ」をなぞるということはなく、かつては父の楽曲を歌うことを固辞していたことが嘘のように、現在このステージ唯一のアレンジでの「ラヴ・ラヴ・ラヴ」を、可憐なさえずりのように歌っていく。「エンジェル」もカヴァーというよりも、もはやレイラ・ハサウェイの手の中にあって、伸びやかに優雅な面持ちでフロアをゆったりと漂う。

 ここで、再びジョン・スミスが主役となって、ギターインストによるメドレーを展開。エキゾティック・サウンド/ラウンジ・ミュージックのアーティスト、マーティン・デニーの楽曲というよりは、YMOがカヴァーしたことで知られる「ファイアークラッカー」や、エリック・クラプトンの名曲「ティアーズ・イン・ヘヴン」のフレーズを披露し、場内を沸かせる。当コーナーは、米国ではルーファス&チャカ・カーン「スウィート・シング」やマーヴィン・ゲイ「レッツ・ゲット・イット・オン」、メイズ・フィーチャリング・フランキー・ビヴァリー「ハッピー・フィーリング」などのフレーズを弾いていたようだから、「ファイアークラッカー」は日本仕様なのかもしれない。
 「ティアーズ・イン・ヘヴン」の終盤にレイラ・ハサウェイがステージ中央に2本目のスタンドマイクを並べると、カリフォルニア州オークランド出身のソウル・ブルース・バンド、リーガリー・ブラインドの「ユー」へ。ここでもメインはジョン・スミスで、最優秀助演賞とでもいうべき働きぶり。レイラ・ハサウェイはコーラスとしてデュエットを完成させていく。ジョン・スミスのファルセットがヴェルヴェットのような滑らかな肌当たりを生み出し、まろやかな空気を醸し出すなかで、レイラ・ハサウェイはステージアウト。バンド演奏によるアウトロにオーディエンスが快哉を叫ぶなか、本編は終わりを迎えた。

 当然、アンコールを催促するクラップが鳴り始めるが、その音が響く間もなく、本編と数珠繋ぎのようにタヴァリウス・ジョンソンのドラムソロがスタート。背後のカーテンが開き、夜景の光がステージへ射し込むなか、屈強な腕っぷしのジョンソンが、ダイナミックなドラミングを繰り広げる。細やかなテクニックはもちろん、オーディオ・トゥー「トップ・ビリン」(というより、メアリー・J.ブライジ「リアル・ラヴ」ネタと言った方が早いか)やベル・ビヴ・デヴォー「ポイズン」といった思わず身体が反応してしまうようなビートを叩いて、オーディエンスを煽っていくと、一旦ステージから離れたレイラ・ハサウェイやスミス兄弟らが再び登壇。ドラムソロを終え、割れんばかりの拍手が響く中、開口一番レイラ・ハサウェイが「スゴイ~」と言って場を和ませた。

 刺激的なドラムソロを経てのアンコールは『ベンタブラック』から「ソー・イン・ラヴ」とタイトル曲の「ベンタブラック」をセレクト。R&Bの王道ともいえるミディアムからミディアムスロー、ゆるやかな時を生むバラード、ジャズ・テイストの奔放な楽曲などさまざまなタイプであっても、レイラ・ハサウェイが持つ懐の深いヴォーカルワークと芯の強さによって生まれる圧倒的な訴求力で、一瞬にしてレイラ・ワールドを構築する凄みを、本ステージでも実感。そのバックで手練れなバンドが上質の音を鳴らし、レイラとともにグルーヴを生み出すのだから、胸が躍らない訳がない。来年2月のグラミー賞(ベスト・トラディショナル・R&B・パフォーマンス部門の「ノー・ライ」と、ベスト・R&B・アルバム部門の『ベンタブラック』)受賞の吉報を祈りつつ、しばらくは『ベンタブラック』に浸る日々が続きそう……そんな想いを秘めながら、六本木の夜景へ誘われて、会場を後にしたのだった。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
《John Smith Section》
01 
02 
03 
《Lalah Hathaway Section》
04 BLACK.  (*V)
05 Higher  (*V)
06 No Lie  (*V)
07 Bass Solo(include riff of "Good Times" by Chic, "Thank You" by Sly & The Family Stone) ~ Summertime(Original by George Gershwin)(include keyboard solo)
08 These Are The Things (You Do To Me)
09 Separate Ways
10 That Was Then
11 When Your Life Was Law(original by Joe Sample & Lalah Hathaway)
12 Baby Don't Cry
13 Love, Love, Love(original by Donny Hathaway)
14 Angel(original by Anita Baker)
15 John Smith guitar solo(Instrumental medley played on guitar)
  Firecracker(original by Martin Denny, well known as YMO cover)
  Tears In Heaven(original by Eric Clapton)
16 You(original by Legally Blynd)(main vocal by John "Jubu" Smith, chorus by Lalah Hathaway)
《ENCORE》
17 Drums Solo(include riff of "Top Billin'" by Audio Two, "Poison" by Bell Biv DeVoe)
18 So In Love  (*V)
19 Vantablack  (*V)

(*V):song from album "Vantablack"

<MEMBERS>
Lalah Hathaway(vo)
Eric Smith(b / Music Director)
Daniel Weatherspoon(key)
Tim Carmon(key)
John Smith(g)
Tavarius Johnson(ds)

◇◇◇
【レイラ・ハサウェイに関する記事】
2012/01/07 LALAH HATHAWAY@BLUENOTE TOKYO
2013/01/25 Robert Glasper Experiment@Billboard Live TOKYO
2015/12/25 Lalah Hathaway@BLUENOTE TOKYO
2016/12/12 Lalah Hathaway@BLUENOTE TOKYO
2018/04/15 Lalah Hathaway@BLUENOTE TOKYO
2023/03/11 Lalah Hathaway @高崎芸術劇場(20230311)
2023/03/16 Lalah Hathaway @BLUENOTE TOKYO(20230316)
2024/11/21 Lalah Hathaway @Billboard Live TOKYO(20241121)(本記事)


いいなと思ったら応援しよう!

***june typhoon tokyo***
もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。