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Mia Nascimento @新高円寺LOFT X〈kira kira -きらきら-〉(20250117)

 2025年の期待を抱かせる、エレガンスなヴォーカル&グルーヴ。

 “金曜の夜に日常を忘れられるChillな空間を”をコンセプトに、2024年9月より毎月第3金曜日に行なわれている、にべ子とミアナシメントによる共同企画イヴェント〈kira kira-きらきら-〉が、“ホーム”といえる新高円寺LOFT X(ロフト・テン)で5回目を迎えた。2025年の年始めとなる第5弾は、にべ子のソロ・プロジェクトの“マグノリアの雫。”とミアナシメントを軸に、璃咲、残響、甲斐莉乃、sommeil sommeilの4組を加えた計6組をラインナップ。にべ子が手掛けた幻想的な装飾が散りばめられたオブジェ群とツカモトタツミによるVJによる独創的な世界観を提示し、演者たちに新たな輝き=きらきらをもたらそうという意図もあるか。

 本企画を観賞するのは、第1回に続いて2回目。1月17日はミアナシメントが所属していたガールズ・グループのEspeciaが解散を発表した日でもあるので……と、それにかこつけてという訳でもないが、急遽足を新高円寺へ向けることに。開演は19時だったが、20時頃に到着したゆえ、福岡出身でピンクがトレードマークというギター弾き語りの璃咲(りさ)と、Tsu白ma yukoと白亜紀visionによる西東京発のポエトリー &エレクトロ・ユニットの残響のステージは残念ながら観られず。甲斐莉乃(かい・まりの)からトリのミアナシメントまで4組のステージを観賞した。

〈にべ子✕ミアナシメント presets kira kira -きらきら- #5〉

◇◇◇

Mia Nascimento

 トリのミアナシメントは、本公演が2025年の歌い始めとなった。澄み切った空気が星を良く輝かせる冬の夜空、あるいは雲形や星型のオブジェ群などが置かれたステージに光が差し込む情景が深海に沈んだ幻の宮殿のような雰囲気を醸し出すなかで、オープナーとなったのは「Lonely Night」。そのままウェットな質感を帯びた「Rainy Day」からシームレスに「Night」へ繋いで、ミアナシメントのナイトグルーヴ三部作のような構成に。

 「Rainy Day」から喰いつき気味にスタートする「Night」への展開は、ライヴでは定番な形のひとつでもあるが、「Night」の導入部への移行は、毎回ゾクゾクするような胸騒ぎがあっていい。感傷が染み渡るような切ない音像ながらもグルーヴを走らせるというサウンドワークも、ミアナシメント・サウンドの真髄という感じすら覚える。

 MCを挟んでからは、「Snow White」から3曲を一気に。今のところ、冬限定で披露する季節限定商品のようになっている「Snow White」は、序盤の三部作同様センチメンタルやナイーヴといった情感が通底する楽曲だが、それらと異なるところでは、切なさを湛えながらも希望や愛着といったハートウォームな心境が伝わってくるところか。時折現れるフェイクやファルセットの麗しさがこの曲に深みと気品を与えていて、それをしっかりと体現しているミアナシメントのヴォーカルセンスの妙が味わえる。

 これらの麗しくもセクシーなクール・テイストのミディアムを続けたかと思えば、「rhythm」ではパッと明るい陽が差し込み、花々が煌めき出すような対照的なヴァイブスを、一瞬にして眼前に創り出す。元来有している陽気なキャラクターを自然体に伝える曲風でもあるから、ステージでは無駄に力が入ることもなく、ナチュラルで可憐な声色も活きてくる。

 最近ではライヴのエンディング・ナンバーとして定着しているダンサブルなハウス・ポップ「Don't stop the party」で、本ステージも終幕へ。爛漫で明るい自身のパーソナリティも曲に乗り移ったかのごとく笑顔が弾けるとともに、ダンスステップも軽快に。ブラジリアンらしい弾力の良さ、しなやかさは、伸びやかな歌声や軽やかなダンスにも投影されていて、ポジティヴでフレッシュな感覚が伝わるエンディングとなった。

 MCでは「毎年正月前後は体調が悪くなる」と話していて、実際直前まで体調も万全ではなかったようだが、本公演では実に鮮やかな歌唱を披露。なかでも伸びやかなヴォーカルや声のハリに目を見張る(耳を惹く)ものがあったと感じた。

 約1ヵ月後にはバースデーライヴも控えているようだが(実際の誕生日は1月25日)、声の調子に関しては視界良好といったところ。挑戦の「挑」を自身の2025年の漢字一字のテーマにして、昨年はなかなか悩ましいところにいた新曲の制作も進めると宣言。17歳でデビューし、さまざまな経緯を辿って迎える25歳。新たな成長や進化の期待も抱かせる、グッドヴォイスなステージだった。

◇◇◇

 そのほか、ミアナシメント以外に観賞した3組(甲斐莉乃、マグノリアの雫。、sommeil sommeil)について、一言ずつ言及しておこう。

甲斐莉乃

 “まの”こと甲斐莉乃。莉乃で“まりの”と読む。アイドル・グループ、バンド、ソロの3形態で活動してきたが、2024年9月をもってアイドル・グループ“水槽とクレマチス”を卒業、バンド“ANY‰”とソロの2形態で活動を展開している。

 ショートボブのヘアスタイルに制服風のコスチュームという出で立ちで、ファンに年齢を問うた際に「17!」という声が上がったが、「それより9コ上です」とのこと。小柄で童顔なのもあって、若く見られるようだが、ポップなメロディながらサウンドはなかなかに棘があって、ギターのディストーションやノイズを駆使したシューゲイザーやオルタナティヴロックあたりの作風だ。

 「ゾンビごっこ」「ユメ」「空の事」などのタイトルからはファンシーな感じも想像しそうだが、死や生命をテーマにした詞世界を展開(代表曲は「生まれるべきではなかった」)。見えない何かを掴もうとする所作や、童顔なルックスとは対照的な眉をひそめ訴えかける視線など、胸の内に宿る赤裸々に吐露するようなヴォーカルスタイルが印象的だった。MC時の声とパフォーマンス時のテンションのギャップもウケ要素なのかも。

マグノリアの雫。 a.k.a. にべ子

 本イヴェントの主宰の一人で、ステージに幻想的な装飾による異世界を構築しているにべ子のプロジェクトが“マグノリアの雫。”。前回観賞した時は(記事→「〈kira kira -きらきら-〉@新高円寺LOFT X(20240920)」)透明なパステル調アンブレラを片手に歌い踊っていたのだが、今回はギター弾き語りを2曲、スタンディングで3曲を披露した。

 常に彼女を追っている訳ではないので、本音のところは分からないが、噛み締めながら自問自答するように吐露する弾き語りや、ステージの世界観に沿ったファンシーなドレスとは色味の異なる悲壮感みたいなものが伝うパフォーマンスは、楽曲の世界観を演じたものなのか、自身の精神的な部分が顕れているのか。どうにもやりきれないもどかしさや不安に苛まれながら、それを押し殺すように歌う姿に、傘を片手にステージを軽快に歩んだり、ddmと楽しげにコラボレーションしていた前回とのギャップ差を感じてしまった。それが彼女の表現の幅や奥行きと考えれば、表現者としての矜持に繋がることではある。

 それでも、最後は自身がヴォーカルを務めるバンド“yukar”の楽曲「グッド・ミュージック」で、にべ子の音楽への想いを発露。切なさのなかに希望を見出すメロディとともに情趣深く“グッド・ミュージック鳴らせ”と歌い問う姿は、マグノリアの雫。、そしてにべ子にとってのかけがえないテーマにも思えた。

sommeil sommeil

 sommeil sommeil(ソメイユ・ソメーユ)は、仏語で“睡眠”を意味する名のごとく、“睡眠ポップアイドルユニット”として東京都内を中心に活動。nemumi、夢乃なこ、淀橋瞑、まどろめうつらの4名編成だが、療養中のまどろめうつらが1月25日の公演を持って脱退することもあり、3名編成でのパフォーマンス。アーティストネームが“睡眠”にちなんでいることからも、ドリーミン&ファンシーな世界観を明確に構築している。

 2024年10月開催の〈kira kira -きらきら-〉第2弾に出演した際(この時は4名編成で出演)、セットやVJなどステージの装飾がキュートで(自身のイメージにも合っていて)、「再出演出来ないかとチラチラ窺っていたら、2度目の出演することが出来ました!」とのこと。たしかに、衣装や曲風含め、ファンタジーなコンセプトは〈kira kira -きらきら-〉のステージに近いものがありそうだ。

 キュートな表情や可憐なダンスでポップにスウィートに、どこまでも甘くふんわりとしたヴァイブスを繰り出すのが特色。3名が縦に横に斜めにと並ぶフォーメーションも楽しむポイントの一つか。自身のテーマ曲ともいえそうな「そめい湯」や、その色彩感を醸し出した風の「パステルカラーの町で」など、おとぎ話や童話から飛び出した感覚が印象的だった。

◇◇◇
<SET LIST>
《璃咲 Section》

《残響 Section》

《甲斐莉乃 Section》
01 ゾンビごっこ
02 ユメ
03 蝕するふたり
04 見えない体
05 渦まいて
06 空の事

《マグノリアの雫。 Section》
00 INTRODUCTION
01 春眠 (sing with a guritar)
02    (sing with a guritar)
03 nocturne
04 水にとける
05 グッド・ミュージック (original by yukar)

《sommeil sommeil Section》
01 今日はどこにも
02 空色プール
03 そめい湯
04 スイートコーヒータイム
05 パステルカラーの町で

《ミアナシメント Section》
01 Lonely Night
02 Rainy Day
03 Night
04 Snow White
05 rhythm
06 Don't stop the party

<MEMBERS>
璃咲 
残響
甲斐莉乃(vo)
マグノリアの雫。(a.k.a. にべ子 / vo,g)
sommeil sommeil
Mia Nascimento / ミアナシメント(vo)

◇◇◇
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