THE ROOTS @豊洲PIT(20241227)
痛快、壮絶、怒濤、ノンストップで舞う極彩色のグルーヴ。
米・人気深夜トーク番組『ラスト・ナイト・ウィズ・ジミー・ファロン』(Late Night with Jimmy Fallon)にハウス・バンドとして出演することになったため、今後の来日は難しいと発言していた2009年だが、その翌年にも来日(記事→「THE ROOTS@Billboard Live TOKYO」)していた米・フィラデルフィア出身のレジェンダリー・ヒップホップ・バンドのザ・ルーツ。2013年には、タイミング悪く観賞出来なかったが、ブルーノート東京公演とともに渋谷O-EASTにてスタンディングライヴもあり、近いうちにまたライヴハウスでの公演があるだろうと思っていたら、なかなかのご無沙汰となっていた。
2022年に約9年ぶりに来日恒例のビルボードライブ東京公演(記事→「THE ROOTS@Billboard Live TOKYO」)を開催し、そろそろスタンディングでの公演を観たいなと思っていたところ、2024年末に一夜限りのイヤーエンド・パーティを豊洲PITで開催するとの一報が飛び込んできた。2024年のカレンダーでは多くが仕事納めとなる27日だが、多くのファンが集うだろうフロアでの熱気を求めずにはいられず、早々にチケットをゲットし、高鳴る気持ちで溢れたファンたちが列をなしていた豊洲PITへ、開場直前に滑り込んだ。
オリジネイターのクエストラヴとブラックソートは、本公演へ向けてのヴィデオコメントで「東京に戻るのが待ちきれない。これまでの全部のアルバムの曲を演奏するよ。『ドゥ・ユー・ウォント・モア?!!!??!』から『アンド・ゼン・ユー・シュート・ユア・カズン』まで、全部だ!」と語っていたが、ザ・ルーツのライヴでは自身の楽曲のみならず、さまざまなジャンルのエポックとなる楽曲を巧みに入れ込んでくるので、もはやミュージック・シーンを彩った新旧の名曲を生々しく呼び起こすライヴセッションといってもいい。
その曲構成は、前回来日した2022年のビルボードライブ東京公演をベースに肉付けし、90分の尺を120分に拡大させたものに。ちなみに、セットリストだが、リストに記されていない楽曲や引用ネタをところどころに入れてくることが常なので、下記のセットリストは参照程度に留めてもらえればと思う。
メンバーは、後方左端に“ミスター・ゴールドフィンガー”ことキーボードのレイモンド・“レイ”・アングリー、中央にドラムのクエストラヴ、右端にパーカッション(シーケンサー)のストロー・エリオットが並び、前方はMCのブラック・ソート以下が隊列を組んだり、忙しく往来するなど、大所帯ならではのパワフルなエナジーで、ミュージック・カーニヴァルとも形容したくなる闊達なステージングで沸かせていく。
特に大きなスーザフォンを抱えたデイモン・“テューバ・グッディング・ジュニア”・ブライソンや、そのブライソンとショルダーキーボードを抱えてステージでセッションを繰り広げたレイモンド・“レイ”・アングリーは、大柄た体格もあって目を惹く存在に。強く印象を刻んだといえば、ギター&ヴォーカルの “キャプテン”・カーク・ダグラスもそうで、もう恒例となっているが、喜怒哀楽を顔の表情とともに描出するソロ・パートはトピックの一つ(ギターよりも顔を前に出してアピールするところも沸かせる要素だ)。ビルボードライブ東京公演よりも長尺のステージだからか、ソロ・パートも(従来もなかなかのロングパートだが)たっぷりと時間をとり、ドナ・サマー「愛の誘惑」から「私のお気に入り」(JR東海のCM「そうだ 京都、行こう。」でおなじみ)、ブルーザー・ブロディ入場テーマを思い出すレッド・ツェッペリン「移民の歌」などを披露。「移民の歌」では咆哮でオーディエンスの高潮をさらに上昇させていた。
それにしても、120分強、文字通りのノンストップで突き抜けるとは予想だにしなかった。ビルボードライブ東京公演では冒頭から25~30分ほどのノンストップ・ステージを披露していたので、ある程度それを踏襲した形のパフォーマンスになるのかとは思っていたが、それをはるかに凌駕。それぞれにソロ・パートがあり、メンバー全員が一切休むことなくという訳ではないが、それでも五感を刺激し、体躯を揺らすグルーヴを数珠繋ぎのように紡いでラストまで駆け抜けるパフォーマンスは、ザ・ルーツだからこそ可能な芸当といっていいだろう。
序盤から、インスタント・ファンク「アイ・ゴット・マイ・マインド・メイド・アップ」、クール&ザ・ギャング「ジャングル・ブギー」、マイケル・ジャクソン「スタート・サムシング」やリアーナ「ドント・ストップ・ザ・ミュージック」などに数々の楽曲に引用されているカメルーンのサクソフォーン奏者マヌ・ディバンゴによる1972年のアフロ・ディスコ「ソウル・マコッサ」といったディスコ/ダンス・クラシックスや、エリカ・バドゥなどもカヴァーした、ジャズ・ファンクの先駆者のひとりとしても知られるドナルド・バードの「シンク・トゥワイス」とザ・ブラン・ニュー・ヘヴィーズとのコラボレーションでも知られる90年代の伝説的ヒップホップ・グループ、メイン・ソースの「ルッキング・アット・ザ・フロント・ドア」を混ぜ込むなどの多彩なアレンジで、音楽史を俯瞰するかのごとく思慮に富んだラインナップを展開。生演奏ならではのヴァイタリティと創造性を、スキルフルなメンバーが集ったザ・ルーツゆえの超絶技巧で繰り出すパフォーマンスは、圧巻と言う言葉では物足りないほど。ブラック・ソートはじめ、多くのメンバーが目くるめくステージを縦横無尽に往来する壮絶で絢爛な光景が眼前に飛び込むと、ビートやグルーヴにいやが上にも反応する体躯に、隙間なく刺激を与えていった。
もちろん、「プロシード」「ザ・ネクスト・ムーヴメント」をはじめ、デ・ラ・ソウル「エゴ・トリッピン・パート2」を拝借した「ステイ・クール」やクインシー・ジョーンズ「サマー・イン・ザ・シティ」を用いた「クローンズ」などのオリジナルも、スリリングかつドラマティックに披露。
後半には、ジェイムス・ブラウン「ギミー・サム・モア」から前述のブライソンのスーザフォン・パート、「ユー・ゴット・ミー」の流れからカーク・ダグラスのギター・パートとそれぞれの長尺ソロを経て、「ザ・シード」、アウトロにインクレディブル・ボンゴ・バンドの「アパッチ」の印象的なフレーズをプラスしたカーティス・メイフィールドの佳曲「ムーヴ・オン・アップ」と雪崩れ込む。そして、“ラスボス登場”と言わんばかりにクエストラヴのドラムとストロー・エリオットのドラム・シーケンサーとのパートを経て、「メン・アット・ワーク」でクライマックスへ。スポットライトが目まぐるしく四方八方を照らすなか、極彩色が舞い踊るエネルギッシュなステージが大団円を迎えたのだった。
選曲の意図やセンス、クリエイティヴなアレンジメントの妙、そして120分強を出力を落とすことなく駆け抜けるタフネスなど、さまざまに魅了する粋が詰まったステージだったが、それらの土台となっているのは、ヒップホップをはじめ、多くのアーティストや音楽カルチャーへの畏敬の念とリスペクトを表しているということだろう。その想いが超絶テクニックや鬼気迫る演奏や歌唱、怒濤のアンサンブルにしっかりと刻印されていることに気づかされた、痛快極まりないエンタテイメントショーとなった。
演奏終了後も熱量はとどまらず。言葉ではなく、ザ・ルーツがレジェンダリーたるゆえんをまじまじと感じさせられた、豪快なイヤーエンド・パーティ。2024年の厄がすっかり落ちたような気になったエキサイティングな夜になった。
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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 ECK / The Pros
02 I Got My Mind Made Up (You Can Get It Girl) (Original by Instant Funk)
03 Jungle Boogie (Original by Kool & The Gang)
04 Soul Makossa (Original by Manu Dibango)
05 Think Twice (Original by Donald Byrd, well known as Erykah Badu song)
06 Looking At The Front Door (Original by Main Source)
07 Step Into the Realm
08 Proceed
09 What They Do
10 The Next Movement
11 Without A Doubt
12 Dynamite!
13 Stay Cool
14 Act too (Love of my life)
15 Clones
16 Change(Makes You Want To Hustle) (Original by Donald Byrd)
17 Web
18 Dance Girl (original by by The Rimshots)
19 Rock Creek Park (Original by The Blackbyrds)
20 Chameleon ~ keyboard solo
21 Here I Come
22 Gimme Some More(original by James Brown)~ sousaphone solo
23 You Got Me ~ guitar solo(include phrase of "Love To Love You Baby" by Donna Summer, “My Favorite Things” from “The Sound of Music”, "Immigrant Song" by Led Zeppelin)
24 The Seed(2.0)
25 Move On Up(Original by Curtis Mayfield)(include phrase of “Apache” by Incredible Bongo Band)~ drums-MPC sequencer session
26 Men At Work(Original by Kool G Rap & DJ Polo)
<MEMBERS>
Questlove / クエストラヴ(ds)
Black Thought / ブラック・ソート(MC)
"Captain" Kirk Douglas / “キャプテン”・カーク・ダグラス(g)
Mark Kelley / マーク・ケリー(b)
Dave Guy / デイヴ・ガイ(tp)
Michael Buckley / マイケル・バックリー(sax,fl)
Damon "Tuba Gooding Jr." Bryson / デイモン・“テューバ・グッディング・ジュニア”・ブライソン(sousa)
Kamal Gray / カマル・グレイ(key)
Ray Angry / レイ・アングリー(key)
Stro Elliot / ストロー・エリオット(perc, vo)
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【THE ROOTSのライヴに関する記事】
2008/01/19 THE ROOTS@Billboard Live TOKYO
2009/01/16 THE ROOTS@Billboard Live TOKYO
2010/02/19 THE ROOTS@Billboard Live TOKYO
2022/08/26 THE ROOTS@Billboard Live TOKYO
2024/12/27 THE ROOTS @豊洲PIT(20241227)(本記事)
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