edbl @BLUE NOTE TOKYO(20240323)
気の置けない仲間とともに紡ぎ出した、痛快なソウル・グルーヴ。
カラフルなイラストテイストの自画像をアートワークにした『サウス・ロンドン・サウンズ』『ブロックウェル・ミックステープ』といった作品で注目を浴び、Nao Yoshiokaと共演したギタリストのKazuki Isogai(磯貝一樹)やiriなどの日本人アーティストとのコラボレーションでも知られる、英北部出身、サウスロンドンを拠点に活動するギタリスト/プロデューサーのedbl(エドブラック)が、バンドセットでの単独来日公演を開催。おそらく多くの同名の著名人が多くいるため、本名のエド・ブラック(Ed Black)を省略した“edbl”というアーティストネームで活動しているのだろう。地元イギリスはもちろん、日本や韓国、台湾など東アジアでも人気を博しているなか、どのようなライヴパフォーマンスを繰り広げるのかと大いに興味を抱いていたところ、来日公演情報を耳にして即座席を確保。ブルーノート東京公演での観賞に漕ぎつけた。
左からキーボードのジム・バルドック、ドラムのアンドリュー・フィニー、ベースのジョン・ライトが位置につくなか、観客を煽りながら威勢よくヴォーカルのジェイ・アレクザンダーが登場。イントロダクションに入って、エドブラックを呼び込み、コンビニエンスストアと同名の「セヴン・イレヴン」からバンドセット公演が幕を開けた。
曲構成は、2023年にリリースされたロンドンの名門ジャズクラブ「ピッツアエクスプレス」で行なわれたライヴの模様を収録したライヴ・アルバム『アット・ピッツアエクスプレス・ライヴ・イン・ロンドン』を軸に、いくらか楽曲を入れ替えて肉付けした内容か。同ライヴに参加したジェイ・アレクザンダーを本ブルーノート公演のヴォーカルに招いて、エドブラックが手掛けてきたコラボレーション楽曲を具現化していく。
エドブラックは、気前の良さそうなギター好きの兄ちゃんといった風貌で、どちらかというとロック・バンドにいそうな感じ。「ノー・プレッシャー」演奏後にはビール片手に「カンパイ!」と発声し、観客とフランクにコミュニケーションをとる場面も。
「ジャスト・ザ・セイム」を終えると、アルバム『ジ・エドブラック✕カズキ・セッションズ』を共作した日本人ギタリストのKazuki Isogai(磯貝一樹)がスペシャルゲストとして登場。インストゥルメンタル曲「ワールドワイド」にて印象的なギターリフで沸かせると、その後半にアレクザンダーが日本では当時「クリスタルの恋人たち」の邦題で知られた「ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス」のフレーズを歌い、コラボレーションにさらなる華を添えた。
「レモン・スクウィーズィ」でKazuki Isogaiとのコラボレーションを堪能し終えると、甘く切ない“ナヨ声”ヴォーカルで知られる英R&Bシンガーのレマー「イフ・ゼアズ・エニイ・ジャスティス」のカヴァーからシームレスに「ビー・フー・ユー・アー」へ。アレクザンダーが両手でハートマークを作りながら“ラヴ・ラヴ・ラヴ”とコールすると、観客も手を挙げ、ハートマークをかざして“ラヴ・ラヴ・ラヴ”とレスポンス。ジョイフルでラヴリーな空間を創り出していった。
「ちょっと暑くない?」と言いながらアレクザンダーが上着を脱ぎ、「テンパラチャー・ハイ」へと気の利いた繋ぎを見せると、続く「シガーズ」ではエドブラックも「オレも暑いや」と上着を脱ぐという“連携”で笑いを呼ぶ。この「シガーズ」ではドラムのアンドリュー・フィニーが冒頭で歌い出し、拍手と歓声が響いた。UKでドラムがヴォーカルを務めるというと、元ブラン・ニュー・ヘヴィーズ(現・MFロボッツ)のヤン・キンケイドあたりを思い出すが、フィニーもタッチのやわらかいハイトーンが耳を惹くヴォーカルで、このステージにアクセントをもたらしていた。ヴォーカルとラップを駆使するメインのアレクザンダーほか、エドブラック、そしてフィニーと、3名がヴォーカル/コーラスを務めるというバラエティに富んだ声色を響かせられるのも、このバンドセットの魅力だ。
「ネヴァー・メット」では後半にエドブラックが「アメリカン・ボーイ」を歌うシーンも。ジョン・レジェンドがソングライティングに加わり、ウィル・アイ・アムの「インペイシェント」をサンプリング、カニエ・ウェスト(現・イェ)が客演し、全英1位、全米9位を記録した、ロンドン出身のシンガー/MCのエステルの代表曲をチョイスするとは、ヒップホップやR&Bから影響されてきたエドブラックらしい。
メドレーのように「トゥー・マッチ」へと雪崩れ込んだ後は、「レモネード」で本編は幕。スウィートな声色のアレクザンダーが情熱的に歌い上げ、終始バンド・サウンドがコンビネーションの良さをみせると、すぐさま快哉が飛び交い、観客はアンコールを催促。笑みを湛えたメンバーたちがステージに戻ると、アレクザンダーのファルセットがよりメロウなムードを引立たせるネオソウル・チューン「ノスタルジア」、ビートルズ「デイ・トリッパー」のカヴァーを経て、エドブラックという名が注目される端緒となった「ザ・ウェイ・シングス・ワー」と3曲を披露。
リズミカルなギターカッティングから導かれた「ザ・ウェイ・シングス・ワー」ではアリーナも総立ちとなり、さながらダンスフロアの様相に。エドブラックらメンバーがその光景に感慨と歓喜を覚えると、メンバー紹介を兼ねた各ソロパートを経て、熱度はさらに上昇。R&Bやネオソウル、ヒップホップなどを下敷きに、ロックやエレクトロニック、クラブジャズなどを包含した、憂いとメロウが漂うライヴハウスからベッドルームまで適応する幅広い浸透性のサウンドを、ライヴというステージにおいても生き生きと表現。10歳の時から友達だというエドブラックとアレクザンダーをはじめ、メンバーとのアンサンブルや創り出すグルーヴも快く、絶妙なコンビネーションでフロアに活気をもたらしていた。
当初は洒脱なクラブジャズやメロウな濃度が高いネオソウル然としたステージになるのかと推測していたが、エドブラックが元来持っていると思しきロック少年資質もあって、カジュアルなソウル/ロック・テイストにも触れた馴染みやすいサウンドが横溢する空間に。レマーやエステルといったアフリカ系イギリス人やザ・ビートルズの「デイ・トリッパー」のカヴァーといった楽曲を採り入れるあたりは、UK出身ならではといったところ。本公演ではラスト近辺でアリーナ全体が総立ちとなったが、スタンディングやフェスなどでの期待も膨らむパフォーマンスを展開していた。一層注目度が高くなるなか、さらに刺激的なケミストリーも生まれる予感も抱いた、充実のバンドセットとなった。
◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Seven Eleven (*J)
02 I'll Wait (*S)
03 No Pressure (*B)
04 Just The Same (*F)
05 Worldwide(guest with Kazuki Isogai)(include phrase of "Just the Two of Us" original by Grover Washington, Jr. feat. Bill Withers)(*K)
06 Lemon Squeezy(guest with Kazuki Isogai)(*K)
07 If There's Any Justice (original by Lemar)
08 Be Who You Are (*S)
09 Table For Two (*S)
10 Temperature High (*J)
11 Cigars (*S)
12 Never Met(include phrase of "American Boy" original by Estelle feat. Kanye West)
13 Too Much (*J)
14 Lemonade (*B)
《ENCORE》
15 Nostalgia (*S)
16 Day Tripper (original by The Beatles)
17 The Way Things Were (*S)
(*S): song from album "South London Sounds"
(*B): song from album "Brockwell Mixtape"
(*K): song from album "The Edbl x Kazuki Sessions"
(*F): song from EP "edbl & friends: James Berkeley"
(*J): song from album "JPRK+Jackson Mathod"
<MEMBERS>
edbl / エドブラック(g,vo)
Jay Alexzander / ジェイ・アレクザンダー(vo)
John Wright / ジョン・ライト(b)
Jim Baldock / ジム・バルドック(key)
Andrew Finney /アンドリュー・フィニー(ds,vo)
special guest:
Kazuki Isogai / カズキ・イソガイ(磯貝一樹/g)
もし、仮に、気まぐれにも、サポートをしていただける奇特な方がいらっしゃったあかつきには、積み上げたものぶっ壊して、身に着けたもの取っ払って……全力でお礼させていただきます。