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Jimmy Jam & Terry Lewis @Billboard Live TOKYO(20240729)

 煌めきと跳ねるグルーヴが打ち寄せた、圧巻のジャム&ルイスワールド。

 ジャム&ルイスがやって来る。正直なところ、全く予想していなかった。2021年にデビュー・アルバム『ジャム&ルイス:ヴォリューム・ワン』をリリースしていたとはいえ、これまで(宇多田ヒカルのサポートメンバーとして来日したことはあっても)一度も自身のライヴで来日したことはなかったからだ。80~90年代の音楽シーンを席巻し、稀代のプロデューサー・コンビとして名を馳せたジミー・ジャムとテリー・ルイスが眼前で観られるとあっては、R&B/ブラック・ミュージック・ラヴァーとしては、少々高値であっても見逃すことは出来ない。運良く(良くはないか)さっぱりかすりもしなかった宇多田ヒカルのチケット代ともそれほど変わらないから、高値も全く気にならず。7月28日~30日にビルボードライブ東京で、8月1日にビルボードライブ大阪にて行なわれる公演のなかから、29日の2ndショウに駆け込んだ。

 プロデューサーズ・ミュージックとも言われるR&Bを好んで以来、さまざまなプロデューサーに出会ってきた。マイケル・ジャクソン『スリラー』を史上最高セールス作品に仕立て上げたクインシー・ジョーンズをはじめ、クインシー・ジョーンズの下で研鑽を積み、シャニース「アイ・ラヴ・ユア・スマイル」などを手掛け、グラミーウィナーとなったナラダ・マイケル・ウォルデン、ニュージャックスウィングを生み出したテディ・ライリー、ボーイズ・II・メンやホイットニー・ヒューストンをオーセンティックなポピュラーミュージックに昇華し、ボビー・ブラウン「エヴリ・リトル・ステップ」などを手掛けたベイビーフェイス&L.A.リード、テディ・ライリーから直々に指導を受けた後にブランディやデスティニーズ・チャイルドを手掛けた“ダークチャイルド”ことロドニー・ジャーキンス、〈ソー・ソー・デフ〉を設立し、アッシャーをスターダムにのし上げたジャーメイン・デュプリ、ボーイズ・II・メンとTLCのデビュー・アルバムのメイン・プロデュースに関わったダラス・オースティン、ジャーメイン・デュプリの下で才能を開花させ、メアリー・J.ブライジ、クリス・ブラウンなどに関わったブライアン・マイケル・コックス、アリーヤ「ワン・イン・ア・ミリオン」をはじめとする楽曲に携わり、硬質な“チキチキ”ビートで凌駕したティンバランド、〈バッド・ボーイ〉の総帥としてフェイス・エヴァンスなどをプロデュースし、メアリー・J.ブライジに大きな影響を及ぼしたディディ(パフ・ダディ)、ミュージック・ソウルチャイルドやジョー「ライド・ウィット・ユー」に関与し、多くの正統派R&Bを放ったカルヴィン&アイヴァン、テディ・ライリーから影響を受けたファレル・ウィリアムスがチャド・ヒューゴとともにクセになるビートで多くのヒットを生んだネプチューンズ……最近ではロドニー・ジャーキンスに弟子入り後は芽が出なかったが、その後ラッキー・デイの作品で注目を浴び、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いとなったD・マイルまで、名を挙げ始めたらキリがないが、フェイヴァリットな音楽には名プロデューサーが傍にいた。

 なかでも数多のスターを育て上げたのがジャム&ルイスだ。ジャネット・ジャクソンを名実ともにトップスターへと導いたのはもちろん、全米1位ヒットを量産し、5度のグラミー賞を受賞。全世界でのセールスは1億枚超えと、史上最高のプロデューサー・ユニットとなったレジェンドが、演者となって、しかもドームやアリーナといった大規模な会場ではなく、ビルボードライブというスタイリッシュかつ緊密な空間で体感出来るのだから、期待は膨らむ一方だった。オリジナル・アルバム『ジャム&ルイス:ヴォリューム・ワン』の楽曲を中心とするのか、歴代のヒット・チューンをメドレーで披露するのか、どのようなステージを繰り広げるのだろうと胸を高鳴らせながら、当日の夜を迎えることとなった。

 左奥からギターのジョン・スノー、ドラムのデイヴィッド・スミス、ミュージック・ディレクター/キーボードのジョン・ジャクソンを従え、ステージ前方の左にベースを弾くテリー・ルイス、右にショルダーキーボードを抱えたジミー・ジャムがその在韓を輝かせて佇む。その2人の間に、ヴォーカルのルーベン・スタッダードとシェレーエがそれぞれに、時にデュエットでジャム&ルイス・ヒットを惜しみなく歌い上げていく。

 曲構成は、ジャネット・ジャクソンの楽曲が半分近くを占め、フルサイズではなく短縮した形で披露。セットリストを見渡せば分かるが、ゲスト・ヴォーカルとして参加した竹内美樹の楽曲2曲を除いた28曲のうち、11曲の全米1位楽曲を演奏。そのうち8曲がジャネット・ジャクソンの楽曲なのだから、ジャム&ルイスの歴史を辿ることは、ジャネット・ジャクソンのヒット曲をなぞるのとおおよそ同義となるのも理解出来る。

 ちなみに、今回披露されたジャネット楽曲で全米1位を獲得したのは「ホエン・アイ・シンク・オブ・ユー」(邦題「あなたを想うとき」)「ラヴ・ウィル・ネヴァー・ドゥー(ウィズアウト・ユー)」「エスカペイド」「アゲイン」「オール・フォー・ユー」「ザッツ・ザ・ウェイ・ラヴ・ゴーズ」(邦題「それが愛というものだから」)「ダズント・リアリー・マター」「トゥゲザー・アゲイン」の8曲。ラストの1曲前に「トゥゲザー・アゲイン」を披露したのだが、3月に行なわれたジャネット・ジャクソンの単独来日公演〈トゥゲザー・アゲイン・ジャパン2024〉(記事→「Janet Jackson / TLC @K-Arena Yokohama(20240320)」)は「トゥゲザー・アゲイン」を軸にステージを展開していたから、タイミングとして意識したようにも思えてしまった。
 なお、その他に披露した全米1位曲は、ヒューマン・リーグ「ヒューマン」、ボーイズ・II・メン「オン・ベンデッド・ニー」、アッシャー「ユー・リマインド・ミー」の3曲だ。

 ラジオのチューニング風にザ・タイム「777-9311」、ニュー・エディション「イフ・イット・イズント・ラヴ」、ジャネット・ジャクソン「リズム・ネイション」、アッシャー「ザッツ・ホワット・イッツ・メイド・フォー」がチューニングノイズとともにBGMとして繰り出された後、待望のジャム&ルイス初来日公演が幕を上げた。

 S.O.S.バンドの「ジャスト・ビー・グッド・トゥ・ミー」を皮切りに、序盤はシェリル・リン、、シェレール、アレクサンダー・オニール、ヒューマン・リーグの楽曲を紡いでいく。メドレースタイルではないけれど、それぞれがコンパクトに纏められ、矢継ぎ早に演奏を重ねていくから、まさにサウンドやグルーヴが畳み掛けてくるといった印象に包まれていく。ブワワンと響くシンセとヘヴィなドラム、軽快なリズムを刻むギター、興奮を高めるオーケストラルヒットが解き放たれ、“ディス・イズ・ブラコン”(ブラック・コンテンポラリー)というフレーズがピッタリな、ミラーボールが似合う煌めきでフロアが充溢していった。

 バンドメンバーが奏でる音もR&B/ブラコン・ワールドを描き出すのに十分なのだが、やはりこの度起用されたヴォーカリスト、ルーベン・スタッダードとシェレーエ(シェレーアとも。前述の“シェレール”とは別人)の歌唱が白眉。ルーベン・スタッダードは、リアルテディベアのような大きな体格で、時にスキンヘッドに汗をかきながら(最前列の観客に汗を拭いてもらう場面も)、スウィートかつテンダーな中声で魅了していく。ジョニー・ギルのニュージャックスウィング曲「ラブ・ユー・ザ・ライト・ウェイ」では、さすがにジョニー・ギルの暑苦しさ(笑)を超えることはなかったけれど、ホットなパッションで賑わせたかと思えば、ボーイズ・II・メンの至極のバラード「オン・ベンデッド・ニー」では持ち前のヴェルヴェット・ヴォイスで甘く艶やかな世界へいざなう。アッシャーの「ユー・リマンド・ミー」「バッド・ガール」では、ルックスは似つかないけれど(笑)、アッシャーになりきってかハイテンションで畳み掛けるなど、ブラック・ミュージックの魅力を最大限に引き出してくれた。

 一方のシェレーエことシェレイア・メロディ・フレイジャーは、オリジナル・アルバムこそ『ラヴ・フェル・オン・ミー』くらいしか注目されなかったから、なかにはその存在を知らなかった人も少なくないのかもしれない。元来はジャム&ルイス主宰のフライト・タイム・プロダクションで作家/歌手として研鑽を積み、ジャム&ルイス作品でバックコーラスも務めていた秘蔵っ子ともいえる存在ゆえ、この来日公演にはうってつけ。シャンテ・ムーア、ヴァネッサ・ウィリアムズなどへ楽曲を提供し、時折タミアを想起させる凛々しくもしなやかなヴォーカルで、前述のクインシー・ジョーンズやナラダ・マイケル・ウォルデンをはじめ、デイヴィッド・フォスター、スティーヴィー・ワンダーなどがその才能に惚れていたようだ。

 『ラヴ・フェル・オン・ミー』は上質なアーバン/スムースジャズ・アプローチのミディアム・スロー~スローを軸としたデビュー・アルバムだったが、その落ち着いたムードをこなすことはもちろんのこと、懐深いヴォーカルワークでさまざまな楽曲にも対応。中盤の「ホワット・ハヴ・ユー・ダン・フォー・ミー・レイトリー」(邦題「恋するティーンエイジャー」)から始まるジャネット・ジャクソンのヒット・チューン・エリアでも、ジャネットの歌唱スタイルとは当然ながら異なるけれど、身に沁み込んでいるジャム&ルイス・サウンドをより輝かせるに相応しい華やかさと熱量で、インパクトある歌唱を繰り出し、大きな歓声と拍手を受けていた。ルーベン・スタッダードとシェレーエというヴォーカリストたちのスキルフルでグルーヴ溢れる声色が、黄金期のジャム&ルイス・サウンドを2020年代の時代にしっかりと溶け込ませたと言っても過言ではない活躍ぶりだったといえよう。
 特に圧巻だったのはヨランダ・アダムスの「オープン・マイ・ハート」。ゴスペル・シーンで活躍してきたヨランダ・アダムスのグラミー賞楽曲を、この日一番のパッションと伸びやかなヴォーカルでフロアに響かせ、まさに息を吞むという言葉を体現したような瞬間を創り上げていた。

 後半にはジャム&ルイスがプロデュースしたミニ・アルバム『言葉に出来ず…』を2022年にリリースした竹内美樹が登場。竹内の登場前のMCで、「ボクたちは日本人アーティストもプロデュースしてきたよ」とのフリを。勝手に「チキチキアー」とか歌いながら宇多田ヒカルがゲストで出てきて「Addicted To You」 なり「Wait & See 〜リスク〜」なり歌ったら凄いなとか思ってはいた。ただ、宇多田はツアー中だし、そもそもこれくらいのビッグネームだと関係各所でさまざま面倒だから(苦笑)それはないかなと頭を巡らせていたところ、テリー・ルイスが「Crystal Kayとか知ってるかい?」などとボソッと呟くから、Crystal Kayがステージインしておそらくジャネット「ダズント・リアリー・マター」を意識して作ったと思しき「Kirakuni」でも歌ってくれたらこの上ないなと瞬時に頭を過ぎるも、それは妄想に消えたのだった(笑)。

 不勉強ゆえ竹内美樹という名は知らなかったのだが、調べてみたら2020年にmeajyu(ミージュ)から改名していた模様。meajyuはR&B/クラブ・アプローチのミディアム「Secret Lover」くらいしか耳にしたことがなかったので詳しくはないけれど、だいぶ印象が変わっていた気がした。
 披露したのはBS-TBS『こころめぐり逢い 二胡と匠の旅』テーマソングに起用されている「あなたにめぐり逢うために」と「言葉に出来ず…」。宇多田「Addicted To You」、Crystal Kay「Kirakuni」もそうだが、ジャム&ルイスは日本人アーティストになると、ジャネットあたりの派手やかな音ではなくて、どこか日本らしい和や美的なアレンジを用いた楽曲を意識したりするのかとも思える、竹内が歌う曲は、麗しいサウンドエスケープを施した楽曲のように感じた。

 シェレーエによるヨランダ・アダムス「オープン・マイ・ハート」の熱唱で喝采に包まれるやいなや、軽やかなダンス・パーティ・モードへ一変して、「ダズント・リアリー・マター」「トゥゲザー・アゲイン」のジャネット曲を経て、1994年リリースのサウンズ・オブ・ブラックネスの「アイ・ビリーヴ」で華やかにエンディング。約1時間30分の夢のステージは、魔法が散りばめられた空間のごとく夢見心地と歓喜をもたらしながら、あっという間に終わりを告げたような、実にマジカルな音空間だった。

 これ以外にも多くのヒット・ソングを手掛けるジャム&ルイスだから、気が早いが第2弾を多くの人が期待しているはずだ。全米1位だけでもジャネット・ジャクソン「ミス・ユー・マッチ」はじめボーイズ・II・メンでも演奏していない曲もあるし、ジョージ・マイケル「モンキー」やキャリン・ホワイト「ロマンティック」(テリー・ルイスの元妻曲はさすがにリストから外すかな…笑)などもあるから、ラインナップは事欠かないはず。オリジナル・アルバムも“ヴォリューム・ワン”と次作を期待させるタイトルでもあるから、その次作なども含めたアナザー・ジャム&ルイスを近いうちに体現したい(『ジャム&ルイス:ヴォリューム・ワン』からなら、メアリー・J.ブライジをフィーチャーした「スピニン」やマライア・キャリー客演の「サムホワット・ラヴド(ゼア・ユー・ゴー・ブレイキン・マイ・ハート)」は特に聴きたい)という感情を身体隅々までに湛えながら、終演が告げられてもアンコールクラップが鳴りやまなかったフロア同様に、いつまでも余韻に浸っていたのだった。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION(include BGM of "777-9311"(The Time)/ "If It Isn't Love"(New Edition)/ "Rhythm Nation"(Janet Jackson)/ "That's what It's Made For"(Usher))
01 Just Be Good To Me(The S.O.S. Band)
02 Tell Me If You Still Care(The S.O.S. Band)
03 Encore(Cheryl Lynn)
04 I Didn't Mean To Turn You On(Cherrelle)
05 Saturday Love(Cherrelle & Alexander O'Neal)
06 Fake(Alexander O'Neal)
07 Human(Human League)
08 What Have You Done For Me Lately(Janet Jackson)
09 Nasty(Janet Jackson)
10 When I Think Of You(Janet Jackson)
11 Rub You The Right Way(Johnny Gill)
12 Love Will Never Do (Without You)(Janet Jackson)
13 Escapade(Janet Jackson)
14 Can You Stand The Rain(New Edition)
15 Tender Love(Force M.D's)
16 On Bended Knee(Boyz II Men)
17 Come Back To Me(Janet Jackson)
18 Let's Wait Awhile(Janet Jackson)
19 Again(Janet Jackson)
20 あなたにめぐり逢うために(guest vocal:竹内美樹)
21 言葉に出来ず・・・(guest vocal:竹内美樹)
22 All For You(Janet Jackson)
23 U Remind Me(Usher)
24 Bad Girl(Usher)
25 That's The Way Love Goes(Janet Jackson)
26 He Don't Know Nothin' Bout It(Jam & Lewis & Babyface)
27 Open My Heart(Yolanda Adams)
28 Doesn't Really Matter(Janet Jackson)
29 Together Again(Janet Jackson)
30 I Believe(The Sounds Of Blackness)

<MEMBERS>
Jimmy Jam / ジミー・ジャム(key,vo)
Terry Lewis / テリー・ルイス(b,vo)
Ruben Studdard / ルーベン・スタッダード(vo)
Shelea / シェレーエ(vo)
John Jackson / ジョン・ジャクソン(key, Music Director)
John Snow / ジョン・スノー(g)
David Smith / デイヴィッド・スミス(ds)
guest:
竹内美樹(vo / ex-Meajyu)

Jimmy Jam and Terry Lewis

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【ジャネット・ジャクソンのライヴ記事】
2015/11/21 Janet Jackson@さいたまスーパーアリーナ
2019/02/11 Janet Jackson@日本武道館
2024/03/20 Janet Jackson / TLC @K-Arena Yokohama(20240320)


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***june typhoon tokyo***
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