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Perfume @有明アリーナ(20250215)
※ネタバレを含むため、予めご了承の上、ご自身のご判断で閲覧ください。
物語とリアルの両輪で繋ぎ合わせた、25年の感謝と挑戦。
2024年のメジャー・デビュー20周年&結成25周年を記念して制作された初のコンセプト・アルバム『ネビュラロマンス 前篇』を引っ提げ、12月28日の神奈川・ぴあアリーナMM公演を皮切りに全国11ヵ所23公演で展開されるPerfumeのアリーナツアー〈Perfume 10th Tour ZOZ5 “ネビュラロマンス” Episode 1〉。2025年に入り、佐賀、徳島公演を経て、2月15日(土)・16日(日)の2デイズで東京公演を開催。その初日となる2月15日の公演に足を運んだ。
perfumeのライヴは、2022年8月の同じく有明アリーナで開催されたアリーナツアー〈Perfume 9th Tour 2022 “PLASMA”〉(記事→「Perfume@有明アリーナ」)以来の観賞となる。ファンクラブに入るほどの熱狂的なPerfumeフリークではないため、自らの都合で2月15日のチケットを取ったのだが、(後ほどMCで知ることになったが)当日は“アヤカ”ことあ~ちゃんの誕生日だったそうで、この公演日のチケット抽選倍率が「エグかった」とのこと。当然、東京公演は2日ともソールドアウト。座席は公演当日入場時の発券にて通知されるシステム(ファンクラブ会員の希望者には座席のアップグレードも可能とのこと)で、発券と同時に来場者全員へ本ツアーのコンセプトをなぞらえた「NEBULA MEMBER ID」なるカードを配布。3種類(マゼンタ、シアン、イエロー)のカードがそのまま座席エリア(チーム分け)と連動するという仕組み。マゼンタはアリーナ、イエローがステージ向かって左、シアンが同右という感じだ。
発券された座席は、“イエロー”エリアの4階席の最上段。有明アリーナの音響については、上記の前回公演の記事でも述べているが、あまり期待出来ない場所で、実際に公演中は楽曲(特に初期の楽曲)によっては音のディレイや歪みが頻繁にあり、正直なところ残念な面はあった。とはいえ、「エグかった」抽選倍率を掻い潜って得た貴重な席ということで、相殺となったか。
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ところで、元来スペーシーだったり、近未来的なテーマの楽曲が少なくないPerfumeだが、本ツアーに携えたコンセプト・アルバム『ネビュラロマンス 前篇』は、「Cosmic Treat」「Starlight Dreams」などのタイトルからも想起されるように、プロデューサーの中田ヤスタカが“宇宙を舞台に繰り広げる壮大なドラマを凝縮した架空の映画のサウンドトラック”という設定で制作したという。これを知った際に頭を過ぎったのは、たとえば、1927年公開の独映画『メトロポリス』を意識したアートワークで、(前作EPで示された1幕に続き)2幕、3幕という組曲スタイルで構成されたジャネール・モネイのアフロ・フューチャリズムなアルバム『ジ・アークアンドロイド』や、1972年公開映画『スーパーフライ』のサウンドトラックとして制作されたカーティス・メイフィールドの『スーパーフライ』、m-floの1stアルバム『Planet Shining』のリミックス・アルバム『THE REPLACEMENT PERCUSSIONISTS』だ。
ジャネール・モネイは、2719年を舞台に、恋に落ちていくアンドロイドのシンディ・メリウェザーの物語の序章をEP『メトロポリス:ザ・チェイス・スイート』で、逃避行しながらも恋慕する姿を『ジ・アークアンドロイド』で、メリウェザーが他のアンドロイドの心を揺り動かし、影響や変革をもたらす様子を『エレクトリック・レディ』で、それぞれ描き上げた。
m-floは『ザ・リプレースメント〜変装したロケット学者の謎〜』という邦題もついた『THE REPLACEMENT PERCUSSIONISTS』にて、未来へ旅する宇宙船「グローバルアストロライナー号」に乗って“Planet Shining”へ向かう途中に何者かにハイジャックされてしまうという設定を構築(m-floは『EXPO EXPO』のリミックス作『EXPO防衛ロボット GRAN SONIK』においても、ヴァーチャル万博「EXPO EXPO」を襲ったグローバルアストロライナー社製のロボット "ローリー"にエキスポ防衛ロボ "GRAN SONIK" が立ち向かうが、なぜかそのまま駆け落ちするというストーリーを展開)。構図やデザインこそ異なるが、『THE REPLACEMENT PERCUSSIONISTS』『ネビュラロマンス 前篇』ともに、ドラマティックで壮大なSF宇宙絵巻を想起させるアートワークには親和性も感じた。『ネビュラロマンス 前篇』のアートワークは『宇宙戦艦ヤマト』をはじめとするスペースSFアニメがイメージできる宇宙空間を背景に、ストーリーテラーとなるキキモが大きく描かれ、その前に『モスラ』シリーズに登場する小美人な感じもするPerfumeの3名とその脇に楽器を抱えたダフト・パンク風のロボットが並ぶという、“ベタ”な感じも悪くない。
アルバム『ネビュラロマンス 前篇』のCDブックレットには、「要塞化した月がロボットアーミーに占拠された」を端緒に、地球防衛軍「NEBULA」の幹部・キキモ(おそらくPerfumeの振付師/演出家、MIKIKOのアナグラム)による手記とフォトが楽曲毎に綴られていくが、収録曲は10曲がただ連なっているのみ。『ジ・アークアンドロイド』でのオーヴァーチュアや『THE REPLACEMENT PERCUSSIONISTS』でのインタールードなどがないから、リスニングという点ではコンセプト・アルバムにしてはやや淡白な構成の10曲という印象だったが、そこは中田ヤスタカが当初からツアーで具現化することを着想していたのだろう。ライヴではキキモが「遂に事態が動き出したため、手記を残しておく」とパソコンのキーボードでタイピングする姿からスタート。ストーリーテラーの役割を持ったイントロダクションを経て、「The Light」からアルバムの収録順に楽曲を披露していく。
本ツアーは「煩悩の数=108通り、全公演でセットリストが異なる」ということがウリの一つのようだが(実際は本ツアーで23公演だから全て異なっても23通り、あるいは追加公演や〈ネビュラロマンス” Episode 2〉なる後篇なども含めてなのか)、『ネビュラロマンス 前篇』を曲順通り披露するステージをサイドA、過去曲をラインナップした通常のライヴステージをサイドBとして、そのサイドBでいくつか楽曲を変更していくようだ。ファンとの交流を図るトーク&パフォーマンス「P.T.A.のコーナー」やサイドBのオープニングあたりは固定されているだろうから、全曲ガラリと異なるということはないだろうが、この日はあ~ちゃんの誕生日ということもあって、あ~ちゃん自身からのリクエストで「Baby Face」のイントロが流れた瞬間は、フロアに甲高い喚声が響き渡っていた。
ステージは頭上に土星の輪をイメージした大きなオブジェがあり、その下に廻り舞台(盆/歌舞伎や宝塚、ドリフ『全員集合』などで使われる舞台転換)を設置。廻り舞台の前方には、横に長い楕円形の窓枠があるカーブした間仕切り壁が適宜出てきて、ドールハウス風のショーケース風に見立てたり、プロジェクションマッピング映像を投影しながら楽曲の世界観を構築したりと、楽曲毎に彩りを変化させていく。ステージ前方にはシナプス(神経ネットワークの接点)を模したような花道が中央と左右の3方向に延びている。
レーザービームが飛び交うなか、エッジでソリッドなサウンドを響かせる「The Light」や、クラップと重低音のビートが走る「ラヴ・クラウド」と推進力を高めていくステージは、通常のPerfumeステージのそれだったが、「ラヴ・クラウド」を終えると、アヤカ、ユカ、アヤノ以下の“ドラマ”の登場人物をアナウンス。名前がコールされるたびに歓声が沸き起こった後、Mr.マイクなるスタンドマイクを擬人化させたキャラクターが登場して、米音楽番組『ソウル・トレイン』や『エド・サリヴァン・ショー』をモチーフにしたような『Mr.マイク・ショー』へ突入。楽曲紹介を受けたPerfumeが、「Cosmic Treat」で華やかなガールズ・グループとしてのパフォーマンスを繰り出していく。
フックのメロディを聴くと、どうしてもエイス・ワンダー「クロス・マイ・ハート」を思い出さざるをえない「Starlight Dreams」や「IMA IMA IMA」といった、Perfumeらしさの要素の一つでもあるウォーミングなタッチの楽曲では、演出も派手なモードから明るい雰囲気へスイッチ。“恋をするならIMA IMA……”のフレーズよろしく、キュートで甘酸っぱさを醸し出す声色で“ドラマ”に抑揚をつけていく。
また、『映画 すみっコぐらし ツギハギ工場のふしぎなコ』の主題歌に起用された「すみっコディスコ」をはじめ、本公演ではサイドBで披露した「チョコレイト・ディスコ」「ワンルーム・ディスコ」と、どの曲にも“ディスコ、ディスコ”とリフレインするフレーズを持つ、3曲の“ディスコ”ソングが登場。キュートかつファンシーな「すみっコディスコ」、ステージ上の土星を模したオブジェがミラーボールと化して光をフロアいっぱいに乱反射させた、まさに旬なヴァレンタイン・ソング「チョコレイト・ディスコ」(ちなみに、“チョコレイト”と“ミラーボール”は「P.T.A.のコーナー」の観客も一緒に踊るパフォーマンス・セクションで登場、あと一つは“豆まき”)、ストック・エイトキン・ウォーターマンのPWLサウンド風なアクセントも耳を惹く「ワンルーム・ディスコ」と、三曲三様の彩りでヴォルテージを高めることに成功。ディスコ・ソングであ~ちゃんのバースデーを大いに盛り上げようという意図もあったのかもしれない。
「Starlight Dreams」以降では「ワンルーム・ディスコ」のミュージック・ヴィデオから着想したような、バスタブなど配した3名それぞれの部屋をイメージし、バスロープ姿なども披露したファンシーなセットや、前述の大きな窓がある間仕切り壁を通して、ドールハウスの人形のような見せ方も。隔たりの中にいる人形は、地球人から神格化された存在=Perfumeのことなのか。
「時空花」ではシナプス風の花道の先端のステージに歩み、上空から雲あるいはクラゲにも見えるオブジェの装飾を上にしながら、アルバム唯一ともいえる幻想的な世界観を創り出すと、サイドAのラストは「メビウス」で再びギアをアップに。派手やかなライティングが再びフロアを照らし、クラップが響くなかで、沸き上がった高揚とドラマが終わってしまうという僅かなもの寂しさが交差しながら、スクリーンにアウトロが映し出され、“To be continued”と謳って『ネビュラロマンス 後篇』への道筋を示した。
サイドBは「Cling Cling」から。このあたりから特に過去曲の音の歪みやディレイが散見されたのは、『ネビュラロマンス 前篇』楽曲との相性もあったか。こればかりは、少なからず座席の位置の影響もあるから致し方ないが、ステージを通して音響のトータルバランスが微妙だったともいえる。
それでも「エレクトロ・ワールド」が放たれるやいなや、フロアのヴォルテージが一気に頂点へと駆け上がり、“オイ!オイ!”のコールが岩を穿つ波のように連なっていく。テンポを落とした「Baby cruising Love」ではPerfumeの一挙手一投足に目を凝らしながら、3名と同じように振付を踊るオーディエンスが目に飛び込んできた。
「P.T.A.のコーナー」を挟んで、Perfumeのライヴでのフロアキラー定番曲ともいえる「FAKE IT」で昇り流か稲妻かのごとく興奮が上昇すると、「チョコレイト・ディスコ」「ワンルーム・ディスコ」のディスコ・セクションを経て、「Baby Face」でハピネスとジョイフルが満ちる空間へと移ろいでいく。かしゆか、のっちからファンへのメッセージが、この日誕生日を迎えたあ~ちゃんへの愛情の“だだ洩れ”のスピーチとなるなど3名の絆が伝わるなかで、希望あふれる未来への想いを込めて「無限未来」でエンディング。ステージを去るPerfumeの影を最後まで目で追い、メンバーそれぞれの名を叫ぶ声が飛び交うフロアには、時が過ぎる早さとパフォーマンスの充実に感嘆したヴァイブスで包み込まれていったようだった。
『ネビュラロマンス 前篇』のステージを観るに、未来の宇宙を舞台にしながら、ところどころでレトロモダンなアプローチを感じた。サウンドも含め、ドライでスリリングなモードだけでなく、ハートウォームやファンタジックな肌当たりが垣間見えるのは、地球や人間の荒廃や混沌を示しながらも、美しき地球や人間へ回帰できないかという問いを投げかけているようでもある。キャラクターとして登場するロボットアーミーは実は人間だというギミックや、バキバキのテクノポップ・サウンドだけではなく、ディスコやソウルといった腰を揺らし、魂に訴求するようなサウンド要素を組み込み、ところどころで人間味を匂わせるステージで具現化しているのも、その一つなのかもしれない。
架空のドラマのサウンドトラックとして手掛けた『ネビュラロマンス』という物語だが、前篇・後篇と2部に分けてまで描きたかったのは何になるのだろうか。古代ギリシアのホメロスの叙事詩『オデュッセイア』では、トロイア戦争で活躍するも島で囚われていた英雄オデュッセウスが、海神ポセイドンの恨みを買いながらも故郷に帰還し敵を討つという悲劇だが、中田ヤスタカはPerfume版『オデュッセイア』のような一大叙事詩を描こうとしているのか。その回答は、後篇のリリースとそのツアーが実現するまで分かりかねるが、可能であれば、前篇と後篇を合わせた形でのライヴも期待したいところだ。
この日のオーディエンスの反応は、やはり既存曲を連ねたサイドBの方が歓声も大きく、より熱気にあふれていたのだが、個人的にはサイドAの方がストーリー性はもちろん、ステージとしての完成度も高かったように感じた。曲毎にストーリーテリングが入るゆえ、通常のPerfumeのライヴで恍惚を得ているファンは、興奮の数珠繋ぎが得られにくいのは確かにあるが、Perfumeとしての表現力の才を嗜むことが出来るのは、圧倒的にサイドAだろう。次のツアーでチケットが取れるかどうかは分からないが、『ネビュラロマンス 後篇』の結末の行方も含め、通史として完成したサウンドトラックをどのように表現するのか、是非とも確かめてみたい。
◇◇◇
<SET LIST>
〈SIDE A〉
00 INTRODUCTION
01 The Light
02 ラヴ・クラウド
03 Cosmic Treat
04 Starlight Dreams
05 IMA IMA IMA
06 すみっコディスコ
07 Morning Cruising
08 タイムカプセル
09 時空花
10 メビウス
〈SIDE B〉
11 Cling Cling
12 エレクトロ・ワールド
13 Baby cruising Love
14 MC ~ P.T.A.のコーナー
15 FAKE IT
16 チョコレイト・ディスコ(2012-Mix)
17 ワンルーム・ディスコ
18 Baby Face
19 無限未来
<MEMBERS>
Perfume are:
a-chan / あ〜ちゃん(vo,dance)
KASHIYUKA / かしゆか(vo,dance)
NOCCHi / のっち(vo,dance)
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