PAJAUMI INTERNATIONAL SESSION @BLUE NOTE PLACE(20240717)
褐色のグルーヴが横溢する、ドープでフレキシブルな良質セッション。
クインテットとしては活動休止中の“パジャ海”ことパジャマで海なんかいかない。2024年は完全体の代わりにさまざまなプロジェクトやコラボレーションを展開しているなか、パジャ海主宰のBesshoとドラムのSeiyaの両名が、よりドープでセッション感の高いライヴを企図。米・カンザスシティ出身のA・ヴァリーとボルチモア出身のMJ・ザ・センセイという、東京を拠点としたデュオでも活動するMC/パフォーマーに加え、サンディエゴ出身で2011年に日本に移り住み、宮川純らとのバンド“Tribe of D”でも活動するサックス奏者のデイヴィッド・ネグレテを迎えた、文字通り国際色溢れるセッション・ギグ〈PAJAUMI INTERNATIONAL SESSION with A.VALLEY & MJ the sensei,David Negrete〉を開催。恵比寿ガーデンプレイスにあるBLUE NOTE PLACEにて行なわれるスペシャルな2日間限定のギグの2日目に足を運んだ。
当初参加予定だったA・ヴァリーだが、2日目は体調不良で欠席に。A・ヴァリーとMJ・ザ・センセイのラップの掛け合いが観られなかったのは至極残念だったが、その代役として登場したのは、なんとパジャ海のヴォーカリストのFiJA。MJ・ザ・センセイのラップとFiJAのヴォーカルという新鮮な組み合わせで、また違った味わいを醸し出してくれた。
パジャ海にA・ヴァリーとMJ・ザ・センセイを迎えたコラボレーションは、昨年9月の代官山UNITでのイヴェント〈DEEP DIVE〉(記事→「パジャマで海なんかいかない / NAGAN SERVER and DANCEMBLE @代官山UNIT〈DEEP DIVE〉(20230918)」)で観賞済み。詳細は当該記事に譲るとして、そこでも述べているように、ロバート・グラスパー・エクスペリメント『ブラック・レディオ』シリーズ的なブラック・ミュージック・ミーツ・ジャズを彷彿とさせるもので、粒立ちの良い音と褐色のグルーヴがたゆたう心地よい空間だったが、FiJAのヴォーカルが加わったことで、ソウルやブルースが持つ音像の渋みや深みといったものにも触れることになった。
1stショウ、2ndショウともに、冒頭曲はBesshoのピアノとSeiyaのドラムを軸としたインストゥルメンタルのセッションで幕開け。1stショウではデイヴィッド・ネグレテの麗らかな風情も感じるサックスを添えて、キラキラと水面が輝く清流が下っていくように、音とリズムがたおやかに時を動かしていく。
1stショウはMJ・ザ・センセイのラップとのセッションを中心に展開。MJ・ザ・センセイはインパクト強度の高いA・ヴァリーのフロウとは異なり、どちらかというと圧というよりも、ややドライに淀みなくフロウを繰り出していくタイプか。クレヴァーなリリシストという佇まいで、バンドが鳴らすビートのなかを遊泳するようなスタイルが心地よい。硬質なヒップホップのビートにも、フレキシブルなジャズ・セッションのような音にも自由自在に呼応できるスキルは、彼ならではの魅力だ。ネグレテの艶やかなサックスの音色との親和性も高かった。
「Insecurity」のサウンドをバックにMJ・ザ・センセイがラップを繰り出した後、「今日は実は、もう一人めちゃくちゃ上手いシンガーがいます」と流暢な日本語を発してFiJAを呼び込むと、この日の出演者全員が揃ってのパフォーマンス。ソウルフルで艶のあるFiJAのヴォーカルに寄り添うMJ・ザ・センセイのラップのコンビネーションも良く、バンドが鳴らす快活なグルーヴとの絡み合いは、たとえば、渡り鳥が自由に形を変えながらもさまざまな隊列で飛行する姿や、レオ・レオニ作の絵本『スイミー』よろしく海中で小さな魚が大きな魚に見えるように集まって泳ぐような、自由意志で逐一変化をしながらも、しっかりと抑揚をもって瞬時に束になる、闊達なパフォーマンスでオーディエンスの胸を躍らせた。
2ndショウでは、前述の代官山UNITでの〈DEEP DIVE〉にてA・ヴァリーとMJ・ザ・センセイがラップ共演した「HARU」を、BesshoとSeiyaのセッションのみで披露(もしA・ヴァリーが出演していたら、再びラップ共演する演目だったのだろうか)した後、MJ・ザ・センセイ、デイヴィッド・ネグレテ、FiJAが加わり、「Rain」「Blue」とパジャ海のオリジナル曲へ。オリジナルといっても、常にジャム・セッションやインプロヴィゼーション度合いが高いパジャ海ゆえ、ライヴでのアレンジは一期一会。ネグレテがジャズ/フュージョン・テイストの照りと昂揚をもたらすサックスを吹けば、Besshoの鍵盤とSeiyaのドラムが、時に鍔迫り合いのような丁々発止に、時にバトンリレーのように補完し合いながら、フロアのヴォルテージを上昇させるなか、FiJAとMJ・ザ・センセイの歌唱勢がその波に乗って感情を発露させていく。
“怪我の功名”ではないが、急遽FiJAの参加が決まったことで、アンコールにはおそらく当初は予定になかった「ドゥー・ワップ(ザット・シング)」が聴けたのはラッキーだった。同曲は言わずと知れたローリン・ヒルのヒット・チューンだが、個人的には、もうだいぶ前になるがローリン・ヒルの横浜BLITZ公演(記事→「LAURYN HILL@BLITZ」)を観賞した際、観客は絶賛する声が多かったようだが、2時間以上開演が遅れた上に、メロディも聴き取るのが難しいほど難解なアレンジと音響という、まったく賞賛に値しないパフォーマンスを体感したこともあって、パジャ海セッションによる「ドゥー・ワップ(ザット・シング)」がなんと心地良かったことか。Besshoの叩く鍵盤にSeiyaの推進力あるドラミング、ネグレテが印象的なフレーズを吹き、その活力湛えたグルーヴにFiJAの芳醇なヴォーカルとMJ・ザ・センセイのスタイリッシュなフロウとコーラスが乗る光景は、体躯と鼓動を揺らすことを抗えなかった。
楽曲数は少なめで、各30分2セットというミニ企画ではあったが、BLUE NOTE PLACEという洒脱な空間も相まって、シチュエーション、サウンドともに絢爛なステージを体感することができた。A・ヴァリーとの共演はいずれ再びあるだろう(と前向きに考え、先の楽しみにとっておこう)。FiJAというスペシャルなスパイスが加わった、2024年のパジャ海トランスフォーム・スタイルが放つグッドヴァイブスを満喫した夜となった。
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<SET LIST>
《1st show》
01 SEASONS (with David Negrete)
02 Rap Medley & Session I (with MJ the Sensei, David Negrete)
03 Rap Medley & Session II (with MJ the Sensei, David Negrete)
04 Insecurity (with MJ the Sensei, David Negrete, FiJA)
《2nd show》
01 HARU
02 Rain (with MJ the Sensei, David Negrete, FiJA)
03 Blue (with MJ the Sensei, David Negrete, FiJA)
《ENCORE》
04 Doo Wop (That Thing) (with MJ the Sensei, David Negrete, FiJA)(original by Lauryn Hill)
<MEMBERS>
Bessho(p,key / from PAJAUMI)
Seiya(ds / from PAJAUMI)
MJ the Sensei(MC)
David Negrete(sax)
FiJA(vo / from PAJAUMI)
Music Selector:
YonYon
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【パジャマで海なんかいかないに関する記事】
2023/04/23 パジャマで海なんかいかない @天王洲キャナルフェス(20230423)
2023/05/19 Mark de Clive-Lowe & Friends @BLUE NOTE PLACE(20230519)(Chloe出演)
2023/05/21 EYRIE / パジャマで海なんかいかない @CHELSEA HOTEL(20230521)
2023/06/27 Funkindustry / パジャマで海なんかいかない @O-nest〈colors〉(20230627)
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2023/11/02 パジャマで海なんかいかない @COTTON CLUB(20231102)
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2024/07/17 PAJAUMI INTERNATIONAL SESSION @BLUE NOTE PLACE(20240717)(本記事)