Jorja Smith @豊洲PIT(20241023)
ダイナミズム溢れる音とともに繰り出す、生命力漲るグルーヴ。
青の光で染められたステージに「ホワット・イフ・マイ・ハート・ビーツ・ファスター?」がSEとして流れ、僅かな暗転を経て、黄色のスポットライトに照らされたドラムとパーカッションが大地の蠢きを想わせる活力ある音を叩き出す。歓声や叫び声を上げるフロアの熱が高まるなか、8名のバンドメンバーが待つステージへおもむろに主役が登場。待ち侘びたファンの沸き上がる声や耳を突く喚声が交錯するなかで、もの憂げなムードを漂わせる「トライ・ミー」を皮切りにスウィートでパッショネイトなステージが幕を開けた。
英・ウェストミッドランズ・ウォルソール出身のシンガー・ソングライター、ジョルジャ・スミスの来日ステージは、2018年以来6年ぶり。ただ、その時はサマーソニックへの出演だったゆえ、単独公演としては初来日となる。
個人的には2018年のデビュー・アルバム『ロスト&ファンウド』が耳を惹いて以来、その動向を気にしていた存在で、翌年にはグラミー賞最優秀新人賞にもノミネート(受賞者はデュア・リパで、ノミネートにはビービー・レクサ、H.E.R.、クロイ&ハリーらというラインナップ)。一躍脚光を浴びる存在となり、2021年のEP『ビー・ライト・バック』を経て、2023年に2ndアルバム『フォーリング・オア・フライング』をリリース。今回はそのアルバムを掲げたツアーの一環、〈falling or flying TOUR 2024 JAPAN〉として大阪と東京にて連日のステージとなった。
左の高台にキーボード、その下に3名のバックヴォーカル陣、ギター、ベースを挟んで右にはドラムとパーカッションを配し、センターにはジョルジャ・スミスが時に妖しく、時に神々しく、ちょっとしたトークでは愛らしい表情も。
「トライ・ミー」を終え、「ブルー・ライツ」のイントロが聴こえるやいなや、即座に金切り声やドドドッと響く声でフロアが反応。個人的にもジョルジャ・スミスに触れた最初の曲だけに、感慨もひとしお。18歳の時にスターバックスの店員として働きながらサウンドクラウドにアップした楽曲が、彼女自身をスターダムへ伸し上げる嚆矢になるとは、当時は考えもつかなかっただろう。アンニュイとセンチメンタルが重なる決して派手な曲ではないが、ライヴにおいても懐深く浸透するこの曲が持つ力は壮大なものに。オーディエンスから自然とシンガロングが生まれ、静けさの中に情熱をもたらすがごとく、フロアに刺激を与えていく。
ツアータイトルに冠したアルバム『フォーリング・オア・フライング』収録曲を軸に、『ロスト&ファンウド』から最新シングル「ハイ」までを散りばめた、現時点でのジョルジャ・スミス・ベストといった曲構成。前半は『フォーリング・オア・フライング』からの楽曲を多く並べ、後半は『ロスト&ファンウド』やアルバム未収録曲などでオーディエンスの心を揺さぶっっていく。
正直な感想を言えば、会場なのかPAの問題なのかは分からないが、重低音の歪みがややきつく、時折気になることはあった。ただ、全体としてはバンドのクオリティは高く、ジョルジャ・スミスの曲世界を表現するために、良好なインスピレーションをもたらしていた。冒頭からインパクトを与えた、ドラムとパーカッションのダイナミズムもそうだが、3名のバックヴォーカル陣が絶妙のハーモニーを響かせることで、ジョルジャ・スミスのピュアネスや官能的なヴァイブスを的確にサポート。「フィーリングス」ではガンビアにルーツをもつ英ラッパーのJ・ハスの客演パートを男性バックヴォーカルが見事に振る舞い、終盤にはジョルジャ・スミスのもとへ近づき、見つめ合ってのデュエット・スタイルでフロアを沸かせる。そうかと思うと、後半の「フェブラリー・サード」では、3名がジョルジャ・スミスの脇に座り、ハートウォームなハーモニーを届けて、温かなヴァイブスで包み込む。直後の「ドント・ウォッチ・ミー・クライ」はじめ、時折孤独や喪失を感じさせるやや重い空気も漂う静謐でオルタナティヴなサウンドをバックに、ジョルジャ・スミスがモノローグのように歌うシーンとは対照的な世界観を作ることで、ステージにしっかりとした陰影を創り上げていた。
曲調はUKらしい哀愁や憂鬱が見え隠れした艶やかなネオソウル~R&Bを基軸にしながら、快活みなぎるファンクネスや、鮮烈なオルタナティヴ、アーシーなパッション、温和なゴスペル、レイドバックなレゲエビートなど、さまざまな要素を点在させながら、メッセージ性の高いヴォーカルワークを繰り出していく。どこかに葛藤を抱えながらも、自らに生まれる声を赤裸々に吐露していくようなジョルジャ・スミスの声色は、単に美しいというだけではなく、生きていく上では避けられない泥臭い部分、怒りや憎しみ、悲哀、やるせなさ、もどかしさといった感情にも触れた、生々しく人間味に溢れた妖艶さゆえ、焚きつけるような歌唱でなくとも、グッとオーディエンスの心を惹きつける。派手やかなメロディラインでなくとも、ステージをカラフルに照らし出したライティングよろしく、ステージから放たれる演奏には、さまざまな彩りが満ちたグルーヴが内包し、オーディエンスの五感をさまざまな角度から刺激していくようでもあった。
もちろん、賑やかなパフォーマンスが皆無という訳ではなく、オルタナティヴな音鳴りからクラップを伴って導かれた「ゴー・ゴー・ゴー」や、ラガビートが次第にパッションを滾らせていく「カム・オーヴァー」、そして「もっとパーティしたいでしょ?」と言わんばかりにオーディエンスを煽って突入した最新曲「ハイ」といった楽曲では、エネルギッシュやファンタジックが横溢。「ハイ」はハウスに重きを寄せたダンス・トラックというアレンジの妙もあって、いっそうパーティライクに。そのままの勢いで雪崩れ込むかと思わせて、流れを一旦断ち、冒頭でア・カペラを披露してから始まった「ティーンエイジ・ファンタジー」のなんと輝かしいことか。ジョルジャ・スミスにも微笑みが溢れ、表情豊かに身体を揺らして歌う姿は、神々しくすらあり、促される間もなくシンガロングがフロアを埋めるのも納得だ。
続く「ビー・オネスト」でもシンガロングやコール&レスポンスの波がとめどなく起こり、バックヴォーカル陣がジョルジャ・スミスと並んで、さらなる興奮をもたらしていく。引き続きバックヴォーカル陣を横に従えての「オン・マイ・マインド」では「もっと大きな声で!」の煽りも飛び出し、シンガロングや歓声の波は留まることを知らない。
さらに、歓喜の声がフロアを駆け巡るなか、推進力のあるパーカッシヴなビートが先導する「リトル・ライツ」でクライマックスへ。“Just the little things that get me high”(ちょっとしたことでハイになれるわ)のフレーズのごとく、音に乗るジョルジャ・スミスの一挙手一投足に視線を注ぎながら、歓声が響き渡っていく。紅潮したようにも見える表情と身体の揺らぎを見るに、日本での確かな充実を感じていたのではないだろうか。グライム感を放つアウトロにて本公演で一番のコール&レスポンスが起こると、思わず「I love it!」の言葉も飛び出した。
抑揚を巧みに操りながら生命力と官能を行き来したバンド・サウンドを背にして、艶やかに、ピュアに、芯の強さを放ちながら、自らの存在価値も露わにした、示唆と躍動に富んだ90分。人間に宿るエナジーやタフネスといったものも窺わせた、上質で至極の一夜となった。
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<SET LIST>
00 INTRODUCTION ~ "What If My Heart Beats Faster?" (*F)
01 Try Me (*F)
02 Blue Lights (*L)
03 Addicted (*B)
04 Feelings (feat. J Hus) (*F)
05 Greatest Gift (feat. Lila Ike) (*F)
06 Broken is the man (*F)
07 She Feels (*F)
08 Where Did I Go? (include member introductions) (*L)
09 Falling or Flying (*F)
10 GO GO GO (Feat. Josman) (*F)
11 Burn (*B)
12 Too many times (*F)
13 Backwards (*F)
14 February 3rd (*L)
15 Don't Watch Me Cry (*L)
16 The One (*L)
17 Come Over (feat. Popcaan)
18 High
19 Teenage Fantasy (*L)
20 Be Honest (feat. Burna Boy)
21 On My Mind (Jorja Smith X Preditah)
22 Little Things (*F)
23 OUTRO
(*L):song from album "Lost & Found"
(*B):song from EP "Be Right Back"
(*F):song from album "Falling or Flying"
<MEMBERS>
Jorja Smith(vo)
Amane Suganami(p,key)
Thomas Fabian Totten(g)
Mutale Chashi(b,syn)
Jas Kayser(ds)
Richie Sweet(perc,ds)
Alyssa Harrigan(back vo)
Peace Oluwatobi(back vo)
Joel Baely(back vo)
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