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ICE @The Garden Hall(20241214)
時がもたらす儚さと希望に触れた、芳醇なひととき。
フランチェスコ・パオロ・トスティが1887年に作曲した「最後の口づけ」(L'ultimo bacio)から名を拝借したかどうかは分かりかねるが、恵比寿ガーデンホールにてウィンターシーズン恒例のイヴェント「L'ULTIMO BACIO」(ルルティモ・バーチョ)が、本年も開催。2022年はインコグニートも名を連ねていた(記事→「INCOGNITO @恵比寿The Garden Hall」)本イヴェントだが、2024年は12月14日から17日と、22日からクリスマスの25日までの8日間にわたって開催。7組のアーティストが日替わりに登場するその先陣を切り、初日に「L'ULTIMO BACIO Anno 24 〜ICE Live “FUTURE is now!”〜」と題してICEが登場。ホワイエでは厳選されたワインやフードが楽しめ、中央から後方にかけてゆったりした座席が用意されたプレミアムシートには2階に専用エリアがあるなど、“クリスマスのイルミネーションに囲まれて、上質な音楽とゆったりした時間を楽しむ”というコンセプトのイヴェントに相応しい、アダルトかつスタイリッシュなサウンドで、シャンデリアが輝くガーデンプレイスに音の花を添えた。
目黒のブルース・アレイ・ジャパンなどでは休憩を挟んだ2部制のステージも行なってきたICEだが、ガーデンホール規模での2部制は初めてとのこと。ガーデンホールでの観賞となると、個人的にはスタンディングでのライヴばかりだったから、なかなかに新鮮だ。そして、最前列という良席に当たり、最も近い距離でICEバンドを堪能するという幸運にも恵まれた。
ICEのライヴは、昨年7月の渋谷クラブクアトロ公演(記事→「ICE @渋谷CLUB QUATTRO(20230704)」以来。当初は、今年の3月17日に行なわれた六本木 EX THEATER ROPPONGIでのワンマンライヴ「『Thank you』 -ICE 30th anniversary-」に行く予定だったが、PJモートンの来日公演(記事→「PJ Morton @The Garden Hall(20240317)」)と重なってしまい、泣く泣くキャンセル。すると、宮内和之も“降臨”し、セッションする演出もあったと耳にするにつれ、その場にいられずになんとも惜しまれてならないが(とはいえ、PJモートンのライヴも素晴らしかった)、それだけに最前列でICEのグルーヴに浸れる時間を存分に堪能したいという想いを秘めながら、今や遅しと開演時間を待った。
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ベースの小川真司が体調不良により、大事を取って出演をキャンセルした以外は、お馴染みの盟友たちがメンバーに揃った。小川の代役には、財津和夫や鈴木聖美などのバックバンドを務めるほか、J-POPシーンのヒット・アーティストの作品を手掛けるベーシストの山内和義が参加。メンバー紹介の際に笑顔のピースサインとともに発せられた「任せて!」の声に、フロアからは拍手と期待や信頼が寄せられていた。右端にはギターの田口慎二。
「L'ULTIMO BACIO」のイヴェントでのステージという位置づけだから、という訳でもないだろうが、第1部、2部ともに比較的しっとりとした洒脱なムードを醸し出す楽曲群を選曲。爽やかなスウィートネスを醸した「C'est La Vie」から幕を開けると、「Take Me Away」「Sherry My Dear」ではグッと深みあるムードへと滑り込ませる。濃厚な夜へと没入するような妖艶な「Take Me Away」と下からジワジワと突き上げる田口のギターの嘶きに身体が疼く「Sherry My Dear」は、アダルトなICEをつまびらかにするのにふさわしいパフォーマンスだった。
“人は儚い夢を見る”というファンがICEへ抱き続けている“夢”を示しているかのような「LOVE IS EVERYTHING」で、濃厚な音世界の深みから光の差す方へと抜け出すと、ドンドンドンという山下のドラミングがギアを加速させ、「BABY MAYBE」から「Love Makes Me Run」というキラー・チューンへと移行。麗しいコーラスとともに華やかな彩りも満ち溢れ、たまらず観客も次々とスタンドアップ。ICEが放つ快活なグルーヴに身を委ね、高揚と恍惚を体躯に宿らせていた。
15分のインターバルを挟んでから、第2部は「LIVIN' IN THE CITY」からスタート。妖艶なヴァイブスが覆いながらもグイグイと推進力を増しながら駆け抜けるロック・ダンサーで、つかの間の休憩で仄かに落ち着き始めた興奮を、再び焚きつけていく。
通常のライヴならこのまま一気にギアを上げてクライマックスへ……という流れにもなりそうだが、齷齪しないゆとりも覚えたアダルトな年齢層が多く占めていることも踏まえてか、一曲ごとにその味を噛み締めるスタイルで、「We're In The Mood」でスローダウン。激しく揺れる楽しみは後にとってあるから、とでも言いたげな大人のアティテュードで、ソウルフルな薫香に酔う時間を繰り広げていく。
ICEの美しくソウルフルなメロディを堪能する最適解のひとつといっていい「Sausalito Callin'」で、ハイトーンファルセットやスキャットと崩場将夫の鍵盤との美しくたおやかな寄り添いを披露すると、黄昏と希望がないまぜになった感情を呼び起こす「I saw the light」へ。センチメンタルやノスタルジーを帯びながらも、憧憬や消えることのない情感を再び灯すメロディやバンド・アンサンブルから放たれるグルーヴは、人生の時を重ねてきたファンたちにとっては、より胸を穿つものとなった。
国岡真由美は「MCは苦手で、気の利いたことも言えないので……」と言いながら、「でも、メンバーも休みたいよねぇ……あっ、休みたいとか言っちゃいけないか」とつい口をこぼしてしまうなど、ちょっとした笑いが生まれるのも、ICEのステージならでは。そんな微笑ましい空気が、山下のドラムカウントを境に一瞬にしてムードが変わり、「GET ON THE FLOOR」からは再び、グルーヴが駆け抜ける展開へ。「SLOW LOVE」は洒脱な質感が映える、いつもよりエレガントかつ軽やかに感じたアレンジだったが、全く軽薄にならないのは名曲たるゆえん。そして、田口が嘶かせ掻き鳴らすアウトロのギターが、存分に名曲の余韻へと導かせてくれた。
終盤は「RED MOON」から「WAKE UP EVERYBODY」へと、ICEの佳曲に通底する上質で美しいソウルネスを発露させ、刹那的とは異なる、五感をゆっくりと刺激し、胸の内に絶えないたおやかな炎を宿す“メニュー”で、メインディッシュを締めくくった。
“食後のデザート”となるアンコールは、メジャー・デビュー前に録音されるも、1stアルバム『ICE』収録に漏れた未発表曲「COME ON EVERYBODY」と「kozmic blue」の2品。「COME ON EVERYBODY」は、30年目に日の目を見ることになった“新曲”ならではのフレッシュネスや当時の野性味と勢いが相まったフロアキラーで、艶やかに叫ぶ国岡の“COME ON!”とバンドのファンクネスが秀逸。今後のICEのライヴでもクライマックスやポイントとなる場面に配されそうな、胸躍るステージングだった。
クラップに包まれながら始まったラスト「kozmic blue」の前に、「来年のデビュー4月7日に、渋谷クラブクアトロでまたライヴをやります!」と告知をした国岡。この日は「楽しいね」と口々に発し、自身もICEでの充実を実感していた。
節々のMCで30周年イヤーについて口にする場面があり、4月で30周年は一区切りついたものの、なんとなくその余韻を残しながら走ってきた、というこの一年。「私の予想を超えてライヴが出来ましたよね」とファンに感謝を述べつつ、「私が歌っていく限り、ICEは続いていくということなので」との言葉には、オーディエンスが万雷の拍手で応えるのはもちろん、この先も確かにICEが針を進めることに安堵と希望を得た瞬間でもあった。
「これからも一緒に楽しみましょう」という国岡の言葉に触れ、30年を経ても新鮮で心を動かすのは何故なのかという想いが、ふと頭をもたげた。すでに夢を見ることを捨てた、あるいは忘れた世代が、ICEの楽曲を体感することで夢を見ている、見ようとしているからなのかもしれない……そんなことを思い描きながら、煌めくイルミネーションに沸く人たちを横目に、ガーデンプレイスを後にしたのだった。
◇◇◇
<SET LIST>
〈1st Set〉
00 INTRODUCTION
01 C'est La Vie (*F21)
02 EYES
03 Take Me Away (*SD)
04 Sherry My Dear
05 LOVE IS EVERYTHING (*S1)(*F21)
06 BABY MAYBE (*WM)
07 Love Makes Me Run (*SD)
08 SHINE (*WM)
〈2nd Set〉
00 INTRODUCTION
01 LIVIN' IN THE CITY (*MS)
02 We're In The Mood (*WM)
03 Yes, I Do (*SD)
04 Sausalito Callin' (*SP)
05 I saw the light (*S2)(*Fm)
06 GET ON THE FLOOR
07 SLOW LOVE
08 RED MOON (*SP)
09 WAKE UP EVERYBODY (*WE)
《ENCORE》
10 COME ON EVERYBODY
11 kozmic blue (*I3)
(*WE):song from album "Wake Up Everybody"
(*I3):song from album "ICE III"
(*WM):song from album "We're in the Mood"
(*SD):song from album "SOUL DIMENSION"
(*MS):song from album "MIDNIGHT SKYWAY"
(*SP):song from album "SPECTRUM"
(*S1):song from album "SPIRIT vol.1"
(*S2):song from album "SPIRIT vol.2"
(*Fm):song from album "Formula 21"
<MEMBERS>
国岡真由美(vo)
山下政人(ds)
山内和義(b)
崩場将夫(key)
田口慎二(g)
柴田章子(cho)
鈴木精華(cho)
◇◇◇
【ICEに関する記事】
2013/10/04 ICE@下北沢GARDEN
2015/03/19 ICE@BLUES ALLEY
2019/01/26 ICE@横浜Bay Hall
2019/10/12 My Favorite Songs of ICE〈prologue〉
2019/12/16 My Favorite Songs of ICE〈epilogue〉
2021/09/26 国岡真由美 with ice BAND @BLUES ALLEY JAPAN
2021/11/21 国岡真由美 with ice BAND @BLUES ALLEY JAPAN
2023/04/21 ICE @WWW
2023/07/04 ICE @渋谷CLUB QUATTRO(20230704)
2024/12/16 ICE @The Garden Hall(20241214)(本記事)
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