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Tinashe @豊洲PIT(20250115)

 熱狂を前に華やかに歌い舞った、充実一途の“ナスティ・ガール”。

 R&Bを出自としながら、ポップやヒップホップなどを融合させた先鋭的なサウンドでボーダーレスな活躍をしている、米・ケンタッキー州レキシントン出身、カリフォルニア州ロサンゼルス育ちのシンガー・ソングライター/ダンサー/女優のティナーシェ(写真によってはほんの少しだけ板野友美っぽさを感じるのは自分だけか)。2024年10月のカリフォルニア州アナハイム公演を皮切りに、15回目のツアーとなる〈マッチ・マイ・フリーク:ワールド・ツアー〉(Match My Freak: World Tour)をスタートさせたが、その日程において、北米、オーストラリアに続き、大阪と東京での来日公演を組み込んできた。来日初日の大阪公演の翌日となる、2025年1月15日の東京公演に足を運んできた。会場は豊洲PIT。

 ティナーシェについては、過去何度か記事で触れてきたのだが、以前年間ベスト・アルバム発表に近い主旨でエントリーしていた「MY FAVORITES ALBUM AWARD 2014」において、メジャー・デビュー・アルバム『アクエリアス』をピックアップ。アーバンかつアンビエントな要素も採り入れ、のちにいわゆるオルタナティヴR&Bの先駆けとなった存在として、注目していた。当初は“ベイビー・ビヨンセ”などとも評されていて、それに対して当該記事では「ビヨンセというよりアリーヤに近いのでは」といった主旨のことを記していたが、近年のアルバムでビヨンセがR&Bという枠組みなどをとっくに捨てて、カントリーまで包含しながらエクスペリメントな作品を出すに至っていることを考えると、ティナーシェが『アクエリアス』発表時に帯びていたオルタナティヴR&Bの枠を飛び越え、ヒップホップやビート・ポップなどにも寄り添っているところをみると、結果的に“ベイビー・ビヨンセ”だったということもあながち間違っていなかったか。

Tinashe 〈MATCH MY FREAK 2025 WORLD TOUR〉 at Osaka, Tokyo

 会場には自分のような『アクエリアス』前後にティナーシェに出会ったと思しきミドルエイジャーから、TikTokのダンス動画を端緒に世界的なバイラル・トレンドとなった「ナスティ」(同曲使用のTikTok動画の視聴回数はトータル130億回超、同曲ストリーミングは4億5500万超)あたりで知ったと思しきティーンまで、幅広い層が集った。世代は20代~30代女性がコアだろうか。自分が観た位置の周囲はギャルばかりだったが(笑)、メジャー・デビュー前のミックステープ群が出たのが2012年頃で、「ナスティ」も収録された最新7thアルバム『クァンタム・ベイビー』が2024年と、その差が10年以上あるのだから、当然と言えば当然か。ただ、豊洲PITのキャパシティ(約3100)を考えると、集客はその半数に届いたかどうかというくらいの感覚ではあった(それくらいの方が見やすくていいのだけれど)。

 曲構成は、2021年の『333』と2023年『ベイビー・エンジェル』から各4曲、2024年の『クァンタム・ベイビー』から7曲と、2020年以降のアルバム近3作を軸としているから、ほぼ『クァンタム・ベイビー』リリースツアーといっていいか。それゆえデビュー当初の作風はあまり窺えなかったが、それでも『アクエリアス』からはティナーシェにスポットライトを当てることとなったヒット曲「2・オン」や「オール・ハンズ・オン・デック」、2nd『ナイトライド』から「パーティ・フェイヴァーズ」と初期曲もラインナップ。開演前のBGMには、Awich「GILA GILA feat. JP THE WAVY, YZERR」やOZworld「MIKOTO 〜SUN NO KUNI〜 feat. 唾奇 & Awich」、P-free & 18stopの「DO DO DON」といったジャパニーズ・ヒップホップも流れていて、選曲がアーティスト側だとしたら、R&Bよりもヒップホップに重心を置く現時点を反映したものとも考えられそうだ(Awich好きなのかな)。

 ステージは、バンドではなく音源と映像によるR&B/ヒップホップのライヴらしいスタイル。背後の大きなスクリーンを駆使した効果的な演出の前に、ティナーシェとマッチョな男性ダンサー4名が所狭しと縦横無尽に動き回る。ティナーシェのダンサーとしての才も発揮する、ダンサーとのダイナミックでエネルギッシュなダンス・パフォーマンスや、シンガーとしてパワフルに歌い上げるアクト、ダンサーがカメラマンとなってティナーシェやフロアのオーディエンスを映し出すなど、さまざまな場面でステージとスクリーン映像とリンクさせるから、視覚的な飽きを生まない、刺激的な演出が絶妙。ティナーシェは歌わず、ヴィデオを流したり、ダンサーのみのパフォーマンス時の装飾となったりと、インターミッションの役割も持ち合わせていた。

 イントロダクションから「ナスティ」のリミックスが用いられ、ラストも「ナスティ」のリミックスを用いたオーヴァーチュア的なトラックに乗せてダンサーがパフォーマンスを見せてから、ティナーシェが登場して「ナスティ」へ繋げたりと、最初と最後をバイラルヒットとなった「ナスティ」で挟んだ構成。振り返ってみれば、全米シングルチャートでは2014年の「2・オン」(24位)以来、全米R&Bチャートでも2018年の「ミー・ソー・バッド」以来ランクインがなかったところで、「ナスティ」が久しぶりに全米61位、全米R&B4位、全米リズミック(=R&B/ヒップホップ、リズミック・ポップ、ダンス・トラックの一部)で「2・オン」以来の1位)と好記録を収めたのだから、大々的にフィーチャーするのも納得だ。

 全般的に、楽曲は全曲がフルサイズではなかったが、ダンサーとのコラボレーションを軸に沸かせる場面を押さえて構成されていて、MCもほぼなく次々と楽曲が繰り出されるテンポの良さが、フロアの興奮を高める一つの要因となっていたと感じた。退屈などという言葉の存在を遥か彼方に追いやったくらいの歯切れの良さで、ファンたちがティナーシェの一挙手一投足に目を凝らし、歓声を上げるというシーンが繰り返されていた。MCもほぼなく曲が次々と繰り出され、(自身も踊る)ダンス・パフォーマンスとともに圧倒するというステージングは、日本では、熱狂的なファンの歓声も含めて、安室奈美恵のそれに近い感じもした。

 「ゲッティング・ノー・スリープ」から本編が幕を開けると、イントロが流れる毎に黄色い金切り声が響く。特に自発的にシンガロングが生まれた「リンク・アップ」や、「バウンシン」の後にステージに横になったティナーシェが男性ダンサーと濃密な“絡み”を展開した「バウンシン・パート2」、ティナーシェをスターダムに導いた「2・オン」などで、ギアがググっと上がったのを実感。

 また、インターミッション的に「シャイ・ガイ」のヴィデオを流している間にバックヤードに戻り、メイクを整えているティナーシェをカメラで捉え、それに気づいたティナーシェが恥ずかしそうな表情をしてから歌い始め、ステージへ再び向かうシーンをスクリーンに映し出した「クロス・ザット・ライン」では、ダンサーが構えるカメラがオーディエンスをバックにハートマークを作るティナーシェを映し出すなど、キュートな表情も垣間見えた。同様にオーディエンスを映し出しながら、クラップとともにシンガロングに包まれた「オール・マイ・フレンズ」では、ティナーシェを愛するファンたちとその声援に応えるティナーシェ・チームの感情とハートフルなマインドがシンクロしたような、一体感と昂揚が横溢した瞬間となった。

 そして、クライマックスはファンお待ちかねの「ナスティ」。リミックス音源をBGMにダンサーたちがソロダンスを披露した後、トラックが終わり、暗転とともにほんの一瞬静寂が挟み込まれた直後に、満を持して“クイーン”が再登場。シンガロングとティナーシェの腰を動かすダンスの度に沸く甲高い喚声がないまぜになり、この日最も大きい歓声となってフロアを支配していった。

 個人的にはデビュー当初のオルタナティヴR&Bの先鋒としての楽曲を多く期待していたが(アーバン、アンビエント、オルタナティヴなネオソウルといった作風の後進を生んだシーンの先鞭をつけたという意味では、ティナーシェはもっと評価されてもいいと思う)、本公演ではそこへ重点を置くステージが観られなかったにせよ、しっかりと進化と成長を続けている現在進行形のティナーシェとしてのパフォーマンスが体感できたのは良かった。ワンマンライヴではやや短く感じる約75分も、演出とテンポの良さで不足感はなく、充足感に満ちたものとなった。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION~"MATCH MY FREAK" INTRO(include phrase of "Nasty" Remix)
01 Getting No Sleep  (*Q)
02 When I Get You Alone  (*Q)
03 Needs  (*B)
04 Link Up  (*S)
05 Bouncin  (*3)
06 Bouncin', Pt. 2  (*3)
07 Thirsty  (*Q)
08 Red Flags  (*Q)
09 ZOOM (Machinedrum feat. Tinashe)(VIDEO)
10 The Worst In Me (original by KAYTRANADA feat. Tinashe)
11 Save Room for Us  (*S)
12 Throw A Fit
13 Gold Teeth (original by Blood Orange feat. Project Pat, Gangsta Boo & Tinashe)(VIDEO & Dancer Section)
14 Talk to Me Nice  (*B)
15 X  (*3)
16 Unconditional  (*3)
17 Party Favors  (*N)
18 All Hands on Deck  (*A)
19 2 On  (*A)
20 SHY GUY (VIDEO)  (*3)
21 Cross That Line  (*Q)
22 Uh Huh  (*B)
23 Gravity / Superlove(Mash Up)  (*B)
24 All My Friends (original by Snakehips feat. Tinashe & Chance The Rapper)
25 No Broke Boys  (*Q)
26 Nasty (Match My Chic Remix) (original by Tinashe, KAYTRANADA)(VIDEO & Dancer Section)
27 Nasty  (*Q)
28 OUTRO(BGM "Nasty" Remix, "Squabble Up" by Kendrick Lamar)

(*A): song from album "Aquarius"
(*N): song from album "Nightride"
(*J): song from album "Joyride"
(*S): song from album "Songs for You"
(*3): song from album "333"
(*B): song from album "BB/Ang3l"
(*Q): song from album "Quantum Baby"

<MEMBERS>
Tinashe / ティナーシェ(vo)
(dancer)
(dancer)
(dancer)
(dancer)

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【Tinasheに関する記事】
2015/01/11 MY FAVORITES ALBUM AWARD 2014
2016/12/18 近況注意報 1217 音楽篇
2017/05/05 近況注意報 0505 音楽篇
2020/01/05 MY IMPRESSIVE ALBUMS in 2010s ERA
2025/01/15 Tinashe @豊洲PIT(20250115)(本記事)


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