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aimi @WWW(20250221)

 許容する強さを持って辿り着いた、歓喜と感謝を湛えた初宴。

 チケットの整理番号もそれほど悪くもなく、可能ならいいポジションを確保し、ライヴ前の雰囲気からしっかりと体感したかった。aimiの約3年ぶりの4th EP『Empower.Embrace』のリリースを記念したワンマンライヴ〈First One Man Show -EP Empower.Embrace Release Live-〉は、日頃の行ないが良くないせいなのか? 会場へと気持ちが逸るなか、さぁ向かおうとした矢先にトラブルが舞い込んできてしまった。その対応で予想以上に手間取り、だいぶ開演時刻から過ぎてしまっていたので、逸る気持ちも冷めかけて、なかば諦めの境地へと差し掛かっていた。

 だが、通常のライヴならまだしも、aimiのキャリア初のワンマンライヴという、この時しかないステージだ。最悪のケース、アンコールの1曲だけしか聴けなかったとしても--昨年のブルーノートプレイスでのライヴ(記事→「aimi @BLUE NOTE PLACE(20240419)」)でラストを飾った、“Do that, do that, yeah yeah”のコール&レスポンスが往来するマイフェイヴァリットな「KMHH」を最後に歌うはず! という謎の根拠のない自信もあって(笑)--、短い時間だとしてもその場の空気を肌身に感じられたら、という想いもあって、何はともあれ、カーテンコールまでに辿り着ければと願いながら、夜の渋谷のセンター街を駆け抜けた。

 運が良くないが、悪くはなかったのか、そもそも20時開演という平日のライヴにしては遅めだったことが助けとなり(どこかで19時スタートと勘違いしていた…苦笑)、到着した時にはゲストの一人であるEMI MARIAの声が聞こえた中盤頃と、まだ十分楽しめる時間が残されてはいた。扉を開けるまでもなく、歓声などからその盛況ぶりが窺えたが、扉を開けて見えたのはステージのaimiの勇姿……ではなく、上段まで埋め尽くされた観客の姿や影ばかりだった。多少見づらさもあったが、フロアに熱気と歓声が立ち込めているのを感じ、嬉しい感情が優ったのが正直なところだ。

 そんな出遅れで観始めたライヴだが、最初から観ている訳ではないので、全体を俯瞰したライヴ評はもちろん、構成などの意味や位置づけも部分的な解釈でしかなくなってしまうゆえ、当初はライヴレヴューを書くつもりはなかった。とはいえ、せっかくの貴重な初ワンマンライヴでもあるし、個人的な備忘録として後半から観た感想を残しておくことにした。

aimi 〈First One Man Show -EP Empower.Embrace Release Live-〉

 バンドは左端にDJ DAISHIZEN(DJ/マニピュレーター)、右端にGakushi(key/バンドマスター)という久保田利伸クルーでもおなじみの辣腕を両脇に配して、その久保田やCrystal Kay、清水翔太ほかのツアーに参加している堀井慶一(b)と、個人的にはNao Yoshiokaやeill、NAGAN SERVER and DANCEMBLEといったライヴにて生演奏を観た松浦千昇(ds)を中央に置く、ギターレスの布陣。記念すべき初のワンマンライヴに強力な後押しをしてもらいたいというaimiの想いを叶えるべく、精鋭たちが集った。
 そして、EMI MARIA、JASMINEというR&Bシンガーと、aimiとともにコミュニティ「R&B Lovers Club」を立ち上げ、ポッドキャスト「Detox Lounge」でも共演しているフリーダンサー/DJのYacheemi(ヤチーミ)がゲストとして登場。R&Bらしく華やかで上質な才を持つ面々たちの手を借りて、メモリアルなR&Bショウが繰り広げられていた。

 EMI MARIAは、だいぶご無沙汰となってしまっていた。拙ブログを振り返ってみると、2010年のメジャー・デビュー・アルバム『CONTRAST』(記事→「EMI MARIA『CONTRAST』」)についてや、そのリリースパーティ(記事→「EMI MARIA@ASTROHALL」)以来のようだから、もう15年(!)も前のことになる。『CONTRAST』はヒットして、個人的にもR&Bシーンの新星として期待を寄せ、好んで聴いていた記憶がある。
 すっかり“ママ”としての貫禄も見えるEMI MARIAの歌声には、繊細な機微を辿るのと同時に、どっしりと揺るがない体感の強さを感じられた。しっかりと聴けたのは「How's The Weather?」からだったが、R&Bの魅力がふんだんに溢れるスウィートなミディアムスロー・ジャムを、互いにリスペクトを交わしながら、褐色のグルーヴに乗せていく姿が印象的だった。

 続く「Good Without You」ではYacheemiがステージイン。スウィートなムードから一転、哀愁と熱情が入り混じるラテンやエスニック風のビートが敷かれるなかで、小気味よい“パラッパパッパ”のフレーズと2人のダンスが交差していく。翳りを抱きながらもホットなパッションを焚きつけていくアプローチは、aimiの魅力が最も現れる作風の一つで、バンドメンバー紹介も含めつつ、後半戦へ勢いをつけるギアチェンジのアクトとなっていた。

 そのムードを受け継いだ「No One Is」でも、ヒップホップやレゲエを強調したアフロビーツで、セクシーかつホットなムードを描出。セクシーかつ推進力あるビートゆえ、そのまま続けてYacheemiとダンスコラボレーションしても良かったのではないかという感じも。 

 そんな腰に響かせるビートの流れは、タイラ「ウォーター」のカヴァーにも繋がっていき、ここでYacheemiが再登場。フックにてオーディエンスのシンガロングのなかで腰を揺らすダンスを繰り広げると、「R&Bでこんなに踊れるって、誰が思ったでしょうか?」「2025年、流行っちゃうんじゃないですか?」とaimiが言い放つほどの心地よさを体現していた。終演後に発表されたセットリストによると、前半にスザ「スヌーズ」のカヴァーもやったようだが、自身の楽曲をダンサブルなビートで彩るパートに合わせたアレンジで、「ウォーター」というR&Bヒット・カヴァーを挟むという着想は、aimiが常にR&Bという音楽と背中合わせで生きてきたということを、無意識のうちに伝えているようにも感じた。

 この日の大きなトピックの一つが、aimiから“R&Bクイーン”として呼び込まれたJASMINE。このクレイジーな女性となら、aimiが届けたいR&Bを創ることが出来るんじゃないかと思ったというJASMINEとは「Risk It All」を披露したが、ラップパートの出だしで歌詞に詰まってしまう場面が。JASMINEは昨年7月のBLUE NOTE PLACE公演(記事→「JASMINE @BLUE NOTE PLACE(20240712)」のアンコールでもスムーズにいかないこともあって、ルックス的には“女だからって舐めないで”みたいなクール&セクシーなイメージが強かったりするけれど、意外とおっちょこちょいなタイプなのかも(笑)。
 ただ、そこはaimiがしっかりとフォロー。「もう一回続きやろう? ア・カペラで」と投げかけると、ラップパートをア・カペラでデュエットするというファンにとって嬉しい“おかわり”で、ハプニングをサプライズへと変えていった。短い何気ないパフォーマンスだったが、失敗してもまたやり直せるし、それを含めて愛おしい人生……というaimiの信念のようなものが、そのサプライズの奥底に宿っていたのかもしれない。

 JASMINEはEMI MARIAの「Right Now」に客演していることもあるし、aimiとのトリプルコラボレーションもあるかと期待したが、そこまではなし。それでも、“First year of the Heisei”と歌い、2009年のデビュー以来、平成のR&Bシーンを歩んできたJASMINEと、同じく平成生まれではあるものの、令和のR&Bシーンの再燃に躍起になり、初めてワンマンライヴに漕ぎつけたaimiとのステージでの邂逅は、2008年のDOUBLEのSTUDIO COAST公演(記事→「DOUBLE@STUDIO COAST」)のアンコールで、DOUBLEと安室奈美恵がコラボレーションした「BLACK DIAMOND」のパフォーマンスを脳裡に浮かび上がらせた。

 DOUBLEと安室奈美恵、JASMINEとaimiのそれぞれのパフォーマンスの比較ということではなく、当時のDOUBLEがリリースしたベスト・アルバムやツアータイトル、そしてこの公演で叫んだフレーズが“WE R&B!”だったように、“R&B”に熱い想いと情熱を傾けたディーヴァたちが、時代を重ねた令和にもしっかりと息づいていて、その信念や愛着が連綿と受け継がれていることを証明した瞬間だったのではないか、ということ。歌唱を終えてすぐ、JASMINEがお茶目に「ゴメンナサーイ!失敗しちゃったーッ!」と謝ったようにパーフェクトなパフォーマンスではなかったが、確固たる意志を持ってR&Bを継承し、歌い紡いでいくんだというパッションが、「Risk It All」のコラボレーションには存在していた。

 その熱気も冷めやらぬまま、ジェイ・Zとビヨンセの「03' ボニー&クライド」をイントロダクションに「Sippin' Sake」へ雪崩れ込むアレンジで、次なるR&Bエナジーを投下。ドリンクをちびちび飲むという意味の“sippin'”になぞらえて、グラスを片手にセクシーなパフォーマンスで沸かせると、バンドメンバーについて語った後に、アコースティック・アレンジで「You Are」を。後半の伸びやかなフェイクには、フロアから声も上がっていた。

 後半は4th EP『Empower.Embrace』の楽曲を軸に展開。「I'm OK」の前には、完璧主義で不安ばかりが募り、喉の手術もあって、歌が思うように歌えない時期を過ごし、もう歌うことを辞めようとさえ思っていたと一昨年あたりからの心情を吐露。だが、不完全な自分を認めるしかないと思ったのをきっかけに、そんな自分を初めて抱きしめられる瞬間に出会い、ふと歌いたいという力が沸いてきたと、近年の苦悩から脱け出した心境を噛み締めるように語り、自分もそうだったように、100点の自分を愛してあげられない人にも大丈夫、心配いらないと伝えたいという想いを込めて「I'm OK」へと滑り出した。非常にパーソナルで重い話ではあるが、それをキュートな振り付けとともに軽快なリズムで歌ってしまうところが、aimiの良さであり、R&Bの妙でもある。軽やかに“OK! OK! OK! ~”と歌いながら、指で文字通りOKマークを作るパフォーマンスは、葛藤や苦悩に苛まれた経験があるからこそ、明るく“問題ない!”と伝えたいというaimiの心配りにも思えた。

 「The Wave」では残念ながらFurui Rihoは登場せず、音源での共演に。aimiとFurui Rihoについては、過去記事に譲るが、aimi経由でFurui Rihoを知った自分としては、Furui Rihoが先にメジャーとして注目されるなかで、EPのテーマとなっている“Empower”(力を与える)と“Embrace”(受け入れる)をもとに、“不完全な自分を受け入れるパワー”という武器を得た“ニュー”aimiが、aimiの逆襲とでも言わんばかりに「お待たせしました。さぁ、これから行きますよ」と拳を鳴らす感じもして、凛々しく映った。

 以降は『Empower.Embrace』の楽曲でクライマックスへ。タイトルにある“Wish”よろしく希望や願いを表わすような明澄なライティングがフロアを照らした「Wish You Better」を終えると、「ここに来られなかった人を嫉妬させましょう!」と高らかに告げて、“私たちは最強である”ということを思い起こさせるソウルフルな「The Bdst.」へ。ブラック・ミュージック・シーンでは特に“エンパワー”という言葉が使われる気がするが、この“私たちは最強である”というフレーズや想いは、誤解を恐れずに言えば、前に触れたDOUBLEの“WE R&B!”と言い換えることも出来るのかもしれない。
 そして本編ラストに選んだのが、華麗ながらも情熱に満ちた「Black Coffee」。奇しくも“ブラック”を冠した楽曲で締めるというのも、意識はしていなかったのかもしれないが、aimiらしさといえるセンスなのだろう。

 沸き起こる歓声とクラップで興奮を止めさせないフロアにaimiが舞い戻ると、“aimi”を始める前の時期のことを綴ったという「Fight No More」からアンコールはスタート。しっとりと情感たっぷりに深みを湛えてヴァースを歌い上げると、シームレスに同曲のリミックスとなる「Fight No More(Singo.S Remix)」へ。胸に宿る内なる静かな炎が一気に発露したような抑揚に富んだ展開で、歓喜のグルーヴを再燃させていく。

 自身の顔がプリントされたTシャツ姿に「見てください、このTシャツの可愛さを」と告げると、四方八方から「カワイイー!」の声が響く。それに「高め合っていこ!」と応えるaimiの語り口も表情も、実に和やかだ。

 キャビンアテンダントの機内アナウンス風に「レディース&ジェントルマン……SHIBUYA TO LA!」と高らかに言い放ち、"バウンス!バウンス!”の掛け声から始まったのは、偶然にも個人的にラストに演奏する楽曲ではと予想していた「KMHH」。Gakushiのトークボックスがうねりまくるなか、aimiのヴォーカルもヒートアップ。“NRT”(成田)から飛び出た“made in Japan”のR&Bシンガーが、“From Tokyo to LA”のフレーズのごとく、本場のR&Bにも引けを取らないサウンドとヴォーカルで外へと飛び立っていく……そんな願いにも繋がるようなヴォルテージとグルーヴで、賑やかにフロアを彩った。

 aimiのR&B愛はそれでは終わらず、松浦千昇のタイトなドラミングを合図にドクター・ドレが客演したブラックストリートの「ノー・ディグニティ」の一節をアウトロにプラスして、天へと突き抜けんばかりに声を張り上げていく。紆余曲折ありながらも、初ワンマンライヴに辿り着き、自らの歌でフロアに集ったオーディエンスの心を揺り動かしている……その光景を眼前にした悲喜こもごもの感情が、歌い上げた声には乗っていたようにも感じた。aimiの想いが届いたかどうかは、終演後に感想を求められたDJ DAISHIZENの「ちょっと、泣きそうだね」の一言に集約されていたのではないだろうか。

 都合悪く途中からの参加となってしまったが、アンコールのMCにて本ライヴの映像を「AIMI FIRST ONE MAN SHOW LIVE PERFORMANCE VIDEO」として来場者限定で予約販売するとの一報が。ライヴの全貌はライヴ映像が完成、手元に届き次第、あらためて体感したいと思う。正直なところ、日本においては枯渇気味のR&Bシーンだが、意志あるところに道は通ず。aimiの意志にシンパシーを感じ、aimi自身のこれからの躍進を願いながら、R&Bの炎が消えない渋谷の街を足早に脱け出した。

◇◇◇
<SET LIST>
Chosen One
Love Like That  (*E)
(wanna vibe) with you  (*E)
Show Me
Sorry
Thinkin'
Lovesick
Snooze (original by SZA)
The Fool, The Lovers
Day N Night (with EMI MARIA)
How's The Weather? (with EMI MARIA)
Good Without You (with Yacheemi)(include member introduction)
No One Is
Water (original by Tyla)(with Yacheemi)
Risk It All (with JASMINE)
03' Bonnie & Clyde(Jay Z feat. Beyonce Knowles)~ Sippin' Sake (*E)
You Are (acoustic session)
I'm OK  (*E)
The Wave
Wish You Better  (*E)
The Bdst.  (*E)
Black Coffee  (*E)
《ENCORE》
Fight No More ~ Fight No More(Singo.S Remix)
KMHH(grooveman Spot Cali Remix)
OUTRO(include phrase of "No Diggity" by Blackstreet feat. Dr. Dre)

(*E):song from EP ”Empower.Embrace”

<MEMBERS>
aimi(vo)
Gakushi(key, Music Director)
堀井慶一(b)
松浦千昇(ds)
DJ DAISHIZEN(DJ, manipulator)
Special Guest:
JASMINE(vo)
EMI MARIA(vo)
Yacheemi(dancer)

Shingo.S(Total Produced)

◇◇◇
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2020/06/19 近況注意報 0619 音楽篇
2021/02/14 近況注意報 0214 音楽篇
2021/04/17 Furui Riho @代官山SPACE ODD
2024/04/19 aimi @BLUE NOTE PLACE(20240419)
2025/02/21 aimi @WWW(20250221)(本記事)

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