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HALLCA @Daisy Bar(20241116)

 微笑と多幸の波で華やいだ、メモリアルなマチネ。

 本編ラストの「メモリー・コラージュ」の直前、HALLCAは「この楽しい時間、幸せな空間も、一つの思い出として皆さんの胸に刻まれていって、いつまでも思い出せるような日になったらいいなと思っています」という言葉を添えて、今しか味わえない空間を噛み締めるように歌い出した。HALLCAの31歳とアルバム『WAVE』のリリースを祝したワンマンライヴ〈HALLCA’s BD LIVE “WELCOME 31”〉は、愛情と感謝、そして歌い続けられているという充実に満ちた、微笑みと幸せに包まれたステージとなった。東京・下北沢のDaisy Barでの昼公演。

 2024年の自身の誕生日となる11月2日にアルバム『WAVE』をリリースしたHALLCA。フル・アルバムとしては『VILLA』『PARADISE GATE』に続く3枚目となるが、前作からは3年ぶりとなる。ただ、フィジカルCDは受注生産で、すんなりと辿り着けた訳ではない。前作は“楽園への扉”と題して、洋々と音楽の航海へと出航したはずが、辿り着いたのは“寄港地”ではなく“波”。アルバムのアートワークは前作同様にcpnnn(かぷぬ)が担当し、美しいサンゴの海のような淡く鮮やかな配色の海中を描き出していて、実に爽快な心持ちにもなるが、性格的にどこか斜に構えた見方をしてしまいがちな自分は、“WAVE”=波と名付けたのは、アートワークのように華やかな心情だけではないはず……そんな穿った見方もしてしまっていた。

 2018年、ソロとしての初のフィジカルEPとなった『Aperitif e.pのアートワークは、ジェイムス・ブレイクの作品よろしくHALLCAの顔がブレているものだった。単に意匠として着想しただけなのかもしれないが、それまでのHALLCAのイメージにないヴィジュアルだったゆえ、不安で揺れている心情が無意識に出たものなのではないかと、当時は思っていた。それについては、拙ブログの『Aperitif e.pレビュー(記事→「HALLCA『Aperitif e.p』」)でも言及していたようだ。

 もちろん、『WAVE』リリース時の今と当時とが寸分狂わない感情にあるとは思わないが、前作からも葛藤と苦悩は払拭されずにいて、それが無意識のうちに、波、波動、揺らぎ、うねりなどの意味を持つ“WAVE”を良しとして、タイトルに冠する情緒になっていたのではないか。
 2023年12月をもって、毎週日曜恒例のYouTubeライヴ配信が不定期へと移行。ファンとの接触機会が減るリスクもありながら、自身の心情を重視して決断し、2024年に入ってkukatachiiとのコラボレーションやFUNKCUTSとの共演など、さまざまなチャレンジをするも、どこか突き抜けた、快晴の空のような気持ちまでには至らず仕舞いだったのではないか。
 「曲を作りたい!」「こんなライヴをしたい!」「アルバムを出したい!」と都度に明るくポジティヴな希望を口にし、ファンに期待を抱かせてくれてはいたが、その実は、どのような心境だったのだろうか。前が見えない訳ではないけれど、微かに漂う仄かな靄が晴れないような、そんな感情を持っていたのでは……そんなこじつけも浮かんでいたのが正直なところだ。

HALLCA One man Live 〈HALLCA's BD LIVE “WELCOME 31”〉 at Daisy Bar

 しかしながら、何はともあれ、3rdアルバム『WAVE』のリリースに辿り着いた。思い描いた通りではなかったとはいえ、歌手として表現者として伝えられる“アイテム”を解き放てたという安堵感はあるはずで、それは前へ進む推進力や希望となって心に注がれていく。胸に打ち寄せるもどかしさややるせなさといった後ろ向きな揺らぎは凪になり、歌い続けられる悦びの波動が溢れ出す。岩を穿つような激しい心許なさの波は、いつしか大きく包み込んでくれるかのように漂える波へと移ろいだはずだ。初めて30代を経験し、次の1年の端緒を迎えた瞬間にふさわしい、自らに問いかけるように“Don't stop me now!”(=止めないで!)と前へ切り開く意志を綴った「ミッドナイト遊泳」で、本編は幕を開けた。

 軽やかに、朗らかにステージへ滑り込めたのは、HALLCAが全幅の信頼を置いているバンドメンバーの存在も大きい。楽曲制作やアレンジメントをはじめ、HALLCAの力強き片腕として欠かせないクマガイユウヤをはじめ、漆黒のボトムを繰り出す高野逸馬、HALLCAバンドで叩く喜びが随所に表情に溢れ出す多田涼馬という盟友たちが、HALLCAの情緒豊かな楽曲をサポート。コンビネーションの良さはもちろんのこと、HALLCAの世界観を共に創り上げたいという感情が表情やサウンドにも表われていて、フロアに集ったオーディエンスの五感を心地よく刺激していく。

 序盤は軽やかに「ミッドナイト遊泳」に始まるが、続く「エアポート」「Night Driver」でビター・スウィートな世界へ。曲構成は「Mind’s Eye」「Sugar」を除く8曲を組み入れた『WAVE』収録曲を中心に、親友・kiarayuiの出産を祝して歌った「Strawberry Moon」や、アンコールにて、HALLCAからの依頼で、クマガイユウヤが既存の音でなくリミックス用に一から音を作って仕上げた「Jewel Rain」の“Shiny bubble Remix”などを添えながら、フロアをハピネスなオーラで包み込んでいく。

 おそらくライヴでは初披露となった「エアポート」や(HALLCA調べでは『WAVE』収録曲のなかで人気が高いという)「二人のリーズン」あたりは、歌い慣れていないこともあり、今後歌い口が工夫されていくと思うが、それ以外はアウトロでのフェイクなど端々に詞世界を情趣豊かに伝えようというヴォーカルワークを発露。楽曲やアレンジによってさまざまな声の彩色を施して、人懐こく、甘美に、艶やかに、もの憂げに、ピュアに……と楽曲に香りづけをしていく。以前に綴った、勝手ながらもHALLCAの歌唱を称した、フレグランスのようなヴォーカルが“効能”を発揮すると、フロアは微笑みという薫香に包まれていった。

 特に、賑やかな歓声が響いたのは、中盤で披露した「Airy Step feat. Funkcuts」と後半に配した「Wave of Love」か。「Airy Step feat. Funkcuts」では、時を止める使い手=ウィッチ(魔女)と化したHALLCAが、「時を止める魔法が使えたら…」に続く「ストップ!」のフレーズで、フロアにマジックを仕掛ける。演者全てが微動だにせず、オーディエンスも(大部分が)静止を余儀なくされ、約20秒ほど時空の流れが止まった後に多田のドラムで再開。真面目な顔で前を見据えていたHALLCAも、魔法が“効かなかった”一部のオーディエンスからのガヤにグッと堪えるも、次第に表情が緩み出していくのはご愛敬。曲の再開と同時にバンドメンバーの方へ振り返って、屈託ない笑顔を見せていたのが印象的だった。

 「Wave of Love」では、HALLCAたっての望みで、(東京ドームでやるような)ウェイヴをサビのところでやって欲しいリクエスト。「〈Wave of Love〉はサビが多いから、ずっとウェイヴをやらないといけなくなる」ということで、バンドマスターのクマガイからのアドヴァイスを受けて、最後は自由に弾けて踊ることに。東京ドームとは規模が違い過ぎるが、HALLCAの眼前に現れたウェイヴは、HALLCAにとって楽しくも心強いビッグウェイヴに見えたのではないだろうか。個人的に身勝手にHALLCAに宿っていたと思っていた不安や葛藤の波は、ここで完全に喜びの波状へと移り変わったはず……そんな結び付けを頭に浮かべながら、大きなうねりの一波として手を挙げている自分がいた。HALLCAからファンへ、ファンからHALLCAへ、タイトルよろしく愛情という名の波が寄せては返して、フロアにハピネスが横溢した瞬間となった。

 アンコールラストは、「もうちょっと感動モードで終わりたかったけど、今日はお昼なので、ちょっと無理そうなので、曲で伝えます」と茶目っ気たっぷりの言葉に笑いも漏れつつ、HALLCAの原点の曲「Diamond」へ。柔和に、楽しげに、熱を込めて、さまざまな顔を垣間見せながら、メモリアルなステージを完遂。HALLCAならではのスタイルでファンやリスナーの琴線に触れていきたいと、「光を当てて 磨きをかけて 君に届けていく」というフレーズを介して、想いを馳せていたのではないか……そんなことを頭に巡らせながら、余韻に溢れたフロアに佇むのだった。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 ミッドナイト遊泳  (*W)
02 エアポート  (*W)
03 Night Driver  (*W)
04 Dreamer
05 Wanna Dance!
06 Airy Step feat.Funkcuts  (*W)
07 Strawberry Moon feat. kiarayui
08 二人のリーズン  (*W)
09 コンプレックス・シティー(東新レゾナント Remix)
10 Wave of Love  (*W)
11 Romantic  (*W)(include Member introductions)
12 メモリー・コラージュ  (*W)
《ENCORE》
13 Jewel Rain(Shiny bubble Remix)
14 Diamond

(*W):song from album "WAVE"

<MEMBERS>
HALLCA(vo,key)
クマガイユウヤ(g / Bandmaster)
高野逸馬(b)
多田涼馬(ds)

多田涼馬 / クマガイユウヤ / HALLCA / 高野逸馬

◇◇◇
【HALLCAに関する記事】
2018/08/04 HALLCA『Aperitif e.p』
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2019/08/30 HALLCA @Jicoo THE FLOATING BAR
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2020/12/13 HALLCA,WAY WAVE @渋谷 RUIDO K2
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2023/06/04 kiarayui × HALLCA @LIVE HAUS(20230604)
2023/07/17 HALLCA @LIVE STUDIO LODGE(20230717)
2023/11/04 HACCLA @CHELSEA HOTEL(20231104)
2024/01/07 HALLCA @LIVE STUDIO LODGE〈Make Happy!! ~New Year Party 2024~〉(20240107)
2024/05/05 HALLCA @Grapefruit Moon(20240505)
2024/10/13 HALLCA @LIVE STUDIO LODGE〈MAKE HAPPY!!〉(20241013)
2024/11/16 HALLCA @Daisy Bar(20241116)(本記事)


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