脇田もなり @LIVE STUDIO LODGE〈Make Happy!!〉(20231122)
白のトライポッドで描く、ソングストレス・ナイト。
代々木駅の目の前にあるライヴハウス「LIVE STUDIO LODGE」の恒例イヴェント〈Make Happy!!〉にHau.、脇田もなり、ジョナゴールドがラインナップ。ようやく本格的な冬模様を迎えてきた祝日前夜に、3名のフィメール・ヴォーカルの声色を味わった。
LIVE STUDIO LODGEに集ったのは、Hau.のファンがメインだったか。色とりどりに変色するペンライトをかざすジョナゴールドのファンも少なくなく、どちらかといえばアイドル・ファン層が多くを占めた形に。200名ほどのキャパシティに対して、平日夜としてはなかなかの盛況ぶりとなった。
奇しくも、3名とも地方出身でグループ活動を経てソロになったという経緯を持つ。Hau.は2011〜2019年に北海道・札幌(のちに東京)を拠点に“ほわどる”ことWHY@DOLL(ホワイドール)の浦谷はるなとして、脇田もなりは2012~2016年にEspeciaとして、ジョナゴールドは2015~2022年に青森を拠点とするりんご娘(RINGOMUSUME)として、それぞれ人気を博していた。そんな経緯の縁もあってか、この日はHau.がレースニットのトップスとプリーツロングスカート、脇田は大きめのフリルをあしらったドレッシーなブラウスとワイドレッグなロングパンツ、ジョナゴールドはウサギ耳を垂らしたワッチのニット帽にカラフルなスプレーで描いたような花びら柄を入れたサロペット(オーバーオール)姿と、どれも白を基調とした衣装でステージに登壇していた。
トップバッターを務めたのはHau.(はう)。WHY@DOLL時代は観賞する機会はなかったが、ソロとなってからはHALLCA目当てで行った2022年8月のLIVE STUDIO LODGEのイヴェント〈Hang Out!!〉(記事→「HALLCA @代々木LODGE〈Hang Out!!〉」)にて(当時は浦谷はるな名義)、その直後のWAY WAVEの定期公演〈部員集会〉(記事→「WAY WAVE @GARRET udagawa」)にてソロのステージを観賞している。振り返ると、2021年5月末の代官山LOOPの閉店に際して行なわれた仮谷せいら主宰のイヴェント〈仮谷せいら&PUMP! Presents 『HOME~Thank You“Daikanyama LOOP” Last Day~〉(記事→「〈HOME~Thank You “Daikanyama LOOP” Last Day~〉@ 代官山LOOP」)にはインターミッションでのヴィデオコメントにWHY@DOLLとして登場。ジョナゴールドもRINGOMUSUMEとしてコメントしていたようだ。
ゆきりん(柏木由紀)とまゆゆ(渡辺麻友)を足して割ったようないかにもアイドル的な清楚なルックスで、可憐に歌い踊る。白の衣装はイメージにピッタリ。昨年8月に鑑賞した際は、ソロ・オリジナル曲がAmamiyaMaakoが手掛けたトロピカルなサウンドの「Slowly time」1曲のみで、それ以外は「Tokyo Dancing」などWHY@DOLL時代の楽曲を組み込んでいたが、その後は6曲入りEP『STEP BY STEP』をリリース。オリジナル曲も増加し、今回はEPの冒頭曲「Steppin' & Stompin'」からの幕開けに。ただ、オリジナルはそのEP収録の6曲のみゆえ、今回の30分を超えた尺だとすべてオリジナル曲で埋められず……ということで、WHY@DOLL時代の楽曲もプラス。オーディエンスはグループ時代からのファンがほとんどだと思うので、最後のアッパーな2曲、ONIGAWARAが手掛けた「It's all right!!」や仮谷せいらが作詞、give me walletsのJess & Kenjiが作曲した「Tokyo Dancing」という最後のアッパーな2曲は、コール&レスポンスもあって、フロアの熱度を高めるのに十分なアクトとなった。
個人的には中盤で披露した「Dreamin' Night」(本人いわく「アーバンな曲。アーバン?」とのこと)がビートを効かせ、シンセを用いたスウィート&アーバンなアレンジで他のアイドル・ポップ然とした作風とやや異なっていて耳を惹いたが、後ほど、Sosuke Oikawa(及川創介、当時CICADA、現・Roomies)が手掛けていたことを確認。楽曲性の良さを理解した。
マイペースな制作スピードらしく、しばらくはオリジナル+グループ時代の楽曲というスタンスを続けるだろうが、グループ時代の楽曲が“沸き曲”になるのはいいとして、ソロとしてのオリジナリティをいかにして確立するかが、今後の期待のタネとなるか。アイドル路線の楽曲を継承するのか、それともソロらしさを出すのか(初のオリジナル曲となった「Slowly time」は当時トロピカルハウスにハマっていたのを受けてAmamiyaMaakoが制作したようだが)、はたまた、それらを融合したスタイルを築くのか。そのあたりがポイントになりそうだ。
続いて、通称“J”ことジョナゴールド。グループ活動当時のRINGOMUSUMEというと、バラエティ番組などでタレントとしても活躍している王林はじめ、なんとなく高身長のグループというイメージがあったが、ジョナゴールドは小柄でキュート(小柄といっても160センチあるので、ミニマムと言う感じではない)。当時のRINGOMUSUMEメンバーでいうと、彩香(さいか、現・赤坂麻凪)が177センチ、とき(現・和海)が174センチ、王林(現・ソロ音楽活動名義はOurin-王林-)が170センチゆえ、周囲の高さの印象が強かったのだろう。ちなみに、りんご娘はメンバー名にリンゴの品種を用いるため、同じ名前をメンバーへ名付けることもあり、ジョナゴールド、王林ともに2代目とのこと。
RINGOMUSUMEの楽曲はもちろん、ジョナゴールドの楽曲やライヴも初めてなので、どのように歌うのか興味を持っていたら、予想外にも正統派ポップス・シンガーで驚いた。“うたのおねえさん”を彷彿とさせるクセのない明澄な声色で、何よりスッと耳に入ってくる純度の高さが特長。ピッチも安定した非常に聴きやすい嫌みのないヴォーカルで、ヴァイブスも明るい。2022年5月に初のソロ・シングル「7号線」を配信し、今年の1月に初のソロ・アルバム『WEEKEND』をリリースしたというから、ソロキャリアはまだ僅かといっていいが、グループ時代に場数を多く踏んでいたこともあり、舞台度胸もありそう。いつメジャーでポップ・シンガーとして活躍しても可笑しくないポテンシャルを感じた。一転、MCでは憚ることなく津軽弁トークを繰り広げるから、そのギャップも魅力の一つといえそうだ。
ステージは、アルバム『WEEKEND』の楽曲を軸にした構成。冒頭の「風待ちリップ」から爽快な王道ポップネスを展開し、のっけからコール&レスポンスでフロアが沸く。ペンライトが光り、タイミングよくジャンプする光景は、アイドル・ライヴのそれだ。続く「ハジマリズム」もハッピーオーラでリズミカルに進むジョイフルなナンバー。どちらも現行J-POPのメジャー・ヒット路線で、ジャニーズ(現・SMILE-UP.)あたりが歌っていても不思議ではないと思っていたら、手掛けたのは嵐「マイガール」「君のうた」といったシングルをはじめ、Kis-My-Ft2やSexy Zoneほかジャニーズ勢、AKB48「ポニーテールとシュシュ」をはじめとするAKB48グループ、ももいろクローバーZなど多くのアーティストに楽曲を提供しているシンガー・ソングライター/プロデューサーの多田慎也とのこと。ヒットメイカーの手腕が活きた楽曲群で、ジョナゴールドの歌唱との相性も良好だ。
ただ、少し気になったのが、シティポップの潮流も今となってはもはや食傷気味となるなかで、竹内まりや「プラスティック・ラブ」と、Tofubeats feat. 森高千里「Don't Stop The Music」のカヴァー曲群。「Don't Stop The Music」の際に「ソロになりたての時に歌っていた」と言っていたから、持ち歌がない頃にカヴァーをよく披露していたのかもしれない。持ち曲が少ない時期や何かコンセプトを持った企画シリーズとしてカヴァー曲へ手を付けるのはいいとして、個人的には安易にカヴァーするよりもオリジナルや表現の変化へチャレンジしてもらいたい性質なので(本音を毒を添えて言えば、カヴァーに手を付けるなら、せめてアルバム5枚くらい出してから、とは思う)、安易に歌をなぞるのはどうなのかなと感じた。冒頭からの2曲のパフォーマンスに(歌い慣れているだろうが)好感を持っただけに、やや楽曲の力に負けてしまった感も。すべてのカヴァーが森鷗外『即興詩人』的であれ、とは言わないが、オリジナリティを薄めてしまうのなら、それはもったいないことだ。
それは、このカヴァー群の後に披露したノスタルジックなミディアムで
ソロ初のオリジナルとなった「7号線」以降で明らかに。冒頭の明るいテンションで弾ける作風とは異なる「7号線」では、もどかしさと切なさが漂うビタースウィートなヴォーカルワークという懐の広さでしっとりと聴かせると、フレンズのおかもとえみによる心の隙間にホッとした安堵を与えるような「WAVY BABY」を経て、軽快ながらも琴線に触れるセンチメンタルなメロディラインが秀逸な「Yeah-Yeah」、フロアのヴォルテージを上昇させるに十分なポップ・ダンサー「WEEKEND」という安定の多田産楽曲へと駆け抜けた。
王林もそうだが、特に東京でビッグになってという希望はないのかもしれないが、青森のために自身の楽曲を広めることが心中にあるのなら、数あるポップ・シンガーが跋扈するなかで、自らのオリジナリティを確立するかは重要な命題だ。といっても、MCでも「ジョナゴールドのファンの人は、なんでかミュージックヴィデオ見るの好きだよね?」と笑顔で語っていたように、YouTubeにアップされたミュージックヴィデオは「7号線」が30万、「ハジマリズム」が23万、「WAVY BABY」が19万、「WEEKEND」が17万、「アメリア」「祭りのあとの、あの風は」が15万となかなか多くの再生を数えている(一通り軽く聴いただけだが、個人的にはまだ5000回にも満たない「風待ちリップ」や1万まであと僅かの「Yeah-Yeah」、1.2万の「Rain Dance」が好みかも……笑)。この日は顎関節症の影響で歌いづらかったのかもしれないが、それを微塵も感じさせないアクトで完遂。自身が持つタレント溢れる歌唱を、ポップ・シンガーとしてよりどう成長させていくのかが、今後楽しみな実力派ポップ・シンガーだ。
ラストを飾るのは、脇田もなり。彼女のライヴを観賞したのは、9月に代官山SPACE ODDにて行なわれたソロ7周年&4thアルバム『UNI』リリース記念パーティ〈MONARI WAKITA 7th Anniversary & "UNI" Release Party〉(記事→「脇田もなり @代官山SPACE ODD(20230923)」)以来。Hau.やジョナゴールドが明るくアッパーな楽曲を多く披露していたのを受けて、「(ノれる曲が多いとは思わず)ゆったりした楽曲を持ってきちゃった」と言っていたが、9月リリースの『UNI』収録曲を中心とした構成。
それまでの2組のホットな空気を一旦、自身の世界へと導くように、アルバム『UNI』の嚆矢となる「IRIS」でエメラルドグリーンなライティングもあいまって幻想的なムードを創り上げると、リゾート感を湛えたミディアム・ポップ「エスパドリーユでつかまえて」でフロアの身体を揺らせ、コール&レスポンスも促すアシッドなハウス・トラック「La Shangri La」で一気にフロアを再加熱。あっという間にもなりワールドを具現化させていった。
後半で披露した、こちらもコール&レスポンスが波打つアルバム・タイトル曲「UNI」は、脇田が初見のオーディエンスの好奇心をくすぐるに十分なフロアキラーぶりを発揮し、訴求力も確かなものとなったが、このステージで白眉だったのは、「めくるMake Love」から「ONDO」へとシームレスに展開したアクトか。胸に宿るときめきや愛する感情をラストフレーズの“鳴り響けファンタジア!”のごとくファンタジックに描いた詞世界が、チャーミングかつテンダーな声色で伝うように歌う「めくるMake Love」が終わりを迎えようとするやいなや、「ONDO」のイントロへ移行。それまでのやわらかな顔立ちが一変して、艶やかな表情となり、行間ならぬ歌唱と歌唱の合間に漂う余韻もしっかりと抱えた、甘美なヴォーカルワークで魅了しく。
「UNI」でのフロアの躍動を再点火させた後も、ノスタルジックなサウンドスケープが鮮やかに描かれていく「Passing by」でエンディングへ。アウトロのフェイクには、力みのなさと歌うことへの喜びがシンクロしていて、その快い心持ちが微笑ましい表情として発露していたような気がした。
9月のソロ7周年&4thアルバム『UNI』リリース記念パーティで見せた、気負いのない、自然体に近い立脚のパフォーマンスはしっかりと継続しており、自身の伸びやかな歌声が有機的な形で成熟しているのではないだろうか。
今年は残り、韓国遠征と深夜でのイヴェントを予定するのみでライヴは終了とのこと。心身面で余裕を持ち始めたスタイルから、来年にはさらなる進化を予見できそう……そんな感情も過ぎった好パフォーマンスだった。
◇◇◇
<SET LIST>
≪Hau.≫
01 Steppin' & Stompin' (*S)
02 Slowly time (*S)
03 風に舞って (*S)
04 オアイコダネ (*S)
05 Dreamin' Night (Original by WHY@DOLL)
06 NEW WAVE (*S)
07 It's all right!! (Original by WHY@DOLL)
08 Tokyo Dancing (Original by WHY@DOLL)
(*S):song from EP “STEP BY STEP”
≪ジョナゴールド≫
01 風待ちリップ (*W)
02 ハジマリズム (*W)
03 プラスティック・ラブ (Original by 竹内まりや)
04 Don't Stop The Music (Original by Tofubeats feat. 森高千里)
05 7号線 (*W)
06 WAVY BABY (*W)
07 Yeah-Yeah (*W)
08 WEEKEND (*W)
(*W):song from album “WEEKEND”
≪脇田もなり≫
01 IRIS (*U)
02 エスパドリーユでつかまえて
03 La Shangri La (*U)
04 めくるMake Love (*U)
05 ONDO (*U)
06 UNI (*U)
07 Passing by
(*U):song from album “UNI”
<MEMBERS>
Hau.(vo)
ジョナゴールド(vo)
脇田もなり(vo)
◇◇◇
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