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黒川沙良 @BANK30(20240911)

 麗しい旋律とともに優しく感情の襞を揺らしたソアレ。

 4月に杭州、上海、深圳、広州の4都市を巡った自身初の中国ツアーを成功させ、同月には2ndフル・アルバム『LOVE』をリリースと、精力的な2024年となっているシンガー・ソングライターの黒川沙良。7月には代々木・LIVE STUDIO LODGEにて中国ツアー後の"凱旋”と『LOVE』のリリースパーティを兼ねたワンマンライヴを開催し、こちらも盛況を収めたが、タイミングが悪く、観賞することが叶わず。それから2ヵ月を経て、ベイエリア竹芝にあるラグジュアリーオーシャンヴューラウンジ「BANK30」にて行なわれる恒例のイヴェント〈TALIKA JAPON presents MOMENT feat. 黒川沙良〉へ足を運んだ。

 中国のファンからの熱烈なリクエストから実現したという中国4都市ツアーはチケットがソールドアウト、フェス出演も成功させるなど、海外での評価も上昇中。中国ツアーはドラムの高尾俊行、DJのDJ DAISHIZENを従えたスタンディング公演で、4都市とも現地のファンの熱気に溢れていたようだ。その様子は黒川のSNSのほか、DJ DAISHIZEN(DJ大自然)の「セルフ密着」動画でも窺うことができる。

 昨年のプライヴェートでのスペイン一人旅、そして今年の中国ツアーと、海外での経験が自らの成長を促しているという自覚とともにその想いを存分に投入したのが、前回の『LOVE』リリースパーティだったのだろう。中国ツアーと同様のメンバーで大団円を迎えたようだが、今回は、スタンディングから着席スタイルのラウンジへと様変わり。アーバンでラグジュアリーな空間で、落ち着きのある大人のムードを帯びた弾き語りのステージとなった。

 おそらく『LOVE』のリリースパーティでは『LOVE』収録曲から多く演奏したはずで、2部制の本公演では『LOVE』からは3曲に留めて、懐かしい楽曲や定番曲、さらに未発表曲もセレクト。各ステージ5曲と長尺ではないが、ヴァラエティに富んだ楽曲を披露してくれた。

 フェスやライヴハウスの一気に昂揚が走る雰囲気とは異なる、僅かな音の響きにも耳をそばだててしまうようなフロアということもあって、序盤にはまた違った緊張もあるかと見受けられたが、実は初めてイヤモニ(インイヤーモニター)を使っての演奏だったとのこと。以前、マイケル・ジャクソンの映画『ディス・イズ・イット』にて、ロンドン公演のリハーサルを追っていた際、マイケルがどうしてもイヤモニに慣れず、「自分の耳で聴いて育ってきたから、(イヤモニを使うと)耳に拳を突っ込まれているようだ」とイヤモニを外してしまうシーンがあった。素人目には単にイヤホンを耳につけて聴くだけの行為にしか見えないものも、アーティストにとっては場合によってはストレスになるんだろうな……などと思ってはみたものの、MCで「イヤモニをしている」と聞く前の、冒頭のダンサブルな「I'm Going My Way」あたりでは「やや緊張気味かな」と感じたくらいで、次のR&B特有の煌めきを添えたミディアム「I Still Love You」では、すでにグルーヴの波に乗っていた。

 1stステージのトピックは、後半の「月の光 ~ good night」と「あなたの太陽でいたいから」の2曲を並べたところか。この日のスペシャルカクテルのモチーフにもなった「月の光」では、すぐに会えない大切な人を月の光のように優しく包み込みたいと想い、「あなたの太陽でいたいから」では降り注ぐ雨に苛まれても、太陽のように優しく照らして寄り添いたいと想いを馳せる。「月の光」は2015年発表の『On My Piano』に、「あなたの太陽でいたいから」は最新アルバム『LOVE』のエンディングソングとして収録され、制作時期も異なるが、詞に込めた心情は不変。陰と陽という対照的なアプローチではあっても、どちらも愛情を注ぎたいと欲する気持ちを吐露している。「月の光」から10年を目前にしても、伝う感情は時を越えても変わらない、「あなたの太陽でいたいから」はそんな自らへも問いかけるアンサーソングなのかもしれない。琴線に触れる美しいメロディが宿ったミディアム・バラードを続けて連ねた構成は、黒川の真摯なる想いを貫いたラヴソングの軌跡として結びついたようにも思えた。

 2ndステージは明るくポップな表情が窺える「いいじゃん」からスタート。この日は選曲されなかったが「ブリコー」や「Pulse」などのドーンと重くのしかかるようなトーンで憂いを放つ楽曲は、R&Bを基軸とした黒川の真骨頂といえるが、一方で流麗で晴れやかに、明るく弾ける楽曲も魅力。「いいじゃん」での無邪気で可憐な歌い口は、ステージの抑揚や緩急をつける意味でもフックになっていると思う。MCでは実に可憐で麗しく語るから、悲哀なムードが漂う楽曲でのギャップはなおさらだ。

 中盤では未発表曲を歌唱。90年代のオーセンティックなミディアム・バラードを踏襲したような作風で、きわだって派手やかでインパクトがある訳でもないが、それがかえってジワジワと胸に刺さる感じだろうか。麗しいハイトーンと落ち着きある清廉なメロディラインの往来が、マライア・キャリーあたりのシンプルなバラードを思わせる。

 次いで披露した「My Life」は、リズミカルな進行と晴天を駆け巡るような爽快感が耳を惹くグルーヴィなポップ・チューン。普段“歌の先生”をしている黒川が、生徒からねだられて披露した楽曲とのことで、演奏後に「絶対バズるからTikTokやった方がいいよ」と言われたとのこと。「Z世代に刺さる曲なのかしら」「TikTokをやった方がいいのかな」とおどけていたが、重厚な“This is バラード”みたいな楽曲もいいけれど、個人的な嗜好で言えば、こういった跳ねたグルーヴ感溢れる作風は好物ゆえ、生徒たちはもっと先生にけしかけてくれていいゾ、とも思ったり。

 本編ラストに、感謝の念を絶やさない黒川の感謝ソング「Appreciate」で沁みた後は、アンコールのクラップに応えて再登壇。「My Life」同様に跳ねたリズムがグイグイと走る「ガールズトーク」で華やかにエンディングを迎えた。黒川の代表曲、いわば沙良'sクラシックスといえる明るい楽曲は、黒川自身のさらなる破顔をもたらしながら、フロアをジョイフルなムードに包み込んでいった。

 夏は苦手で、8月は絶不調だったが、周囲のサポートやファンたちの声やリアクションが励みになった様子。少しずつ暑さも和らぎはじめ、復調
モードに入った今後に、海外での成長の跡が如実に表われるのかも……そんな期待を抱きながら、終演後、夜景が煌めくアーバンエリアをすり抜けていった。

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<SET LIST>
《1st Stage》
01 I'm Going My Way (*L)
02 I Still Love You
03 Blue
04 月の光 ~ good night
05 あなたの太陽でいたいから (*L)

《2nd Stage》
01 いいじゃん (*L)
02 Find out~One Thing~
03 (unreleased song)
04 My Life
05 Appreciate
《ENCORE》
06 ガールズトーク

(*L): song from album "LOVE"

<MEMBER>
黒川沙良(vo,key)

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黒川沙良『LOVE』

■ 黒川沙良 2nd フル・アルバム『LOVE』(2024/04/18)
1 I'm Going My Way
2 いいじゃん
3 イイネシナイデ
4 ブリコー
5 Pulse
6 Secret Call
7 LOVE
8 また来世
9 あなたの太陽でいたいから

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黒川沙良 @BANK30(20240911)(本記事)

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