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Furui Riho @Billboard Live TOKYO(20241019)

 生音と色彩豊かな装飾で描いた、爽快でジョイフルなグルーヴ。

 6月に自身最大のキャパシティと思われるEX THEATER ROPPONGI公演(記事→「Furui Riho @EX THEATER ROPPONGI(20240607)」)を終え、躍進著しいFurui Rihoが次に狙いを定めたのが、東阪のビルボードライブツアー。〈Furui Riho Billboard Live Tour -Do What Makes You Happy-〉と題したコンセプチュアルなツアーは、盟友たちのバンドメンバーとともに、やや音楽的な嗜好を変えながらも、Furui Rihoのライヴにおいては不変といえるハピネスかつジョイフルなヴァイブスを通底させたステージとなった。その東京公演の2ndステージを観賞。

 アコースティックギターが導くぬくもりと明るく軽快な曲調が耳を惹くウォーク・オフ・ジ・アースの「ハッピー・スタッフ」(Happy Stuff)が響くなかで、Furui Rihoを除くバンドメンバーが登場すると、温かい拍手がフロアを包んでいく。バンドマスターの“ハナブー”ことハナブサユウキがおもむろに「Friends」のメロディを軽やかなアレンジで鍵盤を弾き始めると、主役のFurui Rihoが満を持してステージイン。屈託のない愛嬌ある笑顔で満席のオーディエンスからの歓声や拍手に応えると、ツアータイトルにもなっている「Do What Makes You Happy」から早速スタート。未音源化でライヴのみで歌われてきたこの曲を皮切りに、約80分のファンタジーが六本木の夜を包み込んだ。

〈Furui Riho Billboard Live Tour -Do What Makes You Happy-〉

 ビルボードライブ決定を発表した際には、「〈PSYCHO〉や<青信号>といった激しめの曲はやらないかも」と言っていたが、蓋を開けてみれば、陽だまりのような温かさと安らぎが伝わるゴスペルマナーの「Do What Makes You Happy」に続いたのが、「PSYCHO」や「Super Star」といった比較的ダンサブルなナンバー。当初はビルボードライブということで、洒落た会場に寄り添って落ち着いた雰囲気の楽曲の構成を……などということが頭にあったのかもしれないが、同期音源を使用せずにバンドの生音だけで演奏するというチャレンジに(ハナブーいわく「(パソコンを)捨てた!」とのこと)、落ち着いた雰囲気だけじゃもったいない、と考えを改めたのだろうか。実妹・Ma-changのハイトーン・コーラスもいい塩梅でハーモニーを形成した「PSYCHO」や、坂本遥がアコースティックギターに持ち替えてウォーミーな音を弾けば、守真人のドラム、Naoki Kobayashiのベース、ハナブサユウキのピアノのリズム隊が晴れやかなサンバのリズムを鳴らした「Super Star」と、大胆に遊び心を採り入れたアレンジで彩ることで、オリジナルとは異なる顔を持ったFurui Rihoワールドを展開していく。

 セッション時に即興で演奏したその瞬間にしかないアレンジをこのステージにも活かして、音楽が持つ本来の自由な楽しさを自ら体現しながら、オーディエンスとともに愉しさを共感していくというコンセプトで奏でた楽曲たちは、オリジナルとはガラリと違う、多種多彩な表情を見せてくれる。全体的にアフタービートを敷いたレゲエ調のアレンジでレイドバックな雰囲気を醸し出した「Candle Light」では、終盤はジャム・セッション的に遊びを入れ、オリジナルではちょっぴり胸をつまされる「でこぼこ」や「嫌い」といった物思いに耽るミディアム~ミディアムスローは、しんみりとした色合いを穏やかな落ち着きへ重心を寄せて、音の間をたっぷりと噛み締めるような装飾に。特に「嫌い」では、感情の襞をそばだたせるような粒だった音と懐の深い情趣あるヴォーカルで、エモーショナルなグルーヴを創出していた。

 グリーンライトがステージを照らすなか、ゴリゴリしたNaoki Kobayashiのベースを軸に重低音を響かせて厳かな雰囲気で口火を切った「青信号」は、途中からギターの坂本もコーラスに加わってうねりを生み出し、跳ね過ぎないがグイグイと反り上がるようなサウンドメイクで、ゴシックでアダルトなムードを響かせていく。

 ここで一転、ツアータイトルに掲げた〈Do What Makes You Happy〉が示す、“前向きに楽しいことをやろう!”というテーマのもと、“好きなことをやろう”ということで、よく妹のMa-changと二人で歌っていて、バンドでのセッションも良かったということから、インコグニートの「オールウェイズ・ゼア」を。オリジナルはスムースジャズ・サックス奏者のロニー・ロウズによるインストゥルメンタル曲で、ディスコ/ジャズファンク・バンドのサイド・エフェクトがそれに歌詞をつけてカヴァー。その後、インコグニートがジョセリン・ブラウンをヴォーカルに迎えてカヴァーして名を広めたジャズファンク・チューンだ。指名された観客からソロパートを聴きたいメンバー2名を選んでもらい、坂本の“カッコいい情熱的な”ギターと、ハナブサユウキの“セクシー”な鍵盤の、それぞれのソロパートを介しながら、インコグニートマナーなアシッドジャズ・アレンジをバックに、Furui RihoとMa-changのリアルシスターズ・グルーヴでヴォルテージをさらに上昇させていく。

 そこから畳み掛けるように「We are」へ。満面の笑顔とともに踊りながら歌い、コール&レスポンスも楽しげに。だが、演奏を止めて「今日、声小さくない?」「1部より小さい……ことはないか?」「正直、1部よりは出てたと思うけど…」「まだ、デカくできるかも」「もっと出せるでしょ!」とメンバー同士で煽りを入れてから、再びコール&レスポンスへ突入するという演出も。「ワンワンワン」「ニャンニャンニャン」「ビルボード」「楽しいな」などさまざまなコールを発して、会場を盛り上げ、楽しませた。

 20時にあと4分となったところで、横浜(KT Zepp Yokohama)とFurui Rihoの地元・札幌(Zepp Sapporo)を巡るZeppツアーの決定をアナウンスし、大きな拍手を浴びた後は、いつも応援してくれるファンへの感謝も込めて「Your Love」へ。派手ではないがダイナミズムを感じるアレンジで、直前までの賑やかだったステージを、スケールの大きな深みのある世界へと変貌させていくと、Ma-changとハナブサユウキとの3人で向かい合うようにトライアングルを作って、「LOA」をアンプラグド・スタイルで披露。この日は三方を鍵盤で囲まれたハナブサユウキが可憐で麗らかな生ピアノを鳴らすなか、実の姉妹ならではの心の通い合いをハーモニーで描き上げていくシーンは、音楽や歌の力で支えられてきたFurui Rihoはじめメンバーたちの半生を代弁しているかのようにも感じた。

 「明日また会いましょう 次はあの場所で」のフレーズよろしく、再会への期待を込めてラストに配したのは「Purpose」。小柄な体躯から目一杯腕を伸ばし、手を振り、指をさし、笑顔を振りまきながら、ステージ狭しと往来し、観客とともに音楽を通じて得た充溢を噛み締めてのエンディングとなった。
 フロアに最新曲「言えないわ」が流れるなかで、クラップが続けられるも、残念ながらアンコールはなし。それでも、終わりを惜しむ声以上に、近い距離のなか、生音と斬新で遊びのある多彩なアレンジワークという趣向で魅了した、Furui Rihoクルーへの充足が優っていたということなのだろう。上質なグルーヴが次々と押し寄せ、終始心弾む音空間を創り上げたフロアに後ろ髪を引かれながら、ファンタジックな世界を後にしたのだった。

◇◇◇
<SET LIST>
00 INTRODUCTION ~ Friends -instrumental-
01 Do What Makes You Happy
02 PSYCHO
03 Super Star
04 Candle Light
05 でこぼこ
06 嫌い
07 青信号
08 Always There(original by Ronnie Laws, original covered by Side Effect, and well known for Incognito and Jocelyn Brown ver.)
09 We are
10 Your Love
11 LOA
12 Purpose
13 OUTRO ~ BGM ”言えないわ"

<MEMBERS>
Furui Riho(vo)
ハナブサユウキ(key, Bandmaster)
坂本遥(g)
Naoki Kobayashi(b)
守真人(ds)
Ma-chang(cho)

(L→R:Naoki Kobayashi / 坂本遥 / Furui Riho / Ma-chang / ハナブサユウキ / 守真人)

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【Furui Rihoに関する記事】
2021/04/17 Furui Riho @代官山SPACE ODD
2021/12/11 Furui Riho @WWW
2022/03/11 Furui Riho『GREEN LIGHT』
2022/03/13 Furui Riho @Veats SHIBUYA
2023/01/09 Furui Riho @代官山UNIT(20230109)
2023/05/07 Furui Riho @LIQUIDROOM(20230507)
2024/01/14 Furui Riho @LIQUIDROOM(20240114)
2024/04/22 Furui Riho @タワーレコード渋谷(20240422)〈In-store Event〉
2024/06/07 Furui Riho @EX THEATER ROPPONGI(20240607)
2024/10/19 Furui Riho @Billboard Live TOKYO(20241019)(本記事)

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