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〈kira kira -きらきら-〉@新高円寺LOFT X(20240920)

 6組の煌めきで彩る、ファンタジックなフライデーナイト。

 Especiaのラストピースとしてその遺伝子を継承するブラジリアン・シンガー・ソングライターのミアナシメントと、yukar(ユーカラ)のヴォーカルとしても活動するシンガー・ソングライターの“にべ子”のソロ・プロジェクト“マグノリアの雫。”が、共同企画イヴェント〈kira kira-きらきら-〉を始動。その第1弾公演が、主催のミアナシメント、マグノリアの雫。に加え、ddm、あっすん、MCあんにゅ、usabeniを迎えた計6組で開催。ウィークエンドの金曜の夜に、華やかなフィメール・アーティストたちが新高円寺にあるライヴハウス「LOFT X」集結し、イヴェントタイトルよろしくキラキラと煌めいたステージを演出した。

 〈kira kira-きらきら-〉は“金曜の夜に日常を忘れられるChillな空間を”をコンセプトに、マグノリアの雫。ことにべ子が自ら手掛けた装飾セットとVJを導入した新機軸のライヴとのこと。ステージ前方には雲のオブジェ、後方にはファンシーな飾りを纏ったパステルブルーの満月に、天の川をイメージしたようなレース生地やミラーボールなど、天空とメルヘンを融合させたようなデザインで飾られた非日常の世界が広がるステージで、演者が6者6様のパフォーマンスを繰り広げていった。

 個人的に特に注目したのが、ミアナシメントとusabeniの2組。ミアナシメントは、3月末の高円寺マシタでのフリーライヴイヴェント(記事→「Mia Nascimento @高円寺マシタ(20240330)」以来の観賞で、この日はトリを務めることに。もう1組はusabeniで、まだ“宇佐蔵べに”名義で活動していた2022年12月の新宿Marble公演(記事→「宇佐蔵べに @新宿Marble」)以来とかなり久しぶりの観賞となった。

ミアナシメント×マグノリアの雫。 共同企画「kira kira-きらきら-」#1

◇◇◇

ミアナシメント / Mia Nascimento

 共同主催イヴェントの第1弾のラストを飾ったのは、ミアナシメント。トップバッターとして登場した葵(美伎あおい)のプロジェクト“ddm”にも参加しているミアナシメントだが、この日はddmとしては出演せずに、トリの自身のステージに専念。「原点に返る」ということで、ソロ初期からのレパートリー「forget」や「不透明」を混ぜながら、前半はチルに、後半はダンサブルにと彩色を変えた曲構成でまとめた。

 オープナーの「不透明」から持ち前の伸びやかなヴォーカルはやや影を潜め、かすれ気味だったのだが、これは喉の不調によるものだったそう。初めてミアナシメントを体感する観客にとっては、本来の歌唱力に触れられなかったのは少しばかり残念だったかもしれないが、一方でひんやりとした質感のグルーヴから跳ねるようなディスコティックなダンサーまで、ヴァラエティに富んだサウンドメイクやヴォーカルワークを味わえたのではないかと思う。

 「不透明」から「night」までは青白いライティングのなかで、深夜を想わせる静寂とチラチラと見え隠れする内に宿る熱情の発露とが交差するアダルトな色香を解き放っていく。冒頭の「不透明」はポエトリーなラップパートも含まれるが、アウトプットに仕方は異なるとはいえ、本公演の出演者のあっすん、MCあんにゅもポエトリーなフロウを繰り出していたこともあって、それぞれのポエトリーなアプローチが見られたのも興味深い視点となった。

 「rainy day」からシームレスに突入した「night」では、もの憂げな雨がもたらすモノクロームの世界観からミッドナイトの孤独やアンニュイな佇まいへと時と心の移ろいを描く好演出に。こういった低温で推移しながらも身体を揺らすグルーヴを構築していく展開は、個人的に好む嗜好だ。

 後半戦の口火を切った「forget」は、R&Bの王道ともいえるミディアムなテンポで、したたかに、ジワジワと訴求力を示していく。久しぶりに耳にしても、佳曲であることを再認識。ミアナシメントのしなやかさと情緒の深さが見て取れる一曲だと思う。

 そして、ミアナシメントのもう一つの魅力である、跳ねたビートに乗る瞬発力や表現力に長けた部分をもたらすのが、終盤の「Sweet Magic」から「Don't stop the party」への2曲。可憐かつ愛嬌ある声色と時折忍び込ませる艶やかな表情が交じり合うなかで跳ねまくるダンサブルな楽曲群は、フロアキラーとして十二分なポテンシャルを有している。こういった体躯を動かすアクティヴな楽曲では、ブラジリアンならではの身体的能力やリズム感で一気にオーディエンスの耳目を惹き付け、歌唱が不調ななかでも笑顔を溢れさせながらステージ狭しと踊る、好印象のパフォーマンスになったのではないだろうか。

<SET LIST>
《Mia Nascimento Section》
01 不透明
02 rainy day
03 night
04 forget
05 Sweet Magic
06 Don't stop the party

◇◇◇

usabeni

 usabeniのステージを観賞したのは、前述の2022年12月に新宿Marbleで行なわれた生誕記念ワンマンライヴ〈宇佐蔵べに 生誕記念ワンマンライブ 2022〉以来。当時は宇佐蔵べに名義で、加納エミリのサウンドプロデュースでソロ・プロジェクトを展開していた時期だった。その後、愛称の“うさべに”を正式にソロ・プロジェクトのアーティストネームとし、2023年9月からusabeniとして始動。usabeniとしての初シングル「trip」を皮切りに、翌月のミニ・アルバム『textures!』を経て、2024年5月にEP『AIR』をリリースしている。

 加納エミリのプロデュースによる「passion」や「open mind」以降は、少し活動から目を離してしまっていたが、アイドル・ユニットのAPOKALIPPPSを卒業し、加納の音楽プロダクション〈Blute Company〉と業務提携しながら、ソロ・プロジェクト“usabeni”としての下地を着実に構築してきたようだ。

 以前の関連記事(下記参照)でも述べているように、avandoned(あヴぁんだんど)やAPOKALIPPPSなどのアイドル活動については知らずにいたので、自身はマルチアイドルとしての意識が強いのかもしれないが、どちらかというとキュートなコケティッシュなクリエイターという印象が強かった。実際にシンガー・ソングライターとしてのほか、バンドやユニット、デザイナーなど幅広い活動で多才ぶりを発揮しているが、表現者として、親しみがありながらも艶やかな部分が見え隠れする、小悪魔的というか、単にセクシーとはニュアンスが異なる表現力を持ち合わせているところが、usabeniの魅力なのだと思う。

 しかしながら、アイドルとしての特性を打ち消したということは全くなくて、トレードマークともいえるツインテールは変わらずのまま。ファンシーなファッションセンスが映えた訴求力の高いヴィジュアルは、アイドルならではのキャッチーな要素を組み込んだユニークなものだ。そこにフリーキーなアプローチをもって、唯一無二のusabeniワールドを構築している。

 この日は「atmosphere」を用いたオーヴァチュアをイントロダクションにした「atmosphere」から幕開け。「air」とともに現時点の最新EP『AIR』収録曲を続けた後は、FRUN FRIN FRIENDSとしても活動していた盟友のnonayuと放った「Ice Bahn」や、自身の活動10周年記念ソングとしてつるうちはなが手掛けた未発表曲「Patchwork」を挟みながら、ミニ・アルバム『textures!』から「trip」「lonely pop」を披露。ラストは加納エミリとトラックメイカーの犬間シンが共同制作した1stミニ・アルバム『NEW』収録の「keep on」と、2022年スタートのソロ・プロジェクトを俯瞰する内容に。『NEW』リリース時から、よりエッジでエレクトロニックに重心を寄せていたのも耳を惹くポイントに。なかでも、アンビエントな浮遊感が漂う中でラップを繰り広げる「atmosphere」や、低音のボトムが這うフューチャー・トリップなトラックをバックに自身の名前を入れ込んだリリックをコズミック&ケミカルに吐露する「trip」が特に印象に残った。

 キャッチーで高揚が押し寄せるアイドル・ライクな楽曲から妖艶なムードを纏わせる空間のある楽曲まで、作風によってガラリと世界観を変貌させるトランスフォーマーぶりは、usabeniの新境地か。独特の色香を振り撒きながら、マルチアイドルとしての強みとともにジャンルレスに遊泳するusabeniに再注目しなければ、と感じさせたステージとなった。

<SET LIST>
《usabeni Section》
00 INTRODUCTION~atmosphere overture
01 atmosphere
02 air
03 trip
04 Ice Bahn
05 Patchwork〈unreleased song〉
06 lonely pop
07 keep on

◇◇◇

ddm(葵 / はるき)+マグノリアの雫。

 その他の出演陣にも少しずつ言及しておこう。

 本公演のトップを飾ったのは、2022年9月までアイドル・ユニットのエレクトリックリボンで活動した、葵(美伎あおい)のフレキシブルなミュージック・コレクティヴの“ddm”。ddmは葵が好きな面子を呼び込んでユニットを組むという柔軟性の高いユニットで、この日は葵の卒業後にエレクトリックリボンに加入した“後輩”で、ユニット“ミレディ♡チャーム”としても活動するはるきをパートナーに指名。さらに、中盤の「エブリデイ・チートデイ」からはマグノリアの雫。ことにべ子を招き入れてのスペシャルコンボで、フロアのヴォルテージを高めていった。

 ddmは、良い意味で確固たるテーマを示さない、「葵が好きだと思ったものをやる」というコンセプトが肝で、それをステージ毎に異なる演者の組み合わせによって、その瞬間でしかなしえないコラボレーションを繰り広げていく。個人的にはミアナシメントとのコンビを観ることが多いが、アウトロで後輩のはるきがハイトーンのフェイクを披露したり、にべ子が加わっての即興感も滲ませながらのハーモニーで楽しませた。葵は後輩を立てたのか、やや不調だったのか分からないが、いつもよりはやや控えめなパフォーマンス。それでも、短いながらもコンビやトリオでのステージングに満足したように見えた。

<SET LIST>
《ddm Section》
01 愛はscary
02 みらみら
03 9-00(キューゼロゼロ)
04 エブリデイ・チートデイ
05 愛っていうんだって

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あっすん

 2番目に登場したのは、金髪&お団子ヘアに白リボン、エメラルドブルーのファンシーなドレスというメイド/ギャルなルックスのあっすん。いつもはダボダボのジーンズなどを履いているとのことだが、「にべ子の世界観に合わせないと!」と、下北沢の古着屋で〈kira kira-きらきら-〉のコンセプトに合う服を探したそうだ。

 以前はラップ・アイドル・グループのMIC RAW RUGAにてAKIRAとして活動し、その後にかつてはtofubeatsやdaoko、Jinmenusagi、GOMESSらが在籍した〈LOW HIGH WHO?〉に所属。ポエトリーラップを軸にダンスの振付指導なども行なっているとのこと。亡くなった親友に捧げた、3回忌に際して歌った「水たまり」や、かつて鬱病だった経験を歌った「あなたへ」など、この日の衣装からは想像できない魂に問いかけるようなラップは、自問自答し、時に自身を赤裸々に吐露する、ある意味身を削るスタイル。その分、刺さった時の共感や共振は強く、人間味に触れたいという感情も伝わってくる。個人的には冒頭で披露したR&Bマナーのトラックが走る気怠さも含んだ「目隠し」が耳を惹いた。

<SET LIST>
《あっすん Section》
01 目隠し
02 水たまり
03 あなたへ
04 雨
05 きらきら

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MCあんにゅ

 あっすんに続いて登壇したのが、ファッションや美術でも表現活動を展開しているみつはしあきのラップ・プロジェクト、MCあんにゅ。こちらもポエトリーラップを繰り出すが、ラップトップから出力するトラックの音に身を任せながら、ステージを浮遊するように変幻自在に動き回り、ふんわりとしたやわらかい声色を響かせる。最初は靴下だったが、途中でそれも脱ぎ捨て、裸足でステージを所狭しと駆け巡る。

 ステージのオブジェにも問いかけたりと、独特のムードで一瞬にして自身の世界観を構築するパフォーマンスは、時折憑依系の演技者という感じも。物事に左右されず、自らのコンセプトを出し切るという姿勢は彼女ならでは強みで、独創性という観点ではこの日の演者のなかでは群を抜いていたか。
 跳ねるようなエレクトロニックなビートや、空間のあるアンビエントなサウンドなど、さまざまなトラックであっても咀嚼してしまう吸収力も窺えた。一見すると可憐で穏やかだが、その影に潜む、鋭い感性が光る瞬間も。

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マグノリアの雫。

 本イヴェントの主催の一人、シンガー・ソングライター“にべ子”のソロ・プロジェクトである“マグノリアの雫。”は、トリ前に登場。ステージセットの装飾をはじめ、VJやヴィジュアルデザインを手掛けたイヴェントの仕掛け人だ。アイドル・グループのおばけは転校生(現・ダダダムズ)に転校生Aの名で活動後、ソロ・プロジェクト“マグノリアの雫。”を始動させたようだ。パッと見た感じ、アイドル・デュオ“バニラビーンズ”のリサを思い出したのだが、どうだろう。

 マグノリアはおそらくモクレン科の花に由来していると思うが、白く明るい花と、リラックス効果をもたらすという芳香のごとく、にべ子の声色も当たりがソフトで、冒頭の「くるくるアンブレラ」では小道具として傘を用いて可憐に振る舞うなど、正統派アイドルといった風情。だが、にこやかに愛想を振りまくというような旧然としたステレオタイプのそれではなくて、どことなく翳りを醸し出すアプローチが特色か。全体的にはポップだが、ノスタルジーやセンチメンタルを湛えていて、夏の終わりや祭りの後の儚さや虚しさを想起させるメロディラインやヴォーカルワークが琴線に触れるのかもしれない。ラストはタイトルからは受ける印象とはやや異なる「グッドミュージック」(ヴォーカルを務めるバンド、yukarの楽曲)で、夕日が沈む光景を儚げに見つめるように、情趣深いヴォーカルで「グッド・ミュージック鳴らせ」とリフレインしていたのが印象的だった。

 本イヴェント〈kira kira -きらきら-〉は毎月第3金曜日に定期開催され、既に第2弾が10月18日、第3弾が11月15日、第4弾が12月20日にそれぞれ予定されている。マグノリアの雫。とミアナシメントを軸に、さまざまなラインナップで煌めくステージを演出するとのこと。今回、ddmのステージににべ子が加わったように、この企画ならではの意外性のあるコラボレーションが飛び出すかもしれない。

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