Jasmine High @BLUE NOTE PLACE(20240910)
麗らかさに忍ばせた刺激的な芳香が導く、オルタナティヴなグルーヴ。
聴いたことがある楽曲は配信中の「London Foggy Afternoon」のみで、そのほかはまっさらな状態。だが、“パジャ海”ことパジャマで海なんかいかないのヴォーカル、クロエのユニットなら“ハズレ”はないはず、ということで、クロエとミミコによるR&Bデュオ・プロジェクト“Jasmine High”(ジャスミン・ハイ)のステージへ足を運ぶことに。会場は恵比寿ガーデンプレイスにあるブルーノート・プレイスで、Jasmine Highは同所に5月以来の再登場となった。
クロエことクロエ・キブルは、米・テネシー州ナッシュヴィル出身。父はグラミー・ウィナーのア・カペラ・グループ“テイク6”の初期メンバーとのこと(おそらくマーク・キブル、その弟のジョーイ・キブルもいるが)。2024年はフルメンバーでの活動を休止しているネオソウル/ジャズ・アクト、パジャマで海なんかいかないのヴォーカルの一人として知られる……というのは、パジャ海ファン寄りの視点かもしれない(自分はパジャ海より先にクロエを知ったクチだが)。むしろ、2023年を代表する楽曲となったYOASOBIの「アイドル」や「群青」の英語ヴァージョン「Blue」にコーラスとして参加している、といった方が分かりやすいか。
ニューヨーク出身のミミコの詳細はあまり分からないのだが、おそらくアジアンなルーツをもつシンガーで、この日鍵盤で参加した和久井沙良が2022年に発表した「Escape」にフィーチャーされたのをはじめ、その翌年に和久井のバンドとしてフジロックにも出演。2024年3月リリースの和久井の2ndアルバム『Into My System』にも参加しているから、ステージでの息も合う関係ということだろう。
また、同アルバムには、この日ベースを務めた森光奏太も参加。さらに、ドラマーの工藤明は、エクスペリメンタルロック・バンドのCo shu Nie(コシュニエ)のバックほか、さまざまなステージで和久井、あるいはクロエとも共演しているから、さながら和久井バンド+ヴォーカリーズといった様相か。
ちなみに、HALLCAのソロ活動3周年記念ライヴ〈HALLCA YouTube LIVE #100 & 3rd annivessary -Best regards from now on-〉(記事→「HALLCA @GARRET udagawa」)にも和久井は参加していた。
5月にもブルーノート・プレイスでライヴを行なっていたそうだが、個人的には初のJasmine Highとなる。ともにMCでは普通に日本語で話すのだが、特にミミコはイントネーションも違和感なく話し、東京を拠点として活動しているから、“見た目”は来日公演なのにドメスティックなステージというギャップもあって、一瞬不思議な感覚に陥ったりもした。
来年に初となるEP『Love Letters I Sent Ya』をリリース予定ということで、フルステージを埋めるにはオリジナル楽曲が足りないこともあるのか、オリジナルとカヴァー曲による構成で2セット(オリジナル曲名はMC時に適宜紹介していたのだが、自分の壊滅的なリスニング能力の欠乏ゆえ聞き逃してしまいました……泣)。1stセットの冒頭で現時点で唯一配信されていると思しき「London Foggy Afternoon」を披露した後は、イエバがエイサップ・ロッキーを迎えた「ファー・アウェイ」を皮切りに、デヴィン・モリソン「ウィズ・ユー」、イエバもカヴァーしたジョン・メイヤー「ジ・エイジ・オブ・ウォリー」、ホセ・ジェイムズ「トラブル」、レディオヘッド「ウィアード・フィッシーズ」などの洋楽から、いきものがかり「ブルーバード」(吉岡聖恵ライクなポップ感はほぼなし)、宇多田ヒカル「First Love」といったJ-POPまでを披露。1stセットの最後に披露したスザ「グッド・デイズ」とH.E.R.「ゴーイング」は、マッシュアップ/メドレー・スタイルで紡いだ。
ところで、宇多田ヒカル「First Love」は名曲には違いないのだけれど、外国人アーティストが来日公演などで宇多田の楽曲をカヴァーすると、多くが「First Love」を歌うような気がするのだが、何か外国人、あるいは英語話者ならではの感化ポイントが多くあるのだろうか。自分の趣向的には周囲がこぞって賞賛するほど「First Love」に思い入れる感じはないので、実は何か惹かれる要素が忍ばせてあるなら、知りたいところだ。
クロエとミミコのヴォーカル・アティテュードは、非常に上品で麗らかなのだけれど、全面に透明感で覆われたピュアネスというのとはやや異なり、しっかりと陰影と重みを感じさせるヴォーカルがソウルフルなヴァイブスを這わせているから、刺々しい歌い口でなくても“刺さって”くる。クロエはクレヴァーで気品を帯び、ミミコは秘めたパッションを上質に振り撒くが、どちらもエモーションが見え隠れしていて、それはまるで白く清楚な風貌ながら強い芳香を放つ“ジャスミン”の花と言わんばかりでもあった。
オフィシャルやニュースソースではR&Bデュオと書かれていることが多く、確かにオリジナルやスザ、H.E.R.といった楽曲はR&Bのメインストリームではある。ジョン・メイヤーの「ジ・エイジ・オブ・ウォリー」のカヴァーは、大学中退後にソロシンガーとして活動するためナッシュヴィルへ移住したイエバもカヴァーしていたから、ナッシュヴィル出身のクロエが感化されたのかもしれない。
ただ、そこに留まらず、ホセ・ジェイムズ「トラブル」やレディオヘッド「ウィアード・フィッシーズ」といったジャズやオルタナティヴロックの楽曲にも触れる感性は、衒いなくR&Bを紡ぐデュオ、とはやや異なるスタイルと言えそうだ。
クロエとミミコが醸し出すスウィートなソウル・グルーヴは、1stセットで披露したジョイス・ライスを客演に迎えたデヴィン・モリソン「ウィズ・ユー」のようなスムーズでヴィンテージ感漂うR&Bとの親和性も高いが、そこからより拡張性を高めたのは、このステージに集結したバンドメンバーの才と技巧だ。シンプルなジャズ・ピアニストというよりも、尖ったビートに乗ったり、エレクトロニックなアクセントにも柔軟に寄り添うなど、メロディラインのみならずトラック的なアプローチで音を掴むことで、意外性のあるハッとしたアレンジを紡ぐ和久井や、推進力あるドラミングと茶目っ気たっぷりにツリーチャイム(ウィンドチャイム)を鳴らす工藤、ソロパートでは情趣に富むベースラインを奏でた森光という三者が、ジャズの即興性とR&Bのグルーヴネスを活かしたサウンドメイクを展開することで、変幻自在性をもたらしていた。そういった漆黒のグルーヴに麗らかかつ生命力を湛えたヴォーカルが反応し、オルタナティヴなサウンドを横溢させていった。終盤のホセ・ジェイムズ「トラブル」からレディオヘッド「ウィアード・フィッシーズ」への流れは、その最たるものだったといえよう。
それぞれ30分、40分強というセットだったが、バンドとのケミストリーも良好で、エレガントかつチラリと肉感も溢れた五感を刺激する内容に。現段階ではオリジナル曲は少ないが、来年リリース予定のEPを経て、あらためてオリジナル濃度が高まったところで、再びステージを体感してみたい。
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<SET LIST>
《1st Show》
00 INTRODUCTION
01 London Foggy Afternoon
02 Far Away (original by Yebba feat. A$AP Rocky)
03 ブルーバード (original by いきものがかり)
04 With You (original by Devin Morrison feat. Joyce Wrice)
05 original
06 Good Days(original by SZA)~ Going(original by H.E.R.)
《2nd Show》
00 INTRODUCTION
01 The Age of Worry (original by John Mayer)
02 First Love (original by 宇多田ヒカル)
03 original
04 Trouble (original by Jose James)
05 Weird Fishes (original by Radiohead)
06 original
<MEMBERS>
Jasmine High are:
Chloe Kibble (vo)
mimiko (vo)
Sara Wakui / 和久井沙良(key)
Sota Morimitsu / 森光奏太 (from dawggs/b)
Akira Kudo / 工藤明(ds)
Music Selector:
KAZAHAYA(DJ)
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