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エリック・シュミット(Google元 CEO)の「イノベーション・パワー」論考から考えるイノベーションの地政学的な意味

Foreign Affairs(米外交問題評議会(CFR)が発行する国際政治経済ジャーナル)の3-4月号にGoogleのCEOだったEric Schmidt氏の論考が掲載されていました。

「イノベーションパワー 〜なぜテクノロジーが地政学の未来を決めるのか〜」と題されているものです。

同氏は、ロシア軍によるウクライナへの侵略で誰も持ち堪えられると思っていたかったウクライナが敵に有利な点だったのは(ウクライナ人の決意、弱いロシア軍、そして強い西側の支援に帰するところはあるものの)テクノロジーだと指摘します。

  • 政府の重要情報を侵略直後にクラウドにアップロードして守り、建物等の物理的な破壊があっても国家の中枢機能を守ったこと

  • ゼンレンスキー大統領が2年前に設立したDX省が提供するe-政府のスマホアプリDiiaを、市民が敵の軍についての写真や動画をアップロードできる窓口としてOSINT体制を構築したこと

  • またネット回線等のコミュニケーション・インフラの危機に対してスターリンクの衛星を使って回線を維持したこと

などを事例として挙げました。

私自身、同様の問題意識を持って世界情勢を見る中で、2020年11月に地経学ブリーフィングの執筆論考中で、「国家サイバーパワー」が重要になるということを提起しました。

地政学的な課題を解決するために経済を武器として捉える場合、先端技術を習得すること、また次世代の中心産業の国際基準を掌握することは大きな戦略の1つだ。サイバー空間は、そのような民間の力も総動員した国家間競争の主戦場の1つになっている。

過去を振り返れば、世界はつねに国家のパワー・バランスによって秩序を形成し、アルフレッド・マハンが帝国主義の時代の海軍力について提唱したシー・パワー、冷戦時代を規定した核戦力(ニュークリア・パワー)、冷戦後はジョセフ・ナイが提唱したソフト・パワーなど、時代を形作るパワーは変遷してきた。

いま、「国々の興亡」を決するのは国家サイバー・パワーになりつつある。地経学の時代、サイバー空間がパワー・ゲームの中心に躍り出てきた。そして、それがまた地経学のパワー・ゲームを激化させている。

日本が「デジタル敗戦」から脱するのに必要な策 〜国家サイバー・パワーの中核機能をつくれ

しかし、シュミット氏が今回提起したのはもう一歩踏み込んで「イノベーション・パワー」すなわち、イノベーションを起こす力:新しい技術を発明し、適応し、使いこなす能力です。(Innovation power is the ability to invent, adopt, and adapt new technologies)

イノベーションを利用することができる国家が世界に力を示すことは長い伝統ではあるが、今までと異なるのは、科学の進歩の自己永続性である。

例えば、AIの開発は科学の発見の新境地を解放するだけではなく、そのプロセス自体をスピードアップする。

AIは、科学者やエンジニアたちがさらに力強いテクノロジーを見つけることを力づけ、AIの進化そのものもそれ以外のフィールドも進化させ、そしてその過程で世界の形を変えてしまう。

軍事力、経済力、文化力の土台である、より迅速かつ優れたイノベーションを生み出す力は、米中の大国間競争の結果を決定づけるだろう。

Innovation Power 〜Why Technology Will Define the Future of Geopolitics

昨年11月に公開され、世間を賑わせている大規模言語モデルを使ったChatGPTのお陰で、第四次AIブームに入ったとも言われる中、多くの人がAIの進化に驚きと、そして実装される世界の実感を持ったもの思います。

「イノベーションを起こす力」を持つことが加速度的に進化する技術力を持つことにつながるスピードの速い時代に突入しました。

また、シュミット氏は、イノベーションへのコミットについて、中国との競争を念頭に、国ためだけではなく、民主主義のためにコミットしなければならないと主張します。

自由な社会、オープンな市場、民主的な政府、そしてより広い世界秩序がかかっている。

Innovation Power 〜Why Technology Will Define the Future of Geopolitics

政策従事者はどうしていくべきなのか。

イノベーションを起こすのにより良い環境を条件を作るためには、役立たずの官僚的な衝動を乗り越え、テクノロジーの進化の好循環をキック・スタートするツールや人材に投資しなければならない。

Innovation Power 〜Why Technology Will Define the Future of Geopolitics

と同氏は述べていますが、非常に日本も重く受け止めなければならない部分だと思います。

日本は、今岸田政権の「スタートアップ5ヵ年計画」でイノベーションの牽引役であるスタートアップを活性化させてエコシステムを牽引する施策を打ち出しています。

同計画ではディープテック分野にも注力する方向が出ていますが、あらゆる側面からエコシステムとしてイノベーションを後押しすることが国力に直結します。スタートアップのエコシステム支援に加えて、

基本的なデジタル化すらままならなかったデータ基盤を整備していく。
大学の研究室からイノベーションが起こせるための環境整備、
研究者の待遇や研究環境などの整備をしていく。
政府調達や政府のR&Dと産業界・学術界の垣根を整理していく。
企業活動にしても、安全保障においても、教育においても、
テクノロジーの実装と、「使いこなす」ことを後押しする。

自国の経済発展・国益がもちろんの大前提の目的でありますが、長期的な意義・世界全体の秩序の観点からも、私たちが大切にしている価値観を維持するために、「イノベーション・パワー」を日本も磨かなければなりません。


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