中坊と母のロンドン #5
嫌がる息子14歳を無理やりロンドンの英語学校に置き去りする事二日目。
再度ひとり時間を手に入れた母の私。
さあ一人の時間も二日目だどこ行こう。
まずは朝のコーヒーが欲しい。
親近感あふれるスタバもいいが、近くにArt Cafeというのがある。
窓際のベスポジ確保し、持ってきたLonely Planetに載っている各地域の概要(ガイドブックなのに概要しか載ってないところがとてもよい)を眺める。
私自身が中坊だった頃から憧れのシャーロック・ホームズ氏に会いにSherlock Holmes Museumに行くのは今日にしよう。
歩き始めるが周りの色々にまた目を取られてなかなか進まず。
テムズ河南岸のあまりビジネス色が濃くないこのエリアでもやはり平日朝の都心らしく人通りが多い。そしてチャリ通の人がとにかく多い。チリンチリンっていうのどかな感じより、バビューン!という感じで信号間違うとマジでチャリに轢き殺されそう。
この人数でこのスピードでみんな走れてるのはきっと車道の脇にしっかりとチャリ道が確保されているのと、恐らくチャリのルールと罰則がしっかり制定されているんだろうなーなんて思ってたら、ダブルデッカーの脇をチャリですり抜けたお姉さんがバスの側面をバシバシどつきながら「危ないわねどきなさいよ!」みたいな事怒鳴ってる。
私はロンドンのチャリ通生存競争に勝てそうもない。
道端の電光掲示板に仕事で関わった事のある某通信企業のロゴを見かける。知ってる人を見かけた様でちょっと嬉しい。その節は大変お世話になりました。頭の中でおじぎ。
今日は窓の開き方にも注目。
古い建築新しい建築関わらず、素直な(?)横引きスライド窓が非常に少ないことに気づく。印象としては一番多いのが上下スライド窓。その次に窓の一部がスイング外開きか、横ピボット。この横ピボット窓は基本的に下半分が外側に開くんだと思うが、場所によっては上半分を外側に開いてるとこもあり、見てて不安な気持ちになる。雨が降ったらガラス面の坂を伝って雨水がドシャドシャと部屋の中に。。。←妄想中。
水仕舞いの考え方ってお国柄が出がちだなーと思う。
不動産屋さんに表示のある「To let」という文言が米国で言うところの「For rent」(賃貸)だと言うことに気づく。この後の滞在でこのTo let をToiletだと見間違うことが多発。トイレあった助かった!と騙される。街中でトイレを見つける事が困難なだけに罪作りな文言。
こんなんで、ああなかなか前に進まない。
道端の緑地内に高さ2mくらいの巨大な蜘蛛がいる。
二度見したと思う。
Waterloo Millenium Green という公園の中の彫刻作品の一つだ。休憩を兼ねて寄り道。
この公園には他にも、炭化した木材でてきた彫刻のようなベンチ類が複数あるので座ってみる。
広場の中央に多数いる鳩が、なんとなーくこっちに寄ってくる。数十羽という鳩が横目でちらちら見ながら、くれる?くれない?どっち?とテレパシーで聞いてくる。あげないよ、と同じくテレパシーで返すとみんな舌打ちしながら三々五々元の中央部分に戻っていく。
丸太型のベンチも触って愛でて。そろそろいこか。
Waterloo駅辺りで高架下を何箇所か横目に見る。現代風のボルトではなく古風なリベット留めの無骨な鉄骨が国鉄の線路を恐らく百何十年支えている。飾りのない生のインダストリアルスタイルって全体的にばっちい。
そしてここらあたりで気づいたのがこの街ではちょっと入り組んだところがあるとなぜか必ずと言っていいほど尿の匂いがする。この高架下も例外ではない。
左側に落ち葉を処理している作業員の方達が。
集めた落ち葉を噴射機でガバあきのダンプ荷台に向かってぶばばばば!と豪快に噴射してる。雑さに笑いを堪えきれず顔が歪む。
Mepham通りを通ってGolden Jubilee橋を渡りきると、Charing Cross駅との表示が。シャーロックホームズが事件解決の為に早朝よく行くあの駅だぞ本物だ。
Piccadilly Circusを抜けRegent通りに入る。地図で見ると、ぬるーっと弧を描いている通りのまんま、両側に弧を描いて長く伸びる建築物はとても美しい。が、この長さは、地震が起きたとすればどこら辺にまずヒビが入るだろうとか嫌なことを考える。
ここらへんから雨が降ったりやんだり。なんと今日傘持ってない。
雨降って店舗の庇の下へ避難、雨やんで歩く、を続けて、All Souls Langham Placeという、でっかい石造りの東屋みたいな建造物の前でもうムリっていうくらい雨脚強くなる。同所の軒下に逃げ込んで、そこで数十分完全に大振りで足止め。
庇が高いから吹き込む度にあっちに逃げ、こっちに逃げして尿の匂いに耐える。外国語喋るカップルやなぜか撮影班等、同じ運命を辿ってる人達と庇を共に。
あまりに暇だけど、そうだこのタイミングだ、と思ってスケッチブック取り出して周辺の建物のスケッチ始める。
建物最上階だけ外壁が屋根材みたいなので仕上げられていてるが、どう見ても窓がついてて部屋がありそうなのに「これは屋根ですので階数制限違反ではありません」と言い張ったパリの建築に似たものある。
他の建物とも高さや外壁材などの意匠がまちまちでよく見ると意外と統一感が薄い。
Regents公園どんつきのPark Cres.沿いにあるザ・オカネモチみたいな白亜の集合住宅に沿って歩くが、途中でこのオカネモチの庇にもお世話になる。きっと監視カメラがあるんだろうなやだな、とか考えてたら数件向こうにもおそらく同じ目的で庇の世話になってるおじさんあり。
ずっと人んちの前にいるのもアレなんで、近くに駅あるからちょっとだけ地下鉄乗ることに。こんなとこでも駅はやっぱクサい。
一駅だけ乗って着いた駅名はそのものズバリのBaker Street駅。
地下鉄から地上に上がってBaker Streetを歩く。
繰り返します。今私はBaker Streetを歩いております。
Holmes氏実在してないしてないと何度も言い聞かせなくてはならない精神状態。いまここに誰か連れがいたら間違いなく錯乱してぎゃあぎゃあ騒いでいただろう。そしてとどめのSherlock Holmes Museumの看板と221b Baker St.の住所表示。
周りは大変な混雑。大半は中国語喋る人達。2番目に多いのは日本人らしき人達。
まずはチケットを買いにmuseum shopへ。入館まで最低でも40分待ちと教えられるも、こちとら中坊の頃からずっとホームズ氏に憧れているので40分なんか鼻くそみたいなもん。チケットを買って、列に並ぶ。チケット、折らないようにしなきゃと両手で大事にしまう。
並んでるとまた雨が。とりあえずウインドブレーカーを傘代わりにしてショーウインドー沿いに並んで待つ。苦行。でも私、今日Holmes氏に呼ばれてるから。
数十分後やっと順番が。
入口入ってからずっと、「これHolmes氏が実際触れたやつ使ったやつ。。。ちがーう」と何度も脳内で一人やりとり。本当にここに実在してたっぽく見えて見えて。壁の銃痕、ガイドのお姉さんの「Mr. Holmes will be home soon…」の言葉にいちいち心ぐつぐつと沸き立つ。Holmes氏が吐いた二酸化炭素がどっかの隅に残ってるかもしれないとか考えてもう完全に変態。
ふと、Baker St.の道幅が思ったより広いのに気づく。イメージ内は片側一車線+路肩と歩道、なのに対して実際は片側二車線の広々大通り。ここから通りを走る馬車とか依頼人とかを見下ろしてたのねーなんてことも考えて、誰よりも長い時間ダラダラと居続ける。
名残惜しくてもう一度ショップに入る。
夏生まれの息子の為にバースデーカードを買う。息子は今日はどんな一日を過ごしているのだろうか。
外に出て今一度221b Baker St.のアドレス表示のある建物を見上げ、また変質者よろしく周りをうろつく。周りにもお土産屋さんがあるんだーふーん、なんて本当は買いたいけど買うのが恥ずかしいダブルデッカーのおもちゃなどを眺めたりする。
ふと息子からラインが。
「学校に警察来た。校舎からすぐでろ出ろって言われた」
「何が起きた?あんたは大丈夫?」
返事がない。
母、固まる。
つづく。