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📕『飢餓海峡』 水上勉さん
警察の捜査によって物語が語られているので、推理小説のようなイメージを持ち易いが、水上氏が伝えたかったのは事件の真相そのものではないことが読み終えたときにわかる。
早々に明かされる事件の大筋に、残りのページ数とひき比べて、どのように決着をつけるのだろうか?と首をひねりながらも一気に読んだ。
水上氏は、あとがきで、発表当時「推理小説」としては不手際とされたこの語り口による本作を「人間小説」と呼んでいる。
そして、奇抜なトリックを駆使して約束事に縛られて書く推理小説に、ある種の空しさを感じていたことも告白している。
推理小説を読むことを楽しみ、自ら発表しながらも「どこかからふいてくる空しさ」にがまんならなかったと。
改めてこの作品を噛み締めてみたとき、「救済」という言葉が浮かんだ。(2004.10)