ふれて、感じて、ユニバーサルミュージアム!(直方谷尾美術館2024)
美術館や博物館と言えば鑑賞する=見るもの、と思っていませんか?確かによく「作品にふれないでください」という但し書きを見かけますよね。ところが、さわってもいい展覧会があるんです。大阪の国立民俗学博物館による「ユニバーサル・ミュージアム さわる!”触”の大博覧会」がそうです。館長であり「触文化」を提唱する文化人類学者の広瀬浩二郎教授監修による2021年の初開催を皮切りに2022年に岡山で第一回巡回展が、2023年に滋賀・近江八幡で企画展が行われ、次の開催地として選ばれたのが九州です。2024.7.6-9.16福岡県の直方市で、10.30-11.9大分県立美術館で行われました。ここでは、直方谷尾美術館での様子をレポートしたいと思います。
会場となる直方谷尾美術館が開設されたのは1992年ですが、建物としての歴史は古く文化庁登録有形文化財に認定されています。洋館造りの入口を入ると小さなブロンズの踊り子像(「バレリーナ」1983制作 中村宏)から展示が始まります。次に待っているのが今回のテーマに深く関わっている耳なし芳一像(「てざわりの旅」2021制作 わたる)。皆さんは「耳なし芳一」をご存知でしょうか。琵琶法師の芳一はあの世とこの世を行き来できる存在でした。キャラクターでたとえるならゲゲゲの鬼太郎のようなものかもしれません。美しい音色に魅せられた物の怪たちにあの世へ連れて行かれそうになった芳一を助けようと、和尚さんが芳一の体に経文を書き付けるのですが、耳だけ書き忘れてしまったため耳を持って行かれてしまうというお話です。これはお伽話ですがこの世とあの世というのを分断された二つの世界と捉えると、広瀬教授はここに私たちが目指す共生社会のヒントがあるのではないかと考えられたそうです。この世界観がインスタレーションによってみごとに表現されています。芳一像には触らないとわからない、ある仕掛けが施されています。調べると出てきますが、皆さんの街に迎えられたときのためにここではその秘密は伏せておきますね。
さらに順路を進むと、直方駅前の大関魁皇像の製作者・片山博詞氏による彫像や高見直宏氏の作品群「群雲」「叢雲」「触覚の月ー弦月」にも圧倒されました。ブロンズ、木、樹脂etc…それぞれの作品世界のちがいが触ることによって補強されるようです。そのほか体感型の展示も数多く用意されていました。ナイロン製の細長い生地を幾重にも重ねて吊るした展示(「境界」2024制作 島田清徳)はとくにお子さんに人気でした。かき分けて進む時の柔らかな刺激に反して手に取ったときの意外な張り感に驚かされます。古墳に土偶に土器。油絵、陶版。ドローイングにも立体加工を施し、手触りを確かめることができます。木工細工の手遊びコーナーでは親子で楽しむ姿が。茶室や応接室も開放し音を使った展示や点字絵本など、幅広く興味を持てるような工夫がみられました。
ギャラリートークも聞かせていただき、ユニバーサル・ミュージアムとは、視覚優位・視覚偏重の従来の展示のあり方を問い直すもので、障がい者対応という枠を超えての取り組みだということが伝わってきました。フラッシュなしなら撮影も許可されていました。今後もきっとどこかの街で企画されると思います。さあ、手荷物を置いて装飾品を外したら準備OK。ふだん触ることのない作品群に直にふれてみることで「さわる」ことの無限の可能性にふれてみませんか?