日本顕微鏡学会第78回学術講演会(ハイブリッド開催)に現地参加してきた話

こんにちは。じゅんです。
Scientist/Developer Relationsとして実験系の自然科学研究者とxR/IT導入の橋渡しを続けています。今回は、私の所属学会の全国大会が3/11-13の期間、福島県で行われたのでその参加レポートを備忘録として残すことにしました。運営・参加者のみなさんお疲れ様でした('ω') 
 二年連続でのハイブリッド開催でもあり、前回のつくばでの体験との差分も書いておきます。14日に札幌に帰ってきて1週間経ち、特に体調面での変化も見られないので、今回も無事だったようです(それなりに対策もしました(後述))。


 前回は6月でしたが、今回は5月の早い時期での開催でした。3月16日に発生した福島県沖の大地震の影響で一部施設がつかえなくなってしまったようではありますが、現地に行ってみると会場内の不便は特に感じなかったです。

オフライン会場の様子

 会場のビッグパレットふくしまでは数トラックの口頭講演が5か所ほどの講演会場で行われ、会期中ずっと展示されているポスター発表のコアタイムが夕方に設置されていました。企業展示ブースもポスター会場のおかれたスペースに併設されており、そこで対面交流が出来るようになっていました。
 ハイブリッド開催なので、全講演会場には配信の仕組みが準備されており、zoomを介して遠隔の人も参加できるようになっていました。セッション座長もオンライン参加だったりのパターンがありました。講演会場では、質問者はオフライン・オンライン双方取り上げられ、発表後の質疑はそれなりに行われていました。

オンライン会場の運用

 学術講演会オンライン会場(現在は閉場済み)のポータルサイトに会員番号でログインする仕組みになっており、ログイン後は各セッションのzoom接続リンクの用意されたタイムテーブルの中から希望のセッションに移動して、口頭発表を聴くという仕組みでした。機能としては簡素な感じで、応用物理学会のようにチャットメッセージが送れるとかはありませんでした。

無くなったもの・復活したもの

 前回から無くなったものとしてはコーヒーサーバが完全になくなりました。飲み物は会場内の自販機で各自買って、飲食禁止区域でないところに行って飲むくらいの感じになりました。
 また、懇親会は前回に引き続き消滅したままでした。
 一方で、昼休みの時間にスポンサー企業が開催していたランチョンセミナーが1日目・3日目に復活しました。新製品の情報を聴きながら講演会スペースで配られたお弁当を食べることが出来るようになりました。

 紙の分厚い冊子で購入者に現地で配られていた講演・ポスターアブストラクト集(3000円)は今回も配られませんでした。会の始まる前にpdfをダウンロードする案内があり、そこで電子版を手に入れて各自持ち歩く感じになっていました。冊子版アブストラクトは後日郵送されて現物が届くようです。

 コロナ拡大対策は正面入り口と各会場付近に設置された体温測定カメラに変わっていました。各講演会場に自分の名前と入室時刻を記帳するシステムは廃止されたようです。ビッグパレット福島入館の入り口は複数開いていたので、すべての入り口をカバーしている体制ではありませんでした。各自の判断に任せるような運用になっており、参加者の自衛意識が問われる感じに思いました。

(6/10追記 1か月後くらいに紙のバージョンの概要集が到着しました。左から2019,2021,2022年版で、2ミリほど薄くなった2021と同じボリューム感でした。)


3日間の過ごし方(会場編)

 郡山市の宿を出て郡山駅から会場までのシャトルバスに乗り、ビッグパレットふくしまに行き(310円)、講演を聴いたり展示を見て交流したら夕方に再びバスに乗って宿に帰るという生活でした。
 各会場wifiが設置されていたので、講演会場に行くほどのモチベーションが無ければオンライン参加者と同じくzoomを聴くなどの視聴方法がありました。
 1日目は若干寝坊してしまった&9時から見たいセッションがあったため、ホテルでオンライン参加したあと昼前に会場に向かうなどしました。これは前回同様、”参加法を選べる学会"という感じでした。

文化を乱さない参加方法

 悪目立ちして出禁になるのがイヤなので、会期中のコミュニケーション内容に関してはほぼ顕微鏡の話題のみ議論する形で参加していました。
 ただ、マスク着用だと私だとわかる人が少ないので、HoloLens 2の首掛けスタイル+いつものキャリーをずっとガラガラ引いてる人のまま全日程を移動していました。
 機材全部持って行ってたので、いついかなる時でもデモが出来るんですが、今回も前回同様、HoloLensの電源すら入れずに普通に過ごし、首のデバイスを気になって訊いてきた人にだけ簡単に説明して様子を見ていました。


成果

 今回は、各研究機関の実験装置を共用する部門の方と、運用方法についてたくさんの議論をすることが出来ました。もともと私が電子顕微鏡の共用部門の近くで働いていて、いいことダメなことたくさん経験しているので、そのあたりのお話をしていくことでお互いの理解を深めました。今後の運用の参考にして頂ければ嬉しいなと思っています。
 また、九州方面にお勤めのスタッフさんが実は同じ大学出身という事が判明して地元話をしてきたり、前職時代の同僚(?)の研究者と再会して近況を交換し合うなどのイベントがおきました。
 前職時代の研究室から学生さんが口頭発表していたので(めっちゃ珍しい)、それを聴いていました。現職のスタッフと会った時に感想なども言わせてもらいました。

若干期待と違ったこと
 去年の顕微鏡学会の時に現地で会えず、今回こそは会えるかなと思っていた方々が今回もオンライン参加を選んでおり、次回以降に持ち越しになりました。結構仲良くして頂いていた方が現地に居ないので、なんとなく学会入りたての時に感じるアウェーにいる感じを今年も感じながら過ごしました。    
 コロナ以前の会場にVRを用いた展示は少しあったため、活用が進んでる例も見られる事を期待していったものの、今年のVR利用の展示はありませんでした。かくして顕微鏡学会のVRおじさんは私一人だけになってしまっていました(でも行かなければこういう現実も気づけないので行った価値はあった)。

オン参加者とオフ参加者の分断が進んでいるように見える問題

 去年の参加記事で、新規の参加者が見えにくい問題というパートを書きました。これは、現地参加者(特に講演者)の側から、zoom参加のオンライン質問者が印象に残りにくくて憶えてもらえないだろうというお話でした。質問をしない参加者に至っては名前すら出てくる事もないので当然無理です。

 今回、ポスター発表が現地参加のみに変更になり、オンラインから現地へアクセスする方法を一つ失う形になりました。前回のオンライン参加用ポータルサイトでは、ポスターがオンデマンド動画として公開され、質問をテキストでやりとりする非同期の場がありましたが、それが今回無くなったというのが大きな変化です。多分全体であまり使われなかったんだろうなという気はしますが、それでも、講演以外の時間帯で発表者と繋がる貴重な機会でしたので私は活用させてもらっていました。無くなった事によりオンラインの参加者が現地の参加者と交流する方法はzoomの口頭講演の場とランチョンセミナーのタイミングのみという事になっています。
 去年に比べて現地会場の参加者は増えていました。ちょうどまん防が全国的に明けた後という事もあり、来れる先生方も増えていたようです。夕方近くになると、どこそこで飲もうみたいな話が展示会場のいたるところで聴こえてくるようになり、実際オンサイトでの交流の場は会場以外にも発生していたようです。
 こうなると、参加者の記憶としては現地会場での出会いでいっぱいになり、オンライン参加の人は後回しになったまま忘れられていっているでしょうね。

ところでハイブリッド開催といえば、22日まで開催だった #CLS高知 も同じである

 同じ時期に、コミュニティリーダーズサミット高知 (#CLS高知)も開催されました。こちらは年2回春と秋に開催されるコミュニティマネジャー達の集いで、去年からオン配信・現地開催のハイブリッドになっています。

 開催前の3日間はワーケーション・前夜祭で盛り上がり、土曜日の本番でYoutube配信でのハイブリッドセミナーがあり、日曜日も各自遠足で楽しんでいたようです。私はオンライン参加してハッシュタグツイートをして遊んでいました(60ツイートくらい)。

 今回のテーマは、「ムーブメントをどうつくるか」でした。まわりの人の次のアクションをどう導いていくかにも通じるテーマで、いろいろな工夫がちりばめられていました。多くのトーク登壇者のストーリーに共通点があり、「自分の領域だけでなく外のコミュニティに出て発信するといいよ・発信してる人は応援の対象だよ」ということでした。
 こちらの会では、ツイートを起点にどんなやり取りも始めることが出来ました。Youtubeのマイク切り忘れをネタにいじったら、同じくオンライン参加組の「現地に行きたさ」が吸い寄せられてきて、現地参加組からは「次回来るといいよ圧」がかかりました。よくできています。まさにムーブメント。こういう感じで巻き込まれるポイントをたくさん産んでいれば、偶然の良き出会いもその中からうまれそうな気配がありました。
 ポイントは非同期でもコミュニケーションの種が残ることと、お互いちゃんと関心を表明しあう文化であることかと思います。オンは確かにさみしいですが、オンライン参加者同士の分断はされていないように感じます。

集団の文化の違いが、コミュニティイベントの運営に明確に影響している

 顕微鏡学会では未公開のデータも共有されますので、原則そこでの講演内容は非公開になります(発見が先であることを保証する場であることが大事です)。私もその文化を理解していますので、その型を破ることはありません。現場で写真を撮るにしても講演が映り込まないように配慮しますし、不適切なSNS投稿もしません。
 オンラインサイトでも、その文化を守るための禁止事項がまず最初に出てきます。
 文化の範囲内で出来そうな実験をちょっとしてみました。

 講演を取り上げることが出来ないので企業展示ブース関連で起きた出来事を中心に頻繁につぶやいてみて現場とツイッターアカウントとの連携があるのかどうか、参加者からの反応はあるのかどうかを調べていました。結果としては予想通りでした。
 この結果が示していることは、顕微鏡学会における外部でのつぶやき(SNS)は会場・オンライン参加における体験になんら影響を与えないという事実です。SNSでも参加者は不可視の存在で、新しいつながりがここで出来る事はありません。なので参加者がイベントについてつぶやくインセンティブもない事になります。

 これらの状況が、本質的に仲間と呼べる繋がりを作ることは現地に行く以外は不可能であると同時に、「現地に行く以外は不可能である」という大事なことを広く発信する人物が顕微鏡のコミュニティ内には存在しないという状況をつくっています。

 これをなんとかすると今の状況が多少は良い方向に向かうのではないかと思いますが、現在はお手伝いできるポジションにないため、外野から騒いでみるのが精いっぱいです。

 2019年の時のポスターは140件ありましたが、2021年は85件になり、2022年は82件に減っています。総講演数も多分減っています。逆のムーブメントが起きている感が否めませんが、界隈の発信が再びにぎやかになる事を願っています。

 クローズドな場での討論会の重要さももちろん理解していますので(場合によっては論文・特許が出版できなくなって研究者は大変なことになります)、すべてをオープンにしろとか極端な事を述べる気は一切ありません。とはいえ発信の余白を作る工夫があったり、発信が出来る企画とのコラボもあるとより現代的ではないかと思っています。

まとめ

 顕微鏡学会に参加して昨年からの状況の変化をまとめました。得た成果はそれなりにあったもののそこで感じていたモヤモヤを、後で参加した #CLS高知 の体験と見比べて言語化してみました。こういうのも #外のモノサシ で考えるといろいろ整理が効いてよいです。運営自体はどちらも大変ですので、オンラインも仕立てていただいて感謝しております。自分がコミュニティ運営する立場になってよく考えるようになって、実はブース出展者との会話でピントが合いやすくなりました。
 顕微鏡学会でXR技術を取り入れたファーストペンギンは間違いなく私なんですが、ムーブメントを実際に起こしていきたいなと思いつつ、遠いみちのりを一人で地道にやるしかなさそうだなとも思う日々です。

おまけ

・めっちゃ旅が下手になってた
 荷造りから移動・小銭の準備・服の入れ忘れ・宿までの行き来すべてグダグダになって無駄時間をだいぶ生んでしまいました。オンラインイベントを2つ参加するはずだったのですが、どちらも見逃し配信を見るにとどまりました。

出張費自体は全体で80000円くらいだったかと思います。ただオンライン視聴するだけならMax15000円。この差額をケチった場合、コミュニティに私の痕跡は残らない。


・会の外でXRの布教活動は相変わらずしてきた

教わったスキャンアプリを使って宿泊先のホテルの部屋の3Dデータを作っときました。これが今回の場外トークのとっかかりになりました。

・私のコロナ対策
 つくばの時は茨城空港からタクシー1人乗りで現地会場に行きましたが、今回はワクチンも3回打てているので多少警戒を緩め、福島から距離のある仙台空港に降りた後普通電車の乗り継ぎでたどり着きました。飲み会の場が高リスクなので、ホテルには独りで戻り、コンビニ飯を三夜連続で食べ、混んでる外食は避けました。朝ごはんもロビーバイキングが激混みだったので、利用を諦めました。帰りは土曜で駅がもっと混んでいたので、高速バスで仙台に直行して一番人気のない便で帰りました。オンラインでの座席変更期限が過ぎた後にピーチ航空の窓口に行って、隣1マスの乗客の有無を確認しに行くと、ちょうどいなかった&隣マスへの席移動を封じてくれたので帰りの飛行機は極めて快適でした。

・反省
名刺交換した相手にメールで改めて挨拶するときに、最近整備した↓のプロフィールを共有するようにしていますが、圧が強いようでその後のやり取りが途絶えがちですw
今回の学会会場でも懲りずに同じことをしてみた結果、やはり成功率は半々といったところでした。学者として積み上げた実績もチョロっと載せてはあるのですが、これはいよいよ要改善な気がします。


以上です。
(2022/5/23 5874字 360min 初稿公開
 2022/6/10 6228字 概要集到着)

2022年現在、物価上昇の影響を受けて財政的に結構ピンチな状況が続いています。お手伝い先として何かできそうな団体ありましたら冬の灯油代を稼がせてくださいorz