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(本)ヤンデル先生のようこそ! 病理医の日常へ

podcast番組いんよう で有名なヤンデル先生こと「市原真」さんの一冊。タイトルから,病理医の業務内容についての紹介かと思っていましたら,それを含めてSNSとの向き合い方,ヤンデル先生が今の仕事にたどり着くまでの道のり,幸福についての考え方など,多岐にわたる内容で,つまみ食い的にも楽しめる一冊でした。


成績優秀だったから医学部に進んだという,本音を包み隠さずに語ってくれるヤンデル先生。病理医の仕事に興味がある人はもちろんのこと,進路に悩んでいる若い方にも是非読んでもらいたい一冊です。


医者,と聞くと「人の役に立ちたい,助けたい」という崇高な志を持って医学部に入って,厳しい勉強と修行の期間を経て,医師になるというのをイメージしてしまいがち。確かに,そのとおりの素晴らしい方もいるのでしょうが,ヤンデル先生のように「できそうだからそうする」という理由でその道に進んだ人も少なくないはず。
自分も入社試験の時に「人の役に立ちたい,社会を支えたい,貢献したい」といったそれっぽい理由を並べて合格を勝ち取りました。そういう気持ちがゼロだったとはいいませんが,正直(暴露?)そんなにきれいな理由だけじゃありませんでした。安定してそう,大手だし福利厚生がしっかりしてそう,給料もそれなりによさそう。下世話な話かもしれませんが,そんな理由も会社選定で大きなウエイトを占めていました。
志望動機できれいな言葉を並べ立てないといけない,という風潮はなんなのだろうか・・・個人的には「給料がいいからです」「転勤が少なくて楽そうだからです」という本音を出してくれる人の方が信用できます(爆)

閑話休題。
本書の中で,面白いと思った2点,引用するとともに自分の考えたことを記してみます。

世間に向かって「私は,ツイッターで,本気で医療情報を扱っています」などと言うと,「ネットで遊ぶほど日常診療がヒマなのか」とか,「その時間をもっと有効に使って論文でも書いたらどうだ」などと叱責,揶揄されることがあります。
でも,ツイッターで医療情報を扱うことは「遊び」ではありません。現実にツイッターなどのSNSを通じて,真剣に医療情報を探している患者が世の中には増えてきている以上,それに医師として応えるのは職務の範疇です。

確かに,現状のツイッターに関する印象は,この批判者の声に近いかと思います。私の勤務する会社でも,「業務関連情報をSNSに投稿するな!関係会社にもその旨周知しろ!」ということが口酸っぱく言われています。もちろん,機密情報であったり,会社の評判を下げる迷惑行為などを,会社の看板を背負いながら投稿することがダメなのは言わずもがなです。使い方を誤ると炎上するし,会社の評判を大きく下げるツール。そんな印象でしょうか。
自分が病気にかかったり,気になる症状が体に表出したから調べたいと思った場合,恐らくほとんどの人はネットで検索しますよね。となると,わかりやすい医療情報が手に取りやすいところにあるのは非常に助かります。少し前だと結構多くの家に「家庭の医学」なんて本がおいてあったかと思いますが,恐らくそんな家も減ってきているのかと・・・。情報を求めるニーズがあり,それを発信してくれる専門家がいる。そして,わかりやすいところ(ここだとツイッター)に挙げておいてくれている。医療を受ける側からすると,ありがたいことこの上ないわけです。SNS医療なんて言葉もあるようですが,是非とも拡大していって欲しいなと思います。

話は飛びますが,以前のエントリーで書いた通り,自分は社会人ドクターとして大学院生をしています。取り扱っているテーマは,広義で防災に関すること。
で,ふと思ったのですが,防災に関する専門的な研究は日々なされているのですが,現状,その成果がきちんと世間にアウトリーチされているのか?というと,まだ不足してるような気がします。もちろん,地方公共団体がハザードマップを公開したり,市民講座で防災意識の向上を図る取り組みをしていることは承知のうえです。
どこか,「興味の持っている人だけ詳しく,知らないひとはさっぱり」という状態になっている。
津波が来たら自分の家は浸水するのか?地震が来た時の避難所はどこか?家での備蓄はどんなものをどれくらいの量したらよいのか?
(一部自分も含め)多くの人が準備なり確認しなきゃと思いつつも,十分な防災知識が浸透しているとは言い難い状況にあるかと思います。医療情報も防災情報も,場合によっては命にもかかわる重要情報・専門家がいるという点では共通する部分も多いので,「防災の観点からのSNSの活用」についても今後展開されていくと面白いし,将来の備えになるのかも,そんなことを考えながら読みました。
(自分も防災士の資格でも取得し,きちんとした知識・情報を発信するのもひとつか)

医療者は医学のことであれば何でも知っているわけではありません。得意と不得意があって分業しているため,自分の専門範囲を超えると,分からないことが一気に増えます。だから,誰かが腰を据えて「照らし合わせ」をやった方がよい。
(中略)
「多言語同時通訳」のような作業をしようと思ったのです。これは本当に大変な仕事です。病院にある科の数だけ,あるいは画像診断手法の数だけ,言葉が存在しますからね。もっと言えば,翻訳する対象は「デキモノ」のできる病気のほぼすべてです。
(中略)
私はこれを「ライフワーク」としたのです。


ある程度の以上の会社で働いた経験のある方でなくとも,ある学部に所属する大学生でも,これがいかに高い山であるかは想像がつくかと思います。技術的なこともやりながら,総務も会計も人事もやっちゃう。そんなイメージでしょうか。
よく,代替困難な人材になるには専門分野の掛け算をせよという話がなされます。100人に1人という専門が2つあれば,掛け合わせて10000人に1人の人材になれるという話。ヤンデル先生はさらに掛け合わせる項の数を増やしにかかっているわけですね。だからこそ,ツイッターでもこれほどのフォロワーを獲得し,かつ,ある程度の露出も多い貴重価値の高い現在のポジションを確立できたのだと思います。
橋渡し役を買って出るというのは,ある種の生存戦略の一つなのかもしれませんね。

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