インド「カースト制度」から考えてみた
「ダッバーワーラー(お弁当配達人)」とは?
「めぐり逢わせのお弁当」というインド映画(2013年)がある。
自分が好きな俳優イルファン・カーン主演の作品。
大人の淡いラブストーリー映画としてもいいのだが、ここでは、その映画に登場する「ダッバーワーラー(お弁当配達人)」という興味深い職業から始めたい。
「ダッバーワーラー(お弁当配達人)」は、簡単にいうと、家庭の弁当を職場に届け、食べ終わると、それをまた家庭に運ぶという人達。
そのボリューム(2015年の記事をみると毎日17万5000個の弁当とある)とローテクにもかかわらず、想像を絶する誤配送率の低さ。
彼らの知的水準は決して高くなく、特殊なコードで峻別しているらしい。
なお、ハーバードビジネススクールが、その仕組みを研究したるらしい。
”世界で最も効率的なデリバリーシステム”、と表現できるのかもしれない。
この職業は約130年にも続く職業で代々親から引き継がれている。いわゆるカーストの一種だ。
彼らの口頭伝承の「秘訣」「ノウハウ」が正確さを担保する。
↓「ダッバーワーラー(お弁当配達人)」の働いている様子、仕組みが分かる動画
↓(参考)この職業がコロナとデジタル化によって危機に直面しているというAPFの2021年8月の記事。
日本では?
日本でも江戸時代には士農工商、という身分制度があった。
興味深いことに、当時の日本人の幸福度がとても高かった、ということが、幕末時に日本を訪れた外国人がその印象を残している。
本質的なこと。
現代社会において「カースト制度」を肯定するつもりはないし、そこが、ここでの本質ではない。
インドにしても、日本にしても、職業を親から継ぐ、ということが、前近代社会においては、極めて合理的な、社会を平穏に暮らす知恵だったのではないか。
ひと言で表すと「セーフティネットの確保」が社会に根付いていた。
各職業には「ダッバーワーラー(お弁当配達人)」のように技術、ノウハウ、経験が必要で、親から職業を引き継ぐことの合理性があった。
それに加えて、この仕組みの上では、職を失うリスクはないのだろうし、職を奪い合うことも不要だ。
日本の幕末期の”意気揚々と明るい”子供達も同じことかもしれない。
親も子供も職業の選択、将来の生活に悩む必要がないし、親も、子供に「いい学校に行くため勉強しなさい!」という必要がない。
一方、インドでも「カースト制度」は社会的には大問題だ。表面的な法的には平等と裏腹に、実際は、まだまだ厳しい社会的差別が残っている。
ちなみに、インドでなぜIT業界に人材が集まるか?
ひとつにいわれているのが、IT業界が新しい産業であり、「カースト制度」の枠外にあるから。
現代社会においては、SNSもあるし、交通網は発達し、海外にも自由に行ける。前近代社会と比較すると、選択の機会の障壁が恐ろしいくらい低い。
ここからが本論。
世の中、社会の仕組みが変わった。
では、「セーフネットの確保」はどこに行ってしまったのだろう?
現代社会において、前近代社会で確保されていた「セーフティネットの確保」を、社会の仕組み、テクノロジーの進化に合わせて見直し、そして社会に根付くように確立していくことが必要ではないか。
(それが、現在、置き去りにされているがゆえに)
おまけ
「Caste」The New York Timesベストセラー。
アメリカ社会をインドで有名なカースト制度として捉え、アフリカ系アメリカ人が如何に社会の中で下層として差別を受けているか、過去の歴史、出来事(悲劇)を追いながら説明をしていく。
面白い切り口が、アメリカの人種差別をカースト制度と捉えたことだけでなく、実際にインドにおけるカースト制度、そしてヒトラー時代のドイツでの人種差別(ユダヤ人)と比べていること。
新たな事実、考察を学ぶことができ、アメリカ社会の人種差別問題をより深く、且つ正しく理解することができる。(ドイツについては、ヒトラー時代をどう反省し、後世に伝えているか、ポジティブな側面も紹介)
アメリカにおける人種差別問題は、カースト制度のように社会の深層に染み込んでいる。ただ、その問題解決のためには、その深層にあることを理解することから始める必要があるのだろう。
そして、これがアメリカのユニークな事象であることを知ることもアメリカ人にとってはとても重要なことだと思う。
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