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丸亀製麺CMに見る「美味しい音」の難しさ

まず、ヘンな造語で他者の仕事を貶めることをやめて欲しい。

しかし僕はこの問題、よく分かります。食べ物のCMを作る時、サウンドデザイナーは咀嚼音や啜る音の処理に極めて気を使わなくてはなりません。
このCMの「うどんを啜る音」は制作難易度MAXだと思いました。

麺類の音を作る時の課題は大きく二つあります。

(1)録音時に綺麗な反響を伴って録音すること
(2)音を丁寧にカットすること

(1)ですが、リアリティを感じさせ、かつ汚くない音を録るためには、歌を歌う時と同様、人の体は楽器であることへの留意が必要。口腔内で綺麗に音を反響させるために、口を大きく開いて、響きを意識しながら麺をすする必要があります。うどんを使った演奏行為に近いです。僕が前にCM録音した時はマイク位置、口の形など四苦八苦した覚えがあります。麺が冷めると演奏者が熱がらず、結果としてあつあつ感が出ないので、調理後スピーディーに録音が必要。性別や骨格の違いで音が変わってくることもあるので(口の大きさが違えば音が変わるため)、俳優さんが録音しない場合は演者選定にも留意が必要です。

(2)について、飛沫の音や唾液の音、咀嚼音を全てカットしてしまうと無味乾燥な音になってしまうので、「シズル感」のためにはそういった要素が必要です。おそらくこのCMは録ったままの音を使っているのかなと思うのですが、個人的には基本的にシズル音は全体的にカットし、ちょっとだけ残す方針がいいと思っています。その後「もっとシズルを出して欲しい」という要望がでたら、消したものをちょっとづつ戻していくといい塩梅を探れます。しかし、どのくらいシズル音を残すかに定量的な基準はなく、エンジニアが一人のアーティストとして「気持ち悪くない」「美味しそう」なラインを探らなくてはなりません。

このように、食べる音というのは録音でも編集でも手を尽くして、ようやく「普通に聞ける」音に仕上がるものです。イマーシブブームで、これから音を使った演出が世の中にたくさん出てくるのかなと思うんですが、一筋縄では行かないということが周知されて欲しいですね〜

小川の音なのかトイレ流し終わった後なのかめっちゃ難しいですもんね……
これよくよく考えたら落語さんが真のプロなのではないですかね??
落語の蕎麦啜るのって誇張が入っているけど、センスと手拭いという食器だけでそばに見せてるんですもんね。

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