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2021年を展望する 【歴史奉行通信】第八十一号

新年あけましておめでとうございます。


一年なんて早いものですね。
ただし時間の流れは誰にも平等です。
だからこそ一分一秒を大切に過ごし、悔いのない生涯を送りたいものです。


コロナ禍で感じるのは、現代を生きる人々の「かつての日常を取り戻したい」という強い欲求です。
多くの方が行動様式の変化に堪えきれなくなり、コロナ禍が収まっていないにもかかわらず、コロナ以前の行動様式を取り戻そうとしています。
それがウイルスの蔓延につながっているのは間違いありません。


コロナ禍が経済的な困窮に結び付いている場合は別ですが、そうでない場合は気持ちを切り替え、
コロナ禍によって変わった生活パターンを楽しむくらいの気持ちでいるといいでしょう。
私もジムワークをやめて早朝のウォーキングと水泳に切り替えたところ、日々継続できるようになりました。


それでは今年最初の歴史奉行通信、第八十一号をお届けします。


〓〓今週の歴史奉行通信目次〓〓〓〓〓〓〓


1. はじめにー2021年新刊予定一覧

2. 2021年新刊ー『覇王の神殿』『琉球警察』

3. 2021年新刊ー『夜叉の都』

4. おわりに / Q&Aコーナー / 感想のお願い

5. お知らせ奉行通信
新刊情報 / 講演情報 / その他


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1. はじめにー2021年新刊予定一覧

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さて、今回は新年第一弾のメルマガということで、「2021年を展望する」と題して、
伊東潤が今年発刊する新作を中心に語っていきたいと思います。
今年のラインナップは以下の通り。

【単行本】
3月 5日
『覇王の神殿(ごうどの)』 

7月
『琉球警察』

11月 
『夜叉の都』

【文庫】
1月4日
『修羅の都』

4月頃
『ライトマイファイア』

7月頃
『男たちの船出』

10月頃
『真実の航跡』

(文庫でもう一冊、実録本を出す予定もありますが、確定はしていません)


今年は単行本の新作3作ということで、
例年に比べて少なめですが、
2022年初頭に超大作『威風堂々 幕末佐賀風雲録』が控えていることもあり、その改稿期間を取らねばならないので、
間隔を置いての刊行になります。


それでは個々の作品を見ていきましょう。


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2. 2021年新刊ー『覇王の神殿』
『琉球警察』

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■『覇王の神殿』

本作の主人公は蘇我馬子です。
「名前は知っているけど、何をした人?」と思う方が大半なのではないでしょうか。

なぜこの題材を選んだかというと、
「この国のカタチ」を造ったのが誰かを探っていくと、蘇我馬子に突き当たるからです。

馬子が生きた当時、いまだ日本人には国家意識など育っていませんでした。
しかし隋や唐、さらに勃興してきた新羅の脅威を感じることで、日本人は初めて国家を意識しました。
つまり他国の存在を知り、「もしかして攻められるのでは」という恐怖を抱くことで、初めて「国家とは何か」という疑問を持ったのです。

中でも馬子は、日本という国を一つにまとめていかねばならない為政者の立場にありました。
そこで馬子が考えたのが、国家の基盤に仏教を置くことです。
国民(飛鳥周辺地域の人々)が一丸となって仏教を信じることで、「国家のために奉仕する」という意識を持たせようとしたわけです。

馬子は守旧勢力や抵抗勢力を排除し、仏教国家を打ち立てていきます。
その功績がいかに大きいかは、「この国のカタチ」、すなわち政治体制や政権を握る者がいかに変わろうと、
現代を生きるわれわれの生活の隅々まで仏教が浸透し、様々な思想にまで影響を及ぼしていることからも分かるでしょう。

これまで蘇我氏は天皇家を乗っ取ろうとする悪辣な一族として描かれてきました。
当時の記録は極めて少なく、どうしても後に栄える藤原氏(中臣氏)の正史『日本書紀』に頼らざるを得ないからです。
となると、乙巳(いっし)の変で蘇我入鹿を討った中臣鎌足(藤原氏の祖)を正当化しなければならない。
つまり蘇我氏は、真実の姿を捻じ曲げられた可能性が高いことになるのです。

そこで小説の出番となります。
ただし最新の研究成果を踏まえ、その実像をできる限り蓋然性の高いものにしていかねばならない。
それが歴史小説の役割です。

本作は私の作品群の中でも、最も古い時代を扱ったものとなりました。
しかし人間ドラマという小説の基本は変わりません。
斬新な歴史解釈+絶妙のストーリーテリング、そして濃厚な人間ドラマという三位一体化した物語をお楽しみ下さい。 



■『琉球警察』

『横浜1963』、『ライトマイファイア』、『真実の航跡』、『囚われの山』に続き伊東潤の近現代小説の第五弾になる本書を書いた理由は、
米軍占領下の沖縄に九年間だけ存在した警察組織「琉球警察」に興味を持ったことがきっかけでした。
そこから琉球警察を通して、戦後沖縄の諸問題を掘り起こしていきたいという構想を持ちました。

政治・社会問題をエンタメ小説として楽しみながら読んでもらうことの困難さは、重々承知しています。
しかし誰かがやらなければ、戦後の沖縄社会の実態を伝えられないと思ったのです。
それゆえ、いつも以上に面白いストーリーと熱の籠もった人間ドラマを組み上げつつ、
沖縄が今も抱える諸問題を描き込んでいこうと思った次第です。

そうした中、浮かんだアイデアは「特定の問題に集中するのではなくクロニクルにしよう」というものでした。
つまり琉球警察の警察官視点で、主人公たちが様々な事件を解決しつつ、最後に大きな事件に取り組むという展開です。
読んでいるうちに、「日本の戦後とは何だったのか」という大きなテーマが浮かび上がってくれば幸いです。

戦国小説が好きな方は、「今回はパス」と思うかもしれません。しかし立ち止まって考えてみて下さい。
ここで沖縄問題を理解しないと、いつまでも沖縄の苦しみを理解できないことになりかねません。
それゆえ私は本作をブリッジとして、少しでも多くの方に、沖縄について考える機会にしていただければ幸いと思っています。

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3. 2021年新刊ー『夜叉の都』

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■『夜叉の都』

『修羅の都』は平家滅亡から源頼朝の死までを、頼朝と妻の政子視点で描きましたが、
『夜叉の都』は頼朝の死から承久の乱までを政子単独視点で描きます。
連載にあたって「別冊文藝春秋」に掲載されたエッセイを再掲載します。
なお章名と章ごとの内容は、単行本にする際には変更の可能性がありますので、ご了承下さい。

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