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『合戦で読む戦国史』特集1「戦国大名と国盗り」 【人間発電所日誌】第一一〇号

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〓〓今週の人間発電所日誌目次〓〓〓〓〓〓〓
1. はじめに
2.「戦国大名と国盗り」
①"戦国大名"とは何か
②戦国大名はなぜ領国を拡大する?
③北条氏はなぜ関東を制圧できた? 政治思想の一貫性
3. おわりに ー 『合戦で読む戦国史』(幻冬舎新書)
4. お知らせ奉行通信
新刊情報 / イベント情報 / Voicy・ラジオ出演情報
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1.はじめに

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 いよいよ暖かくなってきましたね。コロナ禍も第六波は終息に向かい、少しずつ以前のような活動ができるようになってきました。
 
 さて、まず今年初のテレビ出演からお知らせします。ちょうど一週間後の3月23日(水)の夜8時からBS朝日で放送予定の「京都ぶらり歴史探訪」に出演します。
 
 今回は「大徳寺 千利休500年目の真実」と題し、大徳寺と千利休のかかわりを中心にお送りします。相手役はあの檀れいさん!
 ということで得意のテーマなので、張り切っております。ぜひご覧下さい。

 さて今回は、5月に刊行される『合戦で読む戦国史』の第一弾特集をお送りします。「5月発売なのに、少し早いんじゃない」とお考えの方もいらっしゃると思いますが、4月6日のメルマガ111号で「『潮待ちの宿』文庫化記念特集」を、4月20日のメルマガ112号で「『天下を買った女』発刊記念特集 ロング・インタビュー」をお送りするので、ここで第一弾特集をお送りします。

 また5月のメルマガ113号と114号では、『合戦で読む戦国史』の第二弾特集として、「武田勝頼と長篠の戦い」のダイジェスト版をお送りします。お楽しみに!

 では、「戦国大名と国盗り」をお楽しみ下さい。なお本稿は2019年に、「歴史人」に寄稿したもののダイジェスト版になります。

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2. 「戦国大名と国盗り」
①"戦国大名"とは何か

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 日本史における時代名は、近現代を除く大半が日本を支配した政権の所在地名から取られている。飛鳥、奈良、平安、鎌倉、室町、安土桃山、江戸などだ。
 
こうした中にあって戦国時代という名は特異だ。むろん群雄が割拠し、統一政権が不在だったことから名付けられているのだが、それ以上にこの時代の主役が、複数の戦国大名という点が重視されている気がする。
 
 それでは、戦国大名とは何なのだろう。学術的には必ずしも定まってはいないものの、いくつかの定義がなされている。
 基本的には「一定の地域を排他的かつ一円的に支配する権力」とされるが、定義の一つに、「中央権力とは一線を画し、自らの上位に何者もいただかない」というものがある。むろん建前上、天皇や室町将軍をいただく場合もあるが、その命令や威令の及ぶ範囲は限定的であり、何かを貢納する場合も強制はできず、戦国大名側から貢納することになる。それゆえ戦国大名は自由に分国法も制定できるし、誰に相談するでもなく侵略戦争も行える。

 ただし戦国大名には、その領域支配の正統性の裏付けはなく、実力だけが拠り所になっているという弱みもあった。守護大名や守護代から転じた戦国大名の場合は、多少なりとも正統性はあるが、多くの戦国大名が実力だけで成り上がってきたため、敵対勢力から、この点を揶揄されることが多かった。「他国の兇徒」と呼ばれた小田原北条氏などは、その典型だろう。

 守護の上杉氏から越後国の一円支配権を受け継いだ形の上杉謙信(長尾景虎)も、守護代の長尾氏出身であるにもかかわらず支配の正統性を得るため、朝廷に多額の献金をするなどして苦労している。

 では、戦国大名の実力とは何だろう。言うまでもなく実力の源泉は兵力になる。厳密に言えば自領内での動員力のことだ。ただし支配地域が広くても、衰勢に入った大名は威令が行き届かず、思うように兵が集まらない。滅亡時の六角氏、朝倉氏、武田氏などは、この典型だろう。

 すなわち戦国大名の家中は、江戸時代の幕藩体制下の大名のように、主従関係を結んでいても完全に利害の一致する運命共同体ではなく、主家が危うくなれば日和見したり、逃げ出したり、敵方に寝返ったりするのが実態なのだ。そういう意味で戦国大名は、家臣団、傘下国人衆、また足軽・小者連中にとって旨味のある存在であらねばならない。

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